『それで、民間人は救助できたんだな?』
「ええ。ですが機体が損傷したので、一旦補給部隊と合流します」
『分かった。補給が終わり次第前線に戻ってきてくれ』
「了解です」
民間人を救助した後、そのことを風鳴司令に報告し、近場の補給所を目指していた。
先程プリンセスの攻撃を受けた際に、左腕に新しく装備した武装のサークル・ザンバーが破損し、機体にもダメージを負ってしまった。それに手持ち火器であるショットガンも離脱するために失っている。
このままだと足でまといにしかならないので、態勢を立て直さななければ。
「にしても同じことが二度も起きるとわな…」
前回の出撃の時も避難していなかった女の子を救助したし、二度あることは三度あるとかはマジで勘弁してもらいたい。
「できれば彼の妹も探してやりたいが…」
先程救助した少年は、避難していない妹を探していたと言っていた。そのことも報告しておいたが、既に周囲ではノイズとPT隊による戦闘が発生しているし、最悪の事態も起こりうるな。
「ん?」
レーダーがこちらに接近してくる反応を捉えた。ってこれは…!?
本能的にその場から飛び退くと、俺の居た場所が空から降ってきた影によってクレーターとなった。
「プリンセスッ!」
降ってきた影は振り切った筈のプリンセスだった。
プリンセスは振り下ろしていた大剣を構えなおすと、こちらへと切っ先を向けてくる。その目はまるで俺を恐れているかの様だった。それだけの力を持ちながら何を恐れている?
にしても奴の索敵能力を甘く見たか?レーダーの動きを見た限り、進路上に俺がいたから襲いかかって来たって感じだったが、何かに引き寄せられていたとでも言うのか?
「どうであれ。最悪だなくそったれ!」
残った武装はバルカンとビームサーベルだけだな、左手首のチャクラムは装甲が歪んで使えんか。
両手それぞれにサーベルを構えるが、このままじゃやられる。援軍を要請するために機動部二課へ通信を送る。
「こちら天道。プリンセスと接敵!救援を要請する!」
『何!?振り切った筈ではないのか!?』
「と思ったんですが、見通しが甘かった様です」
『すぐにそちらにASTを向かわせる、それまで持ちこたえてくれ!』
「頼みます!」
通信を終えるのと同時にプリンセスが剣を上段から振ると、斬撃が衝撃波となって飛んできた。飛ぶ斬撃ってありかよ!?
斬撃を横に軽く跳んで避けると、プリンセスが目の前で剣を下段から振り上げようとしていた。動きが速すぎんだろッ!?
「ぐぉぉ!」
スラスターを全開にし強引に身体を捻ると、紙一重の所を刃が通り過ぎていった。
捻った勢いのまま回転しながらサーベルを振るうも身を屈めて回避され、振るった腕を掴まれ投げ飛ばされると瓦礫に叩きつけられる。
「が、ふッ!」
肺の中の空気が吐き出され、意識が飛びかけるも何とか繋ぎ留めるが、身動が思う様に動かせない。
プリンセスが剣を掲げると、刀身が輝きだす。
止めを刺す気か、たくっそんな悲しそうな顔すんなよ。やりずらいたらありゃしねぇよ…。
剣が振るわれる瞬間、何かに気がついたのか剣を楯にする様に構えた。すると急降下してきた折紙のレーザーランスとぶつかり合った。
僅かな間だけ拮抗していたが、すぐに折紙が押し返され始める。それを悟った折紙が後退すると、俺の側で着地した。
『無事?』
「ああ、助かった」
折紙がプリンセスを抑えてくれている間に、ある程度身体が動く様になったが、機体が動かねぇ!
『動けるなら離脱を』
「そうしたいが、機体が動かん!」
くそっ、さっきの一撃でシステムがダウンしちまった!機体のダメージレベルも限界寸前だ!あちこち火花散ってやがる!
どうしたもんかと考えているとエンジン音が響いてきた。あれは、風鳴か!
シンフォギアシステム”天羽々斬”を纏い、バイクに乗った風鳴がこちらへと向かって来ていた。
風鳴はバイクから飛び上がると、無数の剣を召喚しプリンセスへと放った。すげーな、シンフォギアってあんなことまでできんのか。
だが、その攻撃もプリンセスが剣を振るうと衝撃波で弾かれた。
自信があったのか渋い顔をして着地する風鳴。
すると今度は空から飛来したレーザーがプリンセスに直撃する。これは完全に防げなかった様で苦悶の表情を浮かべていた。
「オルコットか!」
空を見ると、イギリス製第三世代IS”ブルー・ティアーズ”を纏ったオルコットが、大型レーザーライフル”スターライトmkIII”を構えていた。
『踊りなさい、ブルー・ティアーズ!』
ブルー・ティアーズのスカート部分に装着されている、遠隔無線誘導型兵装ビットをプリンセスの周囲に展開した。
ビットがプリンセスを中心に、複雑な機動を描きながらビームでプリンセスを牽制し、そこをライフルで狙撃しているオルコット。
流石にこれには防御に徹しているプリンセス。着実にダメージは与えているが、しかし――
「あれじゃ風鳴が踏み込めんだろ!?」
弾幕の張り過ぎで近接型の風鳴が近づけないでいる。明らかに自分1人で片付ける気だあいつ。
業を煮やした風鳴が強引に踏み込む。ビームを避けながら刀を振るうが、満足な体勢ではない攻撃など通用する筈もなく、軽々とあしらわれている。
『邪魔をするな!』
『そちらこそ!』
連携のれの字も無いのかあいつらは!?互いに相手の長所を潰しあってやがる!
『翼!オルコット君も落ち着け!互いに協力して戦うんだ!』
風鳴指令が二人を止めようとするが、そのまま戦い続ける風鳴とオルコット。こいつら、まるで聞く耳を持っちゃいねぇ!
『あーらら。完全に意地張っちゃてるわねぇ』
いや、そんな呑気に言ってる場合じゃないですよ了子さん!?
『私が行く』
この状況に見かねた折紙が参戦しようとするのを慌てて止めた。
「待て!今行っても碌なことにならん!下手したら味方に撃たれるぞ!」
『でも…』
「せめて隊長達と合流してからにしろ――』
『こちら燎子!ごめんノイズに捕まった!そっちに行けそうにない!』
望みは完全に断たれたあああああああ!!支援特化で重武装だったのが裏目に出たか!?そう言や隊長と了子さんって同じりょうこだね。いやいや現実逃避してる場合じゃねぇ!
「動け!動いてくれMK-Ⅱ!」
MK-Ⅱを動かそうとするも、再起動までの時間が必要だった。どうする?どうする!?このままじゃ完全にお荷物だぞ俺!
『ぐあッ!?』
そうこうしている内に風鳴が吹き飛ばされ、プリンセスがビットに向けて手をかざして握りつぶすと触れてもいないのにビットがひしゃげて爆散していった。
オルコットが反撃でライフルを放つも、大剣で軌道を逸らされ背後の瓦礫を撃ち抜いただけだった。
『わあぁ!?』
撃ち抜かれて崩れようとしている瓦礫の方から悲鳴が聞こえてきた。って悲鳴?俺達以外の奴がいる筈ないのに?
よく見てみると瓦礫の下に先程救助した少年がいたのだった。いや、何でやねん!?!?
『ッ…!』
危うく瓦礫の下敷きになりかけた少年を折紙が抱えて救助した。ナイス!マジナイス!
『五河士道?』
折紙が怪訝そうな声を漏らした。五河士道って確かあいつの命の恩人の名前だったな。あの少年がそうなのか?
「うし、立ち上がった!」
再起動が終わりシステムが復帰したので、機体を起き上がらせる。
メインブースターはイカレてるが、スラスターは半分は生きてるな。サーベルは一本になったがやるしかねぇ!
「折紙協力してくれ奴をここで仕留める」
『そんな状態で?』
「民間人置いて逃げる訳にもいかんだろう?策ならある」
こうなったら、奥の手を使わせてもらう!
『…それは策とは言わない。ただの博打、危険過ぎる』
作戦を伝えると案の定反対された。まあ、普通なら考えんわなこんなこと。
「俺は死なん、信じろ」
そう言うと返事を待たずにプリンセス目掛けて駆け出す。そろそろ戦っている二人も限界だろう。
風鳴は至るところ傷だらけだし、オルコットはビットが全て破壊され機体のエネルギーが尽きかけている。ここであの二人に倒れられる訳にいかんのだよ!
バルカンでプリンセスを牽制すると、サーベルを振り下ろす。
『――ぬ』
こちらに注意が向いたプリンセスが手にしている剣で受け止めてくる。
そのまま打ち合いながら風鳴らへ通信を送る。
「退れ。後は俺達がやる」
『何を。お前の指図は受けん!』
「お前らに死なれると困るんだよ!」
お前らはこれからの戦いに必要になるからな。さて、いくぜぇ!
あえて鍔迫り合いに持ち込み、サーベルを弾かせる。
俺が無防備になったと判断したプリンセスが剣を上段から振り下ろした。
「そこだぁ!!」
意識を極限まで集中させると、迫る刃が徐々に止まって見える様になっていく。
そしてタイミングを合わせて、両手で受け止めた。
『――なっ!?』
プリンセスが驚愕の声を上げる。こんなことをされるとは夢にも思わなかったのだろう。
『白羽取り、だと!?』
驚愕したのは敵だけだはなかった。風鳴が唖然とした様に声を漏らした。
「今だ折紙ィ!!!」
合図を送ると、折紙がランスを構えてプリンセスへと突撃した。
反応が遅れ無防備となったプリンセスに折紙がランスを突き立てようとした瞬間――
「やめてくれええええええええ!」
突如響いた少年の声に折紙の動きが止まってしまった。
『――五河士道?』
折紙が困惑した顔で声のした方を向く。
少年は、自分がどうしてそうしたのか分かっていない様な顔をしていた。
『――はっ!』
プリンセスが地面を力強く踏みつけると、クレーターが出来るほどの衝撃波によって、折紙らもろとも吹き飛ばされた。本日何度目だよ…。
そしてこれまた何度目になる瓦礫ダイブっとなった。勘弁して下さい…。
「ぐぉぉ」
まともに動けなくなった機体を気合で動かし、瓦礫から這い出る。他の皆も瓦礫から出てきていた。
プリンセスはいない、逃げられたか…。
「あの少年は?」
辺りを見回すが、少年の姿が確認できなかった。レーダーにも反応が無い、まるで瞬間移動でもしたかの様だ。
「どうなってやがるんだ?」
彼はどこに行ってしまったんだ?そして、なぜあの時プリンセスを助けたのか。そんな謎を残したまま戦いは終わったのだった。