あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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15.途切れそうな運命~幾千の死線を撚り合わせ~

「うん? お前は…………バニル、か? どうしてお前が……」

 

破壊されたドアの奥、あたしの目の前に現れたのは仮面をつけた男。

だが、いつものようながたいのよい男の風貌ではなく、身長はそこらでよく見かけるような平凡そのもの。

土塊をわざわざそんな見た目にして理由はいまいちわからないが、そう言えばギルドで見かけた際にもこんな感じだった。

街の人に警戒心を与えないようにフォルムチェンジしたのか?

そんなことを一瞬思うも今のあたしは気分がいい。

不景気そうで覇気がないバニルにニタリと顔を歪ませ慰めてやることにした。

 

「なにをしやがったって、そりゃ見通す悪魔なら言わずともわかるだろうに……」

「……はぁぁ」

「そんなに深いため息をついて一体どうしたんだ。またウィズが変な魔道具でも買って手を焼いてるのか?」

「……そうではないが、まあ、困難にぶち当たってるのは事実であるな」

「へえ、予想が外れた……まさかウィズ以外全部見通ると思ってたが見通せないのがあるんだな。具体的にいうと何だよ?」

「うむ、それは他でもない貴様のことなのだが……」

 

ほう、あたし、あたしか!

それを聞いて思わず顔をニタリと歪めてしまう。

バニルが見通せないって言ったら自分と同格以上の相手……

つまりあたしはこの街で復讐心を高めて、レジーナ様の加護をより受け、強くなったってことだ。

神様が自分を認めてくれたようで、自分が成長できているようで、俺が嬉しくてたまらない。

 

「それで、一体何が見通せなかったんだ? もしお前に不都合なことあったんだったらそうしないように努めるからさ……」

「そうか、では、言うだけ言ってみるとするか」

「まあ、できないことかもしれないしな、言うだけならただだ」

「そうであるな。……実はな、ここ数日、この街の住人の挙動がおかしいのだが……これは貴様のせいであるな」

「何を今更。あたしの能力を忘れたわけじゃないだろ? 傀儡化の能力で街中をあたしの支配下に置いたのさ! なんか不都合……あるよなあ」

 

そうだ、傀儡化したらそいつは自分から行動することがない。

あたしが命令したことのみを忠実のこなす人形。

普段からウィズ魔道具店の常連になっているやつなんていないだろうが、そこを指摘するのは野暮ってもんだ。

あたしのせいで時たまふらりと立ち寄るであろう客がゼロになってしまった件について言外に不機嫌であるという事実を伝えに来たってことだろう。

それもこれも度が過ぎた嫌がらせをしてきたアイツのせいだ。

そこまで気が回らなかった。

だが、これでよかったのかもしれない。

だって……

 

「いや、悪いことをしたな。だが、この街は早かれ遅かれ終わりだ。魔道具店も撤退した方がいい」

「それは、魔王軍が攻めてくる、というのに関係しているのか?」

「ああ、そうだ。もともとこの街は魔王軍が攻めるって話は知ってるよな?」

「もちのろんである」

「なら話は早い。あたしがこの街をもう支配しちまったからその計画はなしになった」

「ふむ、であるならば、ここに攻めてくるはずの魔王軍の軍勢は……」

「なんだよ、知らないって言っておきながら本当は知ってるんじゃないのかよ。そう、王都を本格的に壊滅させるための軍勢に加わるはずさ。魔王んとこの娘について行くってよ」

「そうかそうか。やはり何も見通す能力を用いずとも見通せるものであるな。……つまり魔道具店も店じまい、か。この屋敷に来たってことは金を落とす小僧も傀儡化するのだろう? この先にはただ引きこもりしかいないのに、そんなやつを傀儡化でもしにきたのだとしたら、それはたいそうご苦労なことだが……」

「うん、何言ってんだ?」

「何を言ってるって、この街中を傀儡化したんだったらアイツも、サトウカズマもこれから傀儡化しにいくのだろう……だから乗り込んで来たと思っていたのだが。傀儡化したら我が輩のところに金をすべて流してほしいと思っていたのだが……違うのか?」

 

 

「いや、あいつは処分するぞ?」

 

 

「…………今、なんて? それは――」

「ああ、殺すって意味だ」

「そうか、殺す、のか……」

「まさかって顔してるのを見るに本当に見通せないらしいな! ふっ、あははは! あたしバニルと同じレベルのステージに到達したのか! 嘘じゃなく、本当に!」

 

なんて愉快な気分なんだ。

今まで憎たらしいと思っていたやつのこんな間抜け顔が見られるだなんて!

本当に見通せないらしい仮面の悪魔にあたしは自慢げに続き話してやる。

 

「ま、最初はそれを考えてたさ。本当はサトウカズマを傀儡化して魔王軍に引き込めればよかったんだがなぁ……まあ、もうその必要はなくなった。だからこそ、ここにきたんだ。散々あたしを困らせてくれた……あいつを殺しにな」

「なるほど……そうか、すべては後の祭りってことか」

「あたしにとっては大成功って感じだがな。なんせ、アクセルの街をあたし一人の手で堕としたんだ! これで確実にサトウカズマを魔王軍に勧誘失敗したとしても、あたしのことを馬鹿にするようなやつは誰もいないだろうさ」

 

魔王より強いって言われてる仮面の悪魔と同等の力を得たんだ。

あたしに逆らう手下なんていない!

苦汁をなめ続けた人生に、今、復讐してやれるんだ!

なんて清々しい気分なんだ……膿をすべて排出しきった後と同じ、えも言えない感覚!

 

「いやぁ、本当にいいもん見れた! そんじゃ、そう言うことだからあたしは……」

 

そう思っていたのに。

そう思った瞬間にあたしの前に逆らうやつが目の前に。

 

「…………おい、どうして立ちはだかる? 魔王軍のよしみだろ? 通してく――」

「一つ、勘違いをしているようだ」

「なに……?」

「俺はお前の味方じゃあない。そうだな、もう一度言ってやろう……うちの仲間に何かしやがった」

 

一体何を言ってるんだこいつ?

確かに悪魔は……特にこいつは人間の悪感情を搾取するために生かす、食料を無限に製造してくれる人間を大事にするのは知っていたが、仲間だと?

思えば実力が同等であるあたしのことを名前で呼んだのはともかく、格下であるサトウカズマを名前で呼ぶのはおかしい。

確かに実力はあるが、だからって名前で呼ぶなんて……

今、仮面の悪魔のささやきに耳を貸したせいで混乱しているのを自覚する。

決してあり得ない、それこそ神と悪魔が仲良くするくらい馬鹿らしい話があるわけ……

 

「そう言えば、話を変えるがカズマの姿見てないはずだろ? どうしてカズマだってわかった」

「……どういうことだ? あいつしかいないだろ、あたしのことを害そうとするやつなんて。確かに姿は見てないがスキルかなんかで妨害を……」

「カズマはな、ここ連日家にガチ引きこもりしてて、それこそ物理的にドアを開けられないような細工をしてまで部屋から一歩も出てない。それこそトイレだって何だってすべてそこで済ませてる」

「それは一体どんな修行だ……というか今、一歩も出ていないって言ったな?」

 

おかしい、そうなると辻褄が合わなくなる。

そもそも、思えばいろいろおかしかった点があった。

どうしてサトウカズマはあたしの能力の特性を知っているかのように的確な立ち回りができていたんだとか。

どうしてあんなに嫌がらせをしてきたのにも関わらず、その姿を、決定的な証拠を確認できないのか。

ずっと家にいたとしたら、一体どうやってあたしに精神攻撃をしていたんだ。

そんな一つ一つバラバラだった不可思議な点がさっきの『俺はお前の味方じゃあない』という言葉に集約されていく。

目の前の仮面をまさかといった様に見開いてみると、ニヤリとその仮面の口元がゆがみ、止めと言わんばかりの言葉をあたしに突きつけた。

 

「もう一つの勘違いを訂正しよう。……我が輩は、バニルじゃあない」

「まさか……お前があの……!」

「精神的攻撃をし続けていた元凶とは向こうにいるサトウカズマではない。この我が輩こそがすべての元凶にして諸悪の根源! 異界から参った名もなき仮面である。どうぞよろしくな、復讐と傀儡を司る女神の信徒にして魔王軍幹部であるセレスディナ殿」

「お前が……お前がぁああっ!! あたしのことを散々辱めてくれた忌々しい宿敵かぁぁああああっ!!」

 

殺す。

何が何でもこいつは殺してやる。

どす黒い憎悪の塊と苛烈な復讐心が込み上げる。

その心が源になり、魔法となり、相手を呪い殺す。

 

「死に晒せえッ! デス――ッ!!」

 

そう、呪い殺す――はずだったのだ。

目の前の仮面は動かない。

それはあたしの魔法で死んで動かないはずなのに。

 

「……ふむ、なんともないが」

「ど、どうして立ってる!! 死ね! デス! デス! デスデスデス!!」

「ふはははは! またまたま勘違いであるな! お前は強くなどなっていない! むしろ弱体化していることにどうして気づかない!」

「弱体化……?」

「強欲! 怠惰! 傲慢! 欲に溺れて実力さえ見誤る! 祈るだけで強くなれるなどと思っている時点で愚か、愚かである! 貴様、大罪司教……なのデスか? いやぁ、失敬失敬! こんな貧弱ポンコツプリーストが司教などしてるわけないか!」

 

なんで! どうして!

あたしはこれだけ復讐を渇望してるのにどうしてレジーナ様はこれを受け入れてくれないのですか!

 

「即死魔法すらろくに放てぬ未熟プリーストよ。復讐とはこうやるんだ。『バインド』」

「――ッ!? す、スペルブレイクッ! ……ど、どうして!?」

「どうして解けない、か? スキルバインドをしたわけではないぞ、まだ自分が弱体化している事実を受け入れることができていない幹部殿よ。どれ、復讐の権能がどれだけ弱まっているか見てみるとしようではないか」

「お、おい、そのナイフは……!? お、おい、馬鹿なことを考えてるな! 復讐の力は、あたしが死んだ時点で広範囲に作用するんだぞ! このままじゃ街中が……」

 

時間を、時間を稼がねば!

このままでは殺される!

そんな太古より、人類に刻まれている恐怖が本能を刺激して足掻く。

敵に、魔王軍に情け容赦のない、アクシズ教団のような目。

このバインドがどうにかなるまで、時間を死ぬ気で稼ぐんだ!

そうしたら連れてきた傀儡を盾にしながら逃げ――

 

「おお、残念、残念かな! お前の操り人形は解放されてしまったのだ!」

「え……」

「警察、役所、ギルドの連中らで固めてきたのが運の尽きだったか? ぜぇーんぶ話を聞かれていたのでした!! ふは、ふははははっ!」

 

どういうわけだ……あたしが支配していたやつらのおおよそ半数が正気に戻って……

憤怒、復讐、激高……高ぶる感情がいきなり急降下を始め、混乱、現実、無力……堅く冷たい地面に叩きつけられた。

頭の中で思い描いていた理想から抜け出せず、現実との狭間で身動きがとれない、思考が止まる。

 

「いやぁ、しっかしよかったよかった。また失敗したかと思って焦ったわ……これでまんまぁーるく事が収まりそうでほんとよかった。汝も感謝するがよいぞ」

「なに、を……」

「うん、もしもの話なんだけどな? この警官たちの傀儡化が解けなかった場合、俺はこのナイフを汝の……どことは言わないが突き刺し、世界の最果てにあるダンジョンの最奥にテレポートさせていたところだったって話」

 

確か、強力な魔物がいるそのダンジョン。

そこに飛ばされてしまったら……

傀儡化の力を使えば奇跡的に死なずに、むしろレベルも上がって上質な魔物を傀儡にして戦力を強化できるかもしれない。

奇跡があれば、だが。

あたしの能力は意識がない死体なら簡単に傀儡化できるが、ほかを傀儡化するには感謝をされる必要がある。

最初にどうにかして傀儡化できるか……

そんなことを思う中、仮面の悪魔より恐ろしい、目の前の男は何でもないかのようにこう話し続けた。

 

「これすると俺も死ぬと思うんだ。だってたぶんお前も死ぬと思うし。かなり距離が離れてるから街中に呪いをまき散らすなんてことはないと思うが、死に際の一撃で一人くらい道づれにするくらいわけないだろ? ……まあ、でも。別にそうなったらそれでもいいしな。どうせアクアかエリス様に会うことになるだけだ」

「きょ、狂人め…………」

「狂人? ああ、そうだ。俺は怒り狂ってる。お前が俺の仲間を傀儡化したのを見て、あのくそったれ領主と悪魔を思い出して……ああ、腸が煮えくりかえる思いだ。……なあ、お前はどっちがいいと思う? 散々お前のことを精神的になぶっていた忌々しい男を死んでもいいから殺すか、それとも大人しく王都で拷問を受けるか。好きな方を選ばせてやるから選ぶといい」

 

それはどちらも死刑宣告に他ならない。

死に方を選べと言っているのだ。

自分自身の命をなんとも思っていない、恐れを知らない怪物……どうしてこんな化け物がアクセルの街にいるのか。

そんな疑問は恐怖の前では些細なことだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「『スティール』――ッ!!」

「ん、んなあああああああ゛ッ!?!?」

「やっぱり恥ずかしいんだろララティーナお嬢様ぁ? ほほほぅれ、俺を怒らせたこと、思う存分後悔させてやらぁ……」

「一体何が!? 私は何もしていないはずなのにこんな辱め……これは夢なのか!」

「何もしてないとかしらばっくれるなよお嬢様? 俺のことを裏切った報い、とくと味わうがいいぐっはっはっはっはーっ!」

「なんてことだ、これは…………なんてご褒美ッ! ああカズマ! お前の鬼畜な責めはこんなものじゃないだろう、さあ、もっとだ!」

「……言ったな?」

「え……? ……お、おいカズマ?」

「カズマです」

「そ、その、手に持っている服はわ、私のものじゃないよな? 先ほどスティールを使ったのなら私の服がそこにあるはずなのに……どうしてめぐみんの服を持っているんだ」

「ぐふふ……青ざめたな? 俺が今からお前に一体どんなことをさせようとしてるか想像して恐怖に震えたな!」

「ま、まさか……お前……!!」

「そう! 今からお前にはこの服を着てもらいます!」

「いやです」

「いやですじゃない!! そしてっ、その姿を公衆の面前に晒し、こう名乗るんだ。『我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ! 毎日ぬいぐるみを抱いて寝ているララティーナなの(萌え声)』ってな!」

「や、やめろぉぉぉおお゛ッ!! そんな、そんな辱めは私が望むところじゃないぃいいッ!」

 

 

そんな絶叫が聞こえてくる。

無事……とララティーナは言えないだろうが、傀儡化は解除されたみたいだ。

 

「なんとか、なったらしいな……」

 

目の前でがっくり膝をついて何もできず項垂れるセレスディナを前にほっと一息をつく。

途中までうまくいってたと思ったらまさかまさかのセレスディナの野郎、俺の妨害工作がない間に街を支配しやがって……

街の中枢を担う機関を真っ先に狙うあたり、諜報と謀略に長けた幹部と言われるだけはある。

 

だが、ダクネスをこの場に連れてきたのは失敗だったな。

俺がダクネスが傀儡化されてるってすぐ気づいて、早めに手を打てた。

つまり、こっちの俺を殺すって目的を聞き出して、想定外の事態だったがその場でリカバリーできたってことだ。

まさか今まで練ってきた作戦――こっちの世界の俺を傀儡にして、最終的にレベルリセットのポーションで無力化するって作戦がおじゃんになるなんて思いもしなかったが、結果オーライだな。

なんなら警官たちがいてくれたおかげでその場で自白してくれて、余計な手間が省けたしな!

つまり、前リセットされた要因は潰せたってことだ。

 

「……よし、帰るか」

 

セレスディナは無力化された……レベルリセットのポーションを使わずに。

レジーナ教が二人いるおかげでレジーナの加護は分割され、必要魔力量は増大し、手持ちの傀儡ポイントは減少する。

即死魔法なんて高位魔法は当然使えない。

簡単な魔法ですら今までの魔力量と異なり瞬時に使おうとしても使えない。

 

加えて、俺の「ダンジョン行き」の脅しが利いたのか、傀儡化を全部解除し、観念した様子のセレスディナは無理矢理立たされて連行されていく。

物理攻撃はカエルで自信喪失、肝心の魔法は魔力量を間違えて使えない、頼みの綱の傀儡の能力は俺の脅しで使えない。

たぶんここでレジーナ教をやめても反抗する気力すらないだろう……と、慢心しないのがこの俺佐藤和真、慎重な男。

油断大敵を信条に、魔王を討伐するその日までレジーナ教に入信しといてやる。

あと、王都に護送される前にしっかりリセットのポーションも飲ませておこうか……釘刺しもかねてな。

俺は悪い笑みを浮かべながらこの屋敷を立ち去――

 

「なーっはっはっは! 今更泣いて謝っても遅いんだよ! お前はもう俺のドレインタッチで体力をすべて抜き取られている! つまり、抵抗しようにも身動きとれない状態なんだよ! 観念しやがれ…………ララティーナ」

「ああああああああああああぁぁあああ゛!! 殺すならごろぜぇえええ゛!」

 

……せっかくクールに立ち去ろうとしてたのに。

どうしてこの屋敷はこうも締まりがないのだろうか。

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