魔王。
そんなゲームやら漫画やらでよく耳にする存在を、まさか実際に自分が討伐しにいくことになるなんて誰が思っただろうか。
しかも二週間以下の短い期間ですべてを、魔王討伐までしなきゃいけないという無茶なスケジュールで……
だが、俺は決意した。
己の家族を失おうとも気丈に振る舞う健気な仲間を、あんな目を見るのは自分だけで十分だと、自己犠牲で世界を救おうという馬鹿な仲間のため。
俺の勝手なエゴかもしれない。
それでも、セレナには生きててほしい。
ずっと、みんなで馬鹿らしい冒険を続けたい。
だから魔王城にセレナが到着する前に、彼女に手の手をつかめる位置へ――
そのためには今すぐにでも出発して、彼女の後を追いかけないといけない。
……だと言うのに。
「フハハハハハハ! ウィズ魔道具店の全商品を全財産と引き換えに購入したお客様! 誠にお買い上げありがとうございまーす! 開店して以来、最初で最後の完売である! しかもまさかあの似非聖女がこんな……プッ、面白い状況になっていようとは! フワーッ! 笑いが止まらんとはこのこと! フワハッ! フワハハハハッ!」
「うん、それはよかったな? でもな? どうして俺、ダンジョンに放り込まれてるんだ? 早くセレナを追いかけに……じゃなくて魔王討伐に行かないといけないんだが?」
「まあまあ、そう慌てるな、仲間を追いかけたいが一番最初に拒否した手前正直に言うのが気恥ずかしく素直になれないツンデレ小僧」
「ツ、ツンデレちゃうわ! というか慌てるだろ! このままだと……」
セレナが死んでしまう。
仮面の人の言葉を信じたからこそ、早く出発しないといけないといけないという焦燥感。
そんな俺のことを弄んで楽しいかこの悪魔!
焦りが苛立ちとなり思わずバニルを睨み付けると、そんな仮面の悪魔はおどけたように。
「そんなこと言って、そんな装備では駄目なのだろう?」
「……お前、ここに来る直前、俺に『そんな装備で大丈夫か?』って言っただろ」
「うむ」
「それで俺は死亡フラグを回避するために『一番いいのを頼む』って言ったんだよ」
「そうであるな」
「じゃあどうして次の瞬間ダンジョン!? おっかしいだろ!!」
バニルがウィズに『このお客様に例のサービスをしてやるといい』っつったんだ。
だから俺は何か店の裏から特別な装備でも出してくれるのかと思ったらテレポートされてただいま現在。
まさか異世界だからといって地面から装備が生えてくるだなんて馬鹿な話があるわけ……
「ダンジョンは冒険者を誘き寄せる必要があるため、レアな装備やらマジックアイテムを準備して待っているものである」
「へー」
「そしてそれを作っているのはダンジョンマスター。日々せっせと冒険者から強奪したり自らコツコツマジックアイテムを生成しているわけで……つまり実質、汝の想像通り地面から装備は生えてくる」
「もう嫌だこんな異世界……」
「というわけでこれからその装備を収穫しにいくわけであるが。……見通す悪魔が宣言しよう、ダンジョンの最奥、地下20階には素晴らしい装備がある」
「今、最奥って言った?」
「言ったが?」
「奥って、ボス……ダンジョンマスターいるだろ」
「いるが?」
「………………倒すのか!? 今からダンジョン攻略か!? お前の頭どうなってんだ!!」
「いや、それもこれもセンスがいい仮面をつけている男の計画である」
「またアイツか!」
今まで散々俺たちのことを巻き込んでくれた仮面の人。
信用ならない口でも納得できてしまう理由がそこにはあった。
アイツ、俺に早く行かないと間に合わないとか言って急かしたのに裏切られた気分なんだが?
そんなことを思っているとバニルが。
「そろそろウィズも来る頃合いだろう。詳しいことは成金リッチーに聞くことを勧めるが、大雑把に言えばこのダンジョン攻略で汝の強化をしながらであっても1日で終わるだろうと仮面の男から」
「なるほど、腐っても魔王軍幹部と元魔王軍幹部だもんなお前ら。二人の協力と俺の魔法もあれば1日で終わる……のか?」
「ついでに、テレポートを活用すれば余裕がさらに生まれる。たとえ馬車で追いかけるとしてもギリギリ間に合うだろう……が、汝の目的はあの魔王を裏切りおった面白プリーストを連れ戻すことなのだろう?」
「ち、違ぇし!? 俺は魔王を討伐しにいくだけだし、セレナのことなんかどうでもいいし、でももし途中で会えたら説教を優先するだけだし!」
「フハハハハハ! 見通す悪魔に嘘は通用しないと知りながら己の理性を保つために……プフッ、フハハハハ! 羞恥の悪感情大変美味である!」
もう……早くお家に帰りたい!
そして仮面の人に出会い頭リアットを喰らわせたい!
そんなこんなでダンジョン攻略を終え、テレポートを習得し、無事帰還。
結局俺の装備がなかったことに腹を立てつつもスキルポイント獲得に成功。
たった3日で爆発するポーションとか強力な魔道具とダンジョンで得たスキルポイントやクルセイダー専用の装備を手に入れたのだった。
そして、それにかかった費用……
ふっ、これだけ得がたい財産を入手できたんだ、これくらい安いもんだ。
というわけでたった3日で全財産を失ったということについては何も見なかったことに――
「できるかぁぁあッ!」
「わっ! い、いきなりなんですか叫びだして! 発情期ですか!」
「ちがわい! というかどちらかというと発情してたのはお前だわ!」
「な、何を言いますか! 年がら年中えっちぃ目で見てるくせに! ダクネスも言ってやってください!」
「まあ、カズマも十中八九発情してるのだろうが、めぐみんの方が……」
「あ、アレッ!?」
「だってそうだろう? 昨晩めぐみんが『お互い、後悔がないようにしておきましょう』とか言って夜這いし――」
「わあああぁぁあああっ! ダダダダクネスは一体何を言って――ッ!? というかアレは未遂で……ダクネスこそこそこそそういうことをしようとしていたのでしょう!? 部屋の外でずっとハァハァ言っていたこと、知らないとでも思っていましたか!」
「何その知らない情報!?」
「そそ、そんなはしたない感じではなかったはずだぞ! カズマも真に受けるな! 私は鎧のお礼を言いにだな……」
「ほぅら見たことですか! 部屋を訪れようとしたことは事実だと認めましたよこの人! どーせ冬場だったのにスケスケだったのでしょう? 洗濯かごを見れば一発ですよ!」
「見てくる」
「や、やめりょぉぉお!」
このすば!
「それで、結局どうしたんですか。スケスケ令嬢エロティーナに発情したのですか?」
「そ、その呼び方はさすがにどうかと思なんでもないですごめんなさい洗濯かご見に行こうとしないでください……」
「確かに今の話を聞いて興奮しなかったといえば嘘になる。だが、今はそんなのどうでもいい! エロネスとえろみんの喧嘩の話題より大事なもんがある!」
「お、おい、流石にどうでもいいだとかエロネスだとか聞き捨てならないことを言い過ぎじゃ!」
「言い過ぎじゃないです! 金がないんです!」
「……今なんて?」
「切実に、金が……ないんです……ッ!」
金がなきゃ宿泊できぬ旅できぬ……
馬車も出せないし、テレポートを習得したとは言え登録地点はアクセルの街ダンジョンの地下深く。
俺が状況をあまり理解していなさそうな二人に声を荒げようとしたそのときだった。
「『こんな状況でセレナを追いかけられるか!』と言いたげな冒険者皆々様方、ご機嫌麗しゅう!」
「まったく麗しゅうございませんが!? 一体どうしてくれんだよ仮面の人! お前の口車に乗せられてセレ……じゃなくて魔王討伐に行こうとしてたのに金がないんだったら行けないだろ!」
「と、前途多難なお前にご朗報だ」
「お……おま、お前、これっ……!」
目の前に投げられた袋をキャッチするとずっしりとした重み。
そして、握りしめるとジャラリと金属がこすれる音。
思わず仮面の人を見ると。
「まったく、俺が考えなしなわけないだろ? もってけよ、どうせ俺も同行するし」
「……! あ、ありがと――」
「いやぁ、ちゃんとバニルに全財産貢ぐ前にお前の貯金から出しておいてよかったよかった!」
……なんだろ。
仮面の人がかっこよく金を貸してくれたのかと思って感動してたのに、これが自分のお金だってわかった瞬間にありがたみが消失したんだが。
むしろ俺の金を無断で下ろしたこと、それから勝手に俺の金で旅についてこようとする件について問い詰めたい。
そんなことを考えてたせいか、
「テレポートが本当は安全で楽なのに……。ま、しょうがないか。セレスディナを魔王城前で見つけるとたぶん家に連れ帰って討伐しなそうだしギリギリを狙わないとな……」
とボソリと小さく、ため息混じりでいた仮面の人の前置きに気づかず。
「よし、じゃあまずは中継地点の王都だ! 王都まで4日と言ったところだ。その間に王都に先に行くと言ってくれたゆんゆんにセレスディナが王都に来た時の足止めをお願いしている。それと魔剣の勇者を勧誘するように言っておいたから戦力面でも不安にならないでほしい」
「あ、あの子に勧誘するように頼んだのですか!? ……不安しかないです」
……俺もそう思う。
俺たちはこの仮面を信用してよかったのだろうか。
馬車での旅は、積んだ大量のマナタイトのせいか、嫌にゆっくりに感じてじっとしていられなかった。
しかし、仮面の人の言うとおり出発してから4日目の夕方時、そんなこんなで王都へ到着した俺たち。
門の前にはゆんゆんが手を振って……どこかやつれていた。
「皆さん、長旅お疲れ様です……」
「どうしたというのですがゆんゆん、すごくフラフラですが!?」
「あのね、聞いてめぐみん。魔剣の勇者さんは勧誘に成功したのよ」
「ええっ!?」
「な、なんでそこで驚くの!? まだ私本題のセレナさんの話しゃべってないんだけど……喧嘩なら買うわよ!」
「い、いえ、まさかアクセルの街でいつもパーティーを組みたがっていたのに孤立していたあなたが本当に成し遂げたのかと……」
「喧嘩が望みなら最初からそう言いなさいよ!」
さっきまでふらふらだったのに顔と目を真っ赤にして拳を構えるゆんゆん。
正直俺もダクネスも、あのゆんゆんが勧誘に成功するだなんておったまげだ。
そんな中、めぐみんは無策にゆんゆんに近づき、呆気にとられているゆんゆんの頭を優しい手つきで撫で始める。
「…………頑張ったのですね。ゆんゆん、あなたはやればできる子だったのです、ただ頑張りすぎはよくありませんよ? さあ、私が寝かしつけてあげますので……」
「やめてよめぐみん気持ち悪い!」
「き、気持ち悪い!?」
「というか『魔剣の勇者さん、どうか一緒に魔王討伐行ってくれませんか? 私、紅魔族の族長の娘で魔王討伐しないと……』って言うだけで苦労しなかったわよ?」
なんか新手のナンパみたいなフレーズに聞こえる。
それもこれも勧誘しなれてないのに悪友を勧誘の手本にしたせいだ。
お労しや。
そう思っていたらめぐみんも同意見だったのか。
「なんですかそのナンパみたいな勧誘は! というかそれで成功したのですか!?」
「え、ええ。なんか『君みたいな少女が負う責任じゃない。僕でよければその責任を背負わせてくれないか?』って……」
「断りましたよね!? それは明らかに魔王討伐を受諾する以外の意味を含めた文句でしょ!?」
「も、もちろん私たちをおいて自分たちでいくみたいな台詞だったから止めたわよ? 『あなたに責任を押しつけたいわけじゃないの』って。そしたら『それなら半分だけでも』って言ってくれたから『不束者ですがよろしくお願いします』って私は――」
「カズマカズマ」
「カズマです」
「一先ずそのロリコン勇者をぶっ飛ばしてきても?」
「知らん人にいきなり拳を飛ばすなよ……。まあ、気持ちはわからなくもないが勘違いの可能性も……うん、ちょっと、わずかにあるかも」
黒よりの黒だが、ここで俺がその勇者をロリコン勇者だと認めたら俺は一体何なんだと。
発育がいい、頭もいい、高校生くらいに見えなくもないし、仮にゆんゆんに惚れたとしてもロリコンではないはず……
少なくとも俺はロリコンじゃないし、だったらめぐみんよりたゆんたゆんなゆんゆんを好きになってもそれはロリコンじゃない、うん、そうに違いない。
仮面の人も「悪いやつじゃないんだが……」って言ってたしきっとそうだ。
……俺の心の中を見透かしてるのかダクネスからの視線が痛い。
そんな中、めぐみんはため息をついて。
「まあ、今カズマに迷惑をかけている場合ではありませんし。ゆんゆんが魔剣の勇者と誰かを勘違いしていた可能性も考えましたが、一先ずは保留にしておきましょう」
「保留なの!? 私のこと何だと思ってるの!?」
「そんなことよりです。魔剣の勇者の件が問題なかったのにどうしてそんなにふらふらなのですか? まるで徹夜明けですよ? 確かセレナの件と言っていましたが……」
「ううっ、だってだって、セレナさんが王都に寄ったら足止めするって約束したんだもの」
「……もしや、ずっと門の前にいたのですか? 王都を出入りする人をずっと見て、セレナが来た瞬間確保しようとしていたのですか!?」
「う、うん、そろそろ到着するかなと思って無休で……」
「アホですかあなたは! いくら重要な約束だからって休憩も何もしないとは!」
「いやでもおかしいのよ」
「おかしいのはあなたの方ですよ、今は……眠りなさい」
「で、でもぉ……あ、ちょ、めぐみん? なんか視界が狭まって……」
めぐみんはゆんゆんを馬車の中に連れ込んで強制的に寝かしつけ……
もとい、絞め落としたようだ。
スリープ(物理)すな!
『今日も勝ち!』じゃない、どや顔しやがって勝ち誇るな!
いくら学園で体術を習ってたからって、魔法使いが脳筋すぎやしないか!?
……この戦闘民族紅魔人には爆裂魔法を街の近くで撃ってはいけないという常識より寝かしつけるって意味を教えるところから始めた方がいいのかもしれない。
本気でそう思っていると仮面の人が。
「さっきゆんゆんが言おうとしてたことだけどな、たぶんセレナの顔を王都で見かけなかったって話だろうな」
「うん? それは一体どういうことだ?」
「えっとな、今の王都はこう、ピリついてるだろ?」
「そりゃ魔王軍幹部が魔王軍を率いてくるんだから……」
そこで俺はセレナが魔王軍幹部だったことに気づく。
セレナが幹部ということは王都に入った瞬間に捕縛されるリスクや、もしそうなったら死刑や拷問の可能性だって……
「つまり、セレナは王都に寄らず、魔王城まで歩き通すかもってことか? だからゆんゆんは見かけなかったって?」
「そういうことだ。セレナがここに寄る可能性も……まあ、捨てきれないだろ?」
「まあ、確かに王都に寄ってくれる可能性が少しでもあったんならゆんゆんに頼んでた方がいいと思うが」
何か少し言いよどむ仮面の人。
ゆんゆんに頼んで、その結果やっぱり成果はなく、それどころかゆんゆんの意識は寝技で落とされた現状に申し訳なさか居心地の悪さを感じているのかもしれない。
逆に考えるんだ、ゆんゆんがしっかり街の入り口を見てくれてたおかげでここにセレナはいないことがほぼ確実。
俺たちの通ってきた最短ルートにはその姿はなかった。
つまり、仮面の人の考え通りだったってことだ。
もしセレナが王都にいる可能性もあるって言われたら時間を無駄にして探し回っていたかもしれない。
いないことがわかってるってことは、時間短縮できたってことだ。
何も気に病む必要はない。
むしろこれから俺たちが目指す場所が一カ所に定まったんだ。
「仮面の人、グッジョブだぜ! アンタが動いてくれたおかげで、ちょっとゆんゆんには申し訳ないかもだが、魔王城に行けばいいってわかった」
「お、おう」
「そうしたら魔王城に行く……前に魔剣の勇者さんを探さないとか。それから魔王城へ行くための馬車も手配して――」
「馬車は大丈夫だ。ミツラギ……お金持ちの勇者が自家用馬車をもってる」
「ミツラギさん仮面の人ナイス! じゃあ勇者っぽいやつを見つければ万事解決ってわけだ!」
やるべきことは決まった。
待ってろよセレナ……
勝手に俺たちのパーティーを抜けたこと、後悔させてやる!
その後、魔剣の勇者ミツラギのパーティーと合流し、ミツラギがロリコン勇者ではなくただの無自覚人タラシであることを確認した。
ゆんゆんのことを本気で狙ってるんだったらどうしてくれようかと思っていたが、ミツラギにそういう意図はなかったらしい。
ミツラギのパーティーメンバーはゆんゆんをライバル視しているようだが、ゆんゆんはそれに一生気づくことはないだろう。
とにかく、善人で魔王討伐に参加できる実力者だと仮面の人が言っているし、その言葉に嘘はなさそうだ。
ミツラギたちが拠点にしている場所で、魔王討伐……もとい、セレナと合流するために魔王城方向へ行きたいことを話し、最悪魔王討伐へ行くことになるので陣形や各自の役割を明確化し、戦いの準備を進めていく。
魔王は仲間を強化する能力があること、その能力は魔王に近いほど効果が強いこと。
魔王の親衛隊は魔王の力で幹部並の力を持っていることなど。
そうこうしているうちに夜になり、出発を翌朝に見送る。
夜は魔物が活発化するため物音を立てられない……つまりは激しい移動はできないからだ。
そして、朝日が昇り、千里眼や敵感知を駆使してセレナがいるか敵がいないかを確認し、そして沈み、それが何度か繰り返し……
魔王軍が通り過ぎるのを待って、改めて魔王城へ。
城へ近づくにつれ、禍々しい圧を感じ、馬は暴れだし使えなくなり、自らの足で進める。
ダクネスに荷物を背負ってもらい、凶暴なモンスターをミツルギの剣と俺とゆんゆんの魔法でなぎ払い進んでいく。
そして、坂を登り切ったその先に……
「カ、カッコイイ……!」
「いや、これは……ま、禍々しいな……」
「あ、ああ……」
俺の呟きにダクネスが小さく同意した。
坂を上った俺たちの前には、誰がどう見てもボスの城といわんばかりの、漆黒の巨城が広がっていて――
と、そのとき、俺は唐突に思考を遮られた。
なぜかと言えば――
「み、見つけたーっ!」
「「!?」」
突如叫んだ俺に二人が驚き、俺が何を見つけたのか把握する。
2人は、それ以外の4人も俺の見る方に目を凝らすが、遠視のスキルを使用している俺とは違い、未だに確認できないらしい。
俺以外に唯一確認できているのは仮面の人。
静かにガッツポーズをしているのを見るに、きっと間に合ったことに喜んでいるのだろう。
しかし……
「セレナー! おーい! おーいっ!! おいこら、セレナー! ……ああ、くそっ!」
セレナは今まさに魔王城へ入ろうとしていて、俺たちは……
それはあまりにも遠すぎた。
結界を壊すこともなく、セレナがスルリとその中へ入っていくのを見て思わず手を伸ばすも……
「……間に合わなかったか……」
「どどど、どうしましょう……セレナが魔王城に……! は、早くしないと死んじゃ……いやですよそんなの!」
「な、何かないのかカズマ? こういうときこそ、とっておきというか、いつもの捻くれ者の発想で……」
「おい、誰が捻くれ者だ」
「か、カズマ……」
杖を握りしめためぐみんが泣き出しそうな顔でオロオロし、俺の方を見上げてくる。
ダクネスも焦りの表情を浮かべながら、本当に何か手はないのかと見上げて……
……いやまあ、正直言って、手がないこともないのだが。
でも、これを使うには勇気がいる。
今まで築き上げてきた、安定した生活をすべて投げ出す、そんな覚悟が。
「あーあ。仮面の人仮面の人」
「仮面の人です。投げやりな呼びかけだな」
「そういうお前は嬉しそうな声だぞー」
「そうか? ……まあ、ようやく計画通りというか、ここまで完璧に再現できたのは初めてだから喜びが漏れ出たかな?」
「はぁぁぁあ…………ほんとお前性格悪いわ……」
「悪いよ? ……悪い?」
「ほんと悪い……」
何が悪いって、ここまで全部計画通りだってことだ。
セレナを魔王城へ誘導したところから……いや、俺たちとセレナを引き合わせてくれたところからだろう。
そして、セレナが魔王城の中に入って、俺たちは魔王を討伐する。
せざるを得ない。
俺はダクネスの荷物をもらい、その袋を開け始める。
「本当に『あの作戦』じゃないと駄目なのか?」
「そうだな」
「ミツルギの『魔剣グラム』も、ゆんゆんの『ライト・オブ・セイバー』も、駄目なのか? ……この二つなら結界を突破できると思うんだが」
「そうだな」
「…………俺の全財産、吹き飛ぶんですが」
「……そうだな」
散々昨日話した作戦だ。
ミツルギもゆんゆんも悪くはない選択だ。
でも万が一にも失敗の可能性がある。
そして、成功したとしても魔王城の中にいるモンスターに見つかってしまったら……
戦闘している暇も、隠れている暇もない。
そんなことをしているうちにセレナは玉座の間へ着々と近づいていくのだから。
なら、どうすればいい?
答えは簡単だ。
――障害物はすべて焼き払えばいい。
「……めぐみん」
「は、はい」
「ひと思いにやってくれ」
「い、いいのですか? これだけの量のマナタイトだと、全部合わせれば小さなお城が買えちゃいますよ?」
「構わん。あの城に向かってぶっ放せ」
「ほ、本当にいいのですか? 爆裂魔法を連発するんですよ? 間違いなく城から敵が……世界最強の魔法使いというやつも出てきますよ?」
「誰だろうが関係ない。出てきたやつは片っ端からぶっ飛ばせ!」
「…………声、未練たらたらじゃないですか。やっぱりここはゆんゆんに頼みましょう」
「うるさーいっ! 何だ何だ! 俺のプレゼントが気にくわないってか! だったら俺が使ってやらぁっ! 『ティンダー』!! 『ウインドブレス』!!」
「ああっ、モンスターがわらわらと……もう後戻りできなくなりましたよ!? いいんですね!? 最後くらいしっかりかっこよく決めてほしかったのですが私も撃っていいんですね!?」
「だから最初から言ってるだろ! ひと思いにやってくれって!」
もう引き返せない。
だが仲間のためだと思うと、どうしてか後悔はない。
……ここまで仮面の人を信じてきたんだ。
こうなったら最後までとことん付き合ってやる。
「頼むぞ、最強の魔法使い」
「……お見せしましょう、我が人生の集大成を!」
――爆裂魔法というものがある。
習得の難易度はもちろん、魔法を使う際の消費魔力もすさまじく、なおかつ、その威力はオーバーキル過ぎて使う場所を選ぶため、コスパが悪すぎるネタ魔法として名を馳せた。
しかしながら、まともに喰らえば神や悪魔、魔王ですらも、ありとあらゆる存在にダメージを与えられるという、人類最大威力の攻撃手段にして究極の攻撃魔法。
我が名はめぐみん。
紅魔族一の天才にして、爆裂魔法を操りし者。
ひたすらに、ただひたすらに追い求め続け手にしたこの魔法。
世界よ、
天よ、地よ、決してその名を忘れるな!
我が名はめぐみん!
アクセル随一のアークウィザードにして、爆裂魔法を極めし者!
世界最強の魔法使いでも、悪魔やドラゴン、魔王ですらも!
みんなまとめて消し飛ばして見せましょう!!
「『エクスプロージョン』――――ッッッッッ!!」