ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

15 / 106
第十四話

まだ昼間であるにも関わらず、ブルーアイランドのオフィス街は静寂に包まれていた。始めて見るその光景に、不気味さを感じずにはいられない勇だった。

空間震警報により人々が避難を終えたビルの屋上に、勇を含めASTのメンバーは待機している。

 

「にしても凄い数ですね。基地の戦力ほぼ全部じゃないですか?」

 

レーダで確認してみると、精霊の出現地点を囲む様にPT部隊が大多数配置されていた。最低限の戦力だけ基地に置き、残りを全て投入しているみたいだな。

 

「精霊が現界すると、それにつられる様にノイズも現れるから、基本PT隊はそれらに対処して私達が精霊に当たるのが基本なのよ」

 

『全機配置完了。機体の最終確認をせよ』

 

頭部に設置されたスピーカーからオペレーターの声が響く。

ディスプレイに自身の機体状態を映し、異常が無いことを確認する。

 

「こちら勇、異常無し」

 

隊長へ報告すると、他の隊員からも同様の報告が上がってくる。

 

『OK。そのまま待機よ』

 

目標の出現予想時刻まで少しだけ時間があるな。もう一回周囲の確認でも…んん?

 

「隊長、隊長」

『どうしたの勇?緊張してトイレにでも行きたくなった?』

「目標出現付近に生体反応があるんですけど…」

『え?嘘、何で反応があるのよ!?少佐!天道少佐!聞こえますか…!』

 

隊長が慌てて父さんに報告しているけど、これってかなりやばくね?

 

 

 

 

 

PT隊を指揮していた勇太郎は燎子からの報告を受け、レーダーを確認していた。

確かに精霊の出現予想区域に生体反応が一人分確認できた。

 

「司令部そちらからも確認できるか?」

『はい、こちらからも確認しました。間違いありません』

 

司令部でも確認したと言うことは、誤認ではないようだ。

 

『少佐、すぐに救助に向かいましょう!』

 

副官である天城みずはが慌てた様子で進言してきた。

 

「そうしたいが、もう時間が無い」

『え?』

『空間震発生まで5…4…3…2…1…来ます!』

「ゴースト1より全機戦闘態勢!お客さんが来るぞ!」

『りょ了解!』

 

指示を出すと同時に、街の一角が眩い閃光に包まれ、大気が震えるのだった。

 

 

 

 

「これが空間震か…」

 

閃光と大気の震えが収まると、ついさっきまでどこにでもあった街並みが、がらりと変わっていた。

街の一角にまるで隕石が落ちたかのように、地面が浅いすり鉢状に抉り取られていた。今回は極小規模であったが、衝撃波によって街全体が少なからず被害を受けていた。

人々の営みをあざ笑うかの様な理不尽な破壊。テレビの映像では見慣れていた筈の光景なのに、実際に目の当たりにするとこうも違うとはな。

そして、クレータの中心に玉座のような物体が鎮座している。その玉座の前に、俺と近い年頃の奇妙なドレスを纏った少女がいた。傍から見れば人と変わらない容姿をしているが、あれが精霊”プリンセス”。

俺の本能が警鐘をけたたましく鳴らしていた。今まで感じたことのない威圧感が全身を突き刺してくる。危険過ぎる、あれは(・・・)世界を壊す存在だ!

 

「そう言えば生命反応は!?」

 

精霊の圧倒的存在感に気を取られていたが、さっきの生命反応は、ある!

って精霊の目の前じゃねーか!運が悪いってもんじゃねぇぞ!?

 

「隊長!」

『分かってる!けど待って!次が来るから!』

 

隊長がそう言うと、あちこちの空間からにじみ出るようにノイズが現れた。

 

『こちらゴースト1!ノイズ・キャンセラーを機動させろ!』

 

父さんの合図と共に、戦場に歌の様な音が響きだした。

ノイズの特徴として、位相差障壁がある。ノイズ自身の現世に対して「存在する」比率を自在にコントロールすることで、物理的干渉を可能な状態にして相手に接触できる状態、物理的干渉を減衰、無効化できる状態を使い分ける能力であり、これにより人間の行使する物理法則に則ったエネルギーは、ゼロから微々たる効果しか及ぼすことができなくなる。

これに対抗するために日本政府がシンフォギアシステムと呼ばれる物を開発したそうだ。軍がそのシステムを解析して、ノイズを強制的に人間世界の物理法則下に固着させることで、位相差障壁を無効化するシステムを開発したのがノイズ・キャンセラーである。見た目は馬鹿でかいスピーカーなんだけど。

この装置によって、従来の兵器でもノイズに有効打を与えられるようになった。

しかし、ノイズは市街地と言った人が密集している場所に出現しやすく。戦車や戦闘機では市街地戦に向かず、歩兵のみでは火力不足となるので、それらの特性を兼ね備えた軍事用パワードスーツ――機動兵器が台頭することとなる。

ノイズのもう一つの特性として、数が異常に多いことが挙げられる。そのため、少数運用が基本のISやCR-ユニットでは対処が難しく、数を揃えやすいPTが主力となった背景があるのだ。

 

『ノイズの定着を確認!』

『攻撃開始!PT隊はノイズを引きつけろ!ASTは救助者の安全を最優先で行動せよ!』

『了解!』

 

あちこちで銃声と爆音が響き始めた。つーか、レーダーがノイズまみれなんだけど、どんだけいんだよあいつら。

 

「隊長!MK-Ⅱの方が足が速い!俺が先行します!」

『分かったわ!各機プリンセスの足を止をめて勇を援護するわよ!』

『了解!』

 

テスラ・ドライブを稼働させ飛翔すると、生命反応のある地点まで空を駆けた。

 

 

 

 

時は少し遡り、避難勧告が発令されている街の中を、重い足取りで彷徨っている少女がいた。

とある理由により、自暴自棄になっていた少女は、冷静な判断力を失っているため避難放送が耳に入っていなかった。

そして、目の前で巻き起こった空間震の余波に吹き飛ばされるも、幸いに軽傷で済んだ。

だが、危機は去ってなどいなかった。少女の目の前に現界したプリンセスは暫くあたりを見回し、少女を視界に捉えた。

またかと言うような表情をすると、ゆっくりとした動作で背後にそびえる玉座の背もたれから生えた柄を握り引き抜いた。

剣――抜かれたのはそうとしか形容できない物であった。

両刃の大剣をプリンセスが虫を払うかの様に軽く振るうと、少女の足元のアスファルトが綺麗に裂かれた。剣が届かない距離の筈なのに、まるで豆腐を切るかの様にアスファルトを切り裂いたのだ。

 

「ひぃ…!?」

 

常識を範疇を超えた事態に、少女はただ恐怖に身体を震わせるしかできなかった。

プリンセスが何か呟きながらゆっくりと少女に迫るが、恐怖に支配されている少女に、聞き取る余裕も逃げる力を振り絞ることもできなかった。

少女の目の前までやって来たプリンセスは、剣を両手で握ると大きく振りかぶった。

 

「(ああ、私死ぬんだ…)」

 

目前まで迫った死に不思議と少女は冷静だった。余りにも現実感の無い出来事の連続で、自分が死ぬことに実感が沸かないのだ。

しかし、これは紛れもない現実なのだ。いくら待とうが目の前の光景が変わることは決して無かった。

人間死ぬ時は呆気ないと言うが本当の様だ。結局自分は父を失望させることしかできなかった。どんなに努力しようとも報わずに終わるのだ。

 

「(死にたくないな)」

 

つい先程まで死んでもいいとさえ思っていたのに、いざ死ぬとなると生きたいと願っている自分がいた。

もっとやりたいことがあった。夢と呼べる物はなかったけど、父と仲直りできないのが心残りだった。

自分が死んだら悲しんでくれるだろうか?それとも、どうでもいいと思うだろうか?きっとそうだろう。出来損ないの自分なんて、いてもいなくても一緒なんだから。

それでも――

 

「(よくやったって、言って欲しかったな…)」

 

遂に剣が振り下ろされようとした時、何かに気づいたプリンセスが飛び退くと、先程までプリンセスの立っていた場所に光弾が撃ち込まれた。

続いて飛び退いたプリンセスに、ミサイルが雨の様に降り注いで着弾し、辺りが土煙に包まれた。

 

「え?」

 

空から人影は降りると、呆気に取られている少女を抱え、その場から離れて瓦礫の物陰に隠れた。

助けてくれた人影をよく見ると、紺色の機械鎧を身に纏っていた。

父の仕事関係で何度か見たことがある、PTと呼ばれるパワードスーツだったが、始めて見るタイプであった。

PTが頭部に両手を当てるとカシュッと機械音がし、ヘルメットを脱ぐ様に外すと、中から美少女としか言いようのない顔立ちの女性が現れた。

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か!」

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 

目の前で呆然としている少女の肩を揺すりながら大声で話しかけると、ビクッと身体を震わせて返事をしてくれた。てか、声が裏返ってるぞ…。

 

「意識はあるな。痛いところはあるか?違和感があるとか」

「あ、えっと、ちょっと擦り剥いただけなんで大丈夫です」

 

擦り傷だらけだが、目立った外傷は見られないな。医師の診断を受けないとはっきりせんが、緊急性は無いな。

 

「司令部こちら天道勇、救助者を確保した。軽度の負傷のみ歩兵隊による保護を求める」

『了解、直ちに向かわせます。天道軍曹は戦闘への復帰を』

「了解。いいか、直ぐに救助隊が来る。それまでここにいろ」

「は、はい」

 

少女が頷くのを確認すると、瓦礫の影から飛び出し、ホバー移動で部隊へと合流すべく向かう。

 

「隊長戦線に復帰します!」

『OK!全機包囲を維持しつつ攻撃するわよ!』

『了解!』

 

戦線に加わると、ライフルをプリンセス目掛けて放つ。他の隊員達も手持ちの火器をありったけ放った。

対してプリンセスは避けることはおろか、防御するそぶりすら見せず、着弾する前に壁にでも阻まれた様に打ち消されていった。データにあった障壁か!

そして気怠そうに剣を横一線に振るったので、咄嗟に機体を上昇させると、周りの建物が軒並み同じ高さに切り揃えられた。

おいおい、なんつーデタラメな力だよ!?俺達を、周りに集まるハエ程度にしか思ってないってのか!?

 

「隊長俺が接近戦を仕掛けます!援護をお願いします!」

『何言ってんのよ!危険すぎるわ!』

 

俺の提案を渋る隊長。精霊との戦いの基本は、遠距離からの攻撃で時間を稼いで消失させるのが一般的となっている。

精霊に近接戦を挑むのは自殺行為とされており、近接武器は近寄られた際の自衛用とされている。

 

「このままチマチマやってても埒が空かんでしょう!このまま奴に舐められたままでいいんですか!」

『隊長、私も行きます』

『折紙まで!?ああもう、分かったわよ!ただし、私が退れって言ったら退りなさいよ!』

「了解!」

『了解』

 

隊長から許可が降りるのと同時に、俺と折紙が射撃装備を投棄し、プリンセス目掛けて突進する。

 

「挟み込むぞ!」

『分かった』

 

俺の意図を理解した鳶一と左右に分かれると同時に、隊長達からの援護射撃がプリンセスへと殺到した。

それら全てが先程と同じ様に障壁に阻まれるも、巻き上がった砂塵もよってプリンセスの視界を遮った。

プリンセスの動きが一瞬止まった隙に、両腰のウェポンラックからビームサーベルを両手で引き抜き斬りかかるも、大剣で受け止められてしまう。

そこで始めてプリンセスの表情に気怠さが無くなり、真っ直ぐと俺を見据えてきた。

俺が切り結んでいる間に、レーザーブレイドを構えた折紙が背後から横薙ぎに振るう。

 

「むんっ!」

 

プリンセスが裂帛の掛け声と共に俺のサーベルを弾くと、鳶一のブレードを身を屈めて避け、剣を振り上げた。

 

「ッ!?」

 

鳶一は咄嗟にブレードで受け止めるも、余りの腕力に弾き飛ばされて、ビルへと突っ込んで行ってしまった。

グッ信じられん程の馬鹿力だ!?手が痺れやがる!真正面からぶつかるのは危険だな!

 

『勇退がって!』

 

隊長達からの援護射撃が降って来たので、一旦距離を置き呼吸を整える。鳶一?生命反応はしっかりしているから大丈夫だろう。

弾幕が止むと同時にプリンセスへと駆け出し、右手のサーベルを突き出すと剣で受け流される。が、それに逆らわずに相手の力を利用して身体を回転させ、がら空きの脇腹に左手のサーベルで斬りつけるもドレスに阻まれてしまう。チッ!精霊ってのは全部こうなのかよ!?

そのまま切り結ばない様に、刺突を中心に攻め立てているとプリンセスが口を開いてきた。

 

『何だお前は?初めて見るが、随分とゴツゴツとしているな』

 

そう言やこいつASTしか相手にしたことがないから、全身装甲であるPTを見たことがないのか。

まあ、いい。話す気があるなら聞いておきたいことがある。

 

「お前の目的は何だ?なぜ人類に敵対している?」

『敵対?私がか?』

 

俺の言っていることの意味が分からないといった感じで、首を傾げたプリンセス。

 

『最初に攻撃してきたのは貴様らだろうに』

「街をこんなに破壊されれば当然だろう。もっと穏やかに現れてくれればこんなことはしない」

『私が破壊した?お前達がやったのではないのか?』

 

キョトンとした顔で辺りを見回しているプリンセス。まさか自覚がないってのかよこいつ?

 

「そんなことするか!お前が壊したんだよこの街を!そして、住んでいる人達の命を奪いかけたんだよ!」

『――私が?』

 

俺の言葉に狼狽しだすプリンセス。その顔は今にも泣き出しそうだった。

何だよこれ、俺が悪役じゃねぇかよこれじゃ。別に自分が正義の味方だなんて思っちゃいないがよ。

 

『違う、私は――!』

 

プリンセスが何か言おうとした瞬間。鳶一が瓦礫を撒き散らしながら、ビルから飛び出してプリンセスに斬りかかった。

咄嗟に剣で防ぐも、その動きに先程までの繊細さは見られなかった。次々と斬撃を放っていく鳶一に次第に押されていく。

 

『殺す』

『!?』

『精霊は残さず全て、私が殺す!』

『う、うああああああァァァァァァァッ!!!』

 

憤怒の表情でプリンセスを睨みつけた鳶一に怯えたように、悲鳴にも似た叫び声を上げたプリンセスが乱雑に剣を振るうと、剣圧で巻き起こされた突風に俺達は吹き飛ばされ瓦礫に突っ込んでしまった。

 

「ッ~~むちゃくちゃしやがってあんにゃろう」

 

瓦礫を押しのけると既にプリンセスの姿は消えていた。

 

『プリンセスの反応消えました、消失を確認。ASTはPT隊と合流し、ノイズの殲滅に当たって下さい』

『了解。勇、折紙まだ戦える?』

「こちらは問題なし、継戦可能です」

『こちらも問題なし』

『なら、一旦補給と整備後にPT隊と合流するわよ!』

 

了解と応えると、瓦礫を押しのけて立ち上がろうとしていた鳶一に、手を貸そうと差し出すも弾かれる。えらく嫌われてますねぇ俺。

そのまま一人で隊長達を追いかけていった鳶一の後に続く様に、機体を飛ばすのだった。

こうして俺の初めての精霊との戦いは、えらく後味の悪い結果となるのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。