ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十三話

天宮市市街地にある高層ビルの屋上にて、少女れいと彼女の肩に止まっているカラスが警報が鳴り響く街を見下ろしていた。

 

『いいですかれい。優先すべきはイレギュラーの排除です。精霊の捕獲はその後とします』

 

れいにそう指示するカラスだが。今まで見せていた余裕はなく、どこか焦りを滲ませていた

 

「わかってる」

 

そう答えつつ一月程前のことをれいは思い出していた。

 

 

 

 

拠点としている天宮市市街地にあるアパートの一室にて、カラスが床に立ちながら恭しくこうべを垂れており、その斜め後ろにれいが控えるように跪いていた。

彼女らの前には端末と見られる機器がおかれており、そこから空中投影されている映像には『SOUND ONLY』とだけ表示されていた。

 

『なるほど。そちらの状況は理解した。すぐに増援を送ろうSA508』

 

端末から聞こえてくるのは、若さを感じるがそれでも威厳を感じさせる男の声であった。

 

『はは。ありがとうございますウェンドロ様』

 

その声の主に対して、下げていた頭を床に着かんばかりに下げるカラス。その姿に普段見せている尊大さはなく、まるで借りてきた猫のようであった。

今話しているのは彼女らの上位に位置する存在であり。れいにとっては命の恩人といえる者である。

前回のプリンセス捕獲を試みるも失敗に終わり。与えられた戦力の大半を失ってしまったので、報告も兼ねて戦力の補充を願い出ることとなったのである。

見下していた世界の者達に苦戦を強いられ、あまつさえ救援をこう事態となったのはカラスにとって屈辱の極みなのだろう。

感情的になる人間を馬鹿にしているが、れいからしてみると彼女も大差ないようにしか見えないのが本音であった。

 

『間もなく今僕が担当している世界の『浄化』が完了する。それが済み次第そちらに向かう。それまでデータ収集を継続するんだSA508』

『承知しました』

 

ウェンドロと呼ばれる者の言葉にへりくだって答えるカラス。

 

「ウェンドロ様」

『なんだいれい?』

 

今まで沈黙を保っていたれいが跪いたまま口を開く。

 

「どうか私にも出撃の許可を」

『れい!?あなたごときがウェンドロ様に意見しようなど、身の程を知りなさい!』

『構わないよSA508』

 

カラスがれいを窘めようとするが、ウェンドロと呼ばれる者は気にした様子もなくカラスを制した。

 

『元々君をその世界に送ったのはこういった事態に備えてだからね。いいだろう許可しようれい』

「ありがとうございますウェンドロ様」

『君の活躍に期待するよ。ではね』

 

その言葉を最後にモニターが消え部屋に静寂が訪れる。

跪いたまま何か覚悟を決めている様子のれいを、カラスは忌々しそうに睨みつけていた。

 

 

 

 

響は天宮市内市街地を慌てた様子で駆けていた。

今日はツヴァイウィングの新作CDの発売日なのだが。今日が期限の課題に手間取り未来の手助けでどうにか終わらせるも、既に日は沈み始めていた。

ツヴァイウィングは誘宵美九と並ぶ日本を代表する歌手であり。新曲が出る度に、日本中の店舗でCDが即日完売が多発することからもその人気ぶりがうかがえるだろう。

ツヴァイウィングのファンである響は、今日の発売日を心待ちにしていたのだが。時間から考えてもの近場の販売店は既に売り切れとなっている可能性が高い、それでも僅かな希望を胸に全力疾走していた。

 

 

 

 

ポツッ

 

 

 

 

「あれ?」

 

鼻先に触れた感触に思わず足を止める響。

空を見上げるとポツポツ雨が降り始めており、その勢いは徐々に増していた。

 

「ふぇ~雨だぁ」

 

響は慌てて近くの建物に駆け寄り雨を凌ぐ。

 

「も~予報じゃ今日は雨は降らないって言ってたのに~」

 

既に雨は傘なしでは出歩けないまでに降っていた。

予報を信じて傘を持ってきていないため、響は選べる選択肢は雨が止むまで待つか、濡れるの覚悟で販売店に向かうかの2つであった。

レコードは欲しい。でも、このまま買いに言けば制服がずぶ濡れとなってしまう。そうなれば色々と面倒だが、そういったことは寮のルームメイトである未来がやってくれたりする。最も長々とした小言がついてくるが…。

 

「(今日は諦めようかなぁ。ん~でも、それだと次の入荷待ちになるだろうし…)

 

腕を組んでムムムと唸る響。明日になれば入荷待ちは必然。それまで待てる自信が彼女にはなかった。

 

「よし、行こう!」

 

未来には申し訳ないが、これも祝福の時間を手にするためなのだ。代わりに今度何か奢ってあげれば問題なかろうと決断を下す。

 

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

 

 

 

「嘘、空間震警報!?」

 

さあ、行くぞと駆けだそうとした瞬間。耳をつんざくように街中に響き渡る警報に、思わずつんのめる響。

 

『空間震が発生します。市民の皆さんは係員の指示に従い、落ち着いて近くのシェルターへ避難して下さい。繰り返します――』

 

道路建てられているスピーカーからアナウンスが流れ出し、周りにいた人々が慌てた様子で避難を始める。

せっかくの発売日だったのにと残念に思いながら、自分も避難しようとすると再び足が止まった。

 

「おかぁさぁぁぁああああん!!」

 

避難する人々の喧騒の中、1人の少女が立ち止まって泣いていたのだ。どうやた避難のどさくさで母親とはぐれてしまったらしい。

他の人々が気にしている余裕もなく避難していくのを尻目に、響はその少女へと駆け寄る。

 

「あなたお母さんとはぐれちゃったの?」

「グスッ、うん…」

 

話しかけると少女は涙を堪えながら頷く。そんな少女に響はしゃがみ込んで目線を合わせると、その右手を取り落ち着かせるように笑顔を向ける。

 

「大丈夫だよ。お姉ちゃんがお母さんに合わせてあげるからね」

「本当?」

「うん!さあ、こっちだよ」

 

響は少女の手を引き、近くのシェルターへ向かって駆けだす。すると、街の一角が眩い閃光に包まれて大気が震え、その衝撃が襲い掛かる。

 

「……!!」

 

授業にて映像だけで見たことのある空間震によるものだと理解するや否や、響は少女を抱きしめて座り込む。

衝撃が壁としている背中に叩きつけられるが、発生地点が遠かったため衝撃は弱くすぐに収まった。周りの建物もひび割れは見られるがすぐに倒壊する危険性は見られなかった。

 

「大丈夫?」

「うん。大丈夫」

 

腕の中の少女の無事を確認するとホッと息を吐く響。だが、その表情が驚愕に染まる。

彼女の周囲の地面から滲み出るようにに現れたのは、人ならざる姿をした不気味に発光する存在――ノイズであった。

人に近い形状の2足歩行型や、球体のような形状をしたタイプといった、無数のノイズが次々と現れ響と少女へとジリジリと迫っていく。

 

「ノ、ノイズ…」

 

ノイズの姿を見た響の脳裏に2年前の悪夢が蘇る。逃げ惑う人々の悲鳴とノイズに襲われた人達の命尽きる間際の悲痛な叫びが、そして自身の――

 

「お姉ちゃん…」

 

少女が不安そうな表情で響を見上げている。響は少女を抱きかかえながら立ち上がると、ノイズから遠ざかるためにジリジリと後ずさる。

しかし、すでにノイズに囲まれており、背後には建物があるため逃げ場はなかった。

詰め寄ってきたノイズが一斉に襲い掛かろうとした時――

 

『チャクラム!』

 

囲んでいたノイズらの背後から飛んできた円盤状の刃物が、次々とノイズを斬り裂いていき。響と少女への道ができる。

そして、その道を1体のPTがホバーで駆け抜けると、響と少女を守るようにノイズへと立ち塞がった。その姿は、以前リディアンがインスペクターに襲撃された際に助けてくれたPTであった。つまり――

 

「勇さん!?」

『退がっていろ!』

 

驚いている響にそう伝えると、勇は纏っているMK-Ⅱの左腕をノイズの群れへと向けた。

 

『おらぁ!!』

 

勇は、左手首に装備されているワイヤーつきのチャクラムを鞭のように操り蹴散らしていく。

繰り出されたチャクラムは先ほどと同じように、次々とノイズを斬り裂き、瞬く間に周辺のノイズは一掃されていった。

 

「助かった…?」

 

周りにノイズがいなくなったことへの安心感から、少女を抱えたままへたり込む響。そんな彼女に勇が歩み寄るのであった。

 

 

 

 

「無事か立花?」

『あ、はい。この子も無事です』

 

そう問いかけると、ぎこちなくだが頷いて抱いている少女見せるようにして答える立花。

精霊の出現に備えていたら、軍の展開していない地点に生体反応があったので飛ばしてきたが。どうやら間に合ったか。二度あることは三度あるか、望まないこと程起きるものらしい。本当に勘弁してもらいたいものである。

 

「近くのシェルターまで連れていく掴まれ」

『わ、わぁ!?』

 

膝を着き左手で立花を少女ごと抱えて立ち上がと、頬を赤くして可愛らしい悲鳴をあげた。

 

『お姉ちゃんお顔真っ赤だよ?』

『ふぇ!?そ、そそそそんなことないよ!?』

 

そのことを少女に指摘されると、ますます顔まで赤くなる立花。否定しても説得力はないな。

 

「飛ばすぞ。舌を噛むから口を閉じていろ」

『あ、はい』

 

立花と少女が口を閉じたのを確認すると、2人に負担にならない速度のホバーで移動する。

レーダーに映るノイズの集団を避けながらシェルターを目指す。よし、後少しで――

 

「ッ!!」

『きゃ!?』

 

殺気を感じて横に跳ぶと、突然のことに立花と少女が悲鳴をあげる。

上空から飛来した矢状のエネルギー体が、通過しようとしていた空間を通り過ぎて地面に落ちコンクリートを砕いた。

これは、ノイズの攻撃ではない!

ビームが飛来した方角を見ると。ビルの屋上に、インスペクターのソルジャーに似た機体が立っていた。

紫混じの黒色の機体色に、全体的にスリムな形状で細部に違いが見られる。左手に保持している洋弓状の武装がこちらに向けている。

カスタムタイプか?それに転移なく出現しただと――

 

「ッ!?」

 

MK-Ⅱのセンサーが転移反応を捉え警報を鳴らす。

戦域上空が渦巻くように歪んでいき、そこから見慣れた形状のソルジャーが多数出現していく。

その間にカスタムタイプが、洋弓状の武装の弦を右手で引き絞ると、番えるようにエネルギー状の矢が形成された。

右手を離すと、俺が知る弓矢と同じく、弦が元の形状に戻ろうとする反動を利用するかのごとく矢が放たれる。

立花や少女の負担にならないように意識しながら後ろに跳んで回避すると同時に、前へ放り投げたショットガンに頭部のバルカンを撃つ。

弾弾が弾倉に当たり爆発を起こし、それによって生まれた煙を目隠している間に立花を地面に降ろす。

 

「シェルターまでもうすぐだ!その子を連れて行け!」

『は、はい!』

 

少女を抱えたまま走り出す立花の気配を背中越しに感じながら、腰部両側面のウェポンラックからサーベルを取り出すとビームの刃を展開する。

それと同時に煙を突き抜けてきたカスタムタイプが、左腕の洋弓を変形させたと見られる剣を下段から振り上げてくる。

左手のサーベルで受け流すと同時に、右手のサーベルでカウンターの一閃を振るうも。上体を逸らして避けながらその勢いを利用して蹴りを放ってくる。

後ろ跳んで回避するのに合わせて、カスタムタイプの剣の先端が分かれそこからビームが撃ち出される。

こちらの動きを読まれたか!咄嗟にザンバーで受け止めその衝撃で機体が僅かだが揺れ、刹那動きを止められる。

その隙を逃してくれることなく、ブースターを吹かして間合いを詰め剣を振るってくるカスタムタイプ。

 

「チィ!!」

 

回避も防御も間に合わないので、俺が選んだのは前進。右肩を突き出しながら、こちらからも間合いを詰めた。

これによって間合いを狂わされたカスタムタイプの反応が遅れる。その胴体にタックルをぶちかまし怯ませると、右手のサーベルを横一閃に振り抜く。

だが、スラスターを吹かして後退されたので左脇腹を掠めただけに終わった。この動きは――

 

「こいつの動き、ただのAIではないな」

 

カスタムされているとはいえ、今まで戦ってきたソルジャーの動きとは別物だ。そう、まるで人間を相手にしているかのようだ。

 

「となると、インスペクターの上位個体なのか?」

 

指揮官クラスのAIは人間と同様の思考プロセスを持つと言う。だが、目の前のこいつからは人と同じ意思の強さを感じられた。

 

「どうなっている?お前はいったい…」

 

バルカンで牽制しつつチャクラムを発射し、相手の視界の外から襲い掛かるように操作する。

カスタムタイプがサイドステップで躱したところに、チャクラムのワイヤーを掴んで引っ張り上げる。そうすることで、チャクラムの軌道をカスタムタイプの顔面を強襲するように変える。

それに対して、上半身を後ろに逸らしながら、全身のスラスターを駆使しバク転することで回避したカスタムタイプ。そこから素早く体制を立て直すと剣の先端からビームを撃ってきた。反応が早い、対応できん!

 

「チィッ!」

 

ビームが右肩に当たり装甲が吹き飛び、その熱が肉体を焼く。それにより動きを止められた隙に、接近してきたカスタムタイプが剣を振り下ろしてきた。

咄嗟にスラスターを吹かして後退したことで、胴体の装甲が斬り裂かれただけで済んだ。

追撃で振り上げられた剣をサーベルを交差させて受け止めるも、力負けして弾き飛ばされる。こいつまだ出力が上がるのか!?

態勢を立て直して着地するのと同時に、接近してきたカスタムタイプに蹴り飛ばされ、背中から地面に叩きつけられてしまう。

追撃で顔面目がけて突き立てられた逆手持ちの剣を転がって避けると、バルカンを撃ち被弾して怯んだ隙にスラスターを駆使して起き上がる。

 

「うおらぁ!!」

 

踏み込むと同時に右手のサーベルを横薙ぎに振るうも、それよりも先に振るわれた剣によって払い落される。

押されている!?性能差だけじゃない。奴のから感じられる執念、意思の力も後押ししているのか!

 

「だったら、気持ちだけでも負けるかよぉ!!」

 

気合を入れると同時に左手のサーベルを右手に持ち替え、ザンバーを展開してブースターを吹かしながら斬り込む。

サーベルを振るうと、同じく斬り込んできたカスタムタイプの剣と斬り結んでから、互いに一旦距離を取ってから再度接近して斬り合う。

数合打ち合い、サーベルで剣をかち上げると胴体目がけてザンバーを振るった。だが、ビームの刃が当たる前に、カスタムタイプが放った膝蹴りによって、左腕を装甲ごと砕かれてしまった。ひしゃげたフレームが生身の腕を押し潰し、砕けた破片が突き刺さる。

 

「ッ!」

 

やはり反応が早い!左腕から流れる痛みを無視して体制を立て直そうとするも、カスタムタイプが放った回し蹴りが側頭部を直撃した。

 

「がッ!?」

 

衝撃によって吹き飛び近くの建物へと激突してめり込んでしまう。脳が揺さぶられて視界がぼやけてしまい、体を動かすことができなくなっていた。

その間にもカスタムタイプは、警戒しながらゆっくりと歩み寄っていた。

対応しようにも指先一つ満足に動かすことができない。機体もそして何より、俺自身のダメージが大き過ぎたらしい。遂に目の前まで接近したカスタムタイプが剣を振り上げた。

 

『消えろイレギュラー』

 

女性、それも少女に聞こえる声がカスタムタイプから聞こえてきた。その声には憎しみが込められていたが、どこか悲しんでいるようにも俺には聞こえた。

そして剣が振るわれ――

 

 

 

 

―――♪―――♪―――♪

 

 

 

 

ようとした瞬間どこからか歌声が鼓膜を揺らした。

 

『歌、だと!?』

 

カスタムタイプにも聞こえたようで。困惑したように、剣を振るおうとしていた手を止めて辺りを見回している。

すると衝撃が地面を揺らし、無数のノイズが空高く弾け飛び、1つの人影が空高く舞い上がっているのが視界に映った。

 

「立、花?」

 

その影の姿を鮮明に捉えると俺は言葉を失っていた。

なぜなら、少女を抱えて舞い上がっていたのは、風鳴のと酷似したスーツの上にプロテクターを纏った立花であったのだ。




先週になのはの映画見てきました。
アニメで動くフローリアン姉妹とマテリアルズを見れて嬉しかったです。
特にフェイトとリンディの親子の絆が一番良かったと個人的には思いますし、続きが気になる大変満足のいく内容でした。

それと、話は変わりますが本作の主人公部隊である『独立混成遊撃部隊』の正式名称なんですが。ぶっちゃけると未だに決まっていないんですよね…。
正直私のネーミングセンスは壊滅的なので、読書の皆様の意見を頂ければ幸いです。
活動報告に項目を設けますので、そちらかメッセージで直接送ってもらっても問題ないです。決まりは特にないので、お気軽にお寄せ下さいませ。
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