ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第四十八話

最新の都市開発の技術試験用とて建造されたこの島の最新式シェルターには。長時間の避難に備えて食料等の物資や、シャワーや洗濯設備と言った衛生面にも配慮された昨日が備え付けられているのだ。

無論トイレもあり、女子用から天道ユウキがスッキリした表情で出てきた。

 

「あれ?」

 

共に避難してきた友人達の元に戻ろうとした彼女の視界に、1人の少女が映った。

ユウキのいるこの区画は、トイレがあることもあり別段人気がない訳ではないが。その少女が同姓であるユウキでも羨む程の美貌の持ち主であるとはいえ。少女の表情が切羽詰まったものでなければ、ユウキもさほど気にすることもなかっただろう。

なんとなくユウキが少女の姿を目で追いかけていると。少女はトイレに向かうでもなく、辺りを見回しており。壁に設置されている電光掲示板を発見すると、近づき何か確認した様子で別の区画へと駆けだして向かっていった。

 

「(あれ?あっちって…)」

 

少女が向かっていった区画には外部へ通じる扉しかなく。避難警報が解除されていないため、今行く必要のない場所であった。

少女の行動に疑問を持ったユウキは、彼女の後を追いかけて駆けだした。

 

「え!?」

 

暫く走ったユウキの目に飛び込んだのは。今はロックされており内部からは開けられない筈の、外部へ通じる扉が何故か開いてしまっており。追いかけていた少女が、今まさに外へ出ようとしていたのだった。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

その背中に慌ててユウキが声をかけると。少女は何事だといった様子で振り向いた。

 

「何してるんですか!避難警報は解除されていないんですよ!?」

「警報?よく分からんが、私は行かねばならんのだ」

 

ユウキの言葉の意味が理解できないのか、少女は迷うことなく外へ出ようとする。

そんな少女の手を掴んで引き留めようとするユウキ。

 

「いやいやいや!!空間震警報ですよ!?外はノイズがいるし、軍との戦闘に巻き込まれますって!!」

「だから行かねばならん!シドーが危険な目に遭っているかもしれんのだ!!」

 

どうやら少女は。知人が街中に取り残されている可能性があるので、自分で捜しに行こうとしているらしい。

 

「だからって、あなたが行ってもどうしようもないでしょう!まずは自分の身を守って、捜索は軍の人達に任せましょう!それに、他のシェルターに避難しているかもしれませんから!」

「何?お前はシドーがどこにいるのか知っているのか!?」

「いや、知りませんけど…」

「だったら私が捜しに行くしかなかろう!ええい、邪魔をするな!」

 

自分が何をしようとしているのかユウキが説明するが。少女はそんなこと知ったことかと言わんばかりに手を振り払おうとする。

 

「(何!?なんなのこの人!?なんか話が噛み合ってないんですけど!!)」

 

自分と同年代の筈なのに。まるで、聞き分けのない子供を相手にしているかのような錯覚に陥るユウキ。

 

「離せ!」

「あっ!」

 

華奢に見える体格からは想像できない力で、少女がユウキの手を振り払いシェルターから出て行ってしまう。

 

「ま、待って下さいってば!」

 

誰か大人に伝えるべきなのだが。このまま少女を見失うのは危険と判断したユウキは、少女を追いかける。

 

「(ごめん、兄ちゃん!)」

 

知れば怒るのはもちろんだが、それ以上に心配するだろう兄に心の中で謝りながら少女を追跡する。

 

「嘘、はやっ!?」

 

ユウキは共に暮らし始めてから。兄の鍛錬に付き合うことが多かった影響で、大人顔負けの身体能力を手にすることができたのだ。

その兄曰く『天才とはあいつのことを言うんだろうね』と。また、暇つぶしに武術の手合わせをした、熊を素手で倒せる友人の少女からは『彼女の兄以外に、同年代に本気を出したのは初めてだったわ』と評された。

それ故に。少女のことをすぐに連れ戻せると判断したことが、追いかけるという選択をさせたのである。

だが、そんな思惑とは裏腹に少女との距離が縮まるどころか。徐々に引きはなされていってしまっていた。

 

「これ、まず…!」

 

外にいる時間が長くなるということは、それだけ危険が伴う。どうすべきか考えるも、無情にも打開策が閃くことはなかった。

 

「わッ!?」

 

そんなユウキに、空間震の影響で破損した建物が崩れ瓦礫が降り注ぐ。

咄嗟に後ろに跳んで回避するも。道が瓦礫に塞がれたことで、少女を追うことはできなくなってしまった。

 

「どうしよう…」

 

こうなってはシェルターに戻るしか選択肢はないが。どうしても少女を放っておくことがユウキにはできなかった。

どうにか瓦礫を越えられないか探るユウキ。だが、その『優し』さが仇となった――

 

「ッ!」

 

不穏な気配を感じ振り向くと。人ならざる姿をした不気味に発光する存在――ノイズの群れが周囲の建物や瓦礫の影から現れた。

一般人であるユウキには、十分という言葉ですら足りない程に絶望的な状況である。

 

「(最悪だ…)」

 

考えうる限り最悪の展開だが。ユウキは冷静に状況を分析して対処法を探す。

普段の愛くるしい顔は鳴りを潜め。その目は刃物ような鋭さを帯び『戦士』と呼ぶに足る風貌を醸し出していた。

背後は瓦礫で塞がれており、前方にはノイズ。つまり逃げ場はない以上。立ち向かうしかないが、生身のユウキに勝ち目など万に一つもないので、どうにか逃げ道を作るしかない。

ユウキは、足元に転がっていた手頃な長さに折れていた鉄パイプを拾うと。腰を深く落として相手に向かって半身の姿勢をとり、パイプは左手のみで持ち、体の後ろに置き先端を相手に向け、右手を前に突き出してパイプにやや重なるような位置に置く。

兄から篠ノ之流剣術を習ったが。どうにも自分には合わず、気に入った型を模索した結果。突き技主体の完全な我流剣術となってしまったのである。

それでも、兄から文句は言われておらす。直葉に誘われて始めたALOでは十分に通用しているので。実用性がない訳ではないのだろうと、彼女はこの型を使い続けている。

 

「(来た!)」

 

ノイズの動きを観察していると。その身をスライムのように蠢かせた数体のノイズが、槍のように細くなると弾丸並の速度でユウキに突撃してきた。

それを半歩だけ体を横にずらしてユウキは回避し、避けられたノイズは瓦礫に激突する。

無論そんなことで倒せないことはユウキは重々承知しているので、次のアクションを起こす。

 

「ヤアァァァァァ!!!」

 

瓦礫へと向き直った彼女は。上半身を限界まで捩じり、そのバネのみで刺突を放った。

ユウキが最も得意とし『ブリュンヒルデ』こと織斑千冬から『見事』と言わしめた左片手一本突き、そのバリエーションの1つである。

もろい箇所にパイプが突き刺さると。その衝撃でパイプが半ばまで砕け散ってしまうが、瓦礫に亀裂が生まれ瞬く間に広がっていく。

ユウキが素早く跳び退くと、瓦礫は大きな音をたてながら、激突したノイズを巻き込んで崩れ落ちていったのだった。

 

「(次!)」

 

パイプを手放し。地面に転がっている別のパイプを蹴り上げて掴むと、先程と同じ構えを取るユウキ。

未だノイズの数は多く、生き残れる可能性は低いと言わざるを得ないが。ユウキの瞳に諦めの色は見られなかった。

 

「ボクは諦めない…」

 

自分に言い聞かせるように呟くユウキ。

 

「生きて、兄ちゃんと添い遂げるんだ!!」

 

天道勇の妹として悔いのない人生を歩むため。そのための最大の目標を叶えるため、彼女は足掻き続けることを選ぶ。

ノイズが次々と襲い掛かってくるのを迎え撃とうと、集中力を極限まで高め手にしているパイプを握り締め――

 

 

 

 

突如降り注いだ閃光が迫るノイズを焼き払った。

 

 

 

「わっ!?」

 

閃光の輝きに腕で顔を覆うユウキ。

すると、1体のPTがブースターとスラスターを吹かせなら、彼女を守るように降り立った。

 

「わわっ!?」

 

その風圧でスカートが捲り上がりそうになり、慌てて両手で抑える。

その間にPTは左前腕の装甲を展開し露出したガトリング砲を残ったノイズへ向ける。

砲身が回転を始めると駆動音と共に、連続で吐き出された弾丸がノイズへ襲い掛かる。さらに、右手で保持し脇に挟んで固定したランチャーのトリガーを引くと、ビームが次々と放たれる。弾丸に蜂の巣にされるか、ビームに貫かれ、ノイズが炭となって崩れ落ちていく。特にビームは、1発で2体以上を纏めて撃ち抜くこともあり、搭乗者の技量の高さを示していた。

暫くしてPTが射撃止めると、無数にいたノイズは殲滅されていたのだった。

 

「(この人は?)」

 

自分を助けてくれたPTを観察すると。兄の機体に似ているが細部が変更されており、色も紺ではなく黒を強調したものとなっていた。

 

『ふむ』

 

ユウキへと向き直ったPTは、ユウキの目を見つめるようにバイザー越しに目を細める。

 

『やはり、いい目をしている。ここで死なせるのは惜しいな』

「へ?」

 

何か満足げな様子でユウキをPTは称賛しだす。その当人は突然のことに目を点にしてキョトンとしてしまう。

 

「シャドウ1!」

 

そんなことをしていると。ピンク色のした、髪と同じ色のアミタのバリアジャケットとそっくりの服装をした少女が降り立ち、不機嫌そうな顔でPTへと詰め寄る。

 

「隠密行動だって言った本人が、何やってんのよ!ノイズ相手に派手に暴れ出して!」

『こいつを死なせるのが惜しくてな。すまん』

 

まくし立てる少女に、PTがユウキの方を向きながら謝る。

 

「へ?何、その子?」

 

そこでユウキの存在に気付いた様子の少女が、目を点にする。

 

『ノイズに襲われていたので助けた』

「ええ!?大丈夫!怪我してない!?」

 

PTの説明に驚愕した少女が、慌ててユウキの体を確認し始める。

 

「えっと、おかげさまで大丈夫です。助けて頂きありがとうございます」

『気にするな。気まぐれでやっただけのことだ』

 

ユウキが頭を下げながら感謝の言葉を述べると、PTは素っ気ない様子で応える。

 

「あの、あなた達は?」

 

ユウキは、PTの搭乗者と少女を最初は軍人と関係者だと思っていたが。どうにも違う雰囲気を醸し出しており。特に少女の方は服装だけでなく、顔立ちもアミタに似ていることが無性に気になったので、思い切って聞いてみた。

 

『俺達は、ただの通りすがりのテロリストだ』

 

その問いに。PT――ヒュッケバインMK-Ⅱ・ハウンドに乗っているヴォルフ・ストラージは、迷いなくそう答えるのであった。

 

 

 

 

「つまり。精霊とは対話の余地があるので、我々に攻撃はするなということかレッド?」

『そうです勇さん』

 

レッドが語った内容を要約すると、彼女は真剣な表情で頷いた。

まず、前回のプリンセスの件以降。ツインテイルズは、秘密裏にラタトスクと協力関係を結んでいたこと。そのラタトスクは精霊との対話を行い、人類との共存を可能とすることができることが語られた。

そのため。軍には精霊と敵対することを止め、以降の精霊への対処は、ラタトスクに一任するよう働きかけてもらいたいという内容だった。

 

「確認するが。夜刀神十香はプリンセスであり、現在人間社会に適応できるよう訓練を行っているのだな?」

『はい』

 

そして彼女から提示された情報として。プリンセスは既にラタトスクに保護されており、夜刀神十香と名乗り人類との共存を望んでいること。その一環として、来禅学園へ学生として通っていることだった。

 

「……」

 

顎に手を添えて得た情報を整理していく。

普通であれば、馬鹿げた話だと一笑に付すだろうが。俺はそうすることができなかった。

レッドの目が真実を告げていると語っており。それなら、夜刀神十香への疑惑も説明がつくからだ。

 

「…確かに。その話が真実だとしよう」

『!ありがとうございます!』

『な!?信じると言うのか、今の話を!』

 

俺の言葉に、レッドは喜び。隣にいた風鳴が驚愕の目を向けてきた。まあ、当然の反応だよな。

 

「否定する要素もないからな。それで、そのラタトスクの対話の方法は?空間震等の問題をどうやって解決するのだ?」

『そ、それは…』

 

この問いに、今まで迷いなく話していたレッドが言葉を詰まらせた。

この話を成立させるには、この話題が必要不可欠だ。少なくとも軍上層部を納得させるには、ラタトスクがどのように精霊に対応するのか明確にしなければならない。

なのにレッドは、そのことを敢えて語ろうとしなかった。俺達を説得に来た筈なのに矛盾した行動に、違和感を感じていた。

 

『すいません…。それは言えません』

「言えない?何故だ?」

 

押し黙ってしまうレッドに、眉を顰める俺。彼女の反応を見るからに、こちらに知られるのはかなり不味いということなのか?

 

「……」

『でも、これだけは信じて下さい!精霊とは分かり合えるんです!あなたも夜刀神さんを通じて感じれたでしょう!』

「確かに、な」

 

挨拶程度にだが、夜刀神十香と話したことはある。五河以外の者には、警戒心が抜けきれない様子も見られたが。それでも、今の環境に馴染もうとしていたことは感じられた。だが――

 

「夜刀神十香はそうなのだろう。だが、他の精霊が必ずしもそうだという保証はあるのかレッド?」

『それは…。でも、ハーミットさんが戦いを望んでいないことは、これまでの行動が証明しています!』

 

確かにハーミットが争いを好まないのは、これまで得られたデータから理解することはできる。

 

「だが、彼女が起こした空間震による被害は出ている以上、放置することはできん」

『俺達なら空間震も防げるんです!信じて下さい!』

「君達は信じている。だが、ラタトスクは信用できん」

 

ラタトスクが何のために精霊を保護しようとしているのか。いや、本気で対話しようとしているのかも分からない以上、信じることなどできはしない。そもそも、レッドに本当のことを話しているのかさえ怪しい。

俺は、腰部に固定していたショットガンを、右手に持ち警告を兼ねて銃口をレッドへと向ける。

 

「悪いがそちらの要求には応じられん。道を開けてもらおう」

『それは、できません。あなたに精霊と戦ってほしくないんです勇さん!』

 

両手を限界まで広げて説得を続けようとするレッド。そうか、俺のことも思いやってくれるのか…。

 

「…気持ちはありがたいが。大切な人達に害を及ぼす以上、俺は精霊を討つことに迷いはない。道を開けるんだ。君を傷つけたくはない」

『精霊の命を奪ったら、あなたは一生後悔し続けることになる!だから、どきません!』

 

幼き体格から想像できないような決意に満ちた眼差しで、俺を見据えるレッド。やはり言葉だけではどうにもならんか。ならば――

トリガーにかけていた指に力を力を込めようとすると。今まで沈黙を保っていたブルーがレッドの前に立ち、ランスを軽く回すと矛先をこちらへと向けてきた。この事態は予測していたのだろう。その動きに迷いはなかった。

それに反応した風鳴も、刀を構えて戦闘態勢に入る。

 

『これ以上は無駄よレッド。後はあたしがやるから、あんたは退がってなさい』

『駄目だブル―!俺達は戦いに来たんじゃないんだ!』

『言いたくはないけど。あんたが思っている以上に、世の中甘くはないわ』

 

ブルーの言葉に何も言い返せず俯くレッド。そう、この世界は理想だけでどうにかなるものじゃない。それがどれだけ正しくとも、現実は簡単に押しつぶしてくる。力なき理想など幻でしかない。

 

「博打のようなことに、大切な人達の命は預けられない。止めたいのなら力づくでこい。ここから先は力が全てだ」

 

レッドの主張が正しいのかもしれない。それでも俺は自分の信じた道を進む。

どちらにも譲れない正義があるのなら、最後は力をぶつけ合い、勝った方の正しさが証明される。それが人間の本質だ。

 

『それでも…それでも、俺は!』

 

悲痛な面持ちでレッドが叫ぼうとした瞬間。天井に亀裂が走り、みるみると広がっていく。

 

「ッ!退避しろォ!」

 

叫ぶと同時に、ブースターとスラスターを最大稼働させ後退する。

天井が崩れ、瓦礫が俺達のいた場所に降り注いだ。後少し反応が遅れていたら埋もれていたな。

 

「風鳴!」

 

すぐに風鳴の安全を確認するために通信を繋げる。

 

『無事だ!問題ない!』

 

瓦礫が降ったことで巻き上がった粉塵が晴れるていくと、風鳴の無事な姿を視認し安堵する。

ツインテイルズの姿は見えないが。俺達と同じタイミングで退避していたから、大丈夫だろう。

 

『勇、翼、無事!?』

「ええ。日下部大尉、何が起きました?」

『ハーミットが天使を顕現させて、デパートから飛び出してきたのよ!』

「天使を…」

 

――天使

精霊が持つ最強の矛たる武装。その威力は、一瞬で都市を壊滅させることさえできると言われている。

ハーミットは過去、一度も顕現させたことはなかったが。ここにきて使ってくるとは、何かあったのか?

 

『現在追跡しているから、あなた達も合流して!』

「了解です。すぐに向かいます」

 

大尉に応じると同時に、二課の風鳴指令から通信が入る。

 

『俺だ。二人ともこちらの指示するルートで向かってくれ』

「了解」

 

送られてきたデータから、合流ルートの確認を行う。

 

「……」

 

ハーミットの行動に変化が見られたのは、レッドの言うラタトスクの対話の結果なのか?その結果がこれなら――

 

「やはり、戦うしかないか…」

 

俺は何を言っている?とっくに覚悟はできていることだ。今更迷う必要などない。それとも心のどこかで、ラタトスクに期待していたとでもいうのか?

 

『何をしている天道!早く行くぞ!』

 

無意識に呟いたことに困惑していると。先行していた風鳴の言葉に現実に戻される。

 

「済まない。すぐに行く」

 

雑念を払うため軽く首を振り、機体を飛翔させて風鳴の後を追うのであった。

 

 

 

 

勇達とは別方向からデーパートを脱出したツインテイルズ。

無残な姿となったデパートを見上げていると、フラクシナスから通信が入る。

 

『レッド、ブルー無事!?怪我はしてない!?』

「はい、五河指令。私もブルーも無事です」

『そう、よかった…』

 

切羽詰った声の琴里に応じると、安堵した様子で椅子に腰かける音が聞こえる。どうやら、かなり心配してくれていたようだ。

 

「あの、何が起きたんですか?士道さんは無事なんですか?」

 

状況的にデパートを破壊したのは、ハーミットなのだろうが。どういった経緯があったのか、何より士道の安否がレッドには気がかりであった。

 

『士道は無事よ。それで、何が起きたのかと言うと…』

『私が説明するよレッド』

 

どのように説明すべきか迷った様子の琴里に、代わり解析官である令音が通信に割って入った。

 

『実は十香が避難先のシェルターから抜け出して、士道の元に向かってしまったんだ』

「えっ夜刀神さんが!?」

 

力を封印された十香の安全確保と。軍と精霊の戦いを見たことで、自分の時のことを思い出してしまい。それが彼女へのストレスとないようにと、一般人と同様にシェルターへ避難させていたのだ。

その彼女が、こちらへ来てしまったことに驚くレッドとブルー。

 

『それで、ハーミットを攻略していた士道を見て。彼女とトラブルになってしまってね』

「つまり、嫉妬したと」

『その通りだブルー。その結果、ハーミットが錯乱して天使を顕現させてしまったんだ』

 

状況を理解したブルーが深い溜息を吐いた。

ラタトスクが立てた作戦は、言ってしまえば『女を口説きまくってハーレム作ろうぜ』であり。士道がゲス野郎呼ばわりされるならマシで、最悪昼ドラのような展開になり、士道の命に関わる事態に陥る危険性を孕んでいた。他に方法がないとしても、ブルー個人としては女心を弄ぶような作戦に、正直に言うと乗り気ではなかった。

特に十香は士道に依存しているような節が見られ、今回の事態は起きるべくして起きたと言えよう。

 

『とにかく今回…の……戦は…中…』

「?あのすいません。よく聞き取れないんですが」

 

突然通信の状態が悪くなり、琴里の声が掠れたようになってしまう。

 

『これ…はジャミ……グ!?気を…けてくだ…レ…』

「トゥアール?どうしたのよトゥアール?」

 

フラクシナス側のトラブルかと思ったが、トゥアールとの通信も悪くなり。遂には通信機からは、テレビの電波が通じなくなった時と、同様の音しか聞こえなくなってしまう。

 

「ッ!レッド!」

「わぁ!?」

 

何かに感づいたブルーがレッドを抱えると、その場から跳び退く。

すると、上空から飛来した何かがレッド達がいた場所に高速で飛来し、地面を抉って滑りながら停止する。

 

『流石に、この程度は避けるか。そうでなくては困るが』

 

飛来したのは漆黒のPT――ヒュッケバインMK-Ⅱ・ハウンドであり。搭乗者であるヴォルフは、奇襲が失敗したのに、期待通りといった様子であった。

 

「あの機体…」

「漆黒の狩人って奴よね」

 

ラタトスクへの協力を決めた際、指令である琴里から幾つかの注意事項があった。

敵対しているDEM社が加入している、国際犯罪組織ファントム・タスク。その実行部隊の中でも危険度の高い人物の1人、ヴォルフ・ストラージ――通称『漆黒の狩人』と呼ばれる男のことである。

 

『さて。お前達に可能性があるかどうか、試させてもらおう!』

 

ハウンドがブースターとスラスターによって、地面から浮かぶと。斧型の銃剣を展開したランチャーを右手でトリガーを、左手で銃身の側面に備え付けられたグリップを握り。ブースターとスラスターの出力を上げると、ランスチャージをするかの如く、ツインテイルズ目がけて突撃したのだった。




捕捉と裏話
今回ユウキが使用した技は、るろうに剣心に登場する斎藤一が使用していた『牙突・零式』と呼ばれるものです。
アニメ、漫画等で好きな剣術を上げるなら1位がスパロボの『疾風怒涛』で、2位が『牙突
』と言うくらいお気に入りであり。
ユウキのマザーズ・ロザリオを見て、ユウキ=突き技が得意というイメージを持ち。そして、牙突=突き系統の技なので使わせてみようという発想に至り、このような形となりました。

最後に、ヴォルフに助けられたユウキがどうなったかは、次回語られます。
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