ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十話

とある高速道路を一台の護送車が走っており、その前後左右を警察の機動部隊所属であるESOが一機ずつ囲むようにして並走している。

その内部には数人の警察官に囚人服を着た2~30代と見られる男――須郷伸之がうな垂れていた。

元は総合電子機器メーカー「レクト」社員にして、同社のフルダイブ技術研究部門の主任研究員として順風満帆の人生であった。

そしてさらなる躍進のために、当時SAOに囚われていた明日菜を始めとするプレイヤー300人の意識をSAO開放の混乱に乗じてALOに拉致し、人体実験を行っていたのである。

さらにはレクト社長の娘である明日奈と結婚することでレクトを手に入れ、研究成果とレクトを手土産にアメリカの企業に自身を売り込むことを企む。

――しかし、その企みはものの見事に砕け散った。

明日菜を救いにALOにダイブしたキリトこと和人によって全ての悪事が暴かれたのである。

あっけなく逮捕後も黙秘に次ぐ黙秘、否定に次ぐ否定、挙句に全てをSAO事件の首謀者茅場晶彦に負わせようとするなど醜く足掻きに足掻いていた。

そう、この男。一切の反省などしていなかった。野望を今だに捨てきれず、ひたすらにチャンスを待っていた。再び己が返り咲き華々しい人生に泥をつけた者に復讐する時を。

そして車が衝撃に揺れて止まった瞬間。動揺が走る警察官を尻目に須郷は顔を上げて悪意に満ちた笑みを浮かべていた――

 

 

 

 

上空から飛来した閃光が進路上の道路を砕いたため、護送車と護衛のESO部隊が急停止した。

 

『襲撃か!?』

 

部隊長である先頭にいたESO搭乗員が上空に視線を向けるも、夜空と月が写るのみで何者の姿も形も存在しなかった。

が、不意に警報が鳴りレーダーが機影を捉えた。自分達の真横である反対車線から――

慌ててそちらを向くと。PTの特徴である全身装甲でありながらゲシュペンストとは違い、頭部のV字アンテナが特徴的な夜間の暗闇に溶け込みそうな漆黒のカラーリングをした機体が、着地した勢いでコンクリートを削りながら両手で保持している大型の火砲をこちらに向けながら突撃してきていた。

 

『が!?』

 

反応する間もなく火砲に取り付けられていた斧型の銃剣によって隊長機は胴体を突き刺され、勢いのまま遮音壁へと叩きつけられた。

 

『隊長!?このォ!』

 

激昂した1機が腕部からナイフを取り出し、足底のローラーを駆使して襲撃者――ヒュッケバインMK-Ⅱハウンドへと向かって行く。

背後からの攻撃であるにも関わらず手にしていた火砲を手放し、まるで見えているかのように跳び上がり突き出されたナイフを避けると、爪先に内臓されているナイフを展開し回し蹴りの要領で装甲の薄い喉元を切り裂くと。ナイフを突き出したESOは傷口から血を噴き出しながら膝をついて仰向けに倒れた。

残りのESOが保持しているアサルトライフをハウンドへ放つも、左右に高速でホバリングするハウンドを捉らえられず、遂には弾切れを起こした。

その隙を逃さずハウンドが一瞬で1体のESOへ接近すると、指先が鋭く尖った右手を手刀の形にして喉元へ突き刺した。

 

『ヒッ!アァァ!?』

 

最後の1人となった歳若いESO搭乗者が慄きながら、アサルトライフルをハウンドへと向けてトリガーを引くも、ハウンドは突き刺したESOを盾にして銃弾を防ぐ。

そして左腕部に内臓されたガトリングを展開すると、残りのESOに向けて発砲する。

吐き出された無数の弾丸はESOの装甲を紙の様に突破し、搭乗者もろとも蜂の巣としながら衝撃で徐々に後退していく。ハウンドが撃ち終えるとESOは力なく膝を着き沈黙した。

護衛を排除したハウンドは護送車へと歩み寄って行く。

護送車に乗っていた警察官はESOが全滅した時点で逃亡しており、開け放たれたドアより須郷が不敵な笑みを浮かべながら出てきた。それと同時に空からヘリコプターが少し離れた位置に着陸してきた。

 

「遅かったじゃないか。まったく、この僕をいつまでまたせる気だったんだ。ええ?」

『無駄口を叩くな。すぐに増援が来る。さっさと乗れ』

 

やたらと威圧的な態度の須郷だが、ハウンド――ヴォルフは須郷のことなど興味がない様子で、壁に刺さっているランチャーを回収し周囲を警戒している。

そんなヴォルフの態度が気に食わなかったのか、須郷は不機嫌そうにヴォルフを睨みつけた。

 

「なんだその態度は?飼い犬は礼儀もしらないのか?本来ならこの僕と話をすること自体光栄に――」

 

吐き捨てるように話す須郷の顔面に向けて、ヴォルフは右手で保持していたバスター・ランチャーを向けた。

 

「ひッ!?」

『さっさと乗れと言った筈だ。俺としてはこのまま貴様を置いていっても構わんのだぞ?」

 

バイザー越しのヴォルフの目はいつも異常に険しく、本気でトリガーを引くのではないかと思える程に冷え切っていた。

 

「わ、分かった。の、乗ればいいんだろ!」

 

まるでヴォルフから逃げるようにヘリへと早足で向かって行く須郷。

 

「(くそ、くそ、くそ!どいつもこいつも僕の価値が分からない愚か者どもめ!今に見ていろ!桐ヶ谷和人共々、必ず僕の足元にひれ伏せさせてやる!)」

 

心の中であらん限りに罵詈雑言を吐きながら須郷がヘリへと乗り込むと、ゆっくりと飛び上がる。

ヘリが離脱していくと、ヴォルフもその後を追って機体を飛び上がらせるのであった。

 

 

 

 

須郷が脱獄している同時刻の東京にある少年院にて、1人の看守がある部屋の前で立ち止まった。

看守が鍵を使いドアを開けて中に入ると。1人の少年が部屋の隅で膝を抱えながら顔を俯かせて座り込んでいた。

 

「朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん」

 

狂気を感じさせる程に、同じことをうわごとのように繰り返し呟いている少年――新川恭二を見て看守は口元を歪めた。

 

「君が新川恭二君だね?」

「朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん朝田さん――」

 

看守の声など聞こえていないかのように同じことを呟いている恭二だが。看守は構わず言葉を続けた。

 

「天道勇」

 

看守が勇の名を口にしたとたん。無反応だった恭二が顔を上げて看守に視線を向けた。その目に映るのはどす黒いまでの憎悪であった――

 

「天道勇…」

「そう。君から大切な人を奪い、こんな所に閉じ込めた張本人、だろう?」

「天道勇ゥ!そうだ、僕からシノンを――朝田さん奪ったクソ野朗だ!!」

 

地獄の底から聞こえるのではないかと錯覚する程の声音で怨嗟の声を上げる恭二。

彼はかつて詩乃と同じ高校に通っており、彼女がGGOをプレイするきっかけを作った男である。

だが、詩乃に対して歪んだ感情を持ち。後に兄と共に『死銃事件』を引き起こすと、彼女と無理心中を図ろうとしたが、間一髪のところで勇に阻止され逮捕されこの少年院へと送られたのである。

 

「憎いだろう?殺したいだろう?復讐したいだろう?」

「ああ、憎い!殺したい!この手で息に根を止めてやりたい!!」

 

頭を掻き毟りながら勇への殺意を募らせていく恭二に、看守は口元の歪みを大きくしていく。

 

「そうか、そうか。だったらその願い叶えようじゃないかぁ」

「何?」

 

その言葉に恭二は疑問の声を上げる恭二。よく見ればその看守の顔は見たことがなく。その目は血に飢えているようであり、纏っている雰囲気もとてもではないが看守とは思えなかった。

 

「誰だあんたは?看守じゃないな?」

「ああ、そうだよ。でも、そんなのはどうでもいいじゃないか。君にとって大事なのは天道勇への復讐じゃないかな?」

 

それもそうかと恭二は納得する。この男がなんであれ――悪魔の使いであろうと構わなかった。あの男に復讐できるのなら悪魔に魂を売ってもかまわなかった。

 

「俺に協力してくれれば君をここから出してあげよう」

「協力?何をすればいいんだ?」

「なぁに簡単なことさ。天道勇をぶっ殺すってことだけだからさぁ」

 

提示された条件に恭二は口元を歪めた。元よりそれ以外に興味はないのだ。ならばなにも問題はない。

 

「分かった。僕に天道勇をぶっ殺させてくれ」

「いいね、いいねその目。見込んだ通りだよ」

 

恭二の返事に満足そうな笑みを浮かべると、男は恭二と共に部屋から出て行く。

 

「そういえば、あんたのことはなんて呼べばいいんだ?」

 

男の正体には興味はないが。呼び方くらいは知っておかないと何かと困ってしまう。

 

「ああ、それもそうだな。俺はヴァサゴ・カザルス。ま、好きに呼んでくれや」

「分かったヴァサゴ」

「さあ。これから楽しいPartyの準備だ」

 

恭二を連れて歩くヴァサゴは、両手を広げて子供のようにはしゃぎながら愉快そうに笑う。その笑みはこの世の悪意を凝縮させたかのようであった。




私のイメージでは本作でヴァサゴ・カザルスの声はアニメ版の小山剛志さんではなく、ゲーム版の藤原啓治さんとなっておりますのでご了承下さいませ。
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