ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十四話

勇と別れた響は少女を抱えてシェルターを目指して、銃声や爆発音が断続的に響き渡る市街地を駆けていた。

避難勧告が出る前から全力疾走していたこともあり、だいぶ前から足が悲鳴を上げているが。命がけで逃がしてくれた勇のためにも、響は速度を緩めることなく足を動かした。

 

「見えた…!」

 

道路に信号と共に設置されている電光掲示板を視界に捉えると。曲がり角から少し先にシェルターへの入り口が存在することが表示されており、思わず安堵の声が漏れる。

あと一息だと自らに言い聞かせ角を曲がると、その希望は目の前に広がる異形の集団によって打ち砕かれた。

ノイズの群れが目的地までの道を埋め尽くしており、響達の存在に気が付いた1体が振り向くと他の個体も次々と振り向いていく。

 

「嘘ッ…!」

 

こちらへと向かってくる災厄に、希望は絶望に変わり周囲の風景が『あの日』のものと重なる。

呼吸ができなくなり膝が折れそうになったとき、腕の中にある温もりが手に触れた。

 

「お姉ちゃん…」

 

響が抱いている少女が不安を隠せない瞳で見つめてくる。この子も『あの日』の自分と同じ――いや、それ以上の恐怖を抱いているだろう。ここで自分が諦めてしまったら、この幼い(未来)まで失われてしまう。

 

「(それだけは駄目だ!)」

 

何があっても離さないように少女を抱きしめ直すと周囲を見回す響。その体に既に震えはなく、瞳には諦めの色は消えていた。

一番に助けに来てほしい人はもう来てくれない、今も自分達のために必死に戦ってくれている。彼のためにも諦めるわけにはいかないのだ。

とは言え響にできることは、助けが来るまでただ逃げることだけである。ノイズの群れに背を向けると全力で駆けだす。

それをノイズの群れは追いかけていく。幸いと速度はそれ程差はなく、瞬く間に追いつかれることはないが。徐々に差を詰められており、また響の体力がとうに限界を超えていたため、いつまでの逃げ続けることは不可能だった。

 

「それでも諦めない!」

 

『あの日』自分を助けてくれた女性と、その後の暗闇から自分を光へと引き上げてくれた想い人の言葉と共に。前へ前へと駆ける。

だが、そんな響の想いとは裏腹に進行方向からもノイズの群れが姿を現す。

 

「――ッ!!」

 

足を止めて逃げ道を探すも。今いるのは一本道であり、前と後ろからノイズの群れが迫ってきていたため、どこにも逃げ場はない。

 

「(諦めない、諦めるもんか!)」

 

生きることを諦めるのは死ぬことと同義だ。自分はまだ生きているだから諦めてはいけないと言い聞かせる。

 

「私は絶対、諦めない!!」

 

 

 

 

――♪――♪――♪

 

 

 

 

「え…?」

 

不意にどこからか歌が聞こえてきた。いや、違う。頭の中へと流れ込んでくるのだ。まるで歌えと語りかけているかのように。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

響が無意識の内にその歌を口ずさむと、心臓部から光が漏れ出し、輝きを増していくと天高く伸びていく。

光が収まると響の体に変化が起きる。心臓を中心に自分の体が変化していく感覚に蹲る。すると彼女の背中から機械のパーツのような物がせり出していき、変形しながらその身を包んでいく。

変化が収まると、響の姿は翼が纏っているシンフォギアと酷似したものへと変わっていたのだった。

 

「え?え?な、何!?!?!?」

 

自身の変化に理解が追いつかず困惑してしまう響。

 

「わぁ。お姉ちゃんかっこいい!」

 

そんな響をよそに、腕の中の少女は目を輝かせていた。

 

「そ、そうかな?」

 

少女の反応によって幾分落ち着きを取り戻す響。そうこうしている内に、彼女らを囲んでいるノイズの群れの数体が襲い掛かってきた。

 

「ッ!!」

 

反射的に右手を握り締めて迫るノイズの1体を殴ると、ノイズが軽々と吹き飛び他の個体を巻き込んで灰のようになって崩れた。

 

「私が、やったの?」

 

ノイズを殴った右手を見つめながら呟く響。人間がノイズに触れれば炭素化して死んでしまうのだが、右手を開いたり閉じたりするもは何ともない。

何がどうなっているか分からないが、今の自分には誰かを守れる力があるのだと感じることができた。

 

「よし、しっかり掴まってね!」

「うん!」

 

少女がしがみついたのを確認すると、次々と襲い掛かってくるノイズを殴り倒していく。

 

「やぁぁぁあああああああ!!!」

 

拳を握り締めて跳躍しながら1体のノイズを、アッパーでかち上げるながら跳躍すると、その衝撃で周りのノイズも空高く舞い上がった。

軽く跳んだつもりであったが、予想以上に身体能力が強化されていたため、周囲の建物が見下ろせる程の高さまで跳び上がってしまう。

その際、無意識に勇がいるであろう方角に視線を向けると。傷だらけとなって建物にめり込んでいる勇へと、歩み寄っているインスペクターの機体が視界に飛び込んできた。

その瞬間、胸を締め付けられるような焦燥感と怒りがこみ上げ、今すぐにでも助けにいきたいと思うも。少女を抱えている少女の安全を守らねばならないジレンマに苛まれる。

 

「あ!」

 

そんな折。こちらへと向かって来ているPTの小隊を見つけた響は、そちら向かって降下していった。

 

 

 

 

天城みずは率いるゴースト中隊所属第2PT小隊は、勇からの連絡を受けた勇太郎の指示によって彼の援護に向かうために派遣されていた。

そんな中、目的地付近で未知のエネルギーが発生し。2年前に失われた筈のシンフォギアシステム『ガングニール』の反応が確認されたと機動部二課より報告を受ける。

 

『一体何が?』

 

現場の状況が不明な状況は、生死に直結する戦場に身を置く兵士に極度の緊張を強いる。熟練兵であるみずはも例外ではなく、右手に保持しているマシンガンを無意識に強く握りしめる。

勇の身を案じ今すぐにでも駆け付けたいが。その思いとは裏腹に、既に機体の限界まで速度を上げているため、これ以上急ぐことができないことに歯がゆさを感じていると。不意にアラートが鳴り響く。

レーダーが上空からこちらに向かってくる未確認の反応を検知したのだ。慌てて機体を停止させながら視線を上空へと向けると、1つの人影が自分達目がけて落下してきており。その人影が着地すると衝撃でコンクリートが砕け破片が舞い散った。

 

『ッ!』

 

咄嗟にマシンガンを人影へと向けると、背後の部下達もそれに続く。

だが、目の前の人影をよく見てみると。顔立ちは年半ばの少女であり、身に纏っているのは資料で見たことのあるシンフォギアシステム『ガングニール』に酷似していた。さらに腕にはその少女より年下の少女が抱かれていたこともあり、部下共々思わず構えていた銃口を下げてしまった。

 

「あの!」

 

当の少女は慌てた様子でこちらへと駆け寄ると、抱えていた少女を地面に降ろした。

 

「すいません!この子をお願いします!」

『えっ!ちょ、ちょっと待ちなさい!!』

 

ペコリと頭を下げると、少女はみずはの静止が聞こえていないのか。背を向けて駆けだすと、驚異的な脚力で跳び上がると建物の屋上を飛び移りながら去っていく。

慌てて追いかけようとするも、あっという間に姿が見えなくなってしまうのであった。

 

「おねーちゃん、ありがと~!!」

 

突然過ぎる事態にポカンとしてしまうみずは達をよそに、預けられた少女の元気な声が響いていた。

 

 

 

 

『あれは!?』

 

姿の変わった立花を見たカスタムタイプが動揺している間に、バルカンを奴の頭部目がけて放つ。

 

『ッ!』

 

左腕を盾にして防がれるが視界を塞いだ隙に、腹部に蹴りを入れて強引に距離を取り態勢を整える。

先程見た光景が気になるが、この場をきりぬけないと確かめようもない。

とはいえ、武装がバルカンしかない以上徒手でやるしかないか。

徒手用の構えを取ると、容赦なくカスタムタイプが剣で斬りかかってきた。

 

「ハッ!」

 

剣が振り下ろされるのと同時に踏み込み、剣を持つ手を左手の掌底で自分に引き寄せるように弾き。右手を弓を引くように引き絞り、前のめりとなったカスタムタイプの腹部目がけて掌底を打ち込む。

 

『グッ!?』

 

相手の攻撃する際の勢いも利用して倍増した衝撃が、装甲越しに内部に伝播し苦悶の声を上げ、数歩後ずさるカスタムタイプ。この感触、やはりこいつの中身は――

 

「お前は、人間なのか?」

『!?』

 

俺の問いに先程以上の動揺を見せるカスタムタイプ。

 

「お前が人間ならば、なぜインスペクターに協力するのだ?」

『黙れ、イレギュラー!』

 

カスタムタイプは、俺への問いに答えることなく激昂した様子で再度斬りかかってくる。

地面を削りながら振り上げられた斬撃をバックステップで避け。振り下ろしに繋げようとしたタイミングを合わせ、右足の蹴りで腕をかち上げると、勢いを殺さず右足を引いてがら空きとなった腹部に蹴りを叩きこみ弾き飛ばす。

仰向けに吹き飛び、背中を地面に擦りつけて火花を散らしながら倒れ込むカスタムタイプ。

 

 

 

 

篠ノ之流武術――

箒の実家が戦国の時代に編み出した技であり、敵を倒すより己を守ることを第一としたものである。

特に武器を用いない徒手術は自分で攻撃するより、相手の攻める力を利用したいわゆる『カウンター』が主体となっている。

いかなる窮地も生き残ることを命題とした、篠ノ之流武術を体現した型と言えるだろう。反面、常に敵に先手を譲ることになるので、敵の攻撃に対して最適な対応をしないと無意味となるのため、扱いが最も難しいが。

これまでの戦闘で相手の『癖』は読み取れたので、対応することには問題ないが――

 

「――ッ!」

 

折れそうになった膝に喝を入れて踏ん張る。一見有利になったようにも映るが、立っているだけで体中に激痛が走るし、脳を激しく揺さぶられたせいで眩暈が酷い。正直、こうして戦えているのが不思議なくらいのコンディションである。

起き上がったカスタムタイプが、深呼吸するかのような動作をすると、剣の切っ先を向けてくる。剣の先端が分かれビームが発射された。

上半身を逸らすと、ビームが顔を真横を通り過ぎた。続けて足へと放たれたビームを横に跳んで避けるも、着地を狙って放たれたビームが右脚を掠め装甲ごと肉体を焼き、痛みでバランスを崩し倒れてしまう。

 

「チィッ!」

 

この戦法は相手が近接戦闘を仕掛けていた場合のみ成立するものである。そして、徒手術にというより篠ノ之流武術そのものに、ビーム兵器に対する技は存在しない。まあ、生まれた時代を考えれば当然なのだが…。

なので、こうして遠距離から攻められると為すすべがない。増援が来るまでもう少し粘れると思ったが、予想以上に相手が冷静だったな。

カスタムタイプが、剣から洋弓に変形させ、ビームの矢を番えながら狙いを定めてくる。さらにチャージ機能があるのか、矢が徐々に大きくなっている。いよいよ、万事休すか…!

矢が放たれようとした瞬間。建物の屋上から飛び降りてきた人影が俺の目の前へと着地した。

 

「わぁ!?」

 

飛び降りてきた人影――先程見た時と同じシンフォギアシステムと類似した姿をした立花が、放たれたビームを両腕を交差させて受け止めた。

怯えを滲ませた声を漏らしながらも、ビームを受けきった立花は、がむしゃらと言った様子でカスタムタイプ目がけて駆けだす。

 

『あぁぁぁあああああああ!!』

 

カスタムタイプは予想外の事態に反応がワンテンポ遅れる。その間に驚異的な脚力で間合いを詰めた立花は、拳を握り締めて引くと力任せに殴りつける。

洋弓を剣に変形させ、両手で水平に構えて拳を受け止めるカスタムタイプだが、力負けして弾け跳び建物へと突っ込んでいった。

 

『勇さん、大丈夫ですか!?』

 

カスタムタイプを殴り飛ばした立花が、慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「立花、なのか?その姿は…」

『それが、その、自分でも何がなんだかわからなくて…』

 

自身でも理解できていないようで困惑した様子の立花。どうやら突発的に起きたことらしい。

そうしている間に、瓦礫を押しのけながらカスタムタイプが起き上がってくる。

それに気がついた立花が慌てて構えるも、隙だらけでとてもではないが見ていられない。

 

「逃げろ立花!お前がどうにかできる相手じゃない!」

『でも、それじゃ勇さんが…!』

「でもも糞もあるか!死ぬぞ!!」

 

頑なに俺の言葉を聞かない立花に、苛立ちを込めて怒鳴る。

素人が逆立ちしても勝てる見込は万に一つも無い。それ程の実力がカスタムタイプにはあるのだ。

 

『それでも、ここで逃げたらこれから先ずっと後悔し続けるんです!だからぁぁぁああああああ!!』

 

気合を入れるように叫びながらカスタムタイプへと駆けだす立花。爆発的とさえ言える加速で接近し、拳を振るうも単調過ぎる動きのため上半身を僅かに逸らして避けられると、カウンターの膝蹴りが腹部にめり込んだ。

 

『あがぁ!?』

 

苦悶の声を上げて体が浮いた立花は、追撃で放たれた回し蹴りをを腹部に受けてこちらへと弾き飛ばされる。

 

「立花ぁ!」

 

両腕を広げて抱きしめるようにして立花を受け止めるも、勢いは止められず一緒に吹っ飛んでしまう。

 

「グッ!」

 

背中から地面に叩きつけられ、衝撃で肺の中の空気が吐き出される。痛みに顔をしかめながら腕の中の立花に視線を向ける。痛みに苦悶の表情をしているも、とりあえずは無事みたいだ。

 

『ごめんなさい…。私結局足を引っ張って…』

 

苦悶の表情で謝る立花だが。カスタムタイプが再度洋弓を構えてきているので、答えてやる余裕がない。

 

『纏めて消えろ、イレギュラーども…!』

 

立花を庇いながら、右手に意識を集中させて念を纏わせる。

MK-Ⅱに搭載されているT-LINKシステムには、搭乗者の思念波―『念動力』を用いて機体の制御を補助するだけでなく。装甲に纏わせることで、『念動フィールド』と呼ばれる特殊な障壁を展開するこができる。

機能の調整が万全でないことと、俺自身が念動力を扱いきれていないため今まで使用は控えていたが。この状況をきり抜けるには他に手がない。

念の逆流によって激しい頭痛に見舞われるが、気合で集中力を維持して、カスタムタイプの動作を観察する。

チャージが完了したのか、一際大きなビームの矢が放たれ、俺達の命を刈り取らんと迫る。

かなりの威力だろうが、右腕を犠牲にすれば防げる!矢の迫るタイミングに合わせて拳を振るう。

 

 

 

 

――が、突如地面から出現した氷の壁によって矢が防がれた。

 

『何?』

 

これには驚きを隠せないカスタムタイプ。かく言う俺もなのだが…。

氷の壁をよく見てみると。壁がせり出した地面には、氷が連なっていて道のようになっていた。

そして、その先には1人の少女がいるではないか。

 

「ハーミット、だと?」

 

歳は十三、四くらいであろうか。ウサギの耳のような飾りのついたフードを被ったフード被り、大きめのコートに、不思議な材質のインナーを着ている。

そしてその左手には、コミカルな意匠の施された、ウサギのパペットを装着していた。

間違いない精霊の今回出現した精霊『ハーミット』である。

戦っている間に雨は雪に変わり。ハーミットは地面に積もった雪の上に片膝を着き、右手の平を地面に触れさせており、そこから氷が生み出されていた。まさか、精霊が俺達を助けたと言うのか?

 

『チィッ!』

 

カスタムタイプも、ハーミットの行動は完全に予想外だったのだろう。苛立ちを含めた声を上げながら、洋弓をハーミットへと向けた。

無数のビームの矢が放たれるも。ハーミットは自身の目の前に生み出した氷の壁で全て防いでいた。

だが、それ以上の行動をする気配はなく。ただ、防御に徹していた。

ハーミットは攻撃も反撃もせず、消失(ロスト)するまでひたすらに逃げ続けることから『弱虫ハーミット』と軍では呼ばれている個体である。

理由はわからないが、ハーミットからは何かを恐れているような印象を受けた。敵にではない?もっと別の何かをか?

 

『えぇい!』

 

埒が明かないことに痺れを切らしたのか。カスタムタイプが洋弓を剣に変形させて斬りかかろうとする。

そこに、ミサイルがカスタムタイプ、そしてハーミットへと降り注ぐ。

カスタムタイプ後ろに飛び退き回避し、ハーミットは自らを氷で覆い防ぐ。

 

『勇無事?』

「ああ。どうにかな…」

 

傍に降りたった折紙に答えると。他の遊撃隊の面々とASTの人達も集ってきた。

 

『……』

 

引き時と見たのか、カスタムタイプは飛翔するとそのまま飛び去って行く。

 

『逃げた!』

「いい、追うな一夏。それより…」

 

追いかけようとした一夏を制止し、ハーミットへと視線を向ける。他の面々も武器を構えながらハーミットの動きに備えていた。

すると、猛烈な吹雪が起き視界が塞がれる。ハーミットの姿を捉えられなくなり、奇襲に備えてそれぞれが警戒する中、何も起きることなく吹雪が収まる。

視界が確保されるとハーミットの姿はなく、レーダーからも反応は消えていた。

 

消失(ロスト)した…?』

 

誰ともなく呟くと、一斉に緊張感が抜け安堵の息が漏れる。

 

「……」

 

そんな中、俺はハーミットがいた場所を見つめ続けていた。

吹雪に飲まれる直前。ハーミットは俺と立花を見ながら、まるで無事であったことに安堵したかのような顔をしているように見えた。

錯覚、だったのだろうか?その筈なのに、なぜか否定しきることができなかった。




前回告知したアンケートですが。期限は今エピソードまでとさせて頂きます。
と言っても、いつ頃終わるか未定なので、具大的には決められないんですけどね…。
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