ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第三話

車に揺られて暫くすると、本島とブルーアイランドを繋ぐ連絡橋が見えてきて、その先に天高くそびえる塔が立っていた。

 

示現エンジン―

一色健次郎を中心とした開発チームによって10年前にブルーアイランドに建造された、世界のエネルギーの95%を担う新エネルギー炉である。

作られたエネルギーは示現エネルギーと呼ばれ、ブルーアイランドから整流プラントを経由して宇宙空間の静止衛星などへ送られ、「エナジーレインシステム」によって世界中へ無線で供給される。

これによって人類は長らく課題となっていたエネルギー問題が解決されるも、建設当初は今まで化石燃料で富を得ていた中東を始めとする石油産出国からの反発は強く、示現エネルギーの受け入れを拒み一部の国では貧困にあえぎ、紛争や内戦が発生していた。

 

連絡橋を抜けて島の入口で手続きを済ませ、更に基地のゲートで手続きすると車は軍の医療棟で停車した。

運転手さんにお礼を言って下車すると、棟の入口から父さんが歩み寄ってきていた。

 

「よく来たな勇。歓迎しよう、盛大にな!!」

「いや、普通に迎えて下さい」

 

相変わらずテンション高いなぁ。いつまで経っても子供っぽさが残っている人である。まあ、だから部下の人達に慕われているんだろうけど。

 

「それで、昨日の子は?」

「ああ、こっちだ。着いてきんしゃいな」

 

最近のことなんかを話しながらついて行くと、ある病室の前に到着する。

なんでか分からないけど、ちょっと緊張してきた…。

父さんがドアをノックすると部屋から「どうぞ」と女性の声がした。

 

「失礼するよフローリアン君」

「お邪魔します」

 

父さんに続いて病室に入ると、昨日助けた子が病衣姿でベットから体を起こしていた。

 

「検査した限り、異常は無いとの報告は受けているけど、調子はどうだい?」

「はい、おかげさまで。そちらにいらっしゃる方が?」

「ああ、君を寝ないで看病してた息子の勇だよ」

「ちょ!?余計なこと言わないでよ!」

 

ものすっごく恥ずかしんですけど!穴があったら入りたいんですけど!

 

「え!?す、すみません私のせいでご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません!」

 

今にも土下座せんばかりの勢いで、ペコペコと頭を下げてくるフローリアンさん。

 

「いやいや!そんなに謝られるとこっちが罪悪感感じちゃうから!頭を上げてくださいって!ホントに!」

「でも…」

「俺が好きでやったことだから、気にしなくてもいいですよ」

「ダメです!助けてもらったらちゃんと恩返しをしなさいって、博士が言ってました!それに私の気がすみません!」

「う、う~ん」

 

あ、この人一度決めたらテコでも動かない人だ。こういう場合はどうしたらいいんでしょう…。

 

「取り敢えずその話は置いといて、自己紹介から始めたらどうだい?」

「あ、そっか」

 

取り敢えず父さんが助け船を出してくれました。

 

「俺は天道勇。勇って呼んでね」

「私はアミティエ・フローリアンです。親しい人にはアミタと呼ばれてますので、勇君もそう呼んで下さい」

「うん、分かったよアミタ。そういえば、どうして家の庭に落ちちゃったの?」

「それは…」

 

軽い気持ちで聞いてしまったが、言いづらそうに俯いてしまうアミタ。じ、地雷踏んじゃった!?

 

「い、いや、言いたくなかったらいいんだ!無神経に聞いちゃってごめん!」

「そ、そういう訳じゃないんです!ただ、余りに情けなくてその、自分が嫌になっちゃっただけなんです!勇君は悪くないんです!」

「情けなくって何があったの?」

「えと、その…」

 

アミタが両手の人差し指を合わせ、恥ずかしそうに頬を赤らめながら口をもごもごさせる。

正直可愛らしいです、はい。

そんなことを考えているとドアがノックされた。

 

「少佐そろそろ時間です」

「む、そうだったな。すまんが勇、彼女の事情聴取を始めるから今日はここまでだ」

「あ、うん」

 

本当はもっと話したいことがあるけど、我が儘は言えないよね。

 

「そう、しょぼくれるな。また面会させてやっからさ」

「本当?」

「ああ、約束だ」

 

そう言って乱暴にだけど頭を撫でてくる父さん。この年になると恥ずかしいけど、不思議と心地よくなるんだよね。

 

 

「ありがとう父さん!じゃあ、またねアミタ!」

「はい、また会いましょう勇」

 

どうしてか分からないけど、また彼女に会えるのが嬉しくて、スキップしそうな軽い足取りで病室を出るのだった。

 

 

 

 

 

病棟を出ると父さんがせっかく来たんだから、いいもん見せてやるよとジープに乗せてくれた。

 

「ねぇ父さん」

「ん?何だ勇?」

「彼女これからどうなるの?」

「通例で言えば、管理局に移送されて元の世界に送られるだろうな」

 

管理局―

時空管理局の略称。

この世界とは違う次元に存在する「ミッドチルダ」と呼ばれている世界で設立された組織である。

「次元世界の平和維持」を目的としており、次元移動を可能とする高度な技術力を持つ。

昨年に起きた「ジュエルシード」事件で接触したことで交流が生まれる。

その後に起きた「闇の書」事件から世間に公表され、技術交換等が盛んに行われているらしい。

 

「そっか…」

 

地球には次元移動するための技術が無いから、アミタが自分の世界に戻ればもう、会うことはできなくなるんだろうな…。

 

「気になるのか?」

「ま、まあ気になるって言うか何て言うか…」

「ふ~ん」

「な、何さ?ニヤニヤして…」

 

無性に腹が立つから止めてよね。

 

「お前、ああいう子が好みなのかぁ。ユウキや志乃ちゃんがいるのに隅に置けないねぇ」

「はぁ!?ち、違うからね!そういうんじゃないから!それに詩乃は相棒だし、ユウキは妹だろう!」

 

突然、何言い出してんのさこのおっさん!?

 

「血は繋がってないんだし、俺としては別に構わないがねぇ」

「構えよ、父親としてさぁ!世間の目とかあるだろう!」

「愛があれば乗り越えられるさ」

「乗り越えちゃダメだろぉ!!」

 

妹に手を出したら、人として完全に終わりだろうがぁ!!

 

「ま、とにかくお前が幸せになってくれれば一番さ。愛花もそう願ってるよ」

「……」

 

天道愛花―

俺の母親で、10年前にISの導入に反対する者達が起こしたテロで俺を庇って死んでしまった。

今ではましになったけど、当時はそのことがトラウマになって、色々と大変だったなぁ。

 

「っと着いたから降りんしゃい」

 

滑走路に停まっていた輸送機の側に停車したジープから降りると、父さんに着いていく。

 

「それで、何を見せてくれるの?」

「ああ、新型のPTさ」

「え?そんなの俺に見せちゃっていいの?」

 

軍人の子だからって不味いのでは?

 

「お前なら言いふらさんだろう?指令には許可貰ってるし、これくらいしか家族サービスしてやれんしな」

「そう言うことならお言葉に甘えちゃおっと」

 

実物のPTを近くで見れる機会なんてそうそう無いからね。

そうこう話している内に、輸送機から1機のPTが搬入車両に牽引されていた。

 

「あれが新型?」

「そう、量産試作型PT「ヒュッケバインMK-Ⅱ」だ」

「ヒュッケバイン…」

 

その姿に思わず見とれてしまう。あの頭部のV型アンテナなんかかっこいいなぁ。

 

「天道少佐!」

 

見とれていると、父さんを呼ぶ声がしたのでそちらを向くと、軍服を着た女性と俺と同い年くらいの少女が歩み寄って来ていた。

 

「日下部大尉に鳶一軍曹か。搬入作業は問題無さそうだな」

「ハッ!直ぐにでも起動試験を行えるかと。所で隣にいる少女は?」

「少女?ああ、こいつは息子の勇だよ」

 

日下部大尉と呼ばれた女性が好奇の目を向けてきたので、俺の頭に手を置きながら紹介する父さん。

 

「息子?え?」

「ハハッ、なりはこれだけど立派な男だよこいつは」

「ええ!?」

 

信じられない物を見た様に驚愕する日下部大尉。隣に無表情で立っていた少女も僅かに眉を潜ませていた。チクショウ…。

 

「ご、ごめんなさい。女の子だと思って…」

「いえ、慣れてますのでお気になさらずに」

 

初めて会う人には必ず間違われてるから、もう慣れたよパトラッシュ。あ、目から汗が…。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

「け、警報!?」

 

突然基地中に鳴り響いた警報に驚いていると、ミサイルと見られる物体が各所に降り注いだ。

 

 

 

 

 

時は少し遡り、ブルーアイランド付近の海域を1隻の潜水艦”ヴェサリウス”が潜行していた。

 

その船内の格納庫に、3機のパワードスーツが収納されていた。

 

その内の1機のPT”量産型ゲシュペンストMK-Ⅱ(通称M型)”を身に纏っている男がいた。

銀色のショートヘアで、歳は10代後半といったところだろう。

瞑想するように目を閉じていたが、不意に通信を知らせる機械音が鳴ったので、目を開けると回線を開く。

 

「どうしたオータム?」

『なぁヴォルフまだ着かないのか?いい加減じっとしてるのも飽きてきたぜ』

 

通信機から聞こえてきた女性の声にまたかと、ゲシュペンストを纏う男――ヴォルフ・ストラージが軽く溜息を吐く。

 

「もう少しだ」

『さっきからそればっかりじゃねぇかよ!あと少しって何時間何分何秒後だよ!』

 

鼓膜が破けんばかりの怒鳴り声に真紅の瞳を細めると、今度は盛大に溜息を吐いた。

 

「大人しく待つことができんのか貴様は…。時が来るまで耐えるのも戦士の必須事項だろうに」

『んなこと言われても、じっとしてるなんて性に合わねぇよ!あたしは縛られるのは嫌いなんだよ!』

 

余程、機体に搭乗したまま待機させられているのが不満なようである。子供の様に駄々をこねる部下に、本日何度目か分からない溜息が漏れる。

 

『うるさいぞ秋女。おちおち寝てもいられん』

『んだよエム。お前だって退屈だろうがよぉ』

 

オータムとは別の回線から、幼さが残る女性の声が聞こえてきた。眠りを妨げられたのか大分イラついている様である。

 

『貴様も兵士なら黙って命令に従っていろ。ことある毎にギャーギャー喚かれていたら叶わん』

『何だと!?私は場を盛り上げてやろうと思ってだなぁ!』

『誰も頼んでいない』

 

段々と喧嘩腰になっていく二人。今にも殴り合いを始めんばかりの勢いである。

 

『チッ相変わらず可愛げがねぇガキだぜ!』

『黙れ年増』

『あ!?』

「いい加減にしろ貴様ら!纏めて海に捨てられたいか!」

 

どんどんヒートアップしていき、このままだと面倒なことになるので、一喝して黙らせるヴォルフ。

腕は確かなのだかいかんせん馬が合わないので、しょっちゅう喧嘩してしまい、その度に部隊長である自分が止めなければならないので、面倒極まりない。

こんな編成にした上司の女性を軽く恨みながら、最早癖となってしまった溜息を吐き出す。溜息を吐くと幸せが逃げると言うが、自分の幸せはとうに底を尽きるていることだろう。別にどうでもいいが。

 

『わ、悪かったよ。そうだ!この作戦が終わったら、美味いもん食いに行こうぜ!な!』

『何を言っている秋女。ヴォルフには私の訓練に付き合ってもらう』

『はぁ?作戦後に訓練って、やっぱお前マゾだろうエムだけに」

『殺すぞ』

「だから貴様ら…」

 

再び喧嘩を始めようとしたので、止めようとしたら艦橋から通信が入る。

 

「こちらシャドウ1」

『まもなく作戦領域に入りますので、機動部隊各員は出撃準備に入って下さい』

「シャドウ1了解」

 

オペレーターからの通信を終えると、機体を機動させるヴォルフ。

 

「シャドウ2、3聞こえたな。そろそろ祭りが始まるぞ」

『シャドウ2了解!へへっ腕が鳴るぜ!』

『シャドウ3了解』

 

部下の応答を聞くと船体が僅かに揺れだすのだった。

 

 

 

 

 

一方の艦橋では複数のクルーがコンソールを操作しており、艦長席には初老の男性が腰掛けていた。

 

「艦長、まもなく目標ポイントに到達します」

「よし、ASRS(アスレス)解除後に急速浮上せよ!」

「了解!」

 

オペレーターからの報告を受けたガデス・ハンプソンは素早く指示を出す。

ガデスの声にクルーがコンソールを操作するとECMが解除され、船体が浮上に伴い僅かに振動を始める。

 

「浮上完了まで後5…4…3…2…1…浮上完了!」

 

船体が激しく揺れると、海水一色だったメインスクリーンに青空が映し出された。

 

「全ミサイル発射管開ならびにハッチ開けぇ!」

「全発射管ならびにハッチ解放!」

「目標、ブルーアイランド基地。発射!」

「発射!」

 

号令と共に船体上部の発射口とハッチが展開され、射出用のカタパルトがせり出す。

そして発射口から、無数のミサイルが放たれると目標である基地へと降り注ぐ。

 

「次、機動部隊を出せ!」

「了解!機動部隊全機発進せよ!」

 

 

 

 

 

オペレーターからの指示を受けると、機体を操作し出撃体制に入るヴォルフ。

 

「了解、シャドウ1ゲシュペンスト出るぞ!」

 

掛け声と同時に機体がカタパルトに沿って上昇し、高速で外部へと打ち出されると、モニター越しに青空と海面が広がる。

ある程度高度が上がると、機体背面に装備された浮遊機関”テスラ・ドライブ”を稼働させて空中で静止する。

次に武装である機体の全長程ある火砲”バスター・ランチャー”が射ち出されたので、それを掴むと右腕と脇で保持する。

付近を確認するとエムの搭乗するイギリスから強奪した第三世代IS”サイレント・ゼフィルス”と、オータムが搭乗するアメリカから強奪した第2世代型IS”アラクネ”も体制を整えていた。

 

「シャドウ1より各機へ、目標は新型PTの奪取だ行くぞ」

『『了解(!)』』

 

部下の返答を聞くと、機体をミサイルの爆撃で炎上しているブルーアイランド基地へと飛翔させるのだった。

 

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