ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第二十七話

「♪~」

 

まだ日が昇ったばかりの時刻。俺は来禅学園高等部の正門前で、箒を手に散った桜の花びらやゴミを掃除していた。

分担しているとは言え、ここは敷地が広いので、掃除だけでも大変である。まあ、元々掃除は好きなので俺は苦にはならないが。

ちらほら登校してくる生徒に挨拶していると、見知った顔を見つけた。

 

「やあ、おはよう五河君」

「お、おはようございます。天道さん」

 

挨拶するとぎこちなく返された。どうにも彼には警戒されている気がするんだが、理由が思い当たらないんだけどな。

 

「大丈夫かい?何やらやつれているけど」

「だ、大丈夫です。お気になさらずに…」

 

ふらついた足取りで昇降口に向かっていく五河。大丈夫そうには見えないんだけどなぁ。まあ、深入りする気はないけどね。

 

「ん?折紙?」

 

正門の側にある電柱から視線を感じたので振り向くと、折紙が電柱の影からこちらを覗き込んでいた。

 

「…何してんの君?」

「五河士道を見守っていた」

「見守る???」

 

おかしい。どう見ても違うと俺の心が叫んでいるが、どうしてそう思ってしまうのかが分からなかった。決して現実から目をそらしている訳ではない。そらしてなんかいないぞ。

 

「一緒には登校しないのかい?」

「…恥ずかしい」

 

無表情なままだが、彼女なりに恥ずかしがっているのだろう。だからってスト…いや、恋する乙女が取る行動だよね、うん!

 

「そ、そっか。頑張ってね」

「頑張る」

 

右拳を握り締めながらそう言う折紙の目は、どことなく輝いている気がした。俺はもしかしたら、とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない…。

軽く見える足取りで昇降口へ向かっていく折紙の背中を、なんとも言えない気持ちで見送るしかできなかった。

 

「勇さん大丈夫ですか?」

「やあ、総二。俺はとんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない」

「え?」

 

俺に話しかけてきた男子の名は観束総二。俺が道場破りをしている時に偶然知り合ったのだ。俺は彼の一つの物を愛し続けるその強さに心打たれ、彼は自分を理解してくれる俺に親しみを持ち、仲良くなったのである。

彼は俺の問いかけの意味が分からず困惑してしまっていた。

 

「何言ってんのよあんたは…」

 

総二の隣で呆れた様な目で俺を見ているのは津辺愛香。総二の幼馴染である。

彼女の祖父が武術家であり、手合わせをお願いに伺った際、そこで総二と知り合い仲良くなったんだ。

そしたらいきなり彼女が襲いかかってきたので、仕方なく相手をしたのだ。そしたら驚くことに、いくら倒しても立ち上がってきたので、最終的には俺が逃走せざるを得ない事態となった。ゾンビみたいに立ち上がってくるあの姿は、恐怖としか言いようがなかった。

それ以来、出会うたびに勝負を挑んでくるので、適度に相手をして逃げるといったやり取りを繰り広げているのだ。いつもならこうして出会うと、臨戦態勢に入って威嚇してくる彼女だが、今日はやけに大人しいな。

 

「すまない。気にしないでくれ…。ところで総二」

「はい?」

「テイルレッドって知ってるかい?」

「え、ええ。毎日テレビに出てますからね…」

 

そう。テイルレッドはその容姿や、テレビのヒーローの様な戦い方から多くの人の心を掴み。登場して三日しか経っていないにも関わらず。瞬く間に、連日テレビて取り上げられる程の人気者となっているのだ。

この背景には、インスペクターとアルティメギルと言った侵略者の登場によって、不安を駆られた人々が突如登場したヒーローに過敏に反応しているのだろう。

さらに、テイルレッドが所属を明言していないので、報道に規制がかけにくいこともある。と言うより、様々な事態に有効な対策を打てていない政府や軍は、市民の不満の声を逸らすために敢えて規制しないのだろう。

 

「あの子のツインテールは、君的にはどうなんだい?」

「え、えーと。すごくいいと思いますよ」

「?食い付きが悪いね。いつもの君なら、もっと喜ぶのに」

 

テイルレッドの容姿とかではなく、髪型に焦点を当てたのは、彼がツインテールをこよなく愛する男だからである。

総二は物心ついた時からツインテールが大好きなのだそうだ。俺から見ても見事と言えるテイルレッドのツインテールに、彼ならば目を輝かせると思ったのだが、意外と反応が薄いな。

 

「そ、そんなことないですよ!あはははは!」

「汗が凄いんですけど…。どしたん?変だよ君」

 

滝の様に汗が流れてるし、目が泳ぎまくってるんですけど。一体彼に何が起きているのだろうか…。

 

「あー!そーじ、遅刻しちゃうから行きましょう!」

「えっあ、ああ。それでは勇さん」

 

津辺に背中を押されて昇降口へと向かっていく総二。まだ時間には余裕があるのだが、何を焦っているのやら。

 

「ふーむ?」

 

なんか避けられた気がしないでもないが、心当たりはなかった。先の五河も含め、まるで俺に知られたくないことがあるのだろうか?

 

「あはよう兄貴。どうしたんだ難しい顔をして?」

「おお、キリトに皆おはよう。こっちのことだ気にしないでくれ」

 

考え込んでいると、キリトと妹の直葉にSAO学科のメンバーも登校してきていた。

 

「それはそうと、キリトや。ユイちゃんは元気かね」

 

ユイちゃんとは、キリトと明日菜がSAOで出会ったカウンセリング用人工知能である。キリトと明日菜のことを親として慕い、二人も娘として愛情を注いでいる。専門的な部分が多く詳しくは分からないが、SAO事件後に起きたALO事件が収束して以降は、キリトのPCで暮らしているのだ。

キリトらが現在プレイしているALOでは、妖精の姿で活動しており、キリトと明日菜と共にいる姿はまさしく家族である。

 

「ああ、兄貴に会いたがっているよ」

「そうかそうか。今度の休日にALOに遊びに行こうかねぇ」

 

ユイちゃんは、キリトの兄貴分である俺のことを『叔父様』と呼んでいる。よもやこの歳で叔父と呼ばれるとは夢にも思わなんだ。まあ、姪ができたことは嬉しいので構わないが。

ちなみに我ら三兄弟の末っ子である一夏に、キリトの妹である直葉と、俺の妹であるユウキらも会った当初、『叔父様』『叔母様』と言われてたな。その際のユウキの顔は爆笑ものであった。本人らの懇願で今は名前呼びになっているが。

 

「そうしてあげて下さい。ユイちゃんも喜びますから」

「OK。ユウキや一夏も連れて行くとしよう」

 

あの二人、互いに末っ子だからか、ユイちゃんを妹みたいに可愛がっているからな。

 

「それで、最近ALOで変わったことはあるかい?」

「そうですね。新しいマップとかが追加されて、前よりもっと面白くなったって皆言ってますよ」

「ソードスキルも実装されてSAOプレイヤーにも人気ですからね」

「ピナにもまた会える様になって私も嬉しいです」

 

ピナ――

綾野珪子がSAOで従えていたAIモンスター。SAOのキャラクターデータが引き継けるALOでは引き続き彼女と行動を共にしている。

 

俺の質問に直葉に篠崎と綾野が答えてくれた。元々世界初のVRMMORPG『SAO』のデータをそのまま流用していたこともあり、高いスペックが人気があったALOだが、稼働当初はゲームの仕様上PK(プレイヤーキラー)が推奨されていたこともあって、殺伐としていたそうだ。まあ、リアルマネートレーディングが可能なGGOよりはましではあっただろうが。

運営責任者であった、須郷伸之が起こしたALO事件後に運営会社が変更となってからは、そう言った点は見直されている。そして積極的なアップデートが行われる様になり、さらなる人気を得ているのだ。さらにSAOと似た部分が多く、キャラクターデータが引き継けることもあり、元SAOプレイヤーが多いのも特徴である。

 

「そっか。それは楽しみだ」

 

久々にキリトらと遊んで息抜きでもしようかねぇ。あ、そう言やGGOにも最近顔出してないや。そっちにも行かないとな。

 

「っと長話が過ぎてしまったな。遅刻するからそろそろ行きなさい」

「ああ。またな兄貴」

 

口々に別れの言葉を言うと、昇降口へ向かっていくキリトらを見送ると掃除を再開するのであった。

 

 

 

 

昼食時となり、いつものメンバーで食事後。来禅学園高等部の校舎裏で、立花と小日向と会っていた。

 

「悪いね。呼び出した挙句足を運んでもらって。どうにも俺は目立つんで、あらぬ噂が立ちそうでねぇ」

 

なんだか知らないが、昔っから人の気を引いてしまうらしく。俺とこうして会っていることを誰かに見られると、立花らに迷惑をかけてしまいそうだったので、こんな形になってしまったのだ。

ちなみに俺と立花は互いに連絡先を知らないので、津辺に協力してもらった。彼女と立花は昨年俺も関わった件で、親友と呼べる関係なのだ。

 

「あらぬ噂、ですか?」

 

どうやら、そこら辺の意味が分かっていないらしく、首を傾げている立花。小日向の方は理解しているらしく、そんな様子の立花に溜息を吐いていた。

 

「いや、気にしないでくれ。それより昨日のことだけど――

「あ、そうでした!私達、昨日のお礼を言いたかったんです!昨日は本当にありがとうございました!」

「私からも言わせて下さい。ありがとうございました」

「え?あ、ああ…」

 

そう言って頭を下げる立花と小日向。予想外の行動に軽く戸惑ってしまった。

 

「別に礼を言われることじゃないよ。軍人として当然のことをしただけだからさ」

 

市民を守るのが軍隊の存在意義なのだから。俺は自分の責務を果たしただけだ。

 

「そんなことはないです!勇さんはやっぱり凄い人ですよ!私も勇さんみたいになりたいです!」

 

そう言って目を輝かせている立花。ああ、やはりこうなってしまうのか…。

 

「やめておけ。俺みたいのにはなるな」

「え?ど、どうしてですか!」

「いいか、俺は自分よりも他人を簡単に優先する。だから、周りから無茶だ無謀だと言われることでも平然とやれる人間なんだよ。例え自分が死ぬかもしれなくてもな。お前にはそんな生き方をしてほしくない」

 

母さんを失った時の経験から、俺は他の人とは違って、自分の命を軽く見てしまう様に壊れてしまった。だから自殺まがいのことでも、躊躇わず実行できるようになった。自分で言うのもあれだが、とんだ大馬鹿野郎である。立花にはそんな人間になるべきでは無いのだ。

 

「それでも、私も勇さんみたいに誰かの役に立ちたいんです!」

「ならば聞く。昨日、お前はなぜ身代わりになろうとした?」

「それは、勇さんならああするだろうって思って…」

「確かに、俺も似た様なことはするだろう」

 

だが、俺と立花とでは決定的に違うことがある。

 

「なら――」

「だが、俺は自分を犠牲にしようとは思わない」

「ッ!?」

 

俺の言葉に立花の目が見開かれた。

 

「俺なら相手を誤魔化し、軍の救援が来るまでの時間稼ぎをする。誰も犠牲にせず、自分も生き残る道を俺は選ぶ。だが、お前はあの時、自分が死んでも構わないと考えていたな?それで、小日向や家族を悲しませるとしても」

「それは…」

 

何も言えず俯く立花。そう、俺と立花の違いは、自分の命が危険に晒しても、生き残る意志があるかどうかだ。

俺は例えどんな状況でも死ぬ気は無い。母さんが死んだ時、残された俺が深く傷ついた様に、俺が死ねばユウキや父さん。それにキリトや一夏に同じ様に傷つけないために、俺は何があっても生きることを諦めない。

対して立花は、自分が死んでもそれでもいいと考えている。それでは駄目だ。何があっても、生きることを諦めない心が彼女には欠けているのだ。

 

「自分が死んでも、他人が生きてくれればいいってのは、そいつの勝手な自己満足だ。もっと周りの人のことも考えて行動するんだ」

「…はい」

 

俯いたまま答える立花。何も言わずにいてくれた小日向に視線だけだが礼を言うと、彼女は感謝する様に軽く頭を下げた

 

「話は終わりだ。時間を取らせてすまなかった」

「……」

「響行きましょう。それでは勇さん」

 

暗い表情のままの立花を小日向が連れて行く。立花には厳しすぎたかもしれないが、こうでもしないときっと、同じことを繰り返しただろう。女性を悲しませるのは不本意だが、時には心を鬼にしなければならないのだ。

 

 

 

 

その後、学園内でテイルレッドブームが巻き起こっていること以外、何ごともなく放課後となった。

昨日高等部生徒会長である神堂が、家の総力を挙げてテイルレッドを支援することを宣言した。そして学園の生徒らは神堂を崇拝しており、学園全体でテイルレッドを応援していこうと言う流れになっているのだ。

良くも悪くもノリがいいのが来禅の特徴である。一度火が付いたら燃え尽きるまで突っ走ることだろう。

それは構わないが、俺としてはあの子が何のために戦うのかが非常に気になる。昨日の様子を見る限り、あの子はとても正義感が強いのだろう。もし明確な理由がなく、ただ誰かに言われたから戦っているだけなのなら、俺は力づくでもあの子を戦いから遠ざけるだろう。己の意思無く戦えばすぐに限界が訪れる。そうなればあの子は間違いなく命を落とすだろう。手遅れとなる前に止めなければならない。例えあの子やどれだけの人に恨まれようが、喜んで受け入れよう。そして、あの子の分まで俺が戦おう。

 

俺には、それくらいしかできないのだから――

 

そう考えていると、通信機が鳴り出したので取り出す。相手は風鳴司令であった。

 

「こちら天道」

『勇君、ブルーアイランド内の公園にエレメリアンが出現した!独立遊撃部隊はただちに急行してくれ!』

「了解。ただちに出撃します」

 

またもアルティメギルか。三日連続で現れるのなら、まとめて出てくればいいだろうに。戦力の逐次投入は愚策の筈なのだが、エレメリアンとはそこら辺の感性が違うのだろうか、と考えながらも現場へ向かうのであった。

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