『我らは諸君らに危害を加えるつもりは無い!ただ、各々持つ
竜の様な見た目の怪物が、偉そうに演説しているのを士道は唖然と見ている側で、勇はスマフォを操作しており、折紙はスマフォでどこかと連絡を取っていた。
「こちらの通信設備のジャックもしているみたいだねぇ。多分世界規模で流れてるんじゃないかな?」
勇がスマフォの画面を士道らに見せるとワンセグが起動されており、それにも怪物の演説が流れていた。
『ふはは、我が名はタトルギルディ!ドラグギルディ様のおっしゃる通り、抵抗は無駄である!綺羅星と光る青春の輝き…
竜の怪人ドラグギルディと交代する様に現れた亀の怪人がふんぞり返る。
すると、いかにも特撮に出そうな戦闘員風の格好をした者が、申し訳なさそうにタトルギルディに近づき、耳打ちした。
『…なにい、この世界では今は殆ど存在せぬだと!おのれ愚かな人類よ、自ら滅びの道を歩むかあああああああああ!!』
タトルギルディが絶叫すると映像が途切れ、いつもの空へと戻った。
「あれが、エレメリアン?」
エレメリアンとアルティメギルの存在は、朝には世界中に公表されていたが、実際に目の当たりにした士道は色々な意味で驚愕していた。
あんな変態じみたことを言う連中が、危険な存在なのか信じられないのだ。
「別に放っておいてもいいんじゃないかって思うかい?」
「え!?いや、その…」
勇に図星を突かれた士道は、不謹慎なことを考えたことを咎められると口ごもってしまった。
「ま、普通はそう考えるよね」
だが、勇は特に怒る訳でもなく、グランドが見下ろせる位置まで歩き出した。
グランドには部活動に励む生徒らが、先程の放送に騒然となっていた。
「君は彼らが何であんな風に部活に励んでいると思う?」
「それは…楽しいからとか、やりがいがあるからじゃないですか?」
「そうだね。じゃあ、もしそれが無くなったらどうなるかな?」
「どうって…」
勇の言いたいことが分からず首を傾げる士道。
「エレメリアンは人間の愛情や執着、簡単に言えば心を奪うのさ」
「でも、エレメリアンは命までは奪わないんですよね?」
エレメリアンが、人間の属性力と言うのを奪っていくという話を聞いたが、それがどんなことになるのか士道はいまいち理解していなかった。
それにエレメリアンは基本属性力を奪うだけで、下手に抵抗しなければそれ以上の危害を加えないと聞いていた。
「そうだね。だけど、もし彼らが野球やサッカーと言ったスポーツの属性力を持っていたとして、それが奪われれば、それらに注ぎ込んでいた情熱を失うのさ。そうなった人は、何に打ち込むこともなくただ生きることしかしなくなる。まるで機械みたいにね。それって生きているって言うのかな?」
「!?」
ようやく勇の言いたいことが理解できた士道の体に衝撃が走った。
つまりエレメリアンは人間の心を殺すのだ。例え肉体が生きていたとしても、それを支える心が死ねば死体も同然と勇は言いたいのだ。
「目に見えた被害が出にくい分、誰もがその驚異に気が付きにくい。君みたいに楽観視した多くの世界が、奴らの犠牲になったそうだよ」
「……」
「何事も見た目や言動だけで判断しない方がいい。まあ、難しいだろうけどね…」
何も言えない士道にそう言って肩を竦める勇。すると、今までどこかと連絡を取っていた折紙が勇に歩み寄った。
「リディアン音楽院にアルティメギルが出現したので、急行するようにと」
「早速来たか。折紙は彼を避難させてから来てくれ。俺は先行する」
「分かった」
勇と折紙が話している間に避難警報が鳴り出し、折紙が士道の手を取る。
「避難を」
「え?あ、ああ」
連れて来られた時の様に、引っ張られながら階段を下りていく士道を見送ると、勇も校舎の外を目指して階段を下りていった。
来禅学園に近い道路に二人の少年と少女がいた。
少年の名は観束総二。来禅学園高等部に通う一年生である。
「あいつら、本当に地球丸ごと侵略するつもりなのか!!」
先程までアルティメギルの演説が行われていた空を見上げながら、表情を険しくしている総二。
「あんなことができるなんて、トゥアールが言っていた通りただの変態集団じゃないのね」
総二の隣にいた幼馴染の少女津辺愛香が、まるで得心がいったと言った様な顔で呟いていた。
不意に総二のポケットの入っている携帯が鳴り出した。
『総二様、今のご覧になりましたか!?』
総二を様付で呼ぶ少女の名はトゥアール。とある理由で、現在総二の家に居候の身である。
彼女の話では来禅のすぐ側にあるリディアン音楽院――未だブルマ採用――がアルティメギルに襲撃されているとのことだ。
通信を終え持っていたカバンを愛香に預けると、何かを躊躇うかの様に自身の左腕を見る総二。そしてそれを振り払うかの様に左腕を構えた。
「…テ、テイルオン」
恥ずかしさの残る声で謎のワードを口にすると、総二の左腕に特撮に見られる形のブレスが現れた。
ブレスから発せられる炎の様な輝きが総二の身体を包んだ。
輝きが収まると、総二の体は幼女としか言えない身体に、メカニカルな武装が施されたスク水の様なスーツを身に纏い、髪は地面に着きそうな程の長さのツインテールへとなっていた。
そう。彼こそが、先日現れたアルティメギルを撃退した属性力を動力としたパワードスーツ”テイルギア”の戦士”テイルレッド”なのだ。
なぜ彼がその力を手にしたのかと言えば、先日突然総二達の目の前に現れた少女トゥアールに渡されたのである。
彼女の話ではテイルギアを起動させるには、その世界で最も強いツインテール属性を持つ者だけなのだそうだ。そしてこの世界でその資格を持つのが総二だったのだ。
なんと彼は、男でありながら幼い頃からツインテールが大好きという、一風変わった性癖を持っていたのだ。
最初は話について行けない総二だったが、トゥアールに連れて来られた天宮市スクエアでアルティメギルの存在を目の当たりとした。
そこでアルティメギルの所業を知った総二は、愛するツインテールを守るために戦うことを決意したのだった。
ちなみになぜ幼女の姿になるのかと言えば、ギアの開発者であるトゥアールの趣味だそうである。
「よし、行くぞ!」
「頑張ってね、総二!」
愛香の声援を背に駆け出すテイルレッド。ちなみにテイルレッドになった際、声も幼女特有の幼いものになっている。
ギアによって強化された身体能力を活かし、建物の屋上を飛び移りながら、リディアン音楽院を目指す。
陽の光を浴びて淡く輝くツインテールを揺らしながら、戦士が
リディアン音楽院は主に音楽に力を入れたカリキュラムで有名だが、生徒の自主性を重んじて運動部系の活動も行われている。
放課後となったリディアンの校庭では、運動部に所属している生徒らが集まっていたが、その中に異形の集団が混じっていた。
「ふぁはははははは!!我が名はタトルギルディ綺羅星と光る青春の輝き…
先程の放送に出ていた亀型の怪人が、放送の時と同じ様なことを口走っていた。
「素晴らしい!青春のために流された汗!それが
常人には理解しがたいことを熱弁しながら、鼻息を荒くし拳を握り締めるタトルギルディ。その周りでは、戦闘員であるアルティロイドが、属性力を奪うための機械の輪っかを手早く準備していた。
色々な意味で恐怖する生徒らを、一列に並ばせるようにタトルギルディが指示しようとした時、何者かの声がそれを止めた。
「む!?何者だ!!」
タトルギルディが声のした方を向くと、一人の女子生徒が立っていた。その表情は怯えを含ませながらも、どこか力強さを感じさせた。
「わ、私が何でもします!だから他の人には手を出さないで下さい!」
「ほう…」
立ち向かって来た少女。立花響の言葉にタトルギルディの目が妖しく輝く。
「響!?」
響の名を呼びながら、一人の少女が慌てた様子で駆け寄って来た。響の幼馴染である小日向未来という名の少女である。
「未来!?どうして追いかけて来たのさ!?」
「どうしてじゃないわよ!また勝手に一人で突っ走って!!」
「でも、そうでもしなきゃ皆が…」
「でも、じゃない!響はもっと自分を大切にしなきゃだめよ!」
何やら言い合いを始めてしまった二人に、一瞬面食らってしまったタトルギルディだが、すぐに気を取り直してわざとらしく咳をした。
「そこの娘よ!先程何でもするといったのは確かだな!」
「はい!私でよければ!」
「響!!」
響を止めようとする未来の声を遮る様に、タトルギルディが指を鳴らした。
するとアルティロイド達がある物を運んできた。衣服屋に置いてある試着室である。
「ならば、この
そう宣言したタトルギルディが、どこからともなく取り出したのは、一着の
見た感じどこにでもありそうな物だが、タトルギルディが数ある微妙に形の違う
「この
『(へ、変態だああああああああ!!!)』
先程より鼻息を荒くして熱弁するタトルギルディに、少女らの心が一つになった。
「分かりました。着ます!」
周りの少女らがドン引きする中、恐れを感じさせず迷いなく言い放つ響。躊躇いなく自分を差し出すその姿は、どこか異様とも言えた。
「ッ!?わ、私も、私も着ます!」
「ほほぅ…」
響だけを犠牲にできないと、未来が名乗り出るとタトルギルディが、値踏みするかの様に未来の身体を観察し始めた。特に太ももと言った脚ら辺を。
余りの気持ち悪さに泣きたくなるが必死に堪える未来。そして、タトルギルディの目が不気味に輝いた。
「その美脚…小娘!さてはお前、陸上部員だな!!」
「も、元…ですけど…」
未来は中学生だった昨年まで陸上部に所属していたのだ。
「よかろう!お前にはこれを着てもらおう!引き締められたその脚を引き立てるにはこれがベストだ!!」
そう言って、またもどこからともなく
「駄目だよ未来!未来までそんなことすること無いよ!」
「響だけ犠牲になればいいって言うの!?そんなの私は嫌!」
「ええい!早く着替えんか…む?何だ?音が…」
再び言い合いを始めようとしていた響らをせかそうとしたタトルギルディだが、不意に聞こえてきた音に辺りを見回し始めた。
「モケー!」
アルティロイドの一体がある方向を指差すと。何者かが歌を口ずさみながらゆっくりとした足取りで、タトルギルディらへと向かって来ていた。
ちなみにアルティロイドは言葉を話すことができない。どうでもいいが。
「テイルレッド、ではないな…。貴様何者だ!」
てっきり先日同胞であるリザドギルディを倒した赤き戦士かと思ったが、バイザーで顔は見えず、青を強調したスーツを身に纏い、まるで刃を思わせる雰囲気を纏った少女だった。
響はその姿に見覚えがあった。二年前、自分を助けてくれた女性が身に纏っていた物と酷似していたのだ。
「貴様の様な下衆の輩に名乗る名は持ち合わせていない」
「なんだと!?我が崇高なる
現れた少女――風鳴翼の言葉に、激しく激昂するタトルギルディ。
エレメリアンとは属性力が自我と肉体を持って生まれた存在。すなわち属性力が魂と言っても過言ではない。
自らの属性を愛することを侮辱されることは、存在を汚されるに等しいのである。
憤慨しているタトルギルディを尻目に勇が駆るヒュッケバインMK-Ⅱが翼の側に降り立った。
『よう、手を貸そうか風鳴?』
「不要。私一人で十分だ」
そう言って前へ歩み出る翼。翼の性格からして予想通りの返答であったし、彼女と相手の実力差なら一人でも問題ないと判断したので、勇はそれ以上は何も言わず邪魔にならない位置まで移動した。
「よかろう!貴様を打ち倒し
タトルギルディが翼へと突進してくる。二メートルはあろう巨体と亀の名を冠するだけあって、重厚である肉体を駆使して、翼を弾き飛ばそうとしているのだろう。
対する翼は表情を変えることなく、手にしていた刀を腰に据え鍔に手をかけると、腰を低くして居合の構えを取った。
「ひねり潰してくれるわぁ!!!」
「―――ッ!!!」
タトルギルディと接触する間際に、巨体をすり抜けながら抜刀した翼。
斬られたと思ったタトルギルディだが、身体には何の変化も起きていなかった。
自身の身体の強度は、エレメリアンの中でもかなりのものだと自負している。恐らく手にしていた刀では、切れ味が足りなかったのだろうとタトルギルディは考えた。
「ふ、ふふ。何だ、なまくら刀ではないか、そんな物では我が身体は――あれ?」
タトルギルディの言葉の途中で翼が刀を鞘に収めた。するとタトルギルディの視界が横にずれていく。
「…確かに貴様の身体は頑丈だろうが、
翼が言い終わるのと同時にタトルギルディの頭が地面に落ちた。
タトルギルディの身体で、最も脆く狙いやすい首を斬ったのだ。
「ば、馬鹿な…!せめてあの小娘らの
しょうもない断末魔を残して爆散したタトルギルディ。
「モ、モケー!?」
残されたアルティロイドらも、翼が睨みつけると蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。律儀に持ってきた試着室も回収していた。
そしてテイルレッドが現場に到着するも、既に事態は収束していたのだった。
「あ、あれ?アルティメギルは?」
『どうやら、そこにいる人達が倒してしまった様ですね…。テイルギア無しでエレメリアンを倒してしまうなんて、この世界の技術力はやはりおかしいです…』
通信機からトゥアールの困惑する声が聞こえてきた。
実は彼女は、アルティメギルによって侵略されてしまった別世界からやってきたのだ。
世界の仇を討つため。そして、アルティメギルの犠牲者をこれ以上増やさないために、自分の力でテイルギアを開発しこの世界へ渡ったのだ。
彼女の世界はこの世界よりも遥かに発達していたが、それでもアルティメギルに対抗できたのはテイルギアのみだった。
そんな彼女からしてみれば、テイルギアに匹敵する戦力を多数持っているこの世界は、歪に発展している様に見えるのだろう。
『とにかく。エレメリアンが倒されているのなら、国連軍と関わる前に早く退散しましょう総二様』
「でも、やっぱり軍の人と協力した方がいいんじゃないか?」
『駄目です。この世界の軍は信用できません。下手をすればテイルギアを取り上げられる可能性があります』
昨日、トゥアールからアルティメギルやテイルギアの説明を聞いた総二は、国連軍と協力すべきではと提案した。
しかし、トゥアールが独自に調べた所、軍のスポンサーの中でも最大級の規模を誇るDEM社を始めとする多くの企業が、裏ではテロリストと深く関わっていたり、非人道的な実験を行っているのだそうだ。
なので軍と関わりを持つと、テイルギアの技術を独占するために、理由をつけて取り上げようとしてきたり最悪、最強のツインテール属性を持つ総二が実験体にされてしまう危険性が高いので軍とは関わるべきではないと主張した。
総二はとてもではないが信じられなかったが、愛香もその意見に賛同したため軍とは距離を置き、独自に活動していくこととなったのだ。
まあ、男の自分が幼女に変身しているのがバレたくないと言う個人的な事情もあるのだが。
『ん?彼女が話にあった子か。俺が話かけてもいいか?』
一方の勇もテイルレッドの存在に気がついた。一応軍のデータと照合し一致した。
テイルレッドと接触した場合。事情を聞きたいので、基地まで同行してもらう様説得せよとの命令が出ている。この場合、勇か翼のどちらかになるのが、勇自身テイルレッドに興味があるので話してみたいらしい。
「任せる」
責任感の強い翼のことなので自分が向かうと言うと思っていたが、案外あっさりと身を引いた翼。
幼少より戦士としての鍛錬に明け暮れていたので、人付き合いが苦手だからとは口が裂けても言えない翼であった。
「あ、あの」
そんなことを話していると、響が遠慮がちに翼へと声をかけた。
「助けて下さって、本当にありがとうございます」
「…一つ忠告しておく」
響のお礼に応えることなく口を開く翼。
「え?」
「お前がしていることはただの蛮勇だ。今回は運がよかったが、ヘタをすれば死んでいてもおかしくは無かった」
「それは…」
翼の言葉に何も言えない響。実際彼女の言っていることは正しい。響の行動は自殺志願者と言える様なものであったのだから。
「力を持たない者が軽々しく戦場に…」
『そこまでだ。その子は
翼の言葉を勇が遮った。その口ぶりは響のことを知っているかの様であった。
「どういうことだ?」
『彼女は俺と似たところがあるんだよ。詳しくは後で話す』
そう言って勇が頭部のみを外し素顔を晒すと、響の目が驚愕に見開かれた。
実は1年前自分を助けてくれた恩人なのだ。響にとって勇は。
「勇さん!?」
「久しぶりだな立花。小日向も無事で何よりだ」
「は、はい。ありがとうございます」
そう言って安心した様に微笑む勇。未来も勇の予想外の登場に驚いているのか、返事がぎこちなくなってしまっていた。
こうして話会うのは1年前助けてもらった時以来であり、話したいことは色々とあったのに、緊張の余り上手く言葉にできなかった。
心臓が煩く聞こえるくらい高鳴り、身体が燃えているんじゃないかと思える程熱かったが、不思議と嫌ではなかった。
「悪いがやるべきことがあるのでまた後で、む?」
テイルレッドを説得しに行こうとした時、新たに警報が鳴り出したと同時に、特異災害対策機動部の弦十郎から通信が入る。
『聞こえるか翼、勇君!リディアン上空に転移反応だ!この波長はインスペクターだぞ!』
『了解、迎撃体制に入ります。風鳴は大丈夫か?』
瞬殺したとは言え、翼は先程エレメリアンと戦ったばかりなので念のため勇が確認する。
「当然だ」
舐めるなと言うかの様に、武器である刀を構え戦闘体制に入る翼。
それに頼もしさを感じながら、続くように勇も戦闘体制に入ると、歪んでいる空を見据えた。
原作だと描写も無く倒されたタトルギルディに出番をあげたら無駄に長くなってしまった。本当ならインスペクター戦まで収める予定だったのに。おかげで、初登場のテイルレッドが微妙な感じになってしまった…。
次回は活躍させますのでお許し下さい。