「……」
IS学園寮の一夏と箒の部屋で。一夏は自身のベットに寝転びながら、両手を頭の後ろに組んで天井を眺め考え事をしている様であった。
原因は先程訪問してきた勇に、軍から自分を実戦に参加させようという話が上がってきていることを告げられたからである。
『強制ではないから嫌だと言うならそれで構わないよ。ん?俺個人としてはどうだって?正直言えばお前の状態が万全とは言えないから反対だね』
それはそうだろう。自分の扱うIS『白式』は初期状態から、使用者に合わせて機能を最適化する
『…まあ、だからって言っても無理に止めたりはしない。俺はお前の意思を尊重する。もし、共に戦うと言うのであれば全力でサポートする。返事はすぐにとは言わない。迷ったていい、自分の気持ちとしっかりと向き合って後悔しない道を選んでくれ』
正直言えばISに乗る時から覚悟はできていた。だから迷うことなく共に戦わせてほしいと言いたかった。
だが、今の自分では役に立つのか?逆に、多くの人を危険に晒してしまうのではないかという恐怖が勝ってしまったのである。
「(俺は…)」
どうすればいいのだろう。戦うのか、戦わないのか。どちらが正解なのだろうか?目指すべき道が見えないでいた。
出口のない思考のループに陥っていると、部屋のドアがノックされた。
「一夏。私だ」
「箒かどうぞ」
上半身を起こして入室を促すと、ルームメイトの箒が部屋に入ってくる。
勇が尋ねてきた時箒もいたのだが。勇との話の後、気を利かせてくれたのか席を外してくれていたのだ。
「迷っているのか?」
自分のベットの端に腰掛けた箒が問い掛けてくる。
「ああ。なあ、箒。俺はどうしたらいいんだろうな…」
「それは私が決めるべきことではない。これからの一夏の人生を決める重要なことだ。だから、お前自身が決めなければならないと私は思う」
「そうだな。そうだよな」
我ながら馬鹿なことを聞いてしまったと、苦笑する一夏。
「だが、相談に乗ることはできる。何に迷っているんだ一夏は?」
凜とした目で見据えてくる箒にきちんと向き合うべく、足を床に降ろしベットの端に腰掛る一夏。
「俺なんかじゃ、足でまといになるんじゃないかなって考えちまうんだよ」
「まあ、そうだな。3年間も剣を振っていなかったからな。今のお前は私よりも弱いからな」
「うぐっ…」
容赦ない箒の言葉が、一夏の心に深々と突き刺さった。
確かに再会してから幾度か手合わせしているが、一夏が箒に勝てたことは1度も無かった。
「だが、勇さんが本当にお前の力が不足していると考えているなら、あの人なら話を持ちかけたりしないのではないか?」
「確かに…」
勇は、一夏ら弟分達に本当に危険なことをさせることはない。
今回の件も例え命令であってもそう判断したならば、何があっても拒否していたであろう。
「勇さんが話したということは、お前に十分実力があると判断したということだ。だから自信を持っていいと私は思うぞ?」
「そうなのかな?」
箒の言う通りなのだが。一夏はそれでも、踏ん切りをつけることができないでいた。
「一夏なら何があっても大丈夫だ。もっと自分に自信を持て」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
励ます様に言う箒。その姿はどこかやたらと自信に溢れていた。
そんな幼馴染を一夏は不思議そうに見ていた。
「それはお前が強いことを知っているからだ」
そう言うと、立ち上がった箒が一夏の側まで歩み寄ると隣へと腰掛けた。
「一夏は強い。何があってもお前なら乗り越えられる。そんなお前を私は信じているから」
一夏の手に自身の手を重ねて微笑む箒。そんな彼女を見ていると、一夏は不思議と身体の中から力が湧いてくるのを感じた。
「ありがとう箒。俺頑張ってみるよ」
「ああ。頑張れ一夏」
迷いのなくなった顔をする一夏に、箒は満足そうに頷くのであった。
その日の夜――
「(い、いいいいいい一夏と手を重ねて、あんなに間近で見つめ合って。あうぅうううううう!!!)」
今日の出来事を思い出し、潜り込んだベットで顔を真っ赤にして一人悶絶する箒であった。
ちなみに一方の一夏は、自分のベットで呑気そうに眠っていた。
「本当にいいんだな?」
「ああ。俺の力で救える人がいるなら役立てたいんだ」
一夏に実戦参加の件を伝えた翌日の朝。部屋を訪ねてきた一夏が、その旨を了承すると話した。
まあ、一夏ならそう言うと思っていたから構わないし。覚悟を決めた目をしているので問題ないだろう。
「昨日も話したが。俺達が戦うのは侵略者だけじゃない。テロリスト――同じ人間同士とも戦わないといけなくなる。その覚悟があるんだな?」
それでも、できれば戦ってほしくないというのが本音である。
「でも、勇兄は戦うんだろう?」
「そいつらが、お前や俺の大切な人達の笑顔を奪うのであればな」
俺にはそれくらいしかできることがないからな。例え偽善だなんだと言われても、それでも善であるならば恥じることなく胸を張ってやる。
「俺も同じだよ。勇兄や大切な人達が傷つくのを見たくないんだ。だから俺も戦うよ」
そう言って力強い目で見据えてくる一夏。
…いい顔つきをする様になりおったわい。本当に若いもんの成長は早いのう。
「分かった。細かいことは放課後に説明するとして、お前の力アテにさせてもらう」
「ああ!」
言いながら拳を突き出すと、一夏は嬉しそうに笑いながら拳を出して、打ち合わせた。
放課後俺は天宮市内の商店街を訪れていた。
買い物中の主婦や学校帰りの学生が多い時刻ということもあり、人通りが多いので迷惑にならない範囲で駆けていた。
「折紙!」
人混みの中建物の影で、何かを覗き見ていた目的の人物を見つけ声をかける。
「勇」
「目標は?」
「あそこ」
折紙の視線を追うと、見知った男女が仲良さそうに商店街を歩いていた。
1人は最近戦場で見かけることが多い五河士道。そして一緒に歩いているのは――
「本当にプリンセスにそっくりじゃないか…」
そう戦場で何度か相対した、精霊であるプリンセスと瓜二つの少女なのである。服装は来禅学園の女子用の制服を纏っており、見るもの全てが新鮮と言った目で辺りを見回している。
なぜ俺が商店街に来たのかと言えば、折紙からプリンセスとそっくりな少女を発見したと言う報告を受けたからなのである。
どう言った経緯で発見したのかはこの際置いておく。うん、それがいい。
「間違いなくあれはプリンセス」
「他人の空似ってこともあるだろう?第一空間震は発生していないんだ」
精霊がこの世界に現れた際に膨大なエネルギーが生まれ、それが空間を刺激して起きるのが空間震だ。このため精霊と空間震は切っても切れない関係の筈だか…。
「1度でも刃を交えたことのあるあなたなら、分かる筈」
「まあ、そうなんだが…」
確かに俺の勘があれはプリンセスだと訴えている。精霊の中には空間震を起こさずに現界する個体もいるが、プリンセスもそれができるのか?
それにまたしても、プリンセスの側に五河がいるのは最早偶然ではないだろう。間違いなく五河はプリンセスと関わりがあると見るべきだろう。
「にしても仲良さそうだなぁ」
五河とプリンセスと見られる少女は、商店街の店を見て回りながら楽しそうに話している。
「あれじゃまるでデート…」
「それはありえない」
「いや、どう見てもデート…」
「そんなことはあってはならない」
頑なに俺の言葉を否定する折紙。彼女にしては戸惑っている様にも見える。
「…なんだよ、何か確信でもあるのか?」
「五河士道は私の恋人。故に他の女とデートなどありえない」
「なる程それなら納得…恋人!?」
え、ちょっ今すごいこと聞いちゃったよ!?誰と誰がなんだって!?
「ごめんもっかい言って」
「五河士道は私の恋人となった。故に他の女とデートなどありえない」
「え、いつよ?」
「一昨日」
「マジで?」
「マジ」
うわぁお。折紙が五河を気にしていたのは知っていたが、もうそこまでの関係になっていたとは、お兄さんビックリだよ。
でも、五河とプリンセス似の少女はどう見てもデートしている様にしか見えないが。そうなると付き合って早々に浮気されたことになる訳で…。駄目だ、状況が理解できん…。
「と、とにかく上からの指示があるまで追跡しよう」
既に基地の方には報告してはしているが、監視をせよとしか命令されていない。
まあ、空間震もなくプリンセスにそっくりの人間が現れたんだ、今頃司令部も混乱しているのだろう。
「それより、今すぐあの女を殺すべき」
「まだ民間人がいるから早まらないでね!!」
今すぐにでも襲いかかろうとしている折紙を抑えながら、五河達の後を気づかれない様に追いかけていくのであった。