ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第五十一話

ブルーアイランド基地敷地内にある軍病院。その廊下を俺は歩いていた。すぐ後ろをアミタと詩乃が着いてきている。

俺自身が負傷したのもあるが、戦闘終了後にユウキが避難警報が解除されていないのにシェルターから出てしまい、ノイズに襲われたと報告を受けたのだ。

怪我はしていないとのことだが、念のためにこの病院で検査を受けているとのことで。駆けつけている訳だ。

え?歩いているんじゃないのかって?病院は走っちゃいけないんです。他の人に迷惑になるからね。でなきゃ全速力出しとるわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失礼。取り乱してしまいました。まあ、あれですよ気持ち的なやつですよ。いや、何言ってるんだろう俺は…。

 

「ここか」

 

そんなこんな考えている内に、受付で教えてもらった病室の前に着いた。

扉をノックすると。はーい、と聞きなれた声と共に足音が近づいてくると扉が開き、入院着姿のユウキが姿を現す。

 

「ユウキッ!」

 

その瞬間、反射的にユウキを抱きしめた。伝わる温もりが妹が生きていることを教えてくれて、涙が流れ出た。

 

「よかった。無事でよかった…」

「うん。心配かけてごめんなさい」

 

抱きしめ返すユウキが、申し訳なさそうに話す。

 

「詩乃もアミタさんもごめんなさい」

 

今にも泣き出しそうなユウキを、2人も左右からあやすようにそっと抱きしめた。

 

「でも、どうしてシェルターから出たんだ?」

 

暫くして体を離すと、ユウキに問いかける。彼女が理由もなく、そんなことをするとは思えないからだ。

 

「うん。あのね――」

 

そしてユウキは何があったのか話し始い始めてくれた。

 

 

 

 

「――そうか。そんなことが…」

「うん…」

 

話し終えたユウキはしょんぼりと俯いてしまう。そんな彼女の頭をそっと撫でる。

ユウキ話してくれた内容から大体の事態は理解できた。シェルターから出てしまった少女を止めようと追いかけたのか。確かにいけないことをしたが、この子のその優しさを俺は誇りにしたいと思う。

 

「でも、これからは、そういったことは大人を頼るんだ。頼むから俺みたいな無茶はしないでくれ」

 

そういうと頷くユウキ。確かにこの子は他者より優れた力がある。それでも、どこにでもいる女の子なんだ。だから危険なことなんてしてほしくない。

そんなことをしていると、扉が再びノックされた。詩乃が対応してくれると、日下部大尉を連れた父さんが入って来る。

 

「ユウキィ!」

 

ユウキの無事な姿をみた瞬間、飛びつくようにして抱きしめた。――俺ごと。

 

「あれ、俺も!?ちょっ恥ずかしいから!」

 

妹共々頬ずりしてくる父さんに抗議するも、夢中になっているのか聞いてくれない。

 

「うぉぉぉぉおおおお!!」

「あああぁぁぁあああ!皆見てる!見てるから!」

 

アミタ達がもの凄い微笑ましいものを見る目向けてきてるから!恥ずかしいからぁぁぁぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにユウキは、楽しそうにキャッキャッとはしゃいでいました――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、ツインテイルズがラタトスクと、か…」

 

ブルーアイランド基地にある父さんの執務室にて、執務椅子に腰かけた父さんが神妙な顔つきで呟く。

あの後暫くしてようやく落ち着いた父さんに、ツインテイルズとラタトスクが協力関係を結んだことを報告するために場所を移したのだ。

ユウキは念のため1日入院するとのことで、アミタ達が着いていてくれるとのことなので、そちらは任せることにした。今度何かお礼をしなければな、うん。

 

「対応については指令と検討する。が、場合によっては覚悟せねばならなくなるかもしれん」

「つまり、ツインテイルズを排除(・・)するということですか?」

 

俺の言葉に頷く父さん。

 

「例え彼女らの話が本当だとしても、精霊が最重要排除対処であることに変わりはない。それを妨害してくる以上はな」

「…了解です」

 

そう。もう彼女達とは戦うしか道はない。その結果がどのようなものになっても、俺が全てを背負おう。それが隊長である俺の責務なのだから。

 

「報告ご苦労だった軍曹。今日はもう休め」

「ハッ。それでは失礼します」

 

敬礼すると、部屋を後にするのであった。

 

 

 

 

「……」

 

勇が退室するのを見送った勇太郎は。深く息を吐くと、険しい表情で背もたれにもたれかかる。

すると、部屋の呼び鈴がならされる。

 

「どうぞ」

『失礼します』

 

対応すると、AST隊長である燎子が入室してくる。

 

「少佐、今回の戦闘に関する報告書です」

「ああ、ご苦労」

 

手渡された書類に目を通す勇太郎。そんな彼を見つめる燎子は違和感を覚える。

 

「あの、少佐」

「ん、どうかしたかね大尉」

「いえ、もしかしたら。天道軍曹のことでお悩みではないかと」

 

燎子の指摘に勇太郎はキョトンとした顔をすると、気まずそうに頭を掻く。

 

「…君は今の彼をどう思う?」

「率直に言いますと、かなり無理をしているかと。先の戦闘でツインテイルズと接触した後から、動きに精細さを欠いていました」

 

天使を顕現させたハーミットを追跡中、ノイズと戦闘になったのだが。勇はまるで何かを振り払うように攻撃的になっており、普段では負わないであろう損傷を受けていた。いや、アミタがフォローに入らなければ、それだけではすまなかったかもしれなかった。

誰もが違和感を感じていた中、当の勇自身は気づいた様子もなく。ハッキリと言えば危険な状態であると燎子は見ていた。

 

「そうか…」

 

腕を組んで思案顔になる勇太郎。

 

「彼については考えがある。が、君の方でも気にかけてくれ」

「了解です」

「ああ、それと先程は済まなかったな大尉。娘の見舞いに付き合ってもらって」

 

申し訳なさそうに礼を述べる勇太郎。息子同様、1人だと冷静さを保てる自信がなかったので。燎子に付き添ってもらったのだった、

 

「いえ、お役に立てて何よりです」

「そう言ってくれると助かる。それと。あの子も君を気に入っていたようだ。幼くして母親のいない環境で育ったからな、大尉のような大人の女性に甘えたいのだろう。だから、機会があればまた会ってやってくれ」

 

病室で始めて会ったにも関わらず、何かを感じ取ったのかユウキは燎子に懐いたようで。父としても、彼女と仲良くなることは喜ばしかった。

 

「いえ、私なんて…」

「そんなことはないさ。君はいい奥さんになるよ。自信を持ちたまえ」

「あ、ありがとうございます」

 

勇太郎がにこやかに言うと、頬を赤く染め俯く燎子。

 

「そういえば、大尉は気になる相手はいないのかね?俺でよければ相談に乗らせてもらうよ」

「え!?いや、あの、私はその…!」

 

突然振られた話題に、燎子は顔の前で両手を振って慌てだす。その顔は真っ赤で、勇太郎の顔を見ては目を逸らせるを繰り返していた。

 

「大尉?」

「わ、私はそういう方はいませんので!し、失礼します!」

 

キョトンとする勇太郎を尻目に、燎子は逃げ出すように部屋から飛び出してしまうのだった。

1人となった執務室で、勇太郎は暫く目を点にして固まる。

 

「…ふむ。これはどうしたものかね」

 

そして、何か感づいたようで。少々困った様子で腕を組んだままうーむ、と唸るのであった。

 

 

 

 

フラクシナス艦内にある艦長室にて、琴里は執務椅子に腰かけ執務机に備え付けられているモニターに向き合っていた。

 

『そうか、やはり今は無理だったか…』

 

モニターには老齢の男性の顔が映し出されており。その声からは無念さが滲み出ていた。

琴里が話しているのは、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン。ラタトスクの創始者で、最高意思決定機関『円卓会議』の議長であり、琴里の恩人でもある人物である。

 

「はい、申し訳ありません。ウッドマン卿…」

 

いつもの強気な様子は鳴りを潜め、気落ちした様子で謝罪する琴里。

士道やレッドが提案した。独立混成遊撃部隊の隊長である勇を説得して協力を取り付ける。博打と言うのも生温い程の成功率の低い作戦は、予想通り失敗に終わった。それでも最終的に作戦を許可したのは琴里であり、責任を負うのは指揮官である自身の役目である。

 

『いや、現状では仕方のないことだ。君に十分な戦力を整えてやれることもできない私の責任でもある。本当に済まないと思っている』

「そんなことは…!全ては私の力が及ばないからであって!」

 

だが、エリオットは琴里を責めるでもなく。寧ろ自身の力不足を嘆いているようであった。そのことに、琴里は思わず椅子から立ち上がり否定しようとする。

 

『いや、君は限られた手札で最善を尽くしてくれているよ。責任と取れと言うのなら私の方さ。本来なら自分がやらなければならないことを、年若い君に押し付けてしまっているのだからね』

「ご自愛下さい。あなたにもしものことがあれば、それこそ取り返しがつきませんから。それに、これは私自身が選んだことですから」

 

弱弱しく語るエリオットに、琴里は椅子に座り直して案ずるように話す。

 

『ありがとう五河指令。それで、今後の方針だが。独立混成遊撃部隊との交渉は継続してもらいたい』

「継続、ですか?しかし…」

 

エリオット案に、懐疑的な声が漏れてしまう琴里。DEM社と軍の繋がりが強い以上、士道のことを話すことは難しい。そんな状態で協力関係を結ぶのは不可能と言わざるを得なかった。

 

『無理難題を言っているのは重々承知している。だが、精霊を保護していくうえで、彼らの協力は必要不可欠になるだろう。それにこれからの世界の未来を左右するのは、君達と彼らのような若者だろう。だからこそ、君達と彼らが争うようなことにだけは、なってほしくないんだ』

「ウッドマン卿…」

 

ラタトスクの掲げる精霊との共存は、エリオット自身の悲願であり。同時に混迷を極めるこの世界の未来を心から憂いてもいるのだ。

 

「分かりました。最善を尽くします」

『ありがとう。こちらでもできる限りのことはする。どうか、引き続き彼を支えてやってくれ』

「はい、お任せ下さい!」

 

そう言って、琴里に期待をかけるように優しく語り掛けるエリオット。そんな彼に琴里は力強く答えるのであった。

 

 

 

 

日が完全に沈んだ時刻。IS学園寮の中庭で俺は木刀を手に素振りをしていた。

帰って休もうとしてもどうにも落ち着かないので、適度に体を動かすことにしたのだ。

 

「……」

 

今日あったことが思い起こされる。もし、レッドが割って入らなければ、ハーミットを討ち取れていたかもしれなかった。

もしかしたら、あれが最後のチャンスだったかもしれない。それでも、こうなってよかったと思っている自分がいることが心をざわつかせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊の命を奪ったら、あなたは一生後悔し続けることになる!だから、どきません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!」

 

レッドの言葉を振り払うように木刀を力強く振るう。それでも心のざわつきはより強くなり、思わず歯を噛みしめる。

 

「見ていられんな」

 

不意に声をかけられ視線を向けると、竹刀袋を手にした恭也がこちらに歩み寄ってきていた。

 

「恭也?こんな時間にここで何してんのさ?」

 

恭也の家は本島の方にあるから、夜に島にいることに驚きを隠せない。

 

「寮長の許可はもらっている」

 

1年の寮長は千冬さんだから知らない仲じゃないけど、だからってそんなにあっさり許可を出すのか?あの人は何を考えてるんだ?

 

「てか、見ていられんって…」

「そのままの意味だ。今のお前は余りにも情けなくて見るに堪えん」

 

まるで呆れたような目で俺を見ていることに、すげー腹が立つんですけど。

 

「情けないってどこがさ」

 

不機嫌全開で睨みつけながらと、恭也は深く溜息を吐いた。

 

「今のお前には言うよりこちらの方が早いな、来い」

 

そういうと、恭也は竹刀袋から小太刀程の大きさの2本木刀を取り出すと構える。

『永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術』――恭也の使う剣術は篠ノ之流同様、戦国の時代から続く流派であり。『護る』ことに重きを置いている篠ノ之流に対して、『いかに相手を確実に仕留める』かに重きを置いた攻撃的なのが特徴だ。恭也曰く完成の領域にある御神の剣士は、全員が重火器や爆弾でも装備していない限り、100人でかかっても、倒すことはできないとのことで。実際その通りなのがぶっ飛んでやがる。

 

「上等、久々に本気でやるか」

 

意図はよく分らんが、ざわつきを抑えるにはちょうどいいか。

俺は木刀を正眼に構えながら、意識を研ぎ澄まし間合いを図る。対する恭也はその場から動かず俺を見つめ続けている。

 

「オォウ!」

 

木刀を振り上げ一息に間合いに踏み込むと、恭也の顔面目掛けて振り下ろす――と見せかけ横薙ぎに切り替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――パァァンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

会心の一撃だった筈の打ち込みは、手の痺れる感覚と共に、手にしていた木刀が宙を舞うことで打ち砕かれた。カランッという木刀が地面に落ちる音が虚しく響いた。

そして恭也の突きが俺の眼前で寸止めされた。

 

「あ、れ?」

 

おかしい。いつもはこんなあっさり終わることなんてなかったのに…。

 

「どうした。もう終わりか?」

 

木刀を下げると挑発的な笑みを浮かべる恭也。でも、その目はなぜか悲しそうだった。

 

「ッ――そんな訳ないだろ!」

 

落ちた木刀を拾うと再び構える。さっきのは戦闘の疲れが残ってただけさ。そのことを勘定に入れて動けばいいだけのことだ。

 

「ハァァァアアア!!」

 

より精神を研ぎ澄ませると、再び間合いを詰めて打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――ぐ、ぁ…」

 

試合を始めて暫くして、俺は地面に仰向けに倒れて夜空を見上げていた。体のあちこには痣ができ、また所々腫れあがり動かなくても断続的に激痛が襲い掛かる。息も絶えたえで、酸素を取り入れようとすると更なる痛みが走る。

対する恭也は傷一つないどころか呼吸も乱れておらす、悲しみが混ざった目で俺を見下ろしていた。

作戦後であったとはいえ、ここまで一方的に負けたのは始めてだった。

 

「……」

 

体が重い。疲労や痛みのせいだけでなく、まるで自分の体じゃないみたいに思うように動かせなかった。一体どうなってんだよ…。

 

「篠ノ之流は本来『守護』するために生み出された流派。それを捨て、相手を倒すことに固執したお前を御すること程容易いことはない」

「!」

 

恭也の言葉に、痛みさえ忘れて目を見開き体を震わす。そう、篠ノ之流は戦の世で命を守るために生み出された流派だ。それを、俺は…。

 

「俺が友として認めたお前はどこに行ってしまったんだ」

 

木刀が軋む程に握り締め、僅かに声を震わせて問いかけてくる恭也。泣いて、いるのかお前…?

 

「お前はなぜ強くなろうとした?」

 

それは、と答えようとするも。なぜだが言葉が出てこない。体が痛むからとかではなく、まるで何かが喉につっかかっているかのようだ。

 

「お前はなんのために戦っている?…そのことを思い出せ」

 

そういうと背を向けて立ち去っていく恭也。その友の背中に俺は何も答えてやることができなかった…。

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