あの素晴らしい世界に帰るため   作:桃玉

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バニマ「どうやってダンジョンでスキルポイント乱獲しよう……はっ、そうだ!」


16巻 セレスディナ
15.反逆の摩天楼~平穏を切リ捨てて~


セレスディナが捕縛されてから早数日。

俺を引きこもりたらしめていた恐怖の象徴は消え去るも、外はからりと乾いた寒空。

自由を勝ち得たとはいえ外に出ようとは到底思えず引きこもり生活は続行中。

体温が高い変態と子供は今日も今日とて日課の爆裂散歩へ行ってきたようで、玄関から外の空気がピューっと入り込み肌をなでる。

 

「おかりー。いつまでも玄関にいないでさっさと中に入れよ。寒いだろ」

「……その言葉が私たちを労っての言葉であればどれだけ嬉しかったことでしょうか」

「爆裂してきただけなのにどうして労ってやらなきゃならないんだ。そんなことより早う! 寒いから早う!」

「いいや、今から換気だ。流石に空気が淀んでる気がするぞ。悪い空気を外に出さないとな」

「ううっさぶぃ……俺にとっちゃ寒い空気こそ悪だって気がする」

「そんなに厚着して……ちゃんちゃんこと言ったか? まだ雪も降っていないのにそれを着ても寒いだとか、体が鈍ってるんじゃないか? いつまでも家に引きこもってないでたまには外に行って体を動かし――」

「一緒にすんな鼻声変態。俺は今からこたつに引きこもるの、お茶すすりながらミカンと惰眠をむさぼるの!」

「あ、私もお茶ほしいです」

 

身を窄めながら台所で湯を沸かし、お茶を入れる準備をする。

湯と湯飲みを三つを持って、ミカンとお茶っ葉のあるこたつでほっと一息をつこうとして――

 

「あ、悪い。俺にもお茶ください」

「……何で誰よりも先にこたつで待機してるんだアンタ」

「だって客人だし、おもてなしを受ける義務があると思って。ほら、お客様は神様とか言うだろ?」

「いつからお前は自分が客人だって錯覚してたんだ疫病神」

 

目の前に現れたるは俺を悪人に仕立て上げてくれた憎き宿敵仮面の人。

確かに俺たちは仮面の人に助けられてはきたが、それは同時に厄介ごとにも巻き込まれてるってことで。

そしてそんな厄介ごとに巻き込まれるのは大体コイツがいた時。

うん、どう考えてもこの人が裏で手引きしてる黒幕だわ。

突如現れては俺たちのことを助けてくれるありがたい存在だと心の奥底でどこか信用してしまっていたがそれは大きな間違いだった。

巧妙な罠を張り巡らせ、今回の件で俺を嵌めてくれた張本人。

諸悪の根源を許してなるもの――

 

「そえばこないだは仕方ない事情があったとはいえ悪かったな。お詫びといっちゃ何だがA5ランクの高級霜降り赤ガニを持って来――」

「ようこそ仮面の人! ささ、どうぞミカンを、私が剥いてあげましょうか」

「おい、食欲に惑わされるなめぐみんこれは罠だ! 絶対何かしらの裏があるはずだお鍋どこだったかな……」

「右下の引き出しの奥にあったはずだぞ。この前ダクネスの実家からの贈り物の牛肉で焼き肉した後、なぜかすき焼きまでしたあげく、シメでうどん投下してただろ」

「あー、そうだった。あれはおいしかったなぁ。特に胃の部分、ミノタウロスとはよく言ったもんだ。またよろしくお願いしますって親父さんに言っといてくれよダクネス」

「機会があったらな。それより、足りない食材はあるか? 買ってこよう」

「いや、足りそうだし鼻声の人は大人しくこたつであった待ってろ」

 

あれ、確かその時も4人で鍋つつきやったんだっな。

おかしいな、俺たちって仮面の人とパーティー組んでなかったはずなんだがどうして4人前送られてきたんだろうか。

……ま、いっか!

おいしい食事の前に余計なこと考えてたら味が落ちる。

食事に集中する……それが食材に対する礼儀ってもんだ。

 

鍋には昆布ベースのシンプルな出汁。

炎が鍋の底で揺らめき、ふつふつと沸き立つ香りが鼻腔をくすぐる。

シメは卵とじ雑炊だな……そんな未来に思いを馳せる。

と、そのとき、トクトクと流れる水の音。

見ると仮面の人が見たことがない酒を注いでいた。

 

「今日はいいもん仕入れてきたんだぜ? なんせ宴会芸の神様のお墨付きだぞ~」

「……お前の交友関係ってどうなってんの?」

「まあまあ、そんなことより飲んでみい」

「っす」

 

ちょっと気が早い気がするもダクネスの器にも濁りのない酒が注がれ、チンと器を重ね合わせ、一口舌の上で転がし喉に流す。

 

「……うまいな。これほどのもの、王都でもそうは目にかかれないぞ……どこで買ったのだ?」

「この街の隠れた名店、ダニエルさんのところのだ。ちなみにソイツから教えてもらったおいしい飲み方はな? ……こうやって、ここに注いでぇ……『ティンダー』!」

「ほ、ほわぁぁああ! 甲羅の上に乗っているカニ味噌と一緒にいただくなんて反則ですよ! ダクネスダクネス! 今日くらい! 今日くらいはいいでしょう?」

「し、しかしだな、成長期に飲むと頭がパァになると聞――」

「ちっちっち、これだから頭が固い脳筋騎士は。いいか、こうやって上の方に火をつけてやってアルコールを飛ばせば……」

「「おおっ!」」

 

立ち上る炎を見て興奮するロリッ娘と脳筋騎士。

炎が収まったそれを受け取ると優しく息を吹きかけ……ほうっと一息。

酒のほのかな香りで俺も思わずゴクリと唾を飲む。

そして、気づいたときには――

 

 

「ダンジョンに行きます」

「行きません」

「でも昨日約束してくれただろ?」

「してません」チーン

 

 

――そう、俺が酔って気分がよくなってる間に約束してしまったようだ。

ちくしょう、裏があると思ったらやっぱ予想通りだった!

俺が泥酔して記憶混濁してることをいいことにいいように約束取り付けやがって!

そのくせ介抱の仕方がよかったからか、それともいい酒だったからか、記憶がないんでわからないが全く二日酔いの感覚ないんだわ!

 

「無効だ! こんなやり口での約束なんてノーカンだ! 無償で危険な冒険なんかできるか! 冒険者なめんな!」

「そうかそうか、ダンジョンで得た宝物はウィズとカズマの半々で俺はいらない予定だったんだけどなー、いやはや残念だ」

「な、なびかない! 俺はそんじょそこらの貴族より資産がある! お金持ちのカズマさん結婚して~と迫られるほど有名な冒険者だから――」

「ないぞ」

「――なにが?」

「お金が」

「なんで」

「ふっ、言わせんなよ」

 

仮面の人が背中にしょっている大きな荷物をわざとらしく背負い直す。

ま、まさかな?

仮面の人がいくら鬼畜だからって、そんな俺のうん十億っていう財産を全部使い果たすような暴挙するわけ……

と、そのとき、前から貧乏店主という不名誉極まりない呼び名で呼ばれる薄幸店主さんがほくほく顔で手を振りながらこちらに向かってきた。

……なんだろ、嫌な予感しかしない。

 

「遅れてすいません、ただいま参りました!」

「いや、グッドタイミングだウィズ、今日はよろしく頼んだぜ。今の俺は例の商品のせいでレベル1。いや、ウィズたちに非はないから正直こういったことを頼むのは申し訳なさがあるんだが……」

「いえいえ、こちらこそ説明不足ですみません! 禁断のポーションシリーズのお買い上げありがとうございます! それとマナタイトと魔道具もご購入ありがとうございます! 他ならぬ常連さんの頼みです、頑張らせていただきます!」

 

レベル1? 禁断のポーションシリーズ? マナタイト?

何もかもわからないが何もわかりたくない。

なんか察してしまったが、聞かなかったらなかったことにならないかな……

 

「最高純度のマナタイトをすべて買っていただいたお得意様ですからね。私にできることなら何でも……」

「な、なあウィズ? ちょっと聞いても?」

「何ですかカズマさん?」

「その……今最高純度のマナタイトって言ったよな?」

「ええ……それがどうかしましたか?」

「うん、あの、それってさ、おいくら万円?」

「ええと、そうですねぇ……このマナタイト一つ分で家一軒分なので、ええっと、お買い上げいただいた個数が……一、十、百、せ」

「よおうしわかった! それ以上は言わなくてもいい! 俺はこれから仮面の人とだいーじなお話をしてくるからちょっと待っててくれ」

 

俺は怒りを抑え、あくまで冷静に笑いかける。

ああ、俺がいた世界にはクーリングオフっていう制度があってだな。

何も焦る状況じゃあない。

 

「そう言えばカズマさん」

「なんだカズマです!?」

「バニルさんから『全財産、ウィズ魔道具店へお振り込みいただき誠に感謝する! なお、異世界にはクーリングオフはないのでな。返品不可である。ふははは』――とのことですが、異世界って何のこ」

「ぬぅおああああああああ!!」

「ちょ! 俺の肩を掴んで揺らすな! 俺レベル1だから! 首もげちゃうから! あと仮面が外れる! 死ぬ! 消滅する! 南無阿弥陀仏しちゃう!」

「己がか! 己のせいなのかこの悪魔ぁ! 人の心がない極悪人がぁっ!! 成敗してくれるわぁああ!!」

「やめろぉ! というかお前が昨日『ウィズ魔道具店が潰れそうなんだが……』って言ったら、太っ腹にも『こうたるこうたるぅ!』って言ったんじゃんか!」

「言ってないだr……ッ!!」チーン

 

……言ったらしい。

もうこの魔道具嫌いだッ!

全財産がほとんど全部なくなった件について涙を流す俺。

自分のことを助けてくれたと勘違いしてパァっと顔を輝かせるウィズ。

 

「カズマさん! 本当にありがとうございます! 今回は少々いつもより大きな買い物をしてしまいまして、その、バニルさんがお冠だったんです」

「お冠って今日日聞かねえな」

「きっとこのままだったら世にも珍しいリッチーの丸焼きになっていたに違いありません……助けてくださって本っ当に、本当にありがとうございますぅ!! バニルさんも『感謝感激雨霰である! お得意様の頼みであるなら融通するのも一考だ。決して働けば働くほど負債を生み出す貧乏店主を邪魔だなどとは思っていないが、全力でサービスしてやるがよい! 長期間であればあるほどよいぞ!』と快く送り出してくれました!」

「それ……いや、うん。それは、よかった……」

 

違うんです。

酔っ払って記憶ないんです。

そんなウィズの店の状況なんて知らなかったのに抱きつかれて、胸の感触を感じるっていう天然サービスされても、ムフフより有り金なくたったという絶望の方が勝っちゃうんです。

くそっ、どうせなら純粋にこの柔らかさを楽しみたかった……これもお前が仕組んだ策略なのか!?

 

「ふむ、鼻の下を伸ばしながら眉をひそめるという珍妙な顔をしている冒険者よ。もし金の件で絶望の淵に立たされているのであれば悲観するのは早計である」

「誰のせいだと思ってんの? あと、鼻の下は伸びてない……はず」

「俺が今までしてきたことを思い出してみろ。全部回り回っていい結果になって戻ってくるんだ。今回だってうまくいけば、金は全額どころかさらに増えて戻ってくる」

「マジで?」

「マジで。しかもそれだけじゃないんだな。お前の実力も超簡単にアップ。ダクネスもより堅くなる。めぐみんは夜這いに来て一線を越える。そんな未来がやってくる、ほとんど確実に!」

「もう俺、お前のこと信じるのが怖いよ!」

 

信じられないような内容で胡散臭いし詐欺師だろこんなの!

そのくせ信用しなきゃいけないだけの実績があるのが質悪い!

だがもう後戻りはできない。

なぜならすでに掛け金はベットされてるから……しかも俺の意思関係なく強制的に。

もうこうなりゃやけだ、俺は仮面の人について行く!

そう、逆に考えるんだ……あげちゃってもいいさと。

何も残ってない状況なら、これ以上はプラスになるしかないんだと。

 

「よぉぉしいっくぞぉ! 我ら天下不滅の無一文! すでに失うものがない我らに恐れるものなど、んなぁぁあいぃぃいっ゛!」(泣)

「やるきですねカズマさん! 私も掘り出し物の魔道具がないか楽しみですし、一緒にダンジョン探索頑張りましょうね! 普段は魔道具店の店主ですがこれでも魔王軍幹部のリッチーです。私、全力で頑張っちゃいますよ!」

「よし、二人ともそのいきだ! ウィズ、テレポートの準備はばっちりか?」

「もちろんです! ちゃんと世界の最果てにある最も深いと言われる巨大ダンジョンの入り口への準備はできていますよ」

 

……今なんて?

世界の最果てにある最も深いと言われる巨大ダンジョン?

さ、流石に聞き違いだよな?

確かにウィズは魔王軍幹部だしアンデッドの王リッチーだから強いかもしれないけどさ、こちとら最弱職とレベル1なんだが?

物理による攻撃手段も防御手段も貧弱すぎて紅魔族もびっくりなんだが?

まさかこんなパーティーでそんな場所いくわけないよな、あははは!

 

「目標は世界の最果てにある最も深いと言われる巨大ダンジョンの20階層! すなわちボスが最終階層で守っている宝!」

「やっぱ聞き違いじゃなかった!? なあ、やっぱり辞退しようかなって思……」

「じゃあウィズ! テレポート行っちゃってくれ!」

「ではいっちゃいますよ!」

「ちょ、ま……っ!?」

「『テレポート』!」




ここだけの話、バニマがレベリングせずにレベル1のままだと魔王討伐に同行すると自分の身を守れずにリセットする可能性があるという……
また、ダンジョンに行かないと、カズマのスキル乱獲とか、ダクネスの鎧とかが手に入りませんが、それが今後どんな影響を及ぼしていくか……
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