ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第三十四話

来禅学園での戦闘後。治療を終え学園寮に戻った俺は、寮の敷地内に設けられている中庭へと向かっていた。

兵器として扱われているIS搭乗員を養成するこのIS学園だが、基本的には一般校と変わらず比較的伸び伸びと生活することができる。

遊び盛りの時期でもあるし、人生1度きりの青春を楽しませるべきだろうと言う考えの下らしい。

卒業試験をクリアし正式にIS搭乗員となった者は、士官学校に進み。そこで本格的に軍人として必要なことを学んでいくこととなる。

閑話休題――中庭に備えられているベンチに腰掛け、夜空を見上げているアミタを見つけた。

妹さんがファントム・タスクに協力していると知って、ショックを受けているだろうと思って様子を見に行くと、ユウキ達から部屋にはいないとのことなので探していたのだ。

 

「アミタ」

 

近づきながら声をかけると考え事をしていた様で、俺のことに気づいていなかったのか、少し驚いた顔でこちらを向くアミタ。

 

「あ、勇君…」

「やあ。隣いいかな?」

「あ、はい。どうぞ」

 

了承を得てアミタの隣に腰掛けると、どこか彼女は気まずそうにしている。まあ、原因は分かるんだけどね。

 

「あの。怪我は大丈夫ですか勇君?」

「うん大丈夫だよ。この世界の医療技術は割と進んでいるからね」

 

平気であることをアピールするために、軽く手を振ってみたりする。

今では医療用リアライザを使えば多少骨折しても翌日には治るし、手足が千切れても損傷が少なければ簡単に接合することもできる。パワードスーツの開発の影響で義手分野も発展したため、最悪義手にしても、今まで通りの生活を送れる様になっているのだ。

始めてこの世界と接触した時空管理局の人達は、この世界の軍事や医療分野の異様な発達にかなり驚いていたとかなんとか。

そんな訳で俺の傷も本来なら完治まで一週間くらいはかかるが、数時間程度で完治しているのである。

 

「ごめんなさい。キリエ――私の妹のせいで迷惑をかけてしまって」

 

それでもアミタの表情は暗かった。やはりそのことを気にしていたか。

 

「アミタのせいじゃないよ。君が助けてくれなかったら、俺はあの時死んでたんだ。やれることをしたんだ、だから自分を責めることはないよ。何より怪我したのは俺が弱かったからなんだから」

 

俺がもっと強ければ負傷することもなく、妹さんを止められたんだ。

 

「でも、この世界に来た時にキリエを止められていれば、こんなことにはならなかったんです。そうすればあの娘がテロリストにならなかったのに…」

 

そう言って今にも泣き出しそうなアミタ。妹さんがファントム・タスクに連れて行かれたと判明してから、こうなるかもしれないと言われていたが、実際に目の当たりにすると辛いだろうな。

 

「妹さんがファントム・タスクに協力しているのは、本人の意思だろうね」

 

彼女と戦いの中で明確なる意思を感じた。脅されたり洗脳ではなく、自らファントム・タスクと行動を共にしていると見ていいだろう。

 

「でも、それだけ彼女が、本気でお父さんのことを想ってるってことなんじゃないかな。確かに褒められた方法じゃないけど、妹さんが家族を愛している気持ちは間違っていないと思うよ」

 

こういった時はなんて言っていいのか分からないけど。俺には正直に言うことしかできないんだ。

 

「また妹さんと戦うことになるだろうけど。俺は彼女と向き合ってみたいんだ」

 

彼女が立ち塞がるのであれば、戦うしかないのだろう。それでも逃げてはいけない気がするんだ。

 

「それなら、私も戦います。これ以上妹に過ちを犯させないために」

 

そう言って顔を上げこちらを見つめるアミタの顔は、真剣そのものだった。

 

「それは…」

「キリエがこの世界に迷惑をかけていることが明らかになった以上、じっとしているなんてできません。私が1番あの娘と向き合わなくちゃいけないんです」

 

確かに妹が犯罪に手を出していたら放っておけないよな。俺なら誰が止めても自分で止めに行くね。

 

「それに今までお世話になってるのに、何も恩返ししないなんて駄目だと思いますし。戦う力があるのに何もしないのは我慢できません!」

 

惑星再生用に生み出されたためか、それとも父親の教育が良かったのか正義感強い彼女には、やはり現状のままでは不満みたいである。

 

「…分かった。こうなった以上もう俺は反対しないけど、最終的に判断するのは父さんだからね」

 

アミタの処遇については父さんに一任されているから、父さんが駄目と言うとどうしようもないけどね。

 

「俺も説得するから明日聞きに行こうか」

「はい!ありがとうございます!」

 

やっと笑顔になってくれたアミタ。やっぱり人間笑顔が1番だよね。

 

「それじゃ、そろそろ帰ろうか。ユウキ達も心配してるだろうからさ」

「はい!」

 

ベンチから立ち上がると、アミタとたわいのないことを話しながら帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

ブルーアイランドにあるファントム・タスクの拠点であるビル内にある射撃訓練場。

そこでキリエは的に向けて拳銃のトリガーを引く。吐き出された弾丸は的の中心から外れた位置に着弾した。

再度弾丸を放つも的の中心には当たらない。マガジン分の弾丸を撃ち尽くすも結果は芳しくなかった。

そのことに眉を潜ませながらマガジンを交換して構え直し、狙いを定めてトリガーを引こうとして――横から伸びた手にスライドを抑えられた。

 

「何すんのよ」

 

苛立ちを含んだ表情で、スライドを掴んでいるヴォルフを睨みつけるキリエ。

 

「そんな雑念だらけの心では、当たるものも当たらんぞ」

 

相も変わらず無表情だが、全てを見透かしているかの様な瞳を直視できず、視線を逸らしながら銃を台に置くキリエ。

 

「何しに来たのよ?」

「コーヒー」

「は?」

「味付けを間違えたのでやる」

 

そう言ってヴォルフが持っていたコーヒー入りのカップを、押し付ける様に差し出してくるので思わず受け取ってしまうキリエ。

 

「てか、あんたもう動いていい訳?」

 

今日の作戦中に負傷したヴォルフは、帰還早々に治療を受けていたのである。

 

「かすり傷だ問題ない」

「の割には時間かかってたじゃない」

「…俺の中ではかすり傷だ」

 

つまり割と深手だった言う訳だ。初めて会った時といい、この男はもう少し自分を労わるべきではないだろうか?

 

「それより姉のことを気にしていたのか?」

「……」

 

今一番言われたくないことを遠慮なく聞いてくる無愛想男を、非難じみた目を向けるも。当の男は知ったこっちゃねぇと言わんばかりに話を続ける。

 

「姉に銃口を向けることに躊躇いがあるか?」

「…そんなことないわよ」

「視線を逸らしている奴の言うことを俺は信用せん」

「…ッ!?」

 

ヴォルフの正論に言葉を詰まらせるキリエ。

 

「この世界に行くと決めた時から、アミタと戦う覚悟はしていたつもりだった…」

 

どうにかはぐらかそうと思考を働かせるも。真っ直ぐに自分を見ているヴォルフに気がつけば言葉が出ていた。

 

「最初の時は本気で傷つけるつもりはなかった。ウィルスを流し込んで戦えなくさせられればいいって。でも、今日会った時はもうウィルスは効かないだろうから、本気で戦うしかないって考えたら怖くなったの…」

 

止めようと思っても一度動き始めた口は止まらず、抱え込んでいた不安た恐怖を吐き出していた。

 

「あんたに誘われた時、なんでもしてやるって大見得切ったのに情けないわよね。こんなあたしじゃ役に――」

「そんなことはない」

「え?」

「お前は何も間違えてはいない。家族を傷つけることに罪悪感を感じない奴を俺は人間とは認めない」

 

予想外の言葉に呆然としてしまうキリエ。そんな彼女をよそに話を進めるヴォルフ。

 

「そんなお前だから俺は勧誘したのだ。能力だけで決めたりはせん」

「……」

「おい、聞いているのか?」

 

顔を赤くして固まるキリエに詰め寄るヴォルフ。

 

「え。あ、はい!」

「なぜ敬語になる?」

 

ビクッと身体を震わせて後ずさり、口調がおかしくなったキリエを訝しんだ目で見るヴォルフ。

 

「な、な、なんでもないわよ!」

「まあ、いいが。とにかくその気持ちは大切にしろ。お前がお前であるためにな。その上で今の道を選ぶなら俺は必ず契約を守る。別に姉と故郷に帰るなら、それはそれで構わんがな」

「ヴォルフ…」

「後悔しない道を選べ。俺が言いたいことはそれだけだ」

 

そう言って立ち去っていくヴォルフ。残ったキリエは思い出した様に、渡されたコーヒーを口に含んだ。

 

「あれ?」

 

少し冷めてしまっているが、この味はキリエが好む味であった。よくよく考えればあの男が好むのはブラックなので、味つけで間違えようがないのである。

恐らく、自分と話すためのきっかけにしたかったのだろう。

 

「バーカ」

 

どこまでも不器用な男に、クスリと笑いながら残りのコーヒーを飲み干すキリエ。

再び拳銃を構え的を狙いトリガーを引くと、撃ち出された弾丸は綺麗に的の中心を貫くのであった。

 

 

 

 

「う~ん。まあ、妹さんの状況が状況だから、アミタ君が協力してくれるのは構わないんだがね」

 

翌日の昼前に、俺は父さんの執務室をアミタと訪ねていた。

アミタの件を伝えると、革製の椅子に腰掛けている父さんは、難しい顔をしながらも了承してくれた。

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

「ただし。そうなると余計な戦いに巻き込まれることになるだろうけど、それでいいんだね?」

「はい!私の力を誰かの役に立てたいんです!お父さんもそう望んでいる筈ですから!」

「同じ父親して言わせてもらうと。できれば妹さんとは関係ない件には、関わってほしくはないんだけどね。まあ、仕方ないか」

 

物凄い正義感を燃やしているアミタに、少々困り気味に頭を掻いている父さん。てか、アミタさんホントに炎が出ていそうな幻覚が見えるんですが…。

 

「では、今後は遊撃隊所属と言うことで、作戦中は天道軍曹の指示に可能な限り従ってもらうことでいいね?」

「分かりました!精一杯頑張ります!」

「軍曹はそれでいいか?」

「はっ!問題ありません!」

 

そうなるだろうと思っていたし、異論はないので敬礼しながら応える。

 

「では、それでよろしく頼む。ああ、天道軍曹は話があるから残ってくれ」

「了解です」

 

話?なんだろう?神妙な顔つきをしているから重大そうだな。

アミタが「また後で」と言って退出すると、父さんが椅子に預けていた背中を離し、両肘を机に載せて両手を組んだ。

 

「話と言うのは国際IS委員会からある通達があった」

「通達ですか?」

「ああ。内容は『織斑一夏を実戦に参加させろ』というものだ」

「な!?」

 

告げられた内容に言葉を失い唖然としてしまった。

 

「何を馬鹿な!一次移行(ファーストシフト )も終えていないんですよ!?正気なんですか委員会の連中は!!」

 

湧き上がる怒りに任せて、ドンッと両手を机に叩きつけて父さんに怒鳴ってしまう。

 

「怒る気持ちはよく分かる。俺も同じだからな」

「だったら!」

「取り敢えず落ち着け。まずは俺の話を聞いてくれ」

「…申し訳ありません」

 

確かに話は終わっていないし、何より父さんに怒るのは間違ってるよな。

深呼吸をして気持ちを落ち着けると、タイミングを見計らった父さんが話を続ける。

 

「今のパワードスーツ業界がどうなっているかは知っているか?」

「CRーユニット、IS、PTがシェアを占めていることは」

「そうだ。その中でIS業界が急速にシェアを失っているのさ。なぜかは分かるか?」

「PTが開発されたためですね」

 

「正解だ」と言って頷く父さん。これくらいは軍に関わる者なら皆知っていることではある。

 

「元々ISは宇宙探索のために開発されたマルチフォーム・スーツだったが。その高過ぎる性能に目をつけた者達が軍事転用し、今ではパワードスーツとして使用されている訳だが。ISには兵器として致命的な欠点がある」

「適正と機体数に制限があることですね」

「その通り。ISは女性にしか扱えず、要となるコアが完全にブラックボックス化されており量産が不可能となっている。この兵器として致命的なまでの欠点だが、少し前までは優れた性能の高さのお陰でさして気にはされていなかった。だが、新型パワードスーツが開発されたことで、その優位性は揺らぐこととなる」

「それがPTの登場ですね」

 

うむ、と満足そうに頷いた父さん。俺とゆっくりと話すのは、久しぶりだからか嬉しそうである。

 

「適性を必要とせず優れた生産性を持つPTは、瞬く間に軍の主力機となったが。その分、今までシェアを占めていたCRーユニットやIS業界が割を食うことになる訳だ。特にISは欠点が浮き彫りとなり、コストの高さもあって需要は大幅に低下。どうにか巻き返そうと、躍起になって次世代型の開発をしているが、芳しくないのが実情だな。

 

今はまだ高性能さを売りにして踏み止まっているが、後数年もすればPTに追いつかれ、ISはお役目ごめんとなる。それを防ぎたいのさIS業界の連中は」

 

「そのために一夏を戦場に出せと?」

「『ブリュンヒルデ』の弟が女にしか扱えない筈のISに乗って活躍する。PRとしては効果は大きいだろうな。次世代型が完成するまでの時間稼ぎにしたいと言ったところだろう」

「ふざけきってますね」

「全くだ」

 

呆れを含ませた顔で溜息を吐くと、再び背もたれに寄りかかる父さん。

 

「実を言えばこの話は前々から出ていたんだが、危険過ぎるので拒否していたのだ。だが、今回の件も踏まえた上で、親分…ゼンガー少将の後押しもあって、この提案を受けたことが決まったんだ」

「ゼンガー少将が、ですか?」

 

ゼンガー少将と言えば、昔の父さんの上官で今は国連軍本部に所属している人で。何かとこの基地に便宜を図ってくれている人だったな。

 

「なぜ、ゼンガー少将はこの話を?」

「ファントム・タスクの戦力が想定より強力だったため、さらなる戦力の拡大が必要であること。そして何より、それが一夏にとって必要と考えたんだろう」

「一夏にですか…」

「この世界の混迷が深まっている以上、いつあいつが危険に晒されてもおかしくないからな。少しでも自分の身を守れる力をつけてもらいたいのだろう。例えそれが荒療治でもな」

 

そう言って腕を組んで再び溜息を吐く父さん。だが、先程とは違い怒っている訳でも呆れている訳でもなく、そんな方法しか選べない不甲斐なさを嘆いている様であった。

それでも命令を拒否しないと言うことは、それだけ父さんはゼンガー少将を信頼しているのだろうな。

 

「この話は千冬さんは?」

「彼女にもお前と同じことを言われたよ。説得するのに苦労したが、渋々だがどうにか納得してくれたよ」

 

あの人なんだかんだで一夏のこと溺愛しているからなぁ。必死に説得している父さんの姿がありありと浮かんできてしまう。

 

「それと、この話は一夏自身にはまだ伝えていない。その役目はお前にしてもらおうと思ってな」

「自分がですか?」

「ああ。彼には誰かに言われたからとかではなく、自分の意志で戦ってもらいたい。お前なら彼の本心を引き出せる筈だ。もし、本人が嫌と言うか、お前が無理だと判断したなら。俺がどんな手を使っても、この話はなかったことにする」

「それは問題になるのでは?」

 

委員会や上層部の意向に反するのは、不味いのではないかと言う意味を込めて問うと、父さんは「構わん」と力強く答えた。

 

「お前達若者の未来を守るのが大人である俺の役目だ。そのためならどんな苦労でも惜しまんよ」

「少佐…」

「だからこの件はお前に一任する。責任は俺が取ってやるから好きにやれ」

「了解です。その任喜んで受けさせて頂きます」

「すまないが頼むぞ軍曹」

 

父さんがそこまでの覚悟をしているのなら、これ以上反対することは俺にはできない。ならば、できることを全力でやるのみだ。

ハッ!と敬礼しながら答えると俺は執務室を後にするのだった。

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