ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第九十九話

欧州にあるDEM本社。幹部にあてがわれている一室にて、今回の事件の首謀者であるエドガー・F・キャロルは慌てふためいた形相で通信機越しに怒鳴り散らしていた。

 

「そうだ!!ラボも跡形も無く消し飛ばしてしまえ!!私の関与が絶対にバレないようにしろッッ」

 

次世代といえる新型リアライザの開発の功績を以って、次期CEOの地位を確固たるものにするという彼の野心は、取るに足らないと歯牙にもかけていなかった野鼠の抵抗に端を発した漆黒の狩人の介入と、DEMの威光を恐れない現地の正規軍によって跡形もなく粉砕されたのだった。

勝てば官軍と一世一代の大勝負に負けた彼は、今や賊軍となったのを好機と見た他のライバル(幹部)らからのリークもあって悪事を全て露見され。見限られた警察、軍の協力者らから自分だけでも助かるべく、トカゲのしっぽ切りとして狙われることとなったのだ。

 

「(クソッ、クソッ、クソッ!!!こんな筈ではなかった!!!私の計画は完ぺきだった!!!あの役立たず共がしくじらなければ!!!)」

 

あの怪物(・・)に気取られることないよう、あらん限りに金をばら撒いて根回し、慎重に慎重をきっして時間をけて計画を推し進めた苦労が水の泡となった。

ミネルヴァ・リデルや須郷伸之が、言われたとおりに邪魔な連中を排除さえできていれば、こんなことにならなかったのだと心中であらん限りの罵声を浴びせるも。そんなことで事態が好転などする筈もなく、失態の責任を他人にだけ押し付ける姿は、この男を雄弁に物語っていると言えよう。

そんな彼の元に、無遠慮に扉が開かれ何者かが姿を現す。

 

「何やら穏やかでないない話をしているようだね」

「誰だッ今忙しい――!?」

 

その人物の姿を見た瞬間。怒り狂っていたエドガーの様子が一変し、怯え切った子供のように恐怖で体を震わせた。

彼よりも一回りどころか二回りは年下の青年の風貌だが、その身から発せられる気配は彼など赤子も同然と嘲笑うかのように荘厳であり、その目は光など感じさせない底なし沼のように只々漆黒に染まっていた。業務執行取締役(マネージング・ディレクター)としてDEM社び頂点に立ち全てを支配する男であり、一代で国連すら意のままに操れる力を手にした、怪物としか形容できない存在であった。

最も現れて欲しくなかった人物の登場に、蛇に睨まれた蛙の如く固まったエドガーに、ウェスコットは何事もないかのように気さくに話しかけた。

 

「やあ、エドガー」

「しゃ、しゃ、社長…!?い、一体、な…何の御用で…?」

「なあに、君が火消しになっていると聞いてね。手伝いに来たんだよ。君が秘密裏に進めていた計画…。アシュクロフト計画、だったかな?素晴らしい計画だ。私にはない…正に君ならではの発想だ」

「――――!!」

 

さも当然のように語るウェスコットに、バレている!?!?!?と愕然と崩れ落ちるように膝を突くエドガー。

 

「(いつからだ?そのような兆候は微塵も――)」

 

震える目に映る怪物の顔はとても、とても愉快そうに笑っており。その瞬間、始めからだとエドガーは理解した。空を飛ぶ捕食者に見つからないよう、地を這うように身を隠す小動物のように細心の注意を払っていた自分を、この怪物は蟻の巣を観察するかのように、余興の一つとしてしか見ていなかったのだと。

しかし、DEM社幹部たる者、それで心折れて思考を放棄するような軟弱者が務まるものでもなく。エドガーは即座に手も床に着け、頭を叩きつけんばかりの勢いで額を床に擦りつけ――教本となってもおかしくないまでに、美しさすら感じてしまいそうな流れで土下座を見せ、いっそ清々しいまでに媚を売りに走った。

 

「申し訳ございませんでしたァ!!ですがこれはDEM社――あなたの為を思ってしたことでしてッ。あなたを追い落とそうなど、微塵も思ってはおりません!!ですからどうかお命だけは…っっ」

 

己のフライドも尊厳も、今この場ではなんの役にも立ちはしない。例え靴を舐めようとどのような処分を受けようと、生きてさえいれば再起することはできるのだから、今は乗り切ることだけに全身全霊をかけるべく、擦り切れんばかりに額を床に擦りつけた。

 

「…顔を上げたまえエドガー…」

 

無様の見本と化したエドガーに、ウェスコットは不快感の一つも見せないどころか、何故そんなことをしているのか?と言いたげに話す。

 

「人道にも(もと)る発明?結構だ。私に弓引く謀略?素晴らしい。私は君の野心家ぶりを高く評価しているのだよ」

「で、では…!?」

 

思いのほかあっさりと寛容な姿勢を見せるウェスコットに、この流れ、助かるッ!?!?と淡い期待に思わず顔を上げるエドガー。

 

「――だが」

 

そこで、一転してウェスコットはつまらなさそうに言葉を区切る。

同時にエドガーの視界が、首を動かしていないにも関わらず傾いていく。

 

「君は弁明をしてしまった」

 

いや、それどころか、まるで坂を転がり落ちるかのように落ちていくではないか。

 

「醜く命乞いをしてしまった」

 

遂に床と同じ高さとなってしまった彼の瞳は、目の前の怪物の脚しか映さなくなってしまう。

 

「残念だ。非常に残念だ」

 

まるで、子供が飽きた玩具を無邪気に捨てるかのような声を最後に。エドガー・F・キャロルの視界は永遠の闇に包まれていくのであった。

 

 

 

 

「――最後に、君の最大の失敗は漆黒の狩人を、ヴォルフ・ストラージを敵に回してしまったことさ。ん?もう聞こえていないか」

 

足元に転がる玩具(エドガー)頭部(・・)に語り掛けるウェスコットは、事切れていることに気づくと、どうでもよさげに胴体の方へ視線を向ける。

 

「ご苦労、エレン」

 

エドガーの背後に立っていた、秘書兼ボディーガードであるエレン・ミラ・メイザースに労いの言葉をかける。

専用に開発されたCR-ユニット『ペンドラゴン』を纏った彼女はいえ、と恭しく振舞うと、手にしていたレーザーブレードを、血こそ蒸発しているが、刀身に着いた穢れを払うかのように

軽く振るうと、鞘に収めるように収納した。

 

「向こうの方はどうだい?」

「ラボは完全に制圧。アシュクロフトのデータはも無事確保しました。ただ…」

「ただ?」

「我々が抑えるよりも前に、何者かがアシュクロフトに関するデータを持ち出した形跡があったとのことです」

「ほう?」

 

その報告に、ウェスコットは興味深そうな反応を見せる。そんな主にエレンは報告を続ける。

 

「現在その者について追跡を行わせております」

「いや、それはいいよエレン。好きにさせてあげよう」

「ですが…」

「その方が面白い(・・・)ことになりそうだからね。アシュクロフトのデータを破棄したら、撤収してくれて構わない」

 

愉快そうに指示を出す主に、エレンは思わず異を唱える。彼女は従順ではあるが、必要であれば諫言することも厭わない。

 

「よろしいのですか?今後のリアライザ開発に非常に有用となりますが…」

「確かにアシュクロフトは素晴らしい物だ。これがあればAI制御――無人機によるリアライザの操作も可能になるだろうね。でも、それは管理局との技術交流で得られたもので十二分に賄える。『リオンシリーズ』も間もなくロールアウトすることだしね。何より――ヴォルフを怒らせることに比べれば取るに足らないさ」

 

まだ死にたくはないからね、と冗談めかせて話す主に、エレンは面白くなさそうな顔をする。

 

「そうなろうとも、私が必ずお護りしますアイク」

「無論君のことは信じているよエレン。でも、彼が相手だと万に一つがありえるからね」

 

かつて行われた模擬戦にて、エレンは徹頭徹尾ゲリラ戦を挑んだヴォルフに引き分けという決着をむかえたことがあった。

それは、越えるべきただ1人を除き、勝利という結果以外は許されてはならないと己を戒めている彼女には看過できるものでなく、剣を捧げる主であるウェスコットに同格と見らていることは耐えがたい屈辱であったのだ。

そんな彼女の機嫌を取るように、ウェスコットは肩に手を置く。

 

「そうヘソを曲げないでくれエレン。さ、食事にでもしよう。今日は君の好きな物を食べに行こうか」

「…わかりました」

 

楽しみだねと上機嫌に部屋を出ていくウェスコットに、エレンはやれやれと軽く息を吐くと、その後を着いて行くのであった。

 

 

 

 

エドガーがアシュクロフトの開発に用いていた研究所の近場にある街の路地裏にて、1人の男性が携帯を片手に、もう片方の手に火の点いた煙草を持ちながら会話していた。

 

「ああ、必要なデータは手に入ったよ。追手は振り切った、つーよりは諦めてくれたってところか?」

『そうか、それは良かったご苦労だったね』

「まあ、な…」

『…諦めたというより、泳がされたという方が正しいんだろうけどね』

 

懸念を言い当てられ、男は金色の髪を気だるげに揺らしながら、煙草を一服する。

 

「こっちは死ぬ思いで潜入したってのによ、連中にとってはパクられても困らない代物てか。世界中が喉から手が出る程欲しがってるてのによ」

『DEMの力は未知数だ。少なくとも、アメリカよりも数十年は先の技術を持っているとさえ言われているからね」

「ま、お目こぼしを貰えるつーなら、ありがたく使わせてもらいますかね。これで、停滞していた『計画』を進められるしな。んじゃあな『クリスハイト』」

 

通話を切ると、男は――かつてヴォルフにエルビンと名乗っていた彼は、煙草を携帯灰皿に押し込むと、夜空の暗がりに紛れ込むようにしてその場を去っていくのであった。

 

 

 

 

日本にあるとある建物の一室にて。仮想課に身を置く菊岡誠二郎は通話を終えた携帯を懐にしまうと、光の反射で表情を隠す眼鏡を直しながら、革椅子腰かけた状態でテーブルに置いていた資料を手にする。

 

「さあ、僕達の『夢』その先に行こうか」

 

その資料には、『project Alicization』と表記されていた。

 

 

 

 

アシュクロフトを巡る事件から数日が経ち。あれからセシルら3人は欧州方面軍へ引き渡され、一定期間監視下に置かれた後無罪放免となることが決定されたのであった。その移送の護衛として燎子と共に随伴した美紀恵は、イギリス国内にある政府管轄区を訪れていた。

 

「ここですか大尉?」

 

人里離れた地にある保養地と言える平凡な風景に。監視というだけに、もっと重苦しさを感じられるようなものだと想像していただけに、思わず辺りを見回す美紀恵。

 

「そうよ。紫条指令の働きかけのおかげってね。ま、それでも色々と制約はもちろんあるけど、我慢してもらうわよ?」

 

レオノーラに車椅子を押されているセシルは、やむなしといった様子で他の2人と同様に頷く。

 

「あれだけのことをしたのだもの、文句なんて言えないわ」

「だな、アルテミシアに会うためにも、それくらい我慢しねーとな」

 

頭の後ろで手を組みながら、しゃーねーとぼやき気味に話すアシュリーに。美紀恵があ、と何かを思い出したようにポケットから何かを取り出す。

 

「アシュリー。これ、ユウキから渡してほしいって」

「手紙、アタシに?」

 

渡された封筒を開き、取り出した手紙に目を通すと。体調を気遣う言葉や、いつの日かまた遊ぼうとった言葉と、最後に『大切な友達へ』という文言が記されていた。そして、封筒には美紀恵も含めた3人で撮った写真も同封されているのであった。

 

「――あの馬鹿、まだアタシのこと…」

「良かったわねアシュリー。新しい友達ができて」

「よ、良かったね~」

「そ、そんなんじゃねーって!!てか、何でお前が泣いてんだよレオ!!」

 

照れ隠しするように、ポケットに大雑把に見せながら大切そうにしまうアシュリーであった。

 

「はい、ハンカチ」

「いらん!泣いてねーっての!!」

 

ハンカチを差し出してくる美紀恵に、アシュリーは背を向けながら上着の袖で目から流れるものを拭き取った。

 

「はい、いいところ悪いけど、そうろそろ引き渡し時刻になるから行くわよ」

 

その後もアシュリーと適度にいじりながらも、目的地に到着する一向。

木々に囲まれた自然豊かな空間に、木造の一軒家があり、その前に車椅子に腰かけた1人の少女性が迎え入れた。

そして、その女性の姿を見た瞬間、遼子以外の者は驚愕に目を見開くのであった。

 

「ブルーアイランド基地所属、日下部遼子大尉です。予定通りセシル・オブライエンならびに、レオノーラ・シアーズ、アシュリー・シンクレアの3名を護送しました」

「ご苦労様です大尉」

 

そんな彼女らを尻目に、少女は遼子から受け取った端末にサインをする。

 

「あなた達3人は監視も兼ねて、私と共に生活をしてもらうことになります…」

 

そういって少女――アルテミシア・ベル・アシュクロフトは微笑むのであった。

 

「アル、テミシア?」

「うん。おかえり皆、そして、ただいま」

「どう、して…?」

「ふふふ、どうしてでしょう?」

 

悪戯ぽく笑うアルテミシアに、レオノーラとアシュリーは駆け寄ると抱き着いた。

 

「どうしてでしょう?じゃねーよッ、バカヤロー!!」

「うあああああ!!アルテミシアああああああ!!」

 

そんな2人をアルテミシアをそっと抱きしめ、その温もりを確かめ合う。

 

「本当に…アルテミシア、なの?」

「うん。久しぶり、セシル…」

「手を、手を触らせて…」

 

恐る恐ると伸ばされた手を、アルテミシアは愛おしげに両手で包む。

 

「この温もり…感触…。本当にあなたなのね、アルテミシア…」

「うん。私はここにいるよ、セシル」

 

セシルも交えて抱きしめ合い。ようやく叶った再会に、それぞれが喜びの涙を流す。

 

「こ、これはどういうことなのでしょう?」

「言ったでしょ、指令が『色々』と働きかけて下さったって。ご自身が全ての責任を持つってことで、本部でも協力してくれた人がいたそうよ」

 

予想外過ぎる展開に、呆然気味の美紀恵に、全てを知っていたらしい遼子は茶目っ気を見せながら片目だけ瞬きをした。

それから美紀恵の背中を押すと、アルテミシアの元に向かうよう促す。

 

「アルテミシアさん…」

「約束、果たせたね…。――ありがとう、『マスター』…」

 

アシュクロフトに囚われていた時のことを覚えていてくれたことに、何より現実に会えたことへの喜びでその目から涙が溢れていく。

そして、セシルら同様に、彼女と抱きしめ合うのだった。

そんな彼女らを、晴天の青空から降り注ぐ陽の光が、木々のせせらぎが、鳥のさえずりが――世界の全てが祝福するように暖かく包み込むのであった。

 

 

 

 

「そっか。アルテミシアさんは無事にあの3人と再会できたんだね」

「はい。隊長にもお礼を伝えて欲しいと言っていました」

 

ブルーアイランド基地の隊舎屋上にて、俺は美紀恵からことの経緯を聞いていたのだった。

あの事件に関わった者として、望みうる限りで最上の結果に終わって本当に良かったよ。

 

「あの、隊長」

「ん?」

「本当にお世話になりました。こんな私を最後まで信じて下さって、ありがとうございました」

「礼を言うのは俺の方さ、君がいなかったら死んでたかもしれなかったからね」

 

そういって深々と頭をさげる美紀恵。彼女の研修期間も今日で終わり、原隊であるASTに復帰し後方での訓練に戻るのだ。

完全に想定外の研修となってしまったが、出会ったばかりの頃の己を卑屈に見てしまう姿勢は完全になくなり、胸を張って前に進もうとするようになったことは、預かった身としてはこれ以上ないまでに喜ばしいものだ。

 

「今の君ならどこの部隊でもやっていけるよ。自信を持っていい」

「……」

「?どうかしたかい?」

「あの、その…。私、訓練期間が終わって正式に配属されることになったら、CNFに――天道隊長の元に着けるように頑張りたいんです。…駄目、でしょうか」

 

不安そうに上目づかいで見上げてくる美紀恵。拒絶されることを恐れているようだが、断る理由を探す方が正直難しい。

 

「上の判断しだいだけど、俺としては反対する理由なんてないよ。君が来てくれるなら心強いよ」

「本当、ですか?」

「ああ。言っただろう?君はもう立派な戦士だ、また肩を並べて戦えるのなら、それはとても光栄なことだよ」

 

そういうと、パァァァッと聞こえそうなまでに表情が明るくなる美紀恵。――と思ったら、まだ気になることがあるのかソワソワしだした。それも何やら恥ずかし気に。

そして、そこから数回深呼吸をすると、姿勢を正してこちらへ向き直った。

 

「あの、隊長ッ」

「は、はい」

 

真剣な表情で見つめてくる彼女に、何事かと反射的に相手に倣うように背筋を伸ばす。

 

「えっと、その…。隊長は私のことを『美紀恵』って呼んで下さるじゃないですか、前の作戦から」

「うん。ああ、ごめん嫌だった?」

「にゃっ!?いえ、そうじゃなくてッ全然構わないんです!!すみません!!」

 

謝ろうとしたら、物凄いわたわたしながら逆に謝られてしまった…。

と、取り敢えず先が気になるので話を進めよう。

 

「え、え~と、それで?」

「あ、はいっ。その、それで…。わ、私も隊長のことい、いい『勇さん』と呼んでもよろしいでしょうかなぁって!?」

 

テンパりながらも告げられた内容に、んん?と首を傾げてしまう。何か重要なものかと思っていたが――いや、彼女にとっては大切なことということか。ならば、こちらも真摯に対応せねばなるまい。

 

「だ、駄目…でしょうか?」

「いや、君さえ良ければ全然構わないよ。断る理由なんてないさ」

「い、いいんですか!?!?!?」

 

ものすっごい食い気味詰め寄ってくる美紀恵氏に、宥めながらうん、と頷くと。彼女は目を輝かせまがらわぁ!わぁ!とピョンピョンと弾んで全身で喜びを表現していらっしゃる。

 

「あ、ありがとうございます!!――あ!ユウキと約束があるので、すみません、これで失礼します!」

「うん、またね」

 

ぺこりと頭を下げると、美紀恵は駆け足で出口へ通じる扉へ向かうも、途中で足を止めてこちらへ振り返る。

 

「あなたの元に戻って来られるように、私もっともっと頑張ります。だから、待っていて下さいね『勇さん』!!」

 

花が咲くような笑顔を見せると、扉の向こうへ去っていく。

自分の足でどこまでも進んでいこうとするその姿は、とても輝いて見えたのだった。

 

 

 

 

イギリス国内にある政府管轄区。その地で療養しているアルテミシアは、1人種を植えたばかりの花壇にじょうろで水を与えていた。

長い間寝たままであった肉体は、自力で歩くことはまだ難しく車椅子での生活を余儀なくされていることもあり、セシルらに1人で出歩くと小言を言われるが、今日はどうしても1人でこの場にいたかったのだ。

 

「綺麗なお花が咲くかな?できればお花畑にして皆でお弁当なんか食べたいんだけど、その体じゃまだ無理だって言われちゃった」

 

誰もいないにも関わらず、語り掛けるように話すアルテミシア。当然返事など返ってこないも、構わず彼女は続ける。

 

「うんと綺麗なのを咲かせて見せるから、お友達と見に来てよ。皆も喜ぶから」

 

人里から離れていることもあり、周囲の木々のさざめきや鳥のさえずりだけが聞こえる静けさの中。アルテミシアは楽し気に言葉を紡いでいた。

 

「……ここまで来てくれたのなら、声くらいは聞かせてほしいな」

「……………同じ空に太陽と月は交わらないように、闇に生きるものがお前と共に存在することはない」

 

切なく懇願するアルテミシアに応えるように、どこからともなく男の声が聞こえてきた。

 

「ごめんね。あなたに一杯迷惑かけちゃったね」

「借りを返しただけだ、気になどする必要はない。――それに、お前があんな俗物共に汚されるなど看過できなかったのでな」

 

恥ずかしげもなく放たれた『クサい』言葉に、アルテミシアは思わずふふ、と笑みを浮かべる。

 

「そういう言い方は誤解されるから、無闇に言ったら駄目だよ?」

「お前は日向に咲く一輪の花、その気高さは悪党に汚されるべきものではあるまい」

「…あなたって朴念仁って言われるでしょ?」

 

むぅ、と図星を突かれたように静まる男。何故わかったと言いたげな顔をしている男の顔を思い浮かべ(・・・・・)、クスクスと愉快そうに笑う。

 

「ねえ、顔は見せてくれないの?」

「悪党に汚されるべきでないと言っている。お前と交わることは二度と(・・・)ない」

 

アルテミシアはどうしても?と言いたげに懇願するが、返ってきたのは明確な拒絶の意志であった。

 

「これからはあの3人と陽の当たる世界を生きろ。それがお前には相応しい」

 

そう告げると、もう男の声が返ってくることはなかった。

それを感じたアルテミシアは寂し気に目を伏せた後、男がいたであろう方へ視線を向ける。

 

「…あなたになら、私は――――」

 

男に向けたその言葉は、吹き抜けた風の音に搔き消されてしまうのであった。




捕捉としまして、本作ではデート・ア・ライブのバンダースナッチは登場しません。代わりとなるのは、スパロボのOGシリーズを知っている人なら馴染みのあるあれです。

それと、以前活動報告でお伝えした、SAOのアリシゼーション編のキャラを登場させるかについて。検討の結果、全てのキャラを出すのはシナリオの流れ的に無理だなと諦め、せめてヒロインのアリスだけでも出そうということにしました。その結果、色々と設定が原作から変更されていますが、ご了承頂ければ幸いです。
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