ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第三十六話

「なんか、カップルが多くないか今日?」

 

学校帰りに、天宮市内の商店街に遊びに来ていた観束総二はそう呟いた。

 

「確かにいつもと雰囲気が違うわね…」

 

総二の隣にいた津辺愛香が商店街を行き交う人々を見ながら、困惑の色を浮かべる。

この時間帯なら学校帰りの学生か、夕飯の買い物に来ている主婦が多い筈なのだが。今日は手をつないだカップルが、不自然な程通りを歩いていた。

 

「今日って何かイベントやってたっけ?」

 

総二らと共にいた立花響が、記憶を引き出そうとする様に首を傾げる。

 

「うーん。そういったことは無かったと思うけど」

 

小日向未来が頬に指を当てながら、疑問符を浮かべている。

この商店街はカップル受けする様な店は無く、どこにでもあるいたって普通の商店街である。これ程のカップルが訪れているのは異様な光景であった。

 

『やっぱり初デートで手も握ってくれないような人は嫌ですよぉー』

『そうですよねぇ。男ならガッといかないとねぇ』

 

さらに電器店に並べられたテレビから流れているトーク番組が、この状況を後押しする様な不自然さを醸し出していた。

異常な事態に総二達が困惑していると、そんな雰囲気を吹き飛ばす様な明るい声が背後から響いてきた。

 

「カップルだ!カップルが大量発生しているよ詩乃!」

「ゆ、ユウキ。そんな大声出したら失礼だから…!」

 

声のした方を見ると、自分達と同じ来禅の高等部の制服を来た少年少女達がおり。その中の長い黒髪の少女が、通りを歩くカップルを見て驚愕の声を上げていた。

そして少女の隣にいた黒髪でショートヘアの少女が、長い黒髪の少女の発言に慌てていた。

 

「あ!総二に津辺さんこんにちは!」

 

総二達の存在に気がついた天道木綿季がにこやかに笑いながら挨拶をした。

 

「こんにちはユウキ」

「こんにちは…」

 

嬉しそうに挨拶する総二に対して、僅かにだが警戒した様子で挨拶する愛香。

ちなみに言うとこの3人はクラスメートであり。総二が入学式当日に、誤ってツインテール好きを暴露してしまい。愛香以外のクラスメートにドン引きされる中、ユウキだけそんなクラスメートに異を唱えた。

 

 

 

 

『ボクだって義理とは言え、兄を結婚したいくらい好きなんだから!男でツインテールが好きだっていいじゃないか!』

 

 

 

 

自分以上の暴露をしたユウキによって。今ではクラスメートに総二のツインテール好きは好意的に受け止められている。

それ以来総二とユウキは、互いに好きなことについて話し合う仲となったのだ。総二に恋する愛香はそんなユウキに対して、複雑な心境であった。

さらにユウキがライバル視している勇の妹であることが、それに拍車をかけていた。

 

「ユウキ知り合い?」

「うん!この前話したクラスメートの観束総二と、津辺愛香さんだよ!」

 

共にいた少女結城明日奈の問いかけに、ユウキが元気よく答えた。

 

「初めまして。SAO学科の結城明日奈です」

「俺は桐ヶ谷和人。明日奈と同じSAO学科所属で、こっちの2人も」

「私は篠崎里香よ」

「綾野珪子です。よろしくお願いします!」

「桐ヶ谷直葉です。私は普通科2年に所属しています」

「朝田詩乃。ユウキの家に居候させてもらっているけど、皆とは学校は別」

 

キリト達の自己紹介に、総二達もそれぞれ応じていく。

 

「ところでユウキ。勇さんは?」

「兄ちゃんはね、お仕事にいちゃったんだぁ~」

「仕事って軍の?」

「うん」

 

てっきり勇もいるものと思っていた総二は、ユウキに問いかけると。しょんぼりしながら答えるユウキ。

 

「多分例の『白衣の変質者』の捜査じゃないかな?」

「そう言えば最近聞かないわね」

「でも、逮捕されたって訳でもないですよね?」

 

キリトの言葉に里香と珪子が続く。

 

「そ、そうですね…」

「観束君大丈夫?顔色悪いよ?」

 

白衣の変質者の話題になってから、総二の顔色が何故だか悪くなっていることに響が心配する。

自分達と同い年の少女に、白衣を着ており幼女好き。知り合いに合致する特徴を持っている人物がいるのである。

しかもその者が重傷を負った日から、白衣の変質者は現れなくなっていることに疑いの目が強くなってしまう。

本人は否定しているが、必死すぎて逆に怪しさを増大させていたが。どうか、違ってほしいと総二は切に願っていた。

 

「怖いよねぇ~。早く捕まるといいね愛香」

「え、ええ。そうね…」

 

愛香も同じ疑問を持っているのか、目が泳いでしまっていたが。幸い気づかれることはなかった。

 

「むむッ!この感じ、兄ちゃん!」

 

ピキーンと何かを感じ取ったユウキが、飼い主を見つけた犬の様に商店街の一角へと振り返る。

 

 

 

 

そこには、折紙を後ろから抱きしめる勇がいた――

 

 

 

 

「な、そんあバナナ…」

 

目にした光景に驚愕の余り噛んでしまっているユウキ。

 

「一緒にいるのって鳶一さん?」

 

クラスメートの思わぬ場面を目撃した直葉も驚愕していた。

 

「そんな、そんな…。1番のライバルはアミタさんだと思っていたのに。ノーマークの相手に先を越されるなんて…」

「ゆ、ユウキさんしっかりして下さい!?」

 

衝撃の余り崩れ落ちそうになるユウキを後ろから支える珪子。

 

「……」

「響?響!?」

 

未来が響の方を見ると。目から輝きが失われており、口から魂の様なのが漏れ出ていた。

 

「目標との距離と風向きを算出して…」

「シノのん?」

 

うわごとの様に呟いている詩乃に、不安そうに声をかける明日奈。ちなみにシノのんとは、明日菜が詩乃につけた愛称である。

そうこうしている内に勇と折紙が人混みに消えていく。

 

 

 

勇が折紙の手を引きながら――

 

 

 

 

「Nooooo――!!」

 

耐えられなくなったユウキが逃げ出す様に駆け出した。

 

「あ、待ちなさいよユウキ!」

「ユウキさーん!」

 

ユウキの後を慌てて追いかける里香と珪子。

 

「……」

「響!しっかりして響ィ!!」

 

ぶっ倒れた響を介抱する未来。

 

「頭を、吹き飛ばす…!」

「シノのん!?」

 

物騒極まりないことを宣言した詩乃を、正気に戻そうと肩を揺する明日菜。

 

「う~ん。なんか違う気がするんだけどなぁ」

「そうですね」

 

勇と折紙の様子に、違和感を感じ考え込むキリトに同意する総二。

 

「全くあの男は…」

 

目の前で繰り広げられる惨事に、軽く目眩を覚える愛香であった。

 

 

 

 

「ふむ。今のところ異常は無いな」

 

五河士道とプリンセスと見られる少女の尾行を始めて暫く経つが。特に問題は起きていないな。

 

「異常しかない」

「うん、落ち着こう。落ち着こうな」

 

問題があるとすれば、同行者が今すぐにでも殴り込みに行こうとするところだな。

目標が仲良くする度に突撃しようとする同僚を、抑えること幾ばくか。流石にしんどいですたい。

特に、目標が大人が入るホテルに向かおうとした際が1番キツかった。殴られたし…。結局引き返してくれたので助かったが。

 

「今お前が行ったら全部台無しになるでしょうが」

「……」

 

今後あるか無いかの千載一遇のチャンスを、ここで潰す訳にはいかない。

 

「とにかく。命令があるまでこのまま尾行を、ん?」

 

ふと商店街の様子が変わっていることに気がつく。

ついさっきまで学生や主婦ばかりだった人通りが、いきなりカップルだらけになっているのだ。

しかも誰もがわざとらしく「手をつなぐのっていいよね!」やら、「心が通じ合う感じがするね!」とか言っている。

 

「な、なんだこりゃ?」

「あれは!」

 

予想外の事態に困惑して周囲を見ていると、折紙が何か気がついた様だ。

 

「あ、あれは!手を繋いでいるな、うん」

 

五河士道と少女が、周りの雰囲気に押される様に手を繋いでいた。初々しくて微笑ましいなぁ。

 

「任務了解。目標を排除します」

「待ったぁぁあああああああ!!!」

 

驚異的な速さで飛び出そうとする折紙を抑えるために、後ろから抱きしめる形になってしまった。

 

「頼む。頼むからやめてくれ!もう余計な書類を書くのは、嫌なんだよ!」

「勇。私の愛のために犠牲になって」

「やだよ!!!」

 

人の恋路を邪魔したくないが、限度があるんだよこちらとら!

 

「てか、こんなことしてる場合じゃねぇ!見失っちまう!行くぞ折紙!」

 

目標が人ごみに紛れちまう!ここまできて逃がすかよ!

周囲に溶け込み、なおかつ折紙が勝手に飛び出さない様に手を引きながら、追跡を再開するのであった。

でも、この行動が後にあんな事態を引き起こすとは思いもしませんでした…。

 

 

 

 

天宮駅前のビル群に、オレンジ色の夕日が染み渡る。

そんな最高の絶景を一望できる高台の小さな公園を、少年と少女が2人、歩いていた。

 

『存在一致率九八.五パーセント。流石に偶然で説明できるレベルじゃないわねぇ』

 

特異災害対策機動部二課研究員である櫻井了子さんの声を通信越しに聞きながら、身に纏ったMk-IIのモニターを拡大する。

映るのは精霊プリンセス。しかし、モニターに映るその姿は、どこにでもいる女の子である。

尾行を続けていると。目標が人影の無い公園から動かなくなったので、司令部は公園を中心に部隊を展開することを決定。俺達にも加わる様に命令が出た。

公園の1キロ圏内にASTと遊撃隊を分散させて配置。さらに後方には父さん率いるPT部隊が展開されている。

 

『狙撃許可は』

 

折紙の底冷えする様な声が通信機越しに聞こえてくる。

 

『この状況じゃ難しいだろうな。出ないと考えた方がいいだろうさ』

『……』

 

無言であるが、不満ですと言った雰囲気を感じ取ることができる。

ちなみに今回の折紙の装備は狙撃特化で、『CCC(クライ・クライ・クライ)』と呼ばれる対精霊ライフルを主武装としている。

テリトリーを展開させていなければ、反動で撃ち手の腕がもげかねない程の威力を持つライフルである。

 

『な、なんか怖いですね鳶一さん』

 

俺とコンビを組んでいるアミタが、恐る恐ると言った感じで話しかけてきた。

 

『まぁな。気持ちは分からんでもないが…』

 

恋人が他の女とイチャついていたらキレたくもなるわな。

 

『一夏。聞こえるか?』

『聞こえるよ勇兄』

 

弟分を呼び出すと、緊張した声音が返ってきた。初陣だから無理もないが。

 

『万が一戦闘になった場合は、お前は援護に徹しろ。前には出るなよ』

『でも…』

『まずは戦場の空気になれろ。でなければ話にならんぞ』

『分かった…』

 

渋々と言った感じで納得する一夏。

白式にはライフルを取り敢えず持たせている。射撃用の補助機能は無いが、援護でバラまくだけならなんとかなるだろう。

無理をさせる必要が無い以上、今回は安全策でいかせてもらう。

 

『風鳴、オルコット。すまんが一夏の面倒を見てやってくれ』

『…命令ならば致し方あるまい』

「……』

 

班分けで一夏を風鳴達の方に組み込むのは反発があったが。どうにかこうにか組み込ませたのだ。

 

『いいなオルコット?』

『足を引っ張らないのであれば、何でも構いませんわ』

 

…完全に拗ねてるなこりゃ。

 

『やっぱり、一夏君はこちらに組み込むべきだったと思うんですけど…』

 

アミタがもっともな意見を述べてくる。今ならそれでいいんだが…。

 

『今後のことを考えると。一夏とオルコットの連携を強めておきたいんだよ』

『一夏君とオルコットさんの?』

『一夏とオルコットは同じクラスだからな。何かと行動を共にすることが多くなる。いざと言う時、2人だけでも対処できる様になってもらいたいのさ』

 

これから先一夏には必ず面倒事が起こる筈だ。その際に現状真っ先に頼りにできるのがオルコットになる。だから2人の連携強化は必須になってくるのさ。

 

『なる程。でも、上手くいくでしょうか?オルコットさん、男性のことはその…』

『そこは、賭けだな』

 

オルコットが男を嫌っているとしても、やるしかないのだ。

常にベストな状態で戦える訳ではない。だからできることはやっておきたいんだ。

 

『さて、精霊がどうでるか』

 

一般人が側にいる状況下で、指令や父さんが攻撃を許可するとは思えない。

さらに空間震が発生していないので、警報が鳴っておらず、周囲の住民の避難がされていない状況だ。

今警報を鳴らせば精霊を刺激して暴れだす可能性があるので、どうしても時間がかかってしまう。

 

『このまま帰るのか、それとも…』

 

ベストなのはこのまま精霊が帰ってくれることだ。チャンスを逃すが、人命にはかえられない。

仮に暴れることなく、このままこちらの世界に残るのであれば、また機会を伺うこともできるが。それは高望みだな。

それに一夏の初陣の相手が精霊なのは厳しいしな――

 

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

 

 

 

 

『ッ!警報!?』

『転移反応ッ!例の公園の上空です!』

 

アミタの言葉に視線を上空に向けると、空が歪み始めていた。

 

『この反応は。インスペクターか!!』

 

歪みが広がっていくと、ソルジャーA型とB型が多数転移出現してきた。

 

『なんだ?奴ら何を狙っている!?』

 

現れたソルジャーは俺達ではなくある1点を見つめていた。

そう。公園にいる五河とプリンセスを――

 

『まさか――!?』

 

嫌な感覚が背筋を走るのと同時に、1体のB型が手にしているランチャーを構えた。

機体を飛ばして止めようとするも。無情にも放たれたビームが、プリンセスへと飛んでいく。

 

 

 

 

――そして、プリンセスを突き飛ばした五河の身体をビームが貫いたのだった。

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