あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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15.引きこもり生活~氷結魔法は砕けない~

俺が引き籠もってから数日が過ぎ。

 

「カズマー? 先日はすみませんでしたって言ってるじゃないですか。からかいすぎてしまったことはこの通り、深く反省しているのです。ですので、もしよかったらお詫びに私と一緒にデートにでも行きませんか?」

「言ってるだろ、俺は別にお前らに対してボイコットかましてる訳じゃないって。でも外には行かない」

「そ、そんなことを言わずに……ほ、ほらダクネスも反省しているようですし、ね?」

「そ、そうだ、私も悪かった。正直あの展開を想像したら震えが止まらないが、カズマが浮気してないのは知っている。わざと気を遣ってるような演技をしたのは謝るから……じ、実は今日は実家から霜降り赤がにが届いててな、だから、な? 一杯どうだ? お詫びも兼ねて酌してやりたいと思っているのだが……これなら外には出ないだろ?」

「くっ……ゆ、誘惑がうまくなってきたじゃないか……でも間に合ってます」

「な、なぜだ! 本当は怒っているのだろう! そんなにいつまでも拗ねてないで腹を割って話そうではないか…も、もしよかったら私のことを口汚く罵ってくれても……」

「腹割ってるのはお前だろシックスパック!」

「にゅぅぅうんっ……///」

 

そう、俺は絶賛引きこもっていた。

ドア越しにダクネスの荒い息が聞こえる。

前まで腹筋についてめちゃくちゃ気にしてるようなことをいっていたのは気のせいだったか。

そんなことを考えている間にも、俺の部屋を叩く二人は止まらない。

いいか、引きこもりをなめちゃあいけない。

親泣かせのカズマさんと言われていたのは伊達ではないのだ。

俺は被っていた布団をさらに深く被り、声を張り上げる。

 

「お前らの魂胆なんてお見通しだ! そのまま部屋から俺を引きずり出したらなし崩しに外まで強制連行だろ! 俺の平穏はここだけなの! 外怖い! 俺の聖域に入ってこないで! 俺の平穏の地を侵そうとしないで!」

「……ちっ。失敗か」

「その声……まあああたお前かあああ仮面の人ぉっ! 今の俺は面会拒絶中なの! 出て行って! というかボイチェン魔法使って二人のまねして俺のことを誘惑しないで! 鬼畜悪魔! 元凶! 不法侵入不審者!」

「いえカズマ、私たちは本物ですよ? 私たちの方から仮面の人にカズマの脱引きこもりを手伝ってほしいと、脚本依頼を……」

「まあ、双方の利害の一致ってやつだな」

「ガッデムッ!」

 

俺が引きこもりに再就職してしまった理由――

仕方ない……そう、仕方がないことだったんだ。

だってそもそもめぐみんとダクネスは見当違いだし、外に出ようものならエリス様に物理的に雷を落とされて天誅されそうだし、そうでなくったってセレスディナが鬼の形相で俺の首を絞めてくるに違いない。

仮面の人のスティールコール……あれが周りの冒険者に影響して俺は動かざるを得ない状況になってしまったんだ。

俺は敵対する意思なんてこれっぽっちしかなかったのに、今回の行動で絶対敵認定されちまったよ!

ああ、過去に戻れるんだったら仮面の人にドロップキックして口封じしておきたい……

と文句を言っていても仕方がないこれが現実なんだ受け入れよう……と、やるせなさひっさげながらほとぼりが冷めるだろうそのときまで惰眠をむさぼることに精を出すのだった。

 

 

 

 

そんなことがあった日の夜。

どう言うわけか部屋の扉が叩かれる。

残念なことに、俺の部屋は解錠スキルでも開かないように完璧に物理的な封印をしているためダクネスだろうとこじ開けることはできないだろうが、そんな強引な叩き方ではなく……

 

「カズマ、いるだろうか? いるのだろう?」

「いません」

「やっぱりいるではないか! い、いや、そんなことは今はいい、今晩は、その……大事な話をしに来たのだ……」

 

あ、あれぇ?

なんだこの優しげで、どこかビクビクと不安そうな感じを覚える声色は……?

聞いたことがある。

あれはダクネスが俺の初めてを奪った夜と同じ……

そんなっ、意識すればするほどドキドキしてしまう!?

落ち着け男サトウカズマ、俺はジェントルマン、やつはハニートラップを仕掛けてきたに違いない。

こんな冬も近く薄ら寒い時期に薄い布のネグリジェで、魅惑的な体で俺のことを誘って、俺が釣られたその瞬間に……オゥッ、フィッッッシーーングッッ!!

俺は外に水の中から引きずり出され呼吸がままならない陸地へと放り出されてしまうのだ!

落ち着け、深呼吸をして落ち着くんだ俺の中のカウボーイ、ビル・ワット!!

 

「スゥゥ…………ハァァァ…………スゥゥ…………ハァァァ…………」

「カ、カズマ? そ、その、普段はこんなんだが、無視は流石に寂しい、のだが……」

「ヌゥゥウンッッ!!」

「カカズマ!? 一体今の音は何だ! め、めぐみんが起きる!」

 

何やってんだ過去の俺!

こんな色っぽい展開になるだなんて聞いてない!

俺が望んでいないときにばっかりどうしてこんなキャラ好感度進展ストーリーが始まるんだよ!

部屋の扉は氷漬けだし出ようにも出られない!

ティンダーを使えば早く溶かすことができるかもしれないが……この密室だ。炎魔法を使って別の箇所に引火してしまったら余裕で窒息か何かで死ねる!

いくら冒険者だからってさすがにそこまでのリスクを冒せない!

ああああっ、過去の俺がいたらドロップキックを背後から不意打ちで食らわせたい!

氷の壁に打ち付けても少しも冷めない俺の頭。

そのまま擦りつけてなんとか氷を溶かそうとするがなかなか溶けない。

静かに、しかし必死になって体全身を使って氷を溶かそうとしている俺。

そんなドア越しの様子に気づきもしないお嬢様は、

 

「すまない、今日はその、迷惑だった、みたいで……。もう少し怒りが落ち着いてからの方が、よかった、な……」

「いやいや! 迷惑なんかじゃないんだよほんと! なんか泣きそうな声してませんかダクネスさん! てかマジで怒ってないんだ! むしろ誤解が解けたみたいでほんとよかったよ、うん!」

「じゃあ、その……怒ってないのだな? 本当に……」

「まじまじ! もし本当に怒ってたら部屋の中に引きずり込んで、その、なんだ……まあ、鬼畜の限りを尽くすと思うし。でも今回はそんなことないだろ? な?」

「う、うむ、そうだな……」

「だからちょっと待ってろ、部屋の中に入れてやりたいんだが! ここ最近片付けできてないというか物がいっぱいで入れられない! ちょっと片付けてるから待ってろおお!」

 

必死こいて背中を氷に押しつけ擦りつけ、溶かそうとしている俺のことを知ってか知らずか、ダクネスのクスリと笑う声が聞こえてくる。

その様子を脳裏に想像して思わず体の動きが止まる。

 

「そうか、怒ってないなら、うん、いいのだ。本当は顔を見て話をしたかったのだがな……まあ、今日のところはこの先はお預けにしておこう。なんだかこの部屋の近くは妙に冷える気がする。もうすぐ冬だ。きっと今夜は冷え込むのだろうな、この姿では少し肌寒いし、私は帰るとする」

「ああっ、ちょっと持って、待ってくれぇ! そ、そうだ! あれ、さっき『大事な話』って言ってただろ! その話だけでも!」

「……普通、こういう時の大事な話とは、そういう話ではないのか?」

 

や、やばい、ダクネスが行ってしまう!

今夜はもしかしたら大人になれるかもしれないみたいな展開になるかもしれなかったのに本当にタイミングが悪すぎる!

この機会を逃したら俺は一体いつ大人になるんだ!

必死に言い訳を考えている俺にダクネスが。

 

「まあ実際、今夜はカズマが考えてる方の大事な話が本題だったんだが」

「この小悪魔! 俺をその気にさせて実際大事な話はエッチなやつじゃないってか! 一緒に大人になるって話じゃないのか! めぐみんとかサキュバスみたいな誘惑しやがって! 俺の期待を返せ!」

「……別に片方だけが正解とは言ってないのだが、まあいいか、今夜は真面目な方を」

「えっ!?」

 

耐えろ俺の背中!

頑張れ俺の体!

限界を超えて動くんだここで諦めるんじゃあないまだいけるまだいける!

一瞬期待を裏切られたかと思い熱を失った体に再び熱がこもり動き始める。

ダクネスが大事な話をし終わる前にすべての氷を溶かし尽くすんだ!

ぬぅぉおおおおおおおっっ!!

 

「その、大事な話ってのは? できるだけゆっくり詳しく頼む!」

「あ、ああ。その、実は最近、というかカズマが引きこもったこの数日の間にセレナを支持する者が急増し始めてな。カズマも見ただろう?」

「あ、ああ、そうだな! この荒野のような世界でセレナはさながらオアシスか天使みたいに見えるだろ? 猫を愛でるのと同じみたいにセレナを担ぐやつが現れてもおかしくないだろ?」

「……まあ、確かにそうかもしれない……のだが」

「のだが?」

「カズマが最初にセレナに出会ったときのことを覚えているか? あのとき、カズマは初対面にも関わらず、セレナのことをどういうわけか拒絶した」

「確かにしたぞ?」

「うむ、実はそのことがどうしても頭から離れずに、違和感だったんだ」

 

なんか話してるが、そんなことより分厚かった氷がドアノブまで削れてきた!

待ってろダクネス、今この開かぬ扉をこじ開けてやるからぬぅぉおおおおっ!

 

「それで実は、私の方からアクセルの街の機関の方に依頼してな、セレナについて探らせていているのだ」

「へ、へー、そうなんだ! うん、確かにセレナの信者が増えるスピードは結構おかしいよな、うん!」

「ああ、まさにその通りだ。こうなる前にカズマは気づいていたんだな。流石、私たちのパーティーのリーダーだと思った」

「い、いやぁ、それほどでも……。そ、それでさ! そのセレナのことについて何かわかったのか?」

「それが……今のところ何もわからないのだ。アクセルの街周辺のどこの街に問い合わせてもあのような品行方正なプリーストを見かけなかったと、アクセルの街に来る前の経歴が何一つ掴めないのだ。警察の方の調査力を侮っているわけではないが……その……だからお前のところに来たのだ」

 

おい、ちょっと待て?

だからって?

もしかしなくても警察の情報からは何の成果も得られませんでしただったから俺のところに来てそのセレナの情報の手がかりが何かないかと?

あります、ありますとも。

セレナは偽名で本名はセレスディナ、職業は魔王軍幹部の諜報と謀略を担当していて、レジーナ教っていう傀儡と復讐の女神様を信仰しててパンツの色は黒。

 

……でも何も言えない。

何か言っちゃうと取引に引っかかって……アクセルの街を人質に取られてるのに言えるわけがない。

 

「悪いけど、協力はできない。知りたいことがあるんだったら仮面の人にでも聞いてくれ」

「……どうしても、か?」

「…………ごめん」

「そうか……まあ、カズマにも事情があることはわかった。私の方こそ不躾に悪かったな。私はもう行こうと思う。今晩は冷えそうだからしっかり布団を被って寝るのだぞ? ……それじゃあ、おやすみ、カズマ」

「あ、ああ。おやすみ……」

 

ダクネスの足音は俺の部屋から離れていく。

その音を聞く前のいつからか、俺の動きは止まり、氷の壁に背中をつけてもたれていた。

 

 

 

 

数週間後。

たぶん俺の噂はぼちぼち消え去り、セレナもこの街の魅力のなさに――というか頭のおかしさにやられて撤退したんじゃないかって思って頃を見計らって外に出ることをぼちぼち計画していたんだが……

 

「カズマ、カズマーっ! 一体あなたは何をやらかしたんですか! 私たちも謝るのでカズマも一緒にお詫びしに行きましょう! セレナの僕と化した街の住人が恐ろしい目つきで貴方のことを探してますよ!」

「私たちも外を歩くたびにあの視線にさらされ……ああ、あのアクシズ教団が私を見るかのような、まるで人以下のゴミを見るかのような視線は……ハァ、ハァ……なかなか堪えるものがあるぞ」

「お前はもうそのまま悶えてろよ。……あああああああああっっ! 本当に一体どうしてこうなったああっ!」

 

そう、セレナの怒りは収まるどころか苛烈になっていくばかりだった。

……いや、セレナというより、セレナに群がり始めた冒険者たちが暴走しているといった方が正しいか。

その中にはあの日、俺にスティールコールしてきた酔っ払い全員が含まれているらしい。

流石にクリスはいなかったらしいが……まったく、薄情な奴らだ、まったく!!

と、そんな状況に悩んでいるときだった。

 

「命の危機を感じ取って部屋に引きこもっているニート冒険者よ! どうしてこうなったああっと助けを求める声を聞き駆けつけた謎多き仮面のヒーローが今参上したぞ!」

「そ、その聞きなじみがなさ過ぎて毎回初対面かって錯覚する声の持ち主は! 仮面の人か!」

「ご明察であるぞ、人気のない真夜中の午前中に起床して用を足し食事をする夜行性のボトラー冒険者よ」

「「ボトラー?」」

「めぐみん、ダクネス、気にしないでくれ。そんなことよりもよく来てくれた仮面の人!」

 

俺はこの中で唯一俺の状況をすべて理解しているだろう信頼すべき男に縋り付く。

なんかさっき余計なことをめぐみんとダクネスに吹き込もうとしてたのは、寛大な心を以て仮面の人の過ちを許そうじゃないか。

代わりに俺は……

 

「お前のことだからきっと街の様子に関して詳しいだろ? セレナに許しを請うたら許されそうかな……俺、まだ死にたくないんだけど」

「たぶんそれは無理な話であろうな、やつは激おこプンプン丸であるからして、きっと出会い頭に助走をつけて殴りかかられるレベルである」

「なんでそんなに怒ってるんだよぉぉおおっ! 確かに悪いことしたっては思ってるけどさ、パンツの一枚くらいスティっただけだぞ! そんな怒らせるようなことしてないだろ!」

「カズマ、この街が常識はずれすぎて忘れているかもしれませんが普通はパンツの一枚盗っただけでも犯罪ですし、女性の大敵ですよ」

「な、なんだよ! 俺に常識がないってのか! 爆裂魔法で常に騒音被害を出して魔王軍幹部のデュラハンさんをノイローゼにした疑いのあるめぐみんさんに言われたきゃないですわ!」

「なにおう! 私の爆裂魔法はこの街の風物詩ですよ! 今の発言、理解のある街の住人の皆さんに失礼だとは思わないのですか!」

「思わない。というか理解があるわけじゃないだろ、あの達観した皆さんの顔を見て同じこともう一回いってみろよ! 爆裂は春の季語じゃないんだよ!」

 

……何でそんなに驚いたような表情してるんだよ。

大体において、この街が常識はずれすぎて忘れてるのはめぐみんの方だろ。

街中で魔法を使ったら牢屋行きが常識なんだからな?

王都とかで爆裂魔法を放ったときには魔王軍が攻めてきたんじゃないかって大騒ぎだったんだからな?

中級魔法ですらそうなのに爆裂魔法はなおさらだ。

うん、なおさらなのだが、あまりにも爆裂魔法の頻度が多すぎて、おかしくなっちゃったんだよこの街の感性は。

そんなこと思い終わってもいまだに目を丸くしているめぐみん。

爆裂魔法に頭が支配されてしまったアホのことは脇においておき、俺は仮面の人に、

 

「めぐみんの話はどうだっていいんだ! どうして、本当にどうしてパンツの一枚くらいでここまで怒ってるんだよ! いくら何でも怒り疲れるだろうし、よく持続するもんだなって逆に感心するわ」

「そりゃ持続もするだろうよ。だって――」

 

仮面の人が理由を言おうとしてるのを察して思わず喉を鳴らす。

セレナが怒っている原因を取り除けば、怒りが収まるような対応策が見つかればなんとかなるんじゃないかという期待を胸に、わずかに早まる心臓を押さえつけて耳を傾けると……

 

「だって、俺がアイツに妨害工作してるんだもん」

「だもん、じゃないが?」

「いやでもさ、このまま俺が妨害――もとい、嫌がらせをしなかったらセレナが街中の人を虜にして、それこそ後戻りできなくなる可能性が……」

「今オブラート引っぺがして嫌がらせっていっただろぉぅぁあああああああっ!! また、お前の、仕業だった、のかあああ!」

「おうともよ、怒りのあまり部屋を飛び出してきた冒険者。もちろんセレナは俺が妨害してることを知らないわけだから嫌がらせの類いは全部お前がやってることになって――っておい! 俺の肩を掴もうとするな!」

「本当に! 本当に何やってくれてるんだお前はああああああっっ!!」

 

めぐみんとダクネスが「ようやく出てきた」と喜んでいるのをよそに、俺は目の前にいる極悪鬼畜を成敗せねばと打ち震える。

この、残虐無慈悲な放恣の粉飾が権化に制裁を加えねばと誓った。

そして俺は有言実行を体現するかのような男……今まさに、俺は仮面の人の覆面を暴こうと己の平穏のために立ち上がったのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

ドンドンドン

俺は一心不乱に叩く。

あるときはセレナが寝静まった夜の窓、精神的に困憊しているところに休憩の暇を与えない、鬼畜とののしられようと俺には関係ないといわんばかりの戦略。

怒りに打ち震えている人類の敵に寝返った者に鉄槌を下し、潜伏スキルでやり過ごす。

 

そして、あるときは……

引きこもりを叩き起こす強き武闘派な母、ヤンキーな魔王軍幹部にいじめられて不登校になってしまった過去の俺を引きずり出すために、恐怖を奮起に変える魔法のドラミング。

 

「出てこいやぁ引きニート! お前はすでに包囲されている! おとなしく出てきなさい!」

「嫌ですぅ! 外に出たら誰かさんのせいでぶち切れたセレナに殺されそうなんですぅ! 指名手配犯と間違われて災難だったデュバルの気分ですぅ!」

「よしわかった、お前をいじめる悪ガキを懲らしめにいってやる! 一緒に行くぞ! 目には目を、歯には歯を、嫌がらせには嫌がらせを!!」

「これお前のせいだかんな!? お前が蒔いた種が俺に降りかかってるだけだかんな!! マジでふっざけんなよ!」

「ふざけてるどころか大真面目だよこっちは! ここだけの話、そろそろお前が直々にセレナに鉄槌下さないといけない時期になってきたんだって!」

 

現在の時期は、俺が体験してきたところで言う「セレナに傀儡化される時期」なのである。

そう、物語は進行している。

そして、セレスディナ無力化までの時間は最終フェーズ。

 

前のリセットの時に、俺がレジーナ教に入信すればセレスディナが自爆するのは確認済み。

こっちの世界の俺からすれば覚悟もないまま巻き込まれていくという災難だが、あとはセレスディナの前に自分を放り込んでレジーナ教にすれば……

だからこの扉を開けば、あとはダクネスにセレスディナの前に担いでいってもらうだけなのだが、なかなかどうしてうまくいかないもんだ。

 

「お前の予定なんか知るか! そもそもお前が始めた物語だろ! いい加減『犯人は俺なんですぅ! サトウカズマ君は何にもしてないで仮面の人が単独でやってた嫌がらせの数々なんですぅ!』ってカミングアウトして、いい加減しばきまわされてこいよ!」

「た、確かに俺が悪いのはそうなんだけど! そうじゃなくて、最初に言っただろ」

「何を!?」

「セレナの取引を変えなきゃならないって話しただろ。『お前は世界の命運を握っている。だからこそセレスディナとの取引内容を変えなきゃならない。そして、お前一人で魔王軍幹部一人を無力化するんだ』って言ったよな」

「言ってない」

「いいや、確かに一語一句違わずそう言ったはずだぞ! 惚けんな! お前が世界の命運握ってるの! セレスディナのことを無力化しないと意味ないの! 世界はそういう運命なんですぅ!」

「命運だの運命だのごっちゃごっちゃごちゃごちゃあああああっ! 俺はお前が解決するまで引きこもるんだ! 『クリエイトウォーター』!! からの『フリーズ』!!」

 

こ、こいつ、()()自分の部屋の氷を厚くしやがった!!

そう、()()だ。

 

俺たちはこのやりとりを何回したか、すでに3日目に突入しようとしている。

前に俺の解錠スキルを見せてしまったせいで鍵をかけるだけじゃ駄目だと完全に自ら退路を断つ覚悟で籠城しているこっちの世界の俺。

それに対して、いつ出てくるものかと張り込んでいるのだが……

飲食は飲み物はクリエイトウォーターでおいしいやつを飲めるから問題ないだろうし……この部屋が天然の冷蔵庫になってるから、食料は引きこもる前に大量に持ち込んでいるし大丈夫なのだろう。

トイレは……ボトルがあれば事足りるだろうが、それでもそろそろ交換しないといけないはずだし、大の方はどうなっちゃってんだよ!

 

とまあそんなわけで、自分の部屋から一歩も出ない自分との我慢比べの真っ最中である。

……と、そのときだった。

俺の元に新たな加勢が目を真っ赤にしてやってきた。

 

「仮面の人、セレナから聞いたぞ、カズマが一体何をしていたか! 私たちがいないときを見計らってよくもまあ余計なことを! 私たちのことをよくトラブルメーカーとかポンコツとか言ってくれてるようだが今回ばかりは!!」

「ダクネス! 違うんだよ、仮面の人が! 仮面の人が俺のふりして迷惑行為をしてたんだ! 俺は冤罪だああ!!」

「その話は後で署できっちりチンチンと鳴る魔道具の前で白状してください! それよりですよ、爆裂魔法のどこが迷惑だというのですか! 街中の人に聞いて回って聞いてみたところ『え、ええ、めぐみんさんの爆裂魔法はスゴイデスヨ』とか、『あの熱風のおかげで洗濯物の乾燥が早いんです! まあ、土煙もすごいですけど』と褒めてもらいました! 我が爆裂魔法の素晴らしさを説かなくてはならないようですのでこちらに来てください! 小一時間みっちり魅力を語ってやろうじゃないか!」

「めぐみんは論点がおかしな方向にずれるから黙っていてくれ! カズマ! ドアを開けるんだ! 今なら私たちに迷惑をかけた罰は半殺し程度にとどめておいてやる!」

 

俺はわずかに目を細め、屋敷を出ようと廊下を歩く。

やけに外が騒がしく感じるも、自分の心のざわめきだろうと心臓を押さえつける。

 

決して、俺のことを部屋から出すのを諦めたわけじゃない。

俺が数日街に出なかった、ただそれだけなのに狂い始めた、それよりもっと根本的な問題を――

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