あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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15.淀んでゆく真相~誰も訳も知らないまま~

皆さん、お元気ですか?

カズマです。

俺は、転生する前はニートしてましたが、異世界に転生してからはとてもうまくやってます本当です。

まあ、今も絶賛引きこもりしてるんですがね?

それでも収入は働かなくても入ってくるので些細な問題ですははは。

 

……ここだけの話、今も昔も相変わらず出不精な俺を起こしに来てくれるかわいい女の子が二人もいます本当です。

今もそんな二人に布団から出るように催促され、俺は心地よい朝を迎えるのです。

誰もが嫉妬してしまうような、両手にバラな異世界生活を……俺は、謳歌しています!

っと、なんでそんなことを話したかというと――

 

「カズマ! セレナに謝りに行くぞ!」

「引っ張んなよダクネス! ちぎれる! 俺の腕がちぎれるぅうっ!!」

「ダクネス、このままではらちがあきません! ベッドです! ベッドごと持ち上げてカズマを刑務所に突き出しましょう!」

「いやああああっ! 俺何も悪いことしてないのに! なんで!? ねえ、なんで俺が悪いことしたってめぐみんもみんな信じ込んじゃってんだよ!!」

 

――こんな、非情な現実を突きつけられているせいです泣きたい。

俺を起こしに来てくれるかわいい女の子? 両手にバラ?

そんな夢見心地な生活、送れるもんだったら送りたかったわ!

王都で活躍してるマツラギとかいう冒険者みたいなハーレム主人公したかったんです切実です!

 

「常時発情してるダクネスはともかく! お前は爆裂魔法が絡まなければ割とまともな方だって思ってたのに!」

「し、失礼なことを言わないでください! 私はまともですよ! カズマを信じていないわけないじゃないですすかっ!」

「まったくだ、私だって真面目なときは真面目だし、貴族なのだから一番よい教育は受けているはずなのだぞ! それに、私だってもちろんカズマのことは信じている!」

「めぐみん、ダクネス……」

 

ああ……

勘違いしてたのは俺みたいだ。

そうだ、二人とも俺の大事な仲間じゃないか!

疑ってると思い込んでいた俺が恥ずかしい。

ベッドにしがみつく手がわずかに緩みかけた……そのとき。

 

「カズマはやるときはやる男だ。いつかはやると、そう思っていた!」

「結局そういうことだと思ってたよ! 確かに街中に鬼畜の名前は轟いてるけどさ、そういう意味での信頼は求めてねえよ! どうせめぐみんも俺のことそっちの意味で信用してたんだろ!」

「だ、大丈夫ですよカズマ、私は、し、信じ…………そんなことよりセレナの様子を見ましたか! あの般若のような形相……あれは人を殺すことに躊躇いのない目です! 避難するのです! 警備が薄いこの屋敷より手厚い公的機関を味方につけ、保護してもらうのです!」

「それ、警察のお世話になるってことだよな」

「そうともいうかもしれません…………二つの意味で」

「おま、それ信じてないだろぉぅあっ! メギョッっていった! 今、人間の体から鳴っちゃいけない音なった! ダクネスさん、マジちぎれる! マジでどうして俺のパーティーメンバーはこうも頭のおかしい奴らばっかなんだ!」

「なにおう! いつ私が頭がおかしいことがあったでしょうかいやない! 私は紅魔族随一の天才にしてパーティーの頭脳! いつ何時もこのパーティー随一の常識人であり、問題児たちの保護者です!」

「「それだけはない」」

「おい、諍いあってるのにどうしてそこだけ息ぴったりなのか聞こうじゃないか! 仲良しですか!」

「「この状況でどうしてそう見えるんだ!」」

「…………私、もう部屋に戻りますね」

 

そう言ってめぐみんは呆れたような顔で俺とダクネスを放置して自室に戻っていった。

これで一人、無実な俺を警察署に連れて行こうと敵を排除できたって訳だ!

残るは……

 

「ダクネス! いい加減諦めろ! ていうか本当に俺、そんなセレナを激怒させるようなことした覚えはないって!」

「だったらそのベッドを掴んでる手を離せ! そしてセレナの前に行って弁明の言葉でも言ってこい!」

「お前、めぐみんが言ってたの聞いてなかったのか! 人を殺すことに躊躇いのない目をしてたってよ! 俺の顔を見るやいなや言葉も聞かずに襲いかかってくるに決まってる!」

「ちっ、流石カズマだ、保身のために余計なことをいちいち覚えているとは」

「だからさ、せめて最初は手紙だ! 俺が一筆したためるからダクネスが渡してくれよ!」

「そ、それはできない」

 

俺を引っ張る力が弱まり、そっぽを向くダクネス。

そのおかげで玄関の方が騒がしいことにようやく気づく。

ああ、なるほどな……

俺はすべてを理解し、息を思いっきり吸い込み、こう叫んだ。

 

「裏切り者ぉお!! こいつ、裏切りやがった! 自分が嫌がらせに加担したって思われたくない自分かわいさに仲間のことを売りやがったな!」

「人聞きの悪いこというな! ……しかしまあ、話は裁判の時にでも聞いてやろう。さあ、外でセレナが待っている。思う存分しばかれてこい! そしてすべてが終わったらこの恨みを私にぶつけて……ああっ! 一体どんな苛烈なプレイを!」

「しねえよ! お前が連れてきた厄介の種だろまっじでふっざけんな! 今からお前のことひん剥いて公衆の面前に晒しあげてやる!」

「むしろ望むところだ! セレナをそこまで激高させたスティール……私にしてみるといい! それからそれ以外のこともやっているのだろう? それも追加で……あ、追加料金は――」

「いくら積まれたってしねえよ! そもそも俺はスティール以外何もやってないって! ねえ、俺たち仲間だろ!? どうして仲間の話を信じないで怪しいと思ってるやつのいうこと信じるの!? というか、なんでセレナは俺だって断定してんだよ! 俺の姿を見てないくせに!」

「いや、この街で悪名高い鬼畜といえばどう考えても……」

「仮面の人だろ! 断じて俺じゃない!」

 

本当に見損なった!

これは本当に事がすべて終わったときにもんのすんごいことして折檻してやらねば!

 

 

 

 


 

 

 

 

「ったく、たった数日で傀儡化の範囲を拡大しやがって。残すはこの家の奴だけってか」

 

さっき、この屋敷の屋根によじ登り、千里眼スキルで街の様子を見てみたら、人の数が少ない。

そして、屋敷の玄関を見るとドアをこじ開けようとしている警察官や役人、冒険者……その最奥にはセレスディナの姿。

つまり、俺がほんの3日ほど攻撃の手を緩めたその瞬間に、街の治安や中枢を担っている戦力を根こそぎ傀儡化して、アクセルを手中に収めたって訳だ。

 

「警察署に行って保護してもらおうとか言ってたが……セレスディナの傀儡になってちゃあ保護も何もないな。めぐみんは操られてなかったぽいが……流石諜報と謀略に長けた魔王軍幹部なだけはある。どっちにダクネスへの命令がうまくいってもうまくいかなくても、詰み、か」

 

どちらに転んでもセレスディナが俺のことを傀儡化する未来にいくって訳だ。

 

まったく、嫌になる。

思い通りにいかないのはいつも通りだからまだいい。

だが、一つ事に関しては駄目だ。

 

 

前、俺がセレナにドロップキックを仕掛け、牢屋にぶち込まれたとき。

あのときはダクネスが保証人になってくれて、それで釈放された。

 

昔は頭がカチカチで、権力を使わず、融通がきかないヤツだった。

でも今では、俺たちを長年パーティーとして一緒に過ごしてきたおかげで、権力を振りかざすことができる立派な貴族になったダクネス。

そんなダクネスが昔に戻ったみたいだ。

 

廊下に響いてくる三人のやりとりを聞いて、俺だけが違和感を感じとる。

俺の知っているいつも通りのダクネスなのに、拭いきれない時間軸とのズレが気持ち悪い。

気持ち悪すぎて胸焼けのようなむかつきが、胸の奥底から煮え返る。

 

復讐に囚われると周りが見えなくなるってはよく聞くが、それは本当なのかもしれない。

いつもなら冷静に状況を見て、今何をすれば好転するか、どう動けば次へつなげられるか、次をどううまくやろうか……

俺ができる全部の要素を取り入れて策を考えるのに、今眼中にあるのはもう討つべき敵のことのみで――

 

 

 

 


 

 

 

 

あたしはセレスディナ。

セレナと名を偽り、アクセルの街に派遣された魔王軍幹部が一人。

正直言って、あたしはこの街を嘗めてた。

だってアクセルの街って言えばあたしも初心者の頃お世話になって、そして旅立っていった土地。

せいぜい15レベル程度の冒険者しかおらず、その周辺にいる強力な魔物は駆除され、弱小しかいない。

 

「そんな記憶だったのになあ……アクセルの街が一体どうしてこんな魔境になった? あたしの力があれば簡単に支配できると思ってたのに、散々引っかき回してくれてなぁ……」

 

調べれば調べるほど頭がおかしくなりそうな異様な経歴。

魔王軍幹部を含む大物賞金首の討伐実績。

魔王軍幹部が二人も住まう。

爆裂魔法が日常茶飯事。

レベルが30を超えている王都で活躍すべき冒険者が多数在住。

サキュバスというモンスターと共存関係を築いている。

冒険者どもを傀儡化していくうちに明るみに出てくる衝撃の事実。

爆裂魔法が日常茶飯事。

それらすべてに関与している一人の最弱職。

 

「おのれ、サトウカズマ……だが、こんな雪辱にまみれた日々とも今日でおさらばだ。あたしにしてくれたことのお礼……今日きっちり返させてもらうぜ」

 

もうあったまおっかしーんじゃねえのかって叫びたい日々だった。

おかげで何度夜中にたたき起こされて不眠に悩まされたことか……

なのにさ、街の冒険者たちは『昨日も爆裂魔法撃ってたのか? 慣れで何も気づかなかったわ……でも今日はもう午前中に1回撃ってるしきっと聞き違いですよ。きっとこれはノイローゼですな、私も前なりましたがもうご覧の通り! なれるまでの辛抱ですぜ!』とかなんとかいう始末。

絶対あれはノイローゼなんかじゃない!

 

扉を凍らされて閉じ込められたり、トイレ行こうとするとどこもかしこも満員だったり、あたしのパンツ着脱式人形とか販売したり、タンスの角に足の小指ぶつけたり、どこからともなく沸いて出てきたジャイアントトードに飲み込まれたり……

てかなんであのカエルあたしのメイスが効かないんだよ!

いくら打撃に耐性があるからってあれは異常すぎるだろ、初心者の街にいていいモンスターじゃねえ!

デスで殺したが、絶対誰かが強化個体をあたしに差し向けた……そういう陰謀をひしひしと感じる出来事だった。

だが、そんな日々もどういうわけか3日前に終了した。

根比べはあたしの勝ちって訳だ。

 

「くっくっく、今日という日をどれだけ心待ちにしていたことか……。復讐と傀儡の女神の信徒として、今日ほど強く神様に感謝した日はない。ああ、レジーナ様、ありがとうございます、あたしに強力な祝福を授けてくれてありがとうございます!」

 

サトウカズマの仲間から場所を特定したが、まさか灯台下暗しとはこのことだ。

傀儡たちによって屋敷の扉がこじ開けられようとしている今、あたしの中にあの忌々しい記憶の数々が濁流のように流れ込む。

今まで散々あたしのことを弄んでくれたあの男をどうしてくれようか……

いざ目の前にくると悩んじまう。

ある種の高揚感といえばいいのか……詰まっていた水道管のつかえがとれ、きれいさっぱり流れ始める直前に聞こえてくるゴボゴボという爽快感を期待する音を聞いたときのような何ともいえない感覚があたしの口角を歪める。

バキリと扉が破られる音とともに、あたしの中に溜まっていた水が流れ出そうとした…………そのときだった。

 

「…………お前、うちの仲間――いや、ダクネスに何しやがった」

「うん? お前は…………バニル、か? どうしてお前が……」

 

破壊されたドアの奥、あたしの目の前に現れたのは仮面をつけた男だった。

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