ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十七話

来禅学園の中庭に設置されているベンチにて、五河士道は観束総二と名乗った少年と並んで座り、胸に溜まった不安を打ち明けていた。

無論、精霊やラタトスクに関することは話せないため、イマイチ要領得ない内容になってしまったが。それでも総二は何も言わず受け止めてくれた。

 

「…詳しいことは分かりませんけど。五河さんはそのことが嫌なんですか?」

「嫌って訳じゃないんだ。ただ、そのことに自信が持てなくて、駄目だった時のことを考えると怖いんだ」

 

そう言って空を仰ぎ見る士道。実は前回ハーミットが現界するより前に、士道はハーミットと接触していたのだ。

十香とデートした時と同じく、空間震を発生させずにこちらの世界に出現しており。公園で遊んでいたと思われるハーミットと偶然出会い、言葉こそ交わさなかったが。彼女もまた十香と同じく、どこにでもいる少女に士道には見えた。

そんな彼女が世界から拒絶されることに、不条理さを感じた士道は、十香と同じように助けたいと思った。だが、十香と同じように上手くいく保障など無く、自分はおろか彼女まで危険に晒すかもしれないことが、手を伸ばすことへの躊躇いを生んでいた。

 

「だから、ついこないだまで普通の高校生だった俺でいいのかって。もっと他に適任な人がいるんじゃないかな」

「それでも、意味はあるんだと思います。他人にできないからだけじゃなく、五河さんだから選ばれた理由が」

「俺、だから?」

 

総二の言葉を思わず繰り返す士道。精霊の力を封印できるからこそ、自分が交渉役に選ばれたとずっと思っていた。だが、琴里はそれだけで選んだと一言もいったことはなかった。自分で勝手にそう思い込んでいたのかもしれない。

はぐらかされていたのもあるが。妹が何を思って自分を選んだのか知るのが怖くて、向き合うことを無意識に避けていたのだ。

だから、まずは彼女と向き合うこと、そこから始めてもいいのかもしれない。

 

「ありがとう観束君。話したらなんかスッキリした気分だ」

「そんな。偉そうなことを言っただけで、お礼を言われることなんてしてませんよ」

「いや、なんとなくだけど、自分のやりたいことが見えてきた気がするんだ」

 

そう言うと、何かを確かめるように握り締めた右手見つめる士道。その顔は先程より迷いが消えたようであった。

 

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

 

 

 

 

そして、タイミングを計ったかのように。空間震警報が鳴り響くのと同時に、雨が降り始めたのだった。

 

 

 

 

『霊波特定。識別は《ハーミット》』

『目標出現予測座標を各員に転送します』

『ハーミットか。プリンセスではなかったか…』

 

二課オペレーター組からの報告に風鳴指令が怪奇さを滲ませた声を漏らす。

かく言う俺も前回の戦いでプリンセスがどうなったのか不明だったので、ここに来て別の精霊が出現することに戸惑いもある。

夜刀神十香がシェルターに避難していることは確認されているので。ここで再びプリンセスが出現したのなら、彼女=プリンセスの可能性を否定できたのだが。そうならなかったとなると、疑惑が強くなったと言わざるを得ないな。

それはともかく、今は目の前の事態に対処しないとな。今回対峙するのはハーミット――攻撃も反撃もせず消失(ロスト)するまでひたすらに逃げ続けることから『弱虫ハーミット』と軍では呼ばれている個体である。

そして。前回の現界時に、俺と立花を助けるような行動をしており。何を目的にこちら側へやって来るのか不明な精霊の中でも一際謎な個体だが。それでも空間震による被害は無視できないので、倒すべき敵であることに変わりはない。その筈だ。

 

「……」

 

そんなことを考えていると。一瞬、恩を仇で返すという言葉が頭の中をよぎった。

 

『目標現界します!』

 

いや、ハーミットの真意が不明な以上。情けをかける訳にいかないと自分に言い聞かせ、雑念を捨てるために、手にしているショットガンを握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃のフレームが軋む音が、胸の中で『何』かが軋む音と重なった気がした――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天宮市市街地に小さな光が生まれた瞬間、その光が周囲の建物を飲み込みながら広がり。人々の喧騒が残っていた街並みが、巨大なクレーターへと変貌していた。

そのクレーターの中心にウサギの耳のような飾りのついたフードを被った少女がポツンと立っていた。

歳は十三、四くらいであろうか。大きめのコートに、不思議な材質のインナーを着ている。

そしてその左手には、コミカルな意匠の施された、ウサギのパペットを装着していた。

個体識別名《ハーミット》――彼女もプリンセス同様、世界を殺す《災厄》精霊の一体である。

 

「……?」

 

ハーミットは困ったような顔でキョロキョロと辺りを見回している。すると、轟音と共に何かが近づいて来ていることに気がついた。その方向へ視線を向けると同時に、飛来した数発のミサイルがハーミットに直撃し爆炎へと飲み込まれた。

 

 

 

 

『さて、追い込み漁を始めるわよ!』

 

煙に包まれたハーミットを囲むように展開されたASTの面々が、それぞれ装備している武装を構えながら浮遊している。

隊長である燎子の言葉に合わせて隊員達が武装のトリガーを引くと同時に、煙の中からハーミットがぴょんと飛び出し宙を舞うと向かってくる弾丸やミサイル、ビームを避けながら隊員達の間を抜けるように身を捻り、空を踊った。

AST隊員達はそれにすぐに反応すると、一斉にハーミットを追跡しながら攻撃を加える。

何人かの隊員が放ったミサイルが炎を吹きながらハーミットを追尾する。振り切ろうと飛び回るハーミットだったが、進路を塞ぐように放たれた弾丸によって動きが止まりその隙にミサイルが直撃し爆炎による煙に包まれる。

煙の中から再び少女が空に踊る。その身には傷どころか煤すらもついていなかった。

 

『第二フェイズ行くわよ、セシリア!』

『了解ですわ』

 

高層ビルの屋上でレーザーライフル、スターライトmkIIIをバイポットで安定させスコープを除いているセシリアが、彼女と線上に重なるようにASTの追い立てられているハーミットの額に照準を合わせる。

精神を研ぎ澄まし息を止めてトリガーを引くと、撃ち出されたレーザーがハーミットの命を刈り取るべく空気を切り裂き突き進む。

しかし、発射と同時に身を翻したハーミットに回避されてしまう。

 

『鳶一さん!』

『了解』

 

セシリアとは別のビルの屋上で狙撃態勢を取っていた折紙が、CCC(クライ・クライ・クライ)のトリガーを引いた。轟音と共に撃ち出された大口径弾がハーミットへと襲いかかる。

回避行動を取ったばかりのハーミットの頭部へと迫る弾丸。その場にいる誰もが避けられる筈がないと確信するも――ハーミットは驚異的と言える反射速度で顔を逸らし、髪に掠れて数本舞い散るだけで回避して見せたのである。

 

『――!?』

 

これには流石の折紙も驚いた表情を見せ、セシリアやASTの隊員らも驚愕の色を隠せないでいた。

そうこうしている間にも、ハーミットは商店街の先にある大型デパートへと逃げ込んでしまう。

強大な精霊に対して逃げ場のない建物内で戦うのはリスクが高いため、精霊が自ら出てくるのを待つか、以前プリンセスが学校内に立て籠もった時のようないぶりだしを行うのが基本である。

いずれにせよ望ましい展開ではないので、そうならないように心がけているのだが。ハーミットはプリンセスのように攻撃的な行動をせず現界しても逃げ回るのみで、今回のように建物内に逃げ込まれ消失(ロスト)するまで睨み合って終わり、苦い思いをするのがパターンとなっていた。

だが、今回は隊長である燎子を初めとする他の隊員達は、こうなることは折り込み済みと言った様子が見られた。

 

『目標がそっちへ行ったわよ勇』

『了解。第三フェイズを開始します』

 

そう。建物内での精霊と戦える力を持った仲間(切り札)が今はいるのだから――

 

 

 

 

『目標、移動を開始!』

『移動地点を算出。目標との接触ルートを割り出します!』

 

ハーミットとAST、遊撃隊との交戦地域付近の道路にて。士道は、耳に装着しているインカムから流れてくるフラクシナスクルーの通信に、耳を傾けていた。

 

警報が鳴ると、共にいた総二と避難するフリをしながら途中ではぐれた様に装いながら、すぐにフラクシナスと合流した士道は。今回出現した精霊――ハーミットと接触すべく行動を開始した。

彼の側には護衛役のツインテイルズもおり、士道と同じように指示を待っていた。

 

『聞こえる士道?こちらの予想では、ハーミットはあなたのいる場所に近いデパートに逃げ込む可能性が高いと出たわ。でも、デパートまでのルートにノイズが発生しているの。できる限り接触しないルートを指示するけど、避けられない場合はツインテイルズが排除してちょうだい』

「分かった。頼む琴里」

『?やけにやる気ね。こないだまで引け腰だったのに』

 

躊躇いがちだった今までと、どこか違う様子の士道に琴里が訝しむ。

 

「いいアドバイスをしてくれた人がいてさ。うだうだ悩む前にできることをしようって決めたのさ。だから琴里、1つ聞いていいか?」

『…何?』

「お前が俺を精霊との交渉役に選んだのは、俺が精霊の力を封印できる唯一の存在だからなのか?」

『……』

 

士道の問いに、琴里は沈黙する。いつもならすぐにはぐらかされるのだが、今まで以上に真剣な様子の士道にどう答えるか迷っているのかもしれない。

 

『例え、封印できるのが他の人であったとしても。私はあなたを選んでいたわ』

「ありがとうな琴里。今はそれだけ聞ければ十分だ」

『……』

「琴里?」

 

突然黙ってしまった妹に今度は士道が訝しむ。

 

『な、何でもないわ!それより作戦を始めるわよ!』

 

何かを誤魔化すように叫ぶ琴里に一瞬怯むも、すぐに気を取り直して、会話を聞いていたツインテイルズへ向き直る士道。

 

「お待たせして、すいませんレッドさん。今回もよろしくお願いします」

「お気になさらずに。それにさんづけなんてしなくていですよ、俺、じゃなくて私の方が年下なんですから」

 

頭を下げる士道に、レッドは両手を胸の前で振りながら提案する。

確かにレッドは士道より年齢が下のようだが。国民的ヒーローとなりつつある彼女に、士道は無意識に敬語で話していたのだ。

 

「いや、なんというか。俺なんかがそんな馴れ馴れしく話すのは失礼かなって…」

「そんなことないですよ!五河さんとおれ、私達はもう『仲間』なんですから!」

「仲間…」

 

士道は、レッドのことをどこか遠い存在のように感じていたが。彼女の言葉に、その考えが間違いであることに気がついた。

 

「それも、そうだよな。なら俺のことも士道って呼んでくれ」

「はい、士道さん!」

 

両手でガッツポーズをするようにしながら、見上げるように笑顔で頷くレッド。彼女の感情を表すようにツインテールが可憐に揺れる。その動作一つ一つが見事に調和され、思わず見とれてしまう程の愛らしさが溢れていた。

 

 

 

 

「ユニバァァァス!!」

 

そんなレッドを、モニターしていたツインテイルズ側のオペレーターである少女が、説明するのも(はばか)られる――少なくとも少女がしてはいけない顔で記録をとっていたとかなんとか。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

見とれていた士道が、不意に突き刺さるような視線を感じると。ブルーが切れたナイフのような目でこちらを見ていた。

 

「どうしたんだブルー?」

「別に」

 

ブルーの様子が変なことに気づいたレッドが話しかけるも、不機嫌そうにそっぽを向かれるのであった。

そんな相方を、レッドは不思議そうにコテンと首を傾げていたが。何かに気づいたように、ポンッと握った右手で左手の平を叩いた。

 

「ああ、そうか。ブルーも士道さんと仲良くなりたいんだな!」

 

レッドの言葉にブルーの体が傾き。通信機から「うぅん?」と言う複数人の声や「所詮、蛮族にエロゲ展開など不可能なんですよ」といった声が漏れた。

 

『やはりブルー×レッドなのでしょうか…』

『百合はいいぞぉ』

『これも時代か…』

『まあ、最近は同姓への理解も深まっているからね』

『つまり、私とレッドちゃんのまぐわ『そろそろ作戦を始めてもいいかしら?』Orz』

 

通信機の向こう側がやけに騒がしいが、レッドには内容の殆どを理解することはできなかった。

 

 

 

 

ハーミットがデパートの入り口から建物内へと入ると辺りを見回す。既に避難は完了しているため閑散としており、内部は静まり返っていた。

安全であることを確認したハーミットは奥へと進んでいき、エントランスの中央にさしかかった瞬間、支柱の陰に潜んで気配を消していた翼がハーミット目がけて飛び出した。

 

「八ッ!」

 

翼は手にしていた短刀を投擲するも、突き刺さったのはハーミットではなくその影であった。

 

「!」

 

翼が狙いを外したのであろうと考えたであろうハーミットは、慌てて逃げようとするもなぜか体がうごかなくなってしまっていた。

 

「!?!?」

 

自分の身に何が起きたのかわからず困惑しているハーミットに、エントランス内にある店内に身を潜めていた勇が襲い掛かる。

 

『サークル・ザンバァアアア!!』

 

勇は左腕に装備されているサンバーをリミッターを外して展開し、今まで以上に輝きの増した光輪をハーミット目がけて振り下ろした。

 

 

 

 

『グランドブレイザーァァァアアア!!』

 

 

 

 

真紅の閃光がハーミットを庇うかのように走ると、炎を灯した剣がザンバーを受け止めた。

 

「何!?」

 

剣の持ち主を視認すると同時に、その正体に衝撃を受けて目を見開いてしまう。

ハーミットを庇ったのは明確に仲間とは言えなかったが。これまで幾度となく共に戦ってきたツインテイルズ――そのリーダーと言えるテイルレッドであった。

 

『やぁあああああ!!』

 

動揺によって生まれた隙を突かて、気合を入れるように叫んだレッドによって、ザンバーごと押し返されてしまう。

その勢いで弾き飛ばされるが、素早く体制を立て直して着地する。耐久値の限界を超えた衝撃で、ザンバーは基部から破損し火花を散らしており、左腕に痛みが走る。レッドも衝撃を受けきれなかったのか、表情に僅かに苦痛の色を見せ。手にしている剣には、少なくない亀裂が刀身に走っていた。

 

『??』

 

レッドに護られたハーミットは、何が起きたのか分からない様子で目をパチクリさせていた。

 

『今の内に逃げるんだ』

 

レッドがそう告げると、ハーミットは少しだけキョトンとしていたが。意味を理解したのかコクリと頷くと、近場にある昇り階段へと駆けだす。

 

『待て!』

 

慌てて風鳴が追いかけようとするも、彼女を阻むようにランスを構えたブルーが現れた。

 

『お前達、どういうつもりだ!なぜ我々を阻む!?』

 

風鳴も少なからずツインテイルズに好意的だったのだろう。困惑を隠せない口調で、ツインテイルズに問いかける。

 

『敵対するつもりはないんです!どうか、話を聞いて下さい!』

 

剣を粒子に変えて格納したレッドは、敵意がないことを示すかのように両手を広げた。

 

『何を…!』

「待て、風鳴。こちらも彼女達と敵対するのは避けたい」

 

感情的になっている風鳴を手で制する。軍人としての立場もあるが、彼女らにも理由があるのだろう。そう信じたい程に、俺は彼女達に仲間意識をもう持っているからだ。

 

「話を聞いてみよう。対応はそれからでも遅くはない」

『…分かった』

 

彼女も戦いたくはないのだろう。暫し悩んだ素振りを見せるも刀を下してくれた。同時にブルーも構えていた槍を降ろしたことで、張り詰めていた空気が幾分和らぐ。

 

『ありがとうございます。今回、俺達がここに来たのは――』

 

そうしてレッドはこの場へ現れた目的と、こちらの作戦を妨害した理由を話し始めるのであった。

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