「テロ、リストさんですか?」
『そうだ』
胸を張るかの如く堂々と言い放つヴォルフに、ユウキは目を点にしてキョトンとしてしまう。
こうもハッキリと、自分を犯罪者だと言い切る人間に会ったのは初めてのことであり。本人はそのことを誇りに思ってさえいるようであった。
「あ~ごめんね。こいつ色々変な奴だから気にしないで」
『変で結構。自分の生き方を恥じるくらいならテロリストに等ならん』
キリエの言葉にフンッと鼻を鳴らすヴォルフ。
「で、彼女どうするのよ?」
『無論、安全な場所まで連れていく。それでいいか?』
「でも、もう1人外に出ている人がいて。その人もノイズに襲われてるかもしれないんです」
追いかけていた少女のことを思い出したユウキは、そのことを不安そうにヴォルフらに話す。
『…それなら俺の部下に追わせている。その者も連れ戻してやる。だから安心しろ』
「本当ですか!ありがとうございます!」
ヴォルフらのこと信頼しきった様子で安心するユウキ。そんな彼女を直視できなくなったのか、少し視線を逸らしているヴォルフとキリエ。
実を言うと、とある目的を果たすためにハーミットを監視していたのだが。プリンセスと見られる少女がシェルターから出てきたので、そちらも監視していたらノイズに襲われるユウキを発見し。突然独断行動を起こしたヴォルフが助けに入ったのだ。
正直を言うと、ヴォルフにその少女を助ける気は毛頭なく。あわよくば、協力者であるネフシュタンの少女の力を借りてノイズに襲わせ。本当にプリンセスであるかを確かめ、事実であれば狩ろうかとの考えていたのだった。
ユウキに伝えたことは、あくまで彼女を安心させるための方便であるため。屈託のない笑顔で信頼を寄せるユウキに、猛烈な後ろめたさをヴォルフらは感じてしまっていた
「さてと。あんた1人じゃ『色々』と不安だからあたしも着いていくわ」
何かへの不信感を隠さない様子のキリエ。ユウキには、彼女が夫の浮気を気にする妻に見えた。
『なんだ、その『色々』とは』
肝心のヴォルフはその何かに気づいていないようだが…。
『まあ、いい。近くのシェルターでいいな』
「はい」
『なら行くぞ』
差し出された左腕が腰に回され抱えられるユウキ。不思議と恥ずかしさを感じることはなく、父親に抱えられた時のような安心感があった。
安全を確認すると、ヴォルフは機体をホバリングさせて移動を開始する。
「……」
そんなユウキを羨ましそうな目でジーッと見ているキリエ。
『どうした?』
「なんでもない」
ヴォルフが怪奇そうな目を向けるると、不機嫌そうにそっぽを向くキリエ。
「(ああ、なる程)」
そのやりとりだけで、ユウキには全てを察するに十分であった。
「大丈夫ですよ。僕が異性として愛しているのは兄だけですから」
「そう、それなら…え?」
ユウキの発言にキリエは一瞬納得しかけたが、すぐに違和感に気づいて驚愕した。
「待って、今なんか凄いこと聞いた気がする!」
「禁断の恋か…」
「あ、義理の兄なんで」
「なら、問題ないな」
「ええ!それで納得する!?」
なんなく受け止めた同僚に、さらなる衝撃を受けるキリエ。
「何を驚いている。この国の法律上何も問題はないぞ」
「いや、そうだとしても世間体とかが…」
「「そんなもの愛の前では問題ないさ(なかろう)」」
「ええ…」
謎の説得力にもう、何も言えなくなるキリエ。というよりこの2人無駄に息が合い過ぎである。
「あの、ちょっといいですか?」
「あたし?何よ」
一番気になっていたことを聞こうとユウキは話し掛けると、意外だったのかキリエはキョトンとした顔で反応した。
「あなたって、キリエ・フローリアンさんですか?」
「え?」
名乗っていないのに、ユウキが自分の名前を知っていることに困惑の色を見せるキリエ。ヴォルフも意外そうな目をユウキに向けた。
「僕アミタさんの知り合いなんです。あなたのその恰好が似ていたから」
「そう…」
姉の名前が出ると納得したようだが、表情に影が落ちるキリエ。
「アミタさん、あなたが元気か凄く気にしてましたよ」
「…テロリストやってて言うのもなんだけど。元気にやってるわ。そこお人好しのおかげでね」
『勘違いするな。俺はお前を利用しているだけだ。だから、そいつの姉に言っておけ、俺を好きなだけ怨めとな』
ユウキに言い聞かせるように告げるヴォルフ。どうやら、キリエの自分への評価を否定したいらしい。
そんなヴォルフに、ユウキは1つの言葉が当てはめられた。
「あなたってツンデレなんですね」
「ブッ!」
ユウキの言葉に噴き出すキリエ。当のヴォルフは、元々鋭い目つきが更に鋭さを増した。
『そんなものではない。事実をありのまま述べているだけだ』
「プッその言い方、まさにツンデレじゃん…くくっ」
『はったおされたいか貴様?』
唸るような声で威嚇するヴォルフだが。この状況では大した効果はなく、寧ろ愛嬌さえ感じられた。
そうこうしている内に、ユウキは避難していたシェルター付近に近づくと。ヴォルフは機体を停止させユウキを降ろす。
『ここまでくれば、後は1人で問題なかろう』
「はい、ありがとうございました]
『ではな。もう、危険なことはするなよ』
ユウキは礼を述べると、ヴォルフは彼女に背を向けて去ろうとする。そんな彼をユウキは呼び止めた。
「僕天道木綿季って言います。あなたのお名前を教えて下さいませんか?」
『…言った筈だ、俺はテロリストだと。余計な関りなど持つべきではない』
振り返ることなく、ユウキを突き放すように告げるヴォルフ。
「それでも、助けてくれた人のことを知っておきたいんです。いつか、恩返しができる機会が訪れた時のために」
『もう会うことはない。そんなことを気にするな』
ユウキの申し出をひたすらに拒絶し続けるヴォルフ。だが、それは彼女の身を案じているかのようであった。
「でも、可能性はゼロじゃないですよね?だったら、後悔しないために知りたいんです」
『……』
どうあっても折れる気のないユウキに、僅かとはいえ戸惑いの色を滲ませるヴォルフ。
このまま去ってしまえばいいのだが、背中越しに感じるユウキの真っすぐな視線が躊躇いを生んでいた。
「そこまで言ってるんだから、教えてあげればいいじゃない。減るものでもないし」
『そういう問題ではない。俺のことを知っても碌なことにはならん』
2人のやりとりを静観していたキリエが助け舟を出すも。それでも拒絶の意思を曲げようとしないヴォルフ。
「だったら助けなければよかったじゃない。命の恩人の名前くらいは知りたいのが普通でしょ?
『……』
キリエの正論の前に、反論できないのか黙り込むヴォルフ。
「それに、一番大事なのは本人が後悔するかしないかじゃない?で、彼女はしないって言ってるんだから何も問題ないでしょ?ね?」
「はい!」
キリエが問うと、屈託のない笑顔で頷くユウキ。
『…ヴォルフ・ストラージだ。後悔しても知らんからな』
ユウキへと向き直ると、溜息混じりに名乗るヴォルフ。
「はい!心配してくれて、ありがとうございますストラージさん!」
名乗ってくれたことに飛び跳ねそうな程喜ぶユウキ。そんな彼女を、ヴォルフはどこか懐かしさを思い出したかのような目で見ていた。
『ではな、もう2度と合わないことを願っているぞ』
「はい、またいつか!」
今度こそ背を向けて去っていくヴォルフに、ぶんぶんと手を大きく振りながら見送るユウキ。内容が噛み合っていなかったが、不思議と違和感を感じさせなかった。
「私も行くわ。じゃあね」
「フローリアンさんもありがとうございました。お元気で」
そう言葉を交わしてヴォルフの後を追いかけるキリエと。ヴォルフ同様に、ぶんぶんと手を大きく振りながら見送るユウキ。
2人の姿が見えなくなると。ユウキはシェルターへと戻り、友人や教師らにお叱りを受けるのだった。
『……』
「どうしたのよシャドウ1?あの子と会ってから考え込んじゃって」
別行動となっていたオータムらと、合流を目指すヴォルフとキリエ。
だが、ユウキと別れてから、ヴォルフの様子に違和感を覚えたキリエが話しかける。
『少し、妹とのことを思い出しただけだ』
「妹!?あんた妹いたの!?」
告げられた内容に驚愕するキリエ。なんだかんだんで、この男の過去を余り知らない彼女には十分過ぎる衝撃であった。それだけに非常に興味の引かれる内容でもあった。
『昔の話だ。もう縁は切った。あいつはもう、日向に住んでいるからな』
そういうヴォルフの声には、キリエの聞いたことのない優しさが含まれていた。
「シャドウ1?」
『着いたぞ』
話を打ち切るようにビルの壁に沿って機体を上昇させるヴォルフ。それにキリエも続く。
できればもっと話を聞きたかったが。ヴォルフの雰囲気から無理に触れるべきではないと判断し、キリエは任務に集中することとした。
「おっ来たか。おせーぞ」
ビルの屋上にたどり着くと、別行動となっていたメンバーがおり。その内の1人であるオータムが待ち焦がれた様に呼びかける。
「すまん、待たせたな。こちらの状況はどうだ?」
「目標
『よくたどり着けたものだ。道中ノイズがいただろうに』
エムの報告に、顎に手を添えて関心したような声を漏らすヴォルフ。
「それが、走る速度がどんどん上がっていきやがって、しまいにはノイズを振り切っちまいやがった。ありゃ人間じゃないぜ」
ヴォルフの疑問に答えるように、協力者であるネフシュタンの少女が怪訝な顔で話す。
『おおよそ当たりか。それで、本命は?』
「転移反応を確認している。波長がラタトスクが使用しているものと一致した」
『結構。では、機会を伺うとしよう』
ほとんど想定通りに事態が進んでいることに、ヴォルフは満足した様子で標的のいるデパートを眺めている。
「で、今回はなんで精霊じゃなくて、ツインテイルズを狙うんだよシャドウ1?」
興味深々といった様子でオータムがヴォルフに問いかける。
精霊狙いだった彼らの今回の標的は、わざわざ狙う必要性のないツインテイルズであった。
暫し前からヴォルフは、突然女性のヘアースタイル関連についての情報を集め始め、メンバーの度肝を向いており。そこから何かを感じ取たのか、この襲撃を決定したのだ。
だが、確かめたいことができたとしか理由は告げられておらず。オータムは気になって仕方がなかった。他のメンバーも同様なようで、視線がヴォルフに集中する。
『まだ確証が持てないのでな。悪いが今は言えん』
「そりゃねぇよ!おかげでこっちは、毎晩お前のことを考えながら、8時間しか寝れてないんだぜ!」
「それ以上寝てどうする気だ…?だいたい、私の方がシャドウ1のことを深く考えながら寝ている」
見事に話を脱線させたオータムに。的確にツッコミを入れながら、ボケを叩きこむ高等技術を発揮するエム。
「あ?なめんなよガキ。こちらとらお子様のお前より、大人の関係で考えてんだよ」
「ふっ『そういった』方向でしか考えられんとは浅ましい奴だ。ああ、もう青春が枯れ果てているから、仕方なかったなすまない」
「いやいやこっちも悪かった。『そういう』話だと、顔を真っ赤にして逃げ出すピュアなお前さんには、一生無理だもんなぁ。手を繋ぐだけで青春が終わりそうだもんな」
「あ?」
「お?やるか?」
互いに額を押し付け合ってメンチを切るオータムとエム。とはいえ、一触即発なのに何故か微笑ましく見えるのだが。
「おい、話が光の速さで脱線したまま突き進んでるぞ?」
『気にするな。いつものことだ』
ネフシュタンの少女が、呆れを通り越した顔でツッコミに入るが。肝心のヴォルフは、慣れた様子でデパートの方に集中していた。
「……」
『おい、シャドウ4。なぜ俺を蹴落とそうとしている?危ないだろう』
無言で背後から蹴りを浴びせてくるキリエに、何事かといった様子で困惑の色を浮かべるヴォルフ。
「いや、あの2人の代わりにあんたに天罰を与えようかと」
『確かに俺は碌な人生を歩んでいないが。お前に罰せられることはしていないぞ?』
「よし3人でこいつ落そう」
「うむ」
「OK」
朴念仁への処罰に、オータムとエムも加わり次々と蹴りを浴びせていく。
『よせ、止めろ!
必死に蹴落とされないよう踏ん張りながら、説得を試みるヴォルフ。最も飛行できるので落ちても問題ないのだが。
「(こいつら、仲いいなぁ…)」
じゃれあうシャドウズを見ながら、いろいろな意味で感心するネフシュタンの少女。
『客人!救援を請う客人!そろそろ落ちてしまう!』
「落とす側に加わらないだけ、ありがたいと思え」
『何故だ!?』
最後の望みが絶たれたヴォルフが蹴落とされるのと同時に、デパートから天使を顕現させたハーミットが飛び出してくる。
そして、タイミングよくツインテイルズが孤立したのを発見したので。メンバーから逃げるように強襲するヴォルフであった。