四月――
新たな始まりを告げる様に桜が咲き誇る中、俺は母校である”私立来禅学園”高等部の体育館にいた。
これから新たに高校生活を始める者達を歓迎する儀式。つまり入学式に参加している訳である。
用務員でしかない俺が参加する必要があるのかと思ったが、現在壇上にてスピーチを行っている、生徒会長の神堂慧理那にスピーチして欲しいとお願いされたのである。
神堂の背格好は小学生程だが、彼女の新入生に向けての歓迎のスピーチは、さながら歴史に名を馳せた偉人達の演説のごとく、圧倒的な求心力を纏ってその場にいる全ての者の胸を打っている。
『あなた達には無限の可能性があります。わたくしが、そして来禅学園高等部が、その輝く未来を開花させる道標となることを、約束しますわ』
見た目は幼さ全開だが、発せられる言葉には何の嫌味も無く。立ち姿一つ取っても、その凛とした華やかさに魅了される。
『では、最後に昨年度の卒業生であり、今年度からは用務員として勤務なさる天道勇さんからのお言葉を頂きたいと思います。それでは天道さん、壇上までどうぞ』
神堂の紹介に歓声と拍手が上がった。良くも悪くも来禅はノリがいいことで有名である。行事一つを取ってもここまでやるか?と言われるくらいの熱の入れようなのだ。だから、こういったサプライズは大歓迎なのだろう。
正直目立つのは嫌いなので勘弁してもらいたいのだが、ここまで来たらやるしかあるまい。
壇上まで上がると、神堂がマイクを渡してくれたので受け取り、彼女が下がるのを確認すると、正面の新入生へと向き合う。
「どうも。紹介に預かった天道勇だ。いきなりだが、お前達夢はあるか?まだ見つかっていない奴はこれから探してみろ。さっきの各部活のオリエンテーションにあった様に、この学校には色んな部活がある。一般的な部活は勿論、ギネスを目指す部、アイドルを愛でる部、果てはツチノコを探す部に女装部なんてのもある。在学時、女装部にはよくスカウトされたが、これはどうでもいいな。このように、普通の学校なら認められないであろう部活でも、条件さえみたせればOKなのがこの学校だ。さっき神堂が言ったように、この学校はお前達の夢を応援してくれる素晴らしい学校だと俺は思っている。仮入部期間も三ヶ月と長くあるし、一日でもいいから体験してみるといい、意外と思わぬ出会いがあるかもしれんぞ。ちなみに俺は家庭の事情もあって、部活には入らず助っ人的なことをやっていた。まあ、こうは言ったが、ここで無理に夢を見つけろとは言わん。三年間の中で見つけられない奴だって当然いる。それでも構わん!だが、この学校で過ごす日々を無駄にするな!ここで学んだことを糧に、未来へ羽ばたける様になってもらいたい!最後に俺は死ぬ時も笑っていたいと考えている、「ああ、いい人生だったな」と後悔の無い人生を歩める様に日々を生きている、お前達も一度しかない人生なんだ、どうせなら笑って過ごせ!以上!」
言い終えるのと同時に、体育館中から拍手喝采の嵐が巻き起こった。中には泣いている奴までおるがな…。
そんなこんなで入学式は幕を閉じるのであった。
入学式の後、神堂から「素晴らしいスピーチでした!やはり天道さんにお願いして正解でしたわ!」と感動しながら褒めてくれた。正直勢いで言ったのだが、役に立って何よりだ。
てなこんだで時間が経ち昼となったので、昼食のために食堂に来ていた。
この食堂は、来禅を始め”IS学園”や”私立リディアン音楽院”と言った周辺の学校が共同で使用するため異様に広い。
買った食券を厨房の人に渡し、料理ができるまで待っているのだが、困ったことになっていた…。
「あのさ、アミタ」
「ふぁい?」
「そろそろ泣き止んでくれません?」
目の前でアミタが号泣しているのだ。
働かざる者食うべからずってことで、この食堂で働くことになったそうだが、どうしてこうなった?
「らって…勇君の話が素晴らしくって…グスン」
「…もう見たんスね。つか、そんな感動すること?」
あのスピーチをPR用に、来禅学園高等部のホームページに動画として載せて欲しいって、お願いされたんよ。
嫌だったんだけど、神堂がどうしてもって言うんで仕方なくOKしたのよ。つーか、仕事早いなぁ。
「にしても…」
「ど、どうしたんですか?私のことじっと見て…」
「いや、割烹着も似合ってるなぁって」
そう、今アミタが着ているのは、日本の古きよき伝統ある衣装である割烹着である。しっかり者のアミタにはよく似合っていた。
「そ、そうでしょうか?変じゃありませんかね?」
「そんなことないって。掛け値なしによく似合ってるよ。あ、本当にとかって意味ね」
「あ、ありがとうございます!」
自身がなかったのか、凄く嬉しそうにはにかむアミタ。
「アミタちゃーん、こっちは大丈夫だからそろそろ休憩入りな」
「え?ですが…」
「いいからいいから、チャンスを逃しちゃだめよ」
厨房のおばさま方が俺を見てニヤニヤなされている。恥ずかしいんで、やめて頂けませんかね?
「はあ?」
そしてよく分かっていないアミタは首を傾げていた。
その後、アミタと食べていると、待ち合わせていた一夏が一人の少女を連れてやって来た。
「久ぶりだね箒。6年ぶりくらいかな?元気そうで安心したよ」
「はい、お久しぶりです、勇さんもお元気そうですね」
「ははは、それくらいしか取り柄がないからね」
礼儀正しく頭を下げている少女の名は篠ノ之箒。一夏の幼馴染で彼女の実家が剣術道場で武術を教えており、その門下生となったことが縁で知り合ったのだ。
そして、ISの開発者であるあのクサレ兎こと篠ノ之束の実妹でもある。本当に血が繋がってんのかってくらい似てないが。
ISの力を世に知らしめた”白騎士事件”以降、開発者のクサレ兎は様々な奴らから狙われる様になった。その危険は家族である両親や祖父母に妹の箒にまで及び、6年前に日本政府が重要人物保護プログラムとして、箒を含む家族はバラバラに暮らすこととなり、どこかへと引っ越してしまった。
それからは一切の連絡も取れなくなり、互いにどうしているのかを伝えることもできずに、6年という歳月が過ぎてしまった。
「で、彼女はアミティエ・フローリアン。父さんの知り合いの子でね、暫く
「初めまして篠ノ之さん。私のことは気軽にアミタって呼んで下さい」
「分かりましたアミタさん。私のことは箒と呼んで下さい」
互いに礼儀正しく挨拶しているアミタと箒。二人共真面目な性格をしているので、会社員が名刺交換している場面を連想してしまったよ。
一般人である箒にはアミタの本当のことは話せないので、事前に決めていた設定で誤魔化すしかないのだ。
「にしても箒がIS学園に入ってたなんて驚いたよ。あんまりISのこと好きじゃなさそうだったのに」
「お前と同じ理由でしょ、別に好きでいるんじゃないんだろう?」
行方不明のクサレ兎は昔から箒を可愛がっており、奴をおびき出すための餌として世界中から狙われているので、安全のために強制的に入学させられたのだろう。
最も当の箒はクサレ兎の考えが理解しきれず、「何を考えてるのか分からない不気味な人」って言ってたし、ISのことも今までの生活を壊す厄介な物として嫌っていたが。
「ええ、でも今はよかったと思っています。こうして一夏や勇さんとまた会えたので」
「そうだな。俺も箒に会えて嬉しいよ」
「う、うむ!そうだな私も嬉しいぞ!」
そう言って笑い合う一夏と箒。いいねぇ青春だねぇ。よーしお兄さんも頑張って応援しちゃうぞぉ。
「にしても箒がいるって知ってたんなら、教えてくれてもよかったじゃん勇兄」
「しゃあねぇべ。俺も箒のこと知ったのは入隊した先週だったし、最重要秘密事項だったから言えなかったんだよ」
実を言うと箒のことについては、入隊した後父さんから聞かされていたのだ。だが、情報漏えいの危険があったので入学までは一夏には言うなと命令されていたので話せなかったんだな。
「おーい!にーちゃーん!」
「む、ユウキか」
我が妹の声がした方を向くと、ユウキが料理が乗ったお盆を持って、小走りで向かった来ていた。一ヶ月ぶりだが元気そうでなによりである。
「ひっさしっぶりー!アミタさんもー!って、あれ?箒?」
「そうだ。久しぶりだなユウキ」
「わ、わ、、わ!兄ちゃん、箒だよ!箒!」
「わーてるから落ち着け」
突然の親友との再会に興奮して、物凄い速度で肩を連打してくるユウキ。痛いです。
「久しぶり!元気にしてた?ボクは元気だったよ!今までどうしてたの?剣道は続けてる?あ、箒は和風セットにしたんだね!日本人ならやっぱり和食だよね!でも、たまには洋食もいいよねってことで、ボクは洋食セットにしたんだ!」
「ああ、元気にしていたぞ。お前と別れてからは名前を変えて各地を転々としていたよ。剣道は無論続けている。私はやはり和食が好きだからな。だが、洋食セットも美味しそうだな、おかず交換っこしないか?」
ユウキの奴は興奮すると、早口で捲し上げる様に話すのが難点と言えるが、不思議とそこまで不快になることが無いってのがこいつの魅力なのだろう。
箒も付き合いが長いこともあって、質問攻めの嵐を慣れた感じで捌いていた。
「あ、一夏いたんだ」
「いたよ!?」
そして存在を認識されていなかった一夏。哀れ。
「それにしても箒美人になったね!胸もおっきくなってるし!」
「な!?」
「おい、馬鹿もん」
堂々とセクハラ発言をかますド阿呆の頭を引っぱたく。
「いたーい!叩かれたー!」
「たりまえじゃいド阿呆!同性でもセクハラは適用されんだよ!」
「ぶー兄ちゃんだってそう思ったくせに!ね、一夏!」
「え、いやまあなぎゃああああああああああ目があああああああああああ!?」
ユウキの言葉に、思わず頷いてしまった一夏の目に箒の指が突き刺さった。
「お、お前という奴はそんな目で私を見ていたのか!」
「仕方ないよ箒!男はねそういう生き物なんだよ!ね、兄ちゃん!」
「うるさい。こっちに話を振るな」
期待の眼差しでこっち見んな。
「ねーどうしたらそんなに育つか教えてよー。そしたら兄ちゃん悩殺するからー」
「そう言われてもな。特に何もしていないんだが…」
「安心しろ、例えそうなってもお前じゃ無理だから」
「どういう意味だよそれ!?」
「妹じゃ発情しねーってことだよ。言わせんな面倒臭い」
どう頑張ってもお前は恋愛対象にならんからな。
「なぜ!?合法だというのに!」
「社会的にアウトだっつーの」
「そんなもん糞くらええええええええええああああああああああ顔があああああああああああ!?」
流石に鬱陶しくなってきたのでアイアンクローで黙らせる。そして、一夏を正座させて説教している箒に、どうしたらいいのか分からずオロオロしているアミタ。うむ、実にカオスである。
「兄貴お待たせって何だこの状況…?」
「お、お前はプロローグ以来の登場のキリト!」
「呼び出しておいてその言い草はなんだよ!?」
ユウキと戯れていると我ら三兄弟の次男キリトが、同じSAO学科所属である結城明日奈と篠崎里香に綾野珪子、そして義妹であり今日めでたく高等部に入学した桐ヶ谷直葉を連れてやって来た。
ちなみに明日菜はキリトの恋人である。まさか、我ら三兄弟一のコミュ障であったキリトが先に恋人を作るとは思わなんだ。それだけSAOの中で成長したってことで嬉しいがね。
SAO学科――
SAO事件当時高校生以下だった者達を支援するために、政府からの要請で来禅学園に設置された学科である。
「何だって、楽しい昼食の光景ではないか」
「普通は説教されながらとか、ましてアイアンクローかましたりしないから」
「俺らなんて昔からこんなもんだろう?」
「確かにそうだけど…」
いい加減自重すべきだと思うんだけど…とかキリトがぼやく。だが、断る!人生楽しんでなんぼじゃい!
出会った頃から俺がボケて一夏が天然かましキリトがツッコム、てのが俺達三兄弟のスタンスなのだ。多分これから大人になってもこのままなんだろうと俺は思う。
「箒!久しぶりだね!」
「ああ、直葉も元気そうで安心したよ」
6年ぶりの再会を喜び合う箒と直葉。俺、キリト、一夏にユウキ、直葉、箒の6人は剣道が縁で知り合い、子供頃は箒が引っ越してしまうまではよく一緒に遊んだものだ。
「明日菜達もよく来てくれたね。うちのキリトがいつもお世話になってるね」
「いえ、こちらこそ勇さんにはいつもお世話になってますので」
そう言って頭を下げる明日菜。彼女はSAO事件解決後、須郷伸之という男の手によって
キリトの頑張りによって、事件は解決され須郷も逮捕されたけどね。ちねみに俺と一夏も手伝った。
今年に入っては、母親との仲で悩んでたみたいなので、愚痴を聞いてあげたぐらいしかしてないけどね。
「それはいいですけど、ユウキが大分弱ってますよ勇さん」
「ん?」
里香の言葉に掴んでいたユウキを見ると、ぐったりとしていた。あ、いかんいかん話すのに夢中になっていて忘れてたわ。
手を話してやると力なく横たわるユウキ。すぐに復活するから問題ないが。
「だ、大丈夫ユウキ?」
「傷は浅いぞ!しっかりしろ!」
「うっぅぅ…」
心配して駆け寄る直葉と箒に、何か唸っているユウキ。
「どうしてなんだ?」
「ユウキ?」
「どうして二人共そんなに胸が大きいんだよおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「ええ!?」」
ユウキのしょうもない叫びに困惑する箒と直葉。どうでもいいが、さっきからうっせーぞ。
「何でボクだけ平らなんだよおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
知らん。血の涙を流すな怖いわ。
「え、えーと」
「どんまい」
「同情するなら胸をくれ!」
無理言うな。後、胸を連呼するなはしたない。
「いい加減にしろ。お前が騒ぎ過ぎて周りの視線が痛いんだよ」
「男には分かるまいこの悲しみが!ね、珪子!」
「え、あっうん」
失礼ながらユウキ側である珪子が巻き込まれた。すまない後でシメておくから。
「あんたそこまで必死にならなくても…」
「里香はまだある方だからいいだろ!?ボク達には夢も希望も無いんだよ!
「色々と怒られるからやめろ!山じゃなくて平野が好きな人だっているぞ!」
何も大きければいいってものではないぞ!
「なら、兄ちゃんはボクを愛せるの!?」
「兄妹としてなら」
「ちくしょおおおおおおおおおお!」
テーブルをドンッと叩いて泣き出すユウキ。おい、カレーのルーが跳ねたじゃねーか。
「やっぱり、アミタさんみたいなビッグバンがいいんだな!」
「ふぇええええええええええ!?」
突然の強襲にワタワタと慌て出すアミタ。
「わ、私そんなにありませんよ!」
「いや、着痩せするタイプと見た!間違いない!}
その自信はどこからくる?そして、アミタはなぜか俺のことをチラチラと見てるの?
「えっとい、勇君は大きい方が好きなんですか?」
モジモジしながら上目遣いで聞いてくるアミタ。やばい可愛い…。
「ん、ん~とまあ、大きい方が好きかな?」
な、何かアミタに言うと凄い恥ずかしいな。
そして皆しておお~とか言うのやめてくれない?それとユウキは泣くな。
「あ、あぅぅぅ」
顔を真っ赤にして俯くアミタさん。でも、なんだか嬉しそうである。
「よかったな兄貴」
「何が?なんでニヤニヤしてんの初めて会った時人の輪に入れず、道場の隅っこで一人寂しく素振りしていたぼっちリト君」
「やめろおおおおおおおおおおおおお!」
無性に腹が立ったので、こいつの黒歴史を暴露してやったら、頭を抱えて悶絶しだした。
「え、マジで?」
「ええ、まあ…」
里香が妹の直葉に確認すると、気まずそうに目を逸らすのだった。
「キリト君…」
「やめてくれアスナ!そんな悲しそうな目で見ないでくれ!」
己の恋人に止めを刺されたキリト。ふ、馬鹿め。俺を敵に回すからこうなるのだよ。
「そういや勇兄って、最後におねしょしたの小5くらいだったよね」
「一夏貴様ァ!!!」
こいつ俺の最も恥ずかしきことをあっさりバラしやがった!?
「そうなんですかユウキ?」
「プッそうだよアミタさん。そのことを必死に隠そうとしててさ、バレバレなのにくくっ」
「ユウキィ!!!」
ヤメロォ!ヤメテクレェ!オデノココロハボドボドダ!
「いいだろう一夏ァ!貴様の黒歴史も暴露してくれるわ!」
「待ってくれ勇兄!それって結局互いに暴露しあって、共倒れになるからやめようよ!」
「もう遅い!恨むなら己の口の軽さを恨むがいい!」
さあ、ハルマゲドンを始めようではないか!こうなりゃヤケじゃあ――
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――
「ぬ!?」
警報!?しかもこのパターンは空間震か!
「キリト!皆を連れてシェルターに避難しろ!俺はちょっくら行ってくる!」
「分かった!」
この場で俺の次に年長の男であるキリトに一夏達を任せる。さあ、お仕事の時間だ!
「勇君!」
「どうしたアミタ?」
外へと駆け出そうとしたらアミタに呼び止められた。
振り向くと、不安そうな顔で祈る様に両手を合わせていた。
「どうか、お気をつけて」
搾り出すようにたった一言だが、俺のことを本当に案じてくれているのを感じられた。
「ああ、行ってくる!」
彼女の不安を吹き飛ばせる様にと、笑いながらサムズアップしながら答え、戦いの場へと駆け出したのだった。