ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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どうも、久々に時間が出来て書いてたら楽しくて、平均の2~3話分くらい書いてしまいました。
そんな訳で気長に読んで下さいませ。


第三十八話

プリンセスと対峙するドラグギルディ。奴から放たれる威圧感は、これまで対峙したどのエレメリアンをも凌駕していた。

 

「あんたどういうつもり?敵であるレッドを助けるなんて…」

 

警戒を怠らずブルーがドラグギルディに問い掛けた。

 

「フッ。何、テイルレッドを倒すのは我らアルティメギルの役目。それに今彼女に倒れられては困るのでな」

 

ドラグギルディは視線をプリンセスから外さずに話す。

狂乱状態のプリンセスも、ドラグギルディが放つ威圧感を警戒してか、大剣を構えたまま動こうとしない。

 

「え?」

 

言葉の意味がわからず困惑しているレッド。

 

「(どういう意味だ?)」

 

一見すれば言葉の通りだが、勇には別の意味も含まれているように聞こえたのであった。

 

「なにが狙いよあんた…」

「すまないが話はここまでだ」

 

勇と同じようにいぶかしんだブルーが問い詰めようとしたするも、ドラグギルディは話を打ち切り己の得物である大剣を構えた。

見ると痺れを切らしたのか、プリンセスがドラグギルディ目掛けて切りかかったのだ。

 

「ハァッ!」

 

下段から振り上げられた剣を真っ向から剣で受け止めるドラグギルディ。

互いの刃がぶつかり合うと、強烈な衝撃波が生まれ吹き飛ばされそうになるのをなんとか耐える遊撃隊やツインテイルズの面々。

 

「うわぁ!?」

 

だが、ドラグギルディの側にいたため衝撃波に耐えられず吹き飛ばされてしまったレッドをブルーが受け止めた。

 

「大丈夫レッド!?」

「ああ…。それよりもドラグギルディは!?」

 

助けてもらったこともあるのかドラグギルディを心配して目を向けると、レッドは我が目を疑ってしまった。

ドラグギルディは大気を揺らし大地を砕くプリンセスの攻撃をなんなく受け止め、そして彼が放った一撃は防御こそされるも、プリンセスは表情に苦悶の色を浮かべていたからである。

 

『あのエレメリアン、プリンセスと互角に渡り合っているのか!?』

 

自分達が歯がたたなかったプリンセスと互角に渡り合っているドラグギルディに、思わず驚愕の声をあげる勇。

両者の戦いは苛烈を極めとてもではないが割ってはいることができず、遊撃隊もツインテイルズもただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

勇達が存在する次元と他の次元を隔てる断層に、アルティメギル地球侵攻部隊が拠点としている母艦が駐在していた。

その内部中心に存在する大ホールに、個性豊かな怪物達が一同に集っていた。

ホールに備え付けられている巨大なモニターには、部隊長であるドラグギルディとプリンセスの激闘がリアルタイムで映し出されている。

 

「ううむ。本当に単身で出撃されるとは…」

 

固唾を呑んでモニターを見ている怪物達の先頭にいる雀のようなエレメリアン――スパロウギルディが渋い表情で映像を見ていた。

いつものようにツインテイルズ――というよりテイルレッドの鑑賞会――もとい対策会議をしていると、地球から巨大なエネルギー反応を観測し偵察としてアルティロイドを送ったのである。

アルティロイドが送ってきた映像には、天敵であるインスペクターの尖兵であるソルジャーに地球の軍隊そしてツインテイルズが精霊と呼ばれる生物と戦っているではないか。

精霊という存在はアルティメギルもこの世界に進出して始めて知ったのだが、現在確認されている精霊はどれも眉間麗しい少女ばかりなため、男性型のエレメリアンしかいないこの部隊の者達は色々な意味で興味を持っているのである。

だが本気となったプリンセスの戦闘力に、その場にいた誰もが戦慄を隠せなかった。

そしてテイルレッドが徐々に追い詰めらていくとあるエレメリアンが呟いた。

 

 

 

 

――このままでいいのか?

 

 

 

 

モニターから流れる音にかき消される程度の大きさにも関わらず、その声はホールにいる全ての者の耳に届いた。

皆の視線に晒されながらそのエレメリアンは言葉を続けた。

 

 

 

『テイルレッドは我らアルティメギルが打ち倒すべき宿敵ではないのか?ここで動かねば戦士としての名が泣こうぞ!』

 

 

 

 

その声は瞬く間に戦士達の心に火をつけ、誰もが副官であるスパロウギルディの制止を聞かず出撃しようとしていく。

 

 

 

 

『静まれい!!』

 

 

 

 

沈黙を保っていたドラグギルディが発した一言に、思わず誰もが動きを止めて彼に注目した。

 

 

 

 

我が行く――。

 

 

 

 

椅子から立ち上がると、静かにそう宣言するとホールがどよめきに包まれた。

 

『ドラグギルディ様自らが!?』

『そうだ』

『な、なればせめて誰かをお供に――』

『不要!お前達ではあの戦場には不釣合いよ!ここで我が戦を見ているがよい!』

 

身を案じるスパロウギルディの提案を切り伏せ、言外に戦力外通告をするドラグギルディ。だが、その目には部下達への慈しみも見て取れた。

マントを翻し、ホールを出て行くドラグギルディ。

足跡が炎となって浮き出るような幻想を抱かせる。

超絶の威圧感にはもはや、怪物という形容は似合わない。

神獣――その言葉こそ相応しかった。

 

 

 

 

「ううん…」

 

砂浜に仰向けに倒れていた一夏は、目を覚ますと上半身を起き上がらせる。

 

「あれ?ここは?」

 

辺りを見回すと誰もおらず波の音だけが響いていた。

 

「俺、確か精霊と戦っていてそれで…。って勇兄や皆は!?」

 

気を失う前の出来事を思い出し慌てて立ち上がるも、精霊や仲間はおらず見知らぬ地にいることしか分からなかった。

 

「どうなってるんだ?」

 

海から届く潮の匂いと波の音。それに心地よい涼風とじりじりと照りつける太陽。どう見てもビーチだが、どうして自分がここにいるのかがわからない。

 

「あなたはどうして戦うの?」

「うわ!?」

 

状況を理解しようと考え込んでいると、不意に背後から誰かに話しかけられ驚いてしまう一夏。

慌てて振り返ると、白のワンピースを着た白髪の少女が一夏を見上げるようにして立っていた。

 

「君は?」

「あなたはどうして戦うの?」

「どうしてって…」

 

こちらの問いには答えず先程と同じことを聞いてくる少女に、一夏は少し困惑してしまう。

 

「戦えば辛くて悲しいことばかりなのに、あなたは自ら戦うことを選んだ。戦う必要なんてなかったのに」

 

そう一夏はISが扱えるとはいえあくまでも民間人である。本来ならば戦場に出る必要はないのである。それでも彼はその道を選んだ。それは――

 

「俺には兄が2人いてさ。って言っても血は繋がってないんだけど。2人とも大切な人のために命がけで戦える人なんだ」

 

昔は人付き合いが苦手な箒が同級生にからかわれていることがあり、そのことで感情的になってしまい、よく喧嘩をしてしまっていたものだった。

その度に2人とも傷つくことを恐れずに助けてくれたのだ。そのことが申し訳なく謝ったら逆に2人に怒られてことがあった。

 

『何謝ってんのさ。お前は間違ったことはしてないし、俺達は勝手にやってることなんだから気にしなくていいんだよ』

『そうさ。誰かのために怒れるのは一夏のいいところだと俺は思うな。まあ、すぐに手を出すのは感心しないけどね』

 

喧嘩を起こした一夏よりも傷だらけになりながらも、笑いながら頭を撫でてくれる勇に、誇らしげに一夏のことを話す和人のことがとても頼もしく見えた。

 

「俺もそんな2人に憧れて必死に追いかけたけど、頑張れば頑張る程追いつける気がしなくてその内自信がなくなってさ。そうしたらISの件で箒が引っ越しちゃっうし、和人兄が剣道をやめちゃってどうしたらいいのかわからなかくなってさ、中学の時に家計を助けるって理由をつけて逃げちゃったんだ」

 

少女は何も言わず一夏の隣に立ってただ話を聞いていた。

 

「勇兄に剣道をやめるって言った時怒られるかなって思ったのに、『お前が選んだんならそれでいいさ。一度だけの人生なんだからやりたいように生きればいいさ』って笑って許してくれたよ。本当は悲しかった筈なのにそれをおくびにも出さずにさ、それが辛くてさ。いっそ殴ってくれればよかったのに、あの人は昔っから自分のことを後回しにするんだよね」

 

そのときのどこか寂しそうな勇の笑顔を思い出し、胸が締め付けられる感覚の襲われる一夏。それでも口は止まることなく言葉を紡いだ。

 

「それからは胸に穴が空いたようになにやっても物足りなくなってさ。それを紛らわそうとバイトとかに打ち込んだけど、結局消えることはなかったなぁ」

 

自嘲気味に笑うとそよ風が優しく肌を撫でた。

 

「それで、高校の入学試験でISを動かせるってわかった時思ったんだ『もう一度あの背中を追いかけることができる』って」

 

和人は囚われた鉄の城で愛する人と出会い守るために戦った。勇は母を奪われた悲しみを背負い自分の大切な人達に同じ悲しみを味合わせないために、今も命がけで戦っている。2人とも一夏の誇れる兄なのである。

そんな兄達のように大切な人達を守れる男になりたい。それが一夏が幼い頃に抱き、一度は諦めてしまった夢なのである。

 

「だから俺は戦う。もう二度と後悔しないために。俺を信じてくれる人のために」

 

 

 

 

――一夏は強い。何があってもお前なら乗り越えられる。そんなお前を私は信じているから

 

 

 

 

思い出すのは幼馴染の少女の言葉。その言葉があれば不思議とどこまでも前へ進める気がした。

 

「そっか…。じゃあ、今は少しだけだけど私の力を貸してあげるね」

「え?」

 

少女の言葉の意味を理解する前に一夏の意識は光の中に溶けていったのだった。

 

 

 

 

『ぬぅん!』

『あああああ!』

 

龍の怪人と戦乙女の剣がぶつかり合い、衝撃で大気が揺らぎ大地が砕けていく。

ドラグギルディが参戦してから幾分経つが俺達はというと、ただその戦いを見ていることしかできなかった。

消耗しているということもあるが、なにより両者の戦いが激しすぎて介入することができないのが実情で、今も剣が交わるごとに起きる衝撃波に吹き飛ばされないように踏ん張るのが精一杯であった。

 

『勇指示を』

 

俺の隣で同じように吹き飛ばされないようにしている折紙が指示を求めてくる。

ドラグギルディもプリンセスもダメージは負っていないも、恐らく勝負は一撃で決まるだろう。実力が同等であるほどにそういう傾向は強まる。

そして俺の所見だが優勢なのはドラグギルディだ。なぜなら――

 

『なるほど。力はある。だが、そのような獣の動きでは我は捉えられん!』

 

怒りに任せがむしゃらに剣を振るっているプリンセスに対して、ドラグギルディはそれを適格に捌きながら隙を見て反撃に転じている。

そしてプリンセスの剣を見切り始めたドラグギルディが攻勢に入ると、プリンセスの表情に苦悶の色が見え始めているのだ。

このままいけばドラグギルディがプリンセスを倒すだろう。その後ドラグギルディがどう出るかわからないが、このまま様子を見るのがベストだろう。

 

 

 

 

――だが、それでいいのか?

 

 

 

 

ふとプリンセスと五河を尾行していた時のことが思い出された。

どこにでもいる普通の少女と同じように笑っていたプリンセス。精霊は世界を壊す害ある存在――その筈だ、その認識で間違いない筈なんだ。なのにそれを否定しようとしている自分がいる。どれだ?どの選択が正しいんだ!

 

『あれは、なんだ!?』

 

どうすべきか迷っていると、風鳴の困惑した声が聞こえた。彼女の視線を追うと、森の一角が光輝いているではないか。あそこは一夏が墜落した場所か!?

 

 

 

 

『おお。なんということか…』

 

戦場となっている団地を見渡せるビルの屋上でれいと呼ばれている少女の肩にとまっているカラスが、森から放たれている光を恐れおののくようにして見ていた。

 

『『あの力』を発現する人間が現れるとは。やはりこの世界は危険です、なんとしても排除せねば。全ての次元世界の安寧のためにも…』

 

焦りを見せるカラスとは対照的に、少女は落ち着いた様子で光を眺めていた。

 

「人が持つ『意思の力(・・・・)』…」

 

その目にはどこか懐かしさを覚えているかのようであった。

 

 

 

 

『む?あれは…』

 

ドラグギルディとプリンセスも突然の事態に思わず戦いを止めて光を注視していた。いや、父さん達正規軍もインスペクターもこの場にいる誰もがその光に目を奪われている。

 

『この光はもしや…』

 

心当たりでもあるのか感慨深そうに呟くドラグギルディ。その目は何かを期待しているかのようであった。

光は強さを増していくと、やがてその中から何かが上空へと飛び出してきた。

 

「一夏!?」

 

光の中から現れたのは見慣れないISらしき機体を纏った一夏であった。

滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的でソルジャーが下級の騎士のようであるのに対して、より気高さを感じさせる形状になっていた。

 

「あれは白式なのか?」

 

思わず呟いてしまったが、俺の記憶にある白式に面影が重なったのだ。

 

『まさかこの状況で形態移行(フォームシフト)したといいますの!?』

 

白式と見られるISを見たオルコットが驚愕の声をあげた。

確かに一次移行(ファースト・シフト)したのならあの姿も納得できるが、こんな土壇場で起きたというのか!?

 

『ふふ、やはりそうか。あの光は人間が持つ『意思の力』!』

 

ドラグギルディが一夏を見上げながら歓喜の声をあげている。『意思の力』?奴はあの現象を知っているのか?いや、それよりも――

 

「一夏!お前無事なのか!?」

『ああ!俺も白式もまだ戦える!』

 

安否を確かめるために通信を繋げると、弟分の声が力強く返ってきた。見た限りでは大破していた筈の白式の損傷は完全に修復されており、一夏自身も相当の傷を負っていただろうに、まるで何事もなかったかのようにピンピンしている。

フォームシフトしたとはいえISにそのような機体を修復、まして搭乗者を回復させる機能など備わっていない筈だぞ!?

余りにも非常識な事態に驚愕していると、新たな姿となった白式を脅威と感じたのかソルジャーA型3体が一夏へと接近しながら武器を構えた。

 

「一夏!」

『大丈夫だ勇兄!今の俺達(・・)ならやれる!』

 

ソルジャーが放ったビームに対し、手にしていたブレードを振るう一夏。

その刀は淡く輝いておりビームが触れると、まるで雪が溶けるかのように跡形もなく消滅してしまった。

 

『あれは、まさか零落白夜(れいらくびゃくや)か!?』

 

零落白夜――姉である千冬の姉さんの乗機だった『暮桜』という名のISが発現していた単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)である。

その能力は、所持しているブレードに触れた対象のエネルギー全てを消滅させるというものであり。姉さんを第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝に導いた能力だ。

だが、ワンオフ・アビリティーは個人特有のものであり。いくら血の繋がった姉弟であるとはいえ同じ能力を発現することはありえない筈なのだ。

 

『うぉおおおおお!!』

 

そんな俺の疑問をよそに一夏は機体のブースターを吹かせ、攻撃してきたソルジャー目掛けて加速したかと思うと、一瞬で懐に潜り込み次々とブレードで両断していった。

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!やり方は教えていたが訓練では成功したことはなかったのを、実戦で成功させやがったあいつ!

 

『勇兄!』

「なんだ?」

『俺はあの人をプリンセスって人を助けたい!』

「!」

 

一夏の言葉に俺の心に響く。それは俺が心の底で願っていたことだった。

 

「どうする気だ?」

『どうしたらいいかわからない。それでも俺は諦めたくないんだ!』

「……」

『あの人は笑っていた。この世界を好きになろうとしてたんだと思う。そんな人が死んでいいなんて俺は正しいと思わない!俺はあの人に生きて欲しいんだ!!』

 

そう。プリンセスは笑っていた。きっと五河と出会ったことで彼女はこの世界で生きたいと思ったのだろう。そしてそんな彼女に生きて欲しいと、共にこの世界で生きてみたいと俺は思ったんだ。

 

「――そうだな。俺も諦めるのは嫌いだな」

『!』

「久々に馬鹿やってみるか一夏!」

『ああ!』

 

本当なら止めるべきなんだが。俺もまだまだガキんちょってことか。だが、それも悪くない!

 

「折紙!」

『…何?』

 

先程の一夏との話を聞いていたのだろう。これから俺達がしようとしていることを察しているだろう折紙は険しい目つきで俺を見ていた。

 

「俺はプリンセスを止めにいく。お前はアミタ達を連れて後退しろ。その後の判断は任せる」

 

そういうと返事を待たずに機体のブースターを吹かして、プリンセスへと向かって行く。

ここからは俺の我がままだ。だから他の者達を巻き込む訳にはいかない。特に折紙は納得しないだろうしな。

そんな俺を阻むかのようにソルジャーの部隊が新たに転移してくると武器を構えてきた。

だが、背後から飛来してきた光弾がソルジャーの1体を貫いて爆散した。

 

『勇君!』

「アミタ!?」

 

俺の前に飛び出したアミタが、拳銃形態のヴァリアントザッパーから魔力弾をソルジャー目掛けて連射し牽制する。

そして、陣形を乱したソルジャーを風鳴が手にした刀で次々と切り伏せていく。

 

『ここは私達に任せて、行って下さい勇君!』

『これは貸しにしておいてやる』

「アミタ、風鳴!だが…!」

 

これは俺の我がままだ、お前達が付き合うことはないと言おうとするも。その隙にB型の1体が俺へとランチャーを構えながら、ミサイルを放とうとしていた。

 

「しまッ!?」

 

アミタ達に気を取られていたため回避行動が間に合わない!

少しでもダメージを減らそうと防御しようとした瞬間。飛来したレーザーブレードがB型の頭部に突き刺さった。

動きが止まったB型へと駆け寄った折紙が、突き刺さったブレードの柄を掴むとそのまま縦に両断した。

 

「折紙!?お前まで…!」

『借りを返す。それだけ』

 

それだけ言うと、折紙はアミタ達と共にソルジャーの部隊へと向かって行く。

借りって、さっきプリンセスから庇った時のことか?

 

「すまない皆!」

 

こんな俺に力を貸してくれる皆の頼もしさに、涙ぐむのを堪えて前へ進むのであった。

 

 

 

 

「邪魔をするな!」

 

一夏は立ちはだかるソルジャーを手にしている『雪片弐型(ゆきひらにがた)』――姉が使用していた武器の名を継ぐブレードで切り伏せていくも、まるで一夏に狙いを定めたかのように集まってくるソルジャーに消耗していく。

 

「くそッ!」

 

埒が明かないことに苛立ちを覚えると、飛来したビームがソルジャーを次々と撃ち抜いていく。

 

「織斑一夏!」

「オルコット!?」

 

ライフルを撃ちながら一夏の隣にセシリアが並ぶ。

 

「ここまわたくしに任せてお行きなさい!」

「この数を1人じゃ無理だ!」

 

少なくとも20はいるだろうソルジャーを相手に、セシリアだけを残すことに躊躇う一夏。

 

「心配する必要はなくてよ。寧ろあなたがいても邪魔になるだけですわ!」

 

ビットを展開して全方位にビームは放ちソルジャーを撃墜していくセシリア。

元々イギリスのIS開発における思想として、無線誘導兵器による1体多数の戦闘を得意としており。この状況はまさに彼女の独壇場といえた。

 

「…わかった。ここは頼む。無理はするなよ!」

 

セシリアと十分な連携を取れない自分では足手まといになると判断した一夏は、この場を彼女に任せプリンセスの元へと向かって行った。

 

「…少しだけ見直してあげますわ」

 

一夏の背中を見送るとセシリアは一人呟いた。

出会った頃とは別人のような迷いのなくなった顔を思い出して、不思議と心が高鳴ったのだった。

 

 

 

 

ソルジャーの妨害を切り抜けた俺は、今だにぶつかり合っているプリンセスとドラグギルディの間に割って入る。

一夏も同じタイミングで駆けつけると、俺はドラグギルディの剣を一夏はプリンセスの剣をそれぞれのサーベルとブレードで受け止めた。

 

『む!?』

 

予想外の事態に僅かに動きが鈍った隙に、剣を押し返してドラグギルディをプリンセスから遠ざける。

 

『フォクスギルディが認めた戦士か。なんのつもりか?』

「助太刀は感謝する。だが、ここからは俺達の戦いだ。これ以上の手出しは控えてもらいたい」

 

真意は不明だが彼に助けられたのは事実だ。恩を仇で返す行為だが、ドラグギルディは愉快そうに目を細めて俺を見ていた。

 

『よかろう。どうやらこれ以上は我の出る幕ではないようだ。ならば――』

 

大剣を構えたドラグギルディは振り返ると、背後からサーベルを手に接近していたソルジャーA型を両断した。

 

『しばらくは集る蝿でも払っているとしよう』

 

『邪魔者はこちらで引き受けるから心行くまで戦え』と背中で語るドラグギルディに感謝の念を込めて一礼すると、プリンセスと剣を交えている一夏へと向かう。

 

 

 

 

「ふふ」

 

去っていく勇を顔を横にずらし目だけで見送りながら、ドラグギルディは笑っていた。

やはり人間は素晴らしい。生物として決して強靭ではない肉体を持ちながら、時にはエレメリアンすら上回る力を発揮するその生命力には尊敬の念すら覚える。

特にこの世界には至高のツインテールを持つテイルレッドや、フォクスギルディが認めた戦士天道勇といった、他の世界の人間とは比較にならない程の『意志の力』を持つ人間が複数いることが判明している。

だからこそドラグギルディは、この世界を侵攻する部隊を決める際に自ら名乗り出たのである。強者と戦い己をさらに高めるために。

そして先程の光を見て確信したのだ。この世界ならば己の限界を超え、命を極限まで燃やす戦いができるのだと。

そう考えると思わず目尻が僅かではあるが、緩むのを抑えられなくなるドラグギルディ。

それを隙が出来たと捉えたのか1体のソルジャーA型がサーベルを手に背後から切りかかってきた。

無論この程度対処するのは造作もないが、ドラグギルディの視界に一筋のいや、二筋の真紅が横切った。

 

「たぁ!」

 

可愛らしい声でありながら気迫を感じさせる声と共に、ドラグギルディを襲おうとしていたソルジャーを、手にしているブレイザーブレイドでテイルレッドが両断した。

 

「我を助けたというのかテイルレッド。侵略者である我を…」

「それはお互い様だろ?俺は借りを作りっぱなしは嫌いなんだ」

「なるほどな」

 

そういって笑みを浮かべるレッドにドラグギルディが笑い返す。

 

「では、この場は共闘といこうではないか、テイルレッドよ!」

「おう!」

 

互いの背中を預けあうと、自分達を包囲しているソルジャーと相対するのであった。

 

 

 

 

「あたしもいるんだけど!?」

 

…蚊帳の外状態となってしまったブルーが、怒りをウェイブランスに乗せてソルジャーに叩きつけるのであった。

 

 

 

 

『うぉおおおおお!!』

 

気合と共に一夏がブレードを振るうと、プリンセスが剣で受け止めるがその剣に亀裂が入った。

精霊の『天使』と『霊装』は霊力と呼ばれるエネルギーで構成されている。つまりあらゆるエネルギーを消滅させる零落白夜は正に天敵と呼べる能力なのである。

エネルギーの総力が多いため一度では消滅させきれないが、何度も繰り返せば無力化できる筈だ。

そのことを感付いたのかプリンセスが距離を取ろうとするも、それを背後に回った俺がサーベルを振るって阻止する。

サーベルを横に跳んで回避したプリンセスに、一夏が再び接近してブレードを振るい受け止めたプリンセスの剣の亀裂がさらに広がった。

 

「そのまま攻めろ一夏ぁ!」

『おう!』

 

俺が牽制し本命の一夏が攻撃する。それを繰り返す内にプリンセスが持つ大剣の亀裂が確実に増えて行いく。

 

『もうやめてくれ!おれはあんたとこれ以上戦いたくないんだ!』

『うるさい!うるさい!うるさい!シドーは死んだんだ!こんな世界に何があるというのだ!』

『その人との思い出まで壊したいのか!あんたはぁ!!』

『!?』

 

一夏の言葉にプリンセスが動きが鈍る。俺達の言葉はまだ彼女に届く!止められる可能性は残っている!

 

『彼は君にこの世界の素晴らしさを伝えた筈だ!それを君自身の手で壊すのか!彼の想いを無駄にしてしまうのか!!』

『それでも私からシドーを奪ったのはこの世界だ!私を拒絶するのはこの世界だあああああ!!』

 

彼女はインスペクターのことを知らないのだろう。だから五河を殺したのがこの世界の人間だと思っているのだろう。どうにかその誤解を解かなければならないか!

だがプリンセスが剣を振り上げ、そこで止める。

そしてその周囲に黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、剣の刃に吸い寄せられるように収束していく。

直感でわかる。あれは彼女の渾身の力を込めた一撃だと。

 

『させるかぁ!!』

 

一夏が止めようとするも異変が起きた。

手にしていたブレードから輝きが失われ、PICが機能しなくなったのか浮遊していた機体が地面へと降りてしまう。

 

『白式!?』

「ッ!エネルギー切れか!?」

 

零落白夜の弱点。それは発動に自身のエネルギーを消費するため極端に燃費が悪いことである。

さらに一夏は、同じくエネルギー消費の激しいイグニッション・ブーストを併用していたため、短時間でエネルギー切れを起こしてしまったのだ。

頼みの綱である零落白夜が使用できなくなった今、もはや俺達にプリンセスを止められる力は残されていなかった。

 

『頼む白式、動いてくれ!俺達はまだ終われないんだ!!』

 

必死に白式を動かそうとするも、願いも虚しく白式は沈黙したままであった。

いや、まるでもうその必要がないといっているように俺には見えた。

遂にプリンセスが剣を振りおろそうとした――その時。

 

 

 

 

――ぉぉ…かぁあ…!

 

 

 

「ん?」

 

ふいにMK-Ⅱのマイクが何か音を拾った。

その音は徐々に大きくなっていき――

 

『十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!』

 

空から。プリンセスよりももっと上から。

そんな叫び声をあげながらプリンセス目掛けて落下してきていたのは、死んだ筈の五河士道であった。

 

「い、五河ぁ!?」

 

非現実過ぎる光景に、俺は思わず素っ頓狂な声を出してしまったのであった。

 

 

 

 

人間とは空を飛べない生き物である。

それは小学生低学年だって知っている生物としての基本であり、絶対的な法則であった。

だが人類の科学の発展にともない、飛行機を生み出したことで人類はその法則を打ち破った。

その後も科学の発展はとどまらず、CR-ユニットやISの登場によって、直接空の世界を感じ取ることができるようになった。

とはいえそんな高価なものを所持できるのは、軍隊を始めとする極一部の巨大な組織だけである。

一般人が体験できるのはせいぜいパラシュートを用いたスカイダイビングで限定的ながら空の世界を堪能することができる。

では、もしそれらがない状態でそらの世界に足を踏み入れたらどうなるか?

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!?!?!?」

 

それを実際に体験している少年がいた。

五河士道――彼は現在十階建てビル程の高さからの落下真っ最中であった。

ソルジャーの攻撃からプリンセス――十香を庇って死んだ筈の彼がなぜこのような状態になっているのかというと。理由は不明だが、なぜか生きていた士道はフラクシナスに回収され、妹でありラタトスク指令である琴里から十香が暴走状態にあることを知らされた。

十香を止めるには、士道が十香とキスをすればいいという要領を得ない琴里の説明と共に、空中をを浮かぶフラクシナスから放り出されたのであった。

そうなれば当然重力に従い、士道の身体は地面へと向かって落下していく。

高度をさげたとはいえ、なんの装備もない状態で落ちれば士道は地面に鮮やかな花を咲かせることとなる。

十香に接近すればリアライザで重力を緩和して受け止めると琴里は言っていたが、それでも怖いものは怖いのである。

意識が飛びそうになる恐怖の中、士道は視界に一つの影を見つけた。

 

「――ッ!」

 

手足を突っ張って姿勢を安定させ、ぶれまくる視界の中、その少女の姿を捉える。

そして。

 

「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」

 

力の限り声を張り上げ、その名を呼んだ。

それから一拍をおかず、身体にかかっていたGと浮遊感が和らぐ。

ラタトスクからのサポートだろう。まだ落下していることに変わりないのだが、これならば――

 

「――」

 

十香が、士道の声に気づいてか、長大な剣を振りかぶったまま、顔を上に向ける。

頬と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。なんともまあみっともない有様だった。

十香と、目が合う。

 

「シ――ドー…?」

 

まだ状況を理解できていないような様子で、十香が呟く。

だんだんと緩やかになっていく落下速度の中、士道はそんな十香の両肩に手をかけた。

空に立つ十香の助力を得るような格好で、その場にとどまる。

 

「よ、よう…十香」

「シドー…ほ、本物、か…?」

「ああ…一応本物だと思う」

 

そう言うと、十香は唇をふるふると振るわせた。

 

「シドー、シドー、シドー…っ!」

「ああ、なん―ー

 

と、答えかけたところで、士道の視界の端凄まじい光が満ちた。

十香が振りかぶったまま空中に静止させていた剣が、あたりを暗闇に変えんばかりに真っ黒な輝きを放っている。

 

「な――なんだこりゃ…」

「ッ…!しまった…力を――」

 

十香が眉をひそめると同時、刃から光が雷のように漏れ出、地面を穿っていった。

 

「と、十香、これは――」

「【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】の制御を誤った…!どこかに放出するしかない…!」

「どこかってどこだ!?」

「――」

 

十香は無言で、地面の方を見た。つられて目をやると、そこにはこちらを――特に士道を信じられないものを見るような目で見ている勇と一夏が見える。

 

「…ッ!十香、お前…っだ、駄目だぞ、あっちに撃っちゃ!」

「で、ではどうしろというのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

言っている間にも、十香の握る剣はあたりに黒い雷を撒き散らしていた。まるで機銃掃射のように、連続して地を抉る。

と、そこで、士道は琴里の言葉を思い出した。

――十香を止め、その力をも封ずる唯一の方法。

 

「…十香。あ、あのだな、落ち着いて聞いてくれ」

「なんだ!今はそれどころでは――」

「それを!何とかできる…かもしれない可能性がある…んだよっ!」

「なんだと!?一体どうするのだ!?」

「あ、ああ。その――」

 

だが士道は、すぐにはそれを口には出すことができなかった。

だって琴里が言った方法はあまりにも支離滅裂で根拠に乏しくて脈絡がなく――

 

「早くしろ!」

「…ッ!」

 

士道は腹を決めると、口を開いた。

 

「そ、その、あれだ…っ!十香!俺と、キッ、キスをしよう…ッ!」

「――何!?」

 

十香が、眉根を寄せてくる。

それもそうだろう。この非常時そんなことを言ったのだ。何かの悪ふざけと取られても仕方あるまい。

 

「す、すまん、忘れてくれ。やっぱり他に方法を――」

「キスとはなんだ!?」

「は…?」

「早く教えろ!」

「…っ、き、キスってのは、こう、唇と唇を合わせ――」

 

と、士道の言葉の途中で。

――十香が何の躊躇いもなく、桜色の唇を、士道の唇に押しつけてきた。すると、士道と十香の周囲が光に包まれた。

光が収まると周りの景色がラタトスクの艦内に変わっていたが、士道にはそれを気にする余裕はなかったのだった。

 

 

 

 

「消えた、だと?」

 

空から降ってきた五河がプリンセスと抱き合って何かを話していたら、突然両者が光に包まれ消えてしまった。

 

『なんだ?どうなったんだ?』

 

隣にいる一夏も突然のことに困惑している。

 

「一夏。白式のレーダーにプリンセスの反応はあるか?」

『いや、なくなってる…』

「こちらもだ」

 

MK-Ⅱのレーダーにもプリンセスの反応は消えている。直前に起きた現象から考えると、五河と共にどこかに転移したらしい。

周囲を確認するとインスペクターとの戦闘も収束に向かっているようだ。

 

『終わったのか?』

「らしい。一夏」

『どうしたの勇兄?』

「後は頼む」

 

そう伝えると仰向けにぶっ倒れる。

いやね。左腕からね血がドバドバとねずっと流れてたのよ。正直今まで動けてたのが不思議なんだわ。プリンセスが消えて気が抜けたらもう無理だわ。疲れたよパト○ッシュ…。

 

『勇兄?勇兄ィィィイイイイイイイ!?!?!?』

 

弟分の悲鳴をBGMに俺は意識を手放すのであった…。

 

 

 

 

「終わったようだな」

 

周囲に散乱するソルジャーだった無数の残骸に囲まれながら、プリンセスがいた空を眺めていたドラグギルディがレッドへと告げる。

話しかけられたレッドは、ブレイドを杖にして立っているのがやっとの状態で返事をすることができなかった。

 

「では、これで我は帰るとしよう」

 

満身創痍のレッドを見て襲い掛かるようなことはせず。マントを翻し、レッドへと背を向けると、ドラグギルディはいずこかへと立ち去ろうとする。

 

「待ってくれドラグギルディ!」

 

残った力を振り絞りレッドが呼び止めると立ち止まり、顔と目だけを動かしレッドを見るドラグギルディ。

 

「その、こんなことを言うのは変かもしれないけど。助けてくれてありがとう」

 

本来敵であるドラグギルディに素直に頭を下げるレッドに、ドラグギルディはフッと笑う。

 

「礼など不要。言った筈だお主を倒すのは我らアルティメギルだとな。故に次に会った時、我は全力でお主を倒す」

「!」

「それまでにどこまで強くなれるか期待しているぞ」

 

不敵に笑うドラグギルディに対して、レッドも不敵に笑い返すことで返事とした。

それを見たドラグギルディは満足そうに目を細めると、今度こそ立ち去っていく。既に沈みかけている夕日が照らすその身体は、あれだけの激戦を経ても傷一つついていなかった。それが今のレッドとの力の差を歴然と表していた。

 

「ドラグギルディ…」

 

背中を見送りながら、いずれ立ちはだかるだろう強敵の名をレッドは呟くのであった。




スパロボ風中断メッセージ

一夏「そういえば勇兄と和人兄と五河さんってさ。妹さんいるよね?」
勇「うん。そうだね」
和人「そういえば義理であるのも一緒だな」
士道「そうですね」
一夏「でさ。妹さんがもしも彼氏連れてきたらどうするのかなぁって思ってさ」
勇「赤飯を炊いてご馳走を作る」
和人「スグが選んだ人なら俺はいいかなぁ」
士道「……」
一夏「五河さん?」
士道「テメェエエエエ!家の琴里に手を出しやがったのかこのヤロォォォオオオ!!!」
一夏「ええぇぇぇえええ!?!?!?」
士道「テメェみたいな朴念仁には絶対やるかよォォォォオオオ!!!」
一夏「ちょ、ちがっ!勇兄、和人兄助けてえええええ!!」
勇「シスコンか」
和人「てか士道も人のこと言えないと思うんだけどなぁ…」

中の人ネタの希望があったのですが、いいネタが思い浮かばず今回は自分で考えたのをとりあえず出してみました。中の人ネタは思いついたらやりますので、どうかお待ち下さいませ。
こんなのをやって欲しいという方がいらっしゃいましたら、活動報告に意見募集の項目があるのでそちらにお寄せ下さい。
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