ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第五十四話

「よろしかったので指令?士道君への支援を切ってしまって」

 

フラクシナス艦橋にて、艦長席に腰かけている琴里に側で控えている神無月が話しかける。

士道が勇と接触すると、彼女は士道への通信の切断と周囲に展開していた遠隔操作式カメラの回収を命じたのだ。

即ち彼を敢えて孤立させるたのである。それはラタトスクの理念に反することであり、命令違反とさえ言えることだった。

 

「…ツインテイルズの協力を得ることができても、戦力が不足している。それが前回の作戦でハッキリしたわ」

 

前回の作戦時、協力者であるツインテイルズがファントム・タスクに強襲され甚大な被害を被ってしまう事態が起きた。その際琴里らフラクシナスは妨害を受け、何が起きていたのかさえ把握できていなかったのだ。士道を支援するどころか、協力者への支援も満足に行えないことに琴里は己の認識の甘さを痛感させられることとなった。

 

「でも、これ以上の戦力を向上させることは不可能な以上。敵を減らすしか手がないわ」

 

腕を組んで沈痛な面持ちで語る琴里。隠しきれない疲労感が滲み出ていることから、考え抜いた末の苦肉の策なのだろう。

 

「目下私達にとって最大の障害がファントム・タスク、そして独立混成遊撃部隊よ。ファントム・タスクとは戦う以外の選択肢がないけど、遊撃部隊なら選択の余地がある」

「ですが、レッドちゃんの提案には反対されていましたが?」

「完全にこちら側に引き込むのはね。でも、状況によっては協力し合えるような関係を築ければとは思っているし、完全に敵対するのだけは避けたいわ」

 

組んでいた足を組み直し、疲れを吐き出すように息を吐く琴里。

 

「それで士道君だけで天道軍曹と交渉を?」

「交渉…って程でもないけど、私達が並べた言葉じゃ彼には響かないわ。だから士道が思ったことをそのまま伝えるのが一番効果的の筈よ」

「ですが、かなり分の悪い賭けになりますね」

「そうね。でも、今は士道を信じるしかないわ」

 

自分の言ったことが如何に希望的観測であるか理解している。だが、どれだけか細い綱の上でも進まなければ活路は見い出せないのだ。

不安がないと言えば嘘になる。寧ろ兄を危険に晒さなければならないことに、心が押し潰されそうになる。

それでも指揮官である以上、部下の前では気丈に振舞わねばならないのだ。それがどれだけ辛かろうとも、この道を選んだ時に覚悟したことなのだから。

 

「大丈夫です。あなたの選択は間違ってなどいません。あなたは私が知る限り最高の司令官なのですから」

 

恭しく頭を垂れる神無月。

5年前9歳という若さで兄の、そしてこのフラクシナスのクルーの命を背負う覚悟を決めた少女。その気高く慈愛深い彼女に出会った時、神無月は彼女こそ自分が仕えるべき主人だと確信したのだ。彼女が迷えばその背中を押そう、危険が迫れば命をかけて守ろう、それこそが自分が存在する意味なのだから。

 

「……ありがとう。神無月」

 

神無月の言葉に、柔らかな笑みを受かべる琴里。久方ぶりに心から笑えた気がしたのだった。

 

 

 

 

「ここが君の家か」

「はい」

 

あの後、俺は五河の家の前にいた。あの場から近いとのことなので、取り合えずハーミットに昼食を食べてもらうこととなった訳なのだが。

 

「どうぞ、四糸乃も」

 

五河がドアを開けると招くと、恐る恐るといった様子で着いていくハーミット。

 

「(何やってるんだろうなぁ俺…)」

 

いくら戦う術がないし向こうに敵意がないとは言っても、精霊と共に行動を共にしていていいのだろうか?

 

「(いや、これはチャンスと見るべきか)」

 

精霊について知るまたとない機会と前向きに考えよう。もしかしたら何かが変わるかもしれない。

玄関で靴を脱ぎ五河に続いてリビングに入ると、どこにでもある一般家庭のリビングだった。いや、一般家庭なんだから当然なんだけどね。

 

「着替えてくるので、ソファに座って待ってて下さい」

 

そういってリビングから出ていく五河。

 

「……」

「……」

 

未だかつてない程に気まずい。ビクビクと震えながらこちらの様子を伺っているハーミット。

 

「ところでさ」

 

何か話すきっかけはないかと、彼女を観察しているとあることに気がつく。

 

「そういえば、君が探していたのってパペット?」

「!?」

 

図星らしく食い入るような目で詰め寄って来るハーミット。そう、いつもは彼女の左腕にあるウサギの人形が今日はないのである。

 

「それならどこにあるか知ってるよグぁー―!?」

 

言い切る前にハーミットに胸倉を掴まれて激しく揺さぶられる。

 

「よ、四糸乃!それじゃ天道さんが話せないって!」

「……!」

 

戻ってきた五河が慌てて止めに入り、ハッとしたように解放するハーミット。

 

「ご、め…ん…な、さ…い」

「いや、慣れているから平気だよ」

 

ペコペコと頭を下げながらたどたどしい口調で謝ってくるハーミットに、気にしていないことを伝える。実際ユウキにこういうのはよくやられるからな、無茶した時や女性と仲良くなった時なんかにね…。

 

「それで、何があったんです?」

「ああ、彼女のパペットがどこにあるか知ってるって話をね」

「え!?本当ですか!」

 

余程大事なのか五河も詰め寄ってくるのを宥める。

 

「ああ、この前の戦闘が終わった時折紙が偶然拾ってね。なんか気に入ったみたいで持って帰ったんだ」

「鳶一が?」

 

そういえば、あの時は余裕がなかったので気づかなかったが、少し口元に笑みを浮かべてたな彼女。なんだかんだで女の子ということだな。

 

「よしのん…」

 

俯きながら涙目で服の裾をギュッと掴むハーミット。

 

「大丈夫だ四糸乃!俺が必ずよしのんに合わせてやるから!」

 

片膝をついてハーミットの両肩に手を置いて優しく語り掛ける五河。

 

「士道…さ、ん…」

 

どこか嬉しそうに五河を見たハーミット、そのお腹からきゅるるるると音が鳴った。

 

「とりあえずご飯にしようか」

 

顔を赤くして恥ずかしそうに俯くハーミットを見て、本来の目的を思い出すのだった。

 

 

 

 

「じゃあ、よしのんというのはあのパペットのことなのかい?」

「ええ、四糸乃の大切な友達なんだそうです」

 

キッチンにて鍋をおたまでかき回しながら問いかけると、側で鶏肉を刻みながら五河が答えてくれる。

昼食の準備をしながらハーミットのパペットについて聞いていたが、どうやら彼女にとってはかなり大切なものらしい。

 

「それならできれば返してあげたいけど、彼女のことを伏せながらだと難しいな」

 

俺が折紙に頼み込むという手もあるが、彼女の事情を考えると精霊について話すのは得策とはいえない。

 

「どうしたら…」

「事情を話さずとなると、君が折紙の家にいって適当な理由をつけて譲ってもらうくらいかなぁ。恋人なんだから家に上がる理由はどうとでもなるし」

 

利敵行為と言われたらその通りとしかいいようがない会話してるけど、まるで家族と引き剥がされたようなハーミットの顔を見ると、どうしても協力したくなってしまうのだ。

 

「それしかないですかね…」

 

どこか顔色が悪そうな五河。身の危険を感じているのは気のせい――ではない、のか?

 

「ま、とりあえず食事にしよう。彼女も待ってるし」

 

調理を終えて盛り付けをしていく。五河が作ったのは親子丼で、俺は味噌汁である。

手分けしてそれぞれの分を席に置くと椅子に腰かける。

 

「「いただきます」」

 

俺と五河が手を合わせると、それを見たハーミットがその動作を真似る。

そしてスプーンを手に取り、親子丼を一口、口に運ぶ。

 

「……!」

 

するとカッと目を見開き、テーブルをぺしぺそと叩きだした。

 

「ん?」

 

俺達が目を向けると、恥ずかしそうに目を逸らす。

それからハーミットは何かを伝えたいんだけど、言葉を発するのが恥ずかしい、みたいな顔を作ってから、ぐっ、と五河に親指を立てた。どうやらお気に召したらしい。

 

「お、おう…」

 

そのリアクションに彼は苦笑して、返答とばかりに親指を立てた。

続いてハーミットは両手でお椀を持つと、味噌汁を口に流し込む。

 

「……!」

 

するとカッと目を見開き、テーブルをぺしぺそと叩くと、今度は躊躇いなく俺に親指を立ててきた。

その仕草が微笑ましくて、思わず笑み受けべて俺も親指を立てる。

それから俺も親子丼をスプーンで口に運ぶと、体中を衝撃が走った。

 

「「うまい!」」

 

味噌汁を口にしていた五河と見事にハモった。

 

「「……」」

 

暫く互いに見つめ合うと、ガシッと手を握り合う俺と五河。調理の段階から感じていたが、彼も同士(主夫適性持ち)のようだ。

 

「?」

 

そんな俺達を不思議そうに見つめるハーミットの視線に、気恥しくなって互いに手を放すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?いや、違うか…」

 

勇の部屋にあるベットに座り込んでいるユウキが、何かを感じ取ったように窓に視線を向けると、1人で納得する。

 

「どうしたんですかユウキ?」

 

対面に正座しているアミタが、そんな彼女に声をかける。

退院したのでいの一番に兄に会いに部屋を訪れたら、何故かアミタがベット上で毛布に身を包み悶えていたので事情聴取が行われていたのである。

そんな中、ユウキの乙女の感が警鐘を鳴らしたが、すぐに誤報だったとして鳴り止んだのだ。

 

「何でもないよ。さあ、それより何があったのか聞こうかアミタさん」

「そ、それは、その…」

 

顔を真っ赤にして俯いたまま黙ってしまうアミタ。この期に及んで黙秘が通じるとでもいうのだろうか?いや、ない。

 

「そっちがその気なら仕方ないね。こういう手は使いたくないけど」

「え?あの、何をするつもりですか!?」

 

ハンターのような目つきで両手をワキワキと怪しく動かしながら迫って来るユウキに、身の危険を感じて後ずさるアミタ。

 

「フシャァ!」

「きゃぁ!?」

 

跳びかかってアミタを押し倒すと、ユウキは彼女の胸を――――鷲掴んだ。

 

「ヒャン!?」

「さあ、吐くんだ!でないとこうだ!!」

 

そういって胸をこねくり回すユウキ。アミタの胸がユウキの指の動きに合わせて、服越しでもハッキリするくらいに形を変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、デカい―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も共に風呂に入った際に確認しているとはいえ、こうして直接触ると、その強大な戦闘力を実感させられる。これは彼女の脅威度を修正せねばなるまい。

 

「ゆ、ユウキ…そんな乱暴には、はぁう!」

 

頬を紅潮させ涙目で揉む度に色っぽい反応を見せるアミタ。何このエロい生き物?

中学に入ってからメガシンカした直葉の重いだ、竹刀を振るのに邪魔になるといった愚痴を零す彼女に憂さ晴らしで同じことをしてきたが。結果、彼女のシンカを促進させてしまったのが、誤算だった。

そのこともあり、どう揉めばいいか熟知しているユウキは巧みにアミタを翻弄する。

 

「……」

「――あっ、ひぁっ、ん、あぁっ、あんっ!!」

 

なんか趣旨から外れてきているが、それを咎める者はいなかった。

真剣な表情で無言で胸を揉み続けるユウキと、アミタの色っぽい悲鳴が部屋に木霊する。

 

「チクショォォォォオオオオ!そのオッパイ寄越せェェェェエエエエ!!」

「ヒャァァァァァァァアアアアアアアアアア!?!?!?」

 

しまいには泣き出すセクハラオヤジ(ユウキ)。その後、セクハラは騒ぎ過ぎて寮監の千冬が乗り込んでくるまで続くのであった…。

 

 

 

 

余程空腹だったのか、ハーミットは小さな口を目一杯広げ、すぐに料理を平らげてしまった。

それを見計らった様子の五河が彼女に語り掛けた。

 

「なあ…四糸乃。ちょっと訊きたいことがあるんだが――いくつか質問していいか?」

 

ハーミットは不思議そうに小首を傾げる。

 

「その…随分大事にしているみたいだけど、あのパペット――よしのんって、お前にとってどんな存在なんだ…?」

 

その問いに、ハーミットは恐る恐るといった調子で、たどたどしく唇を開く。

 

「よしのん、は…友達…です。そして…ヒーロー、です」

「ヒーロー?」

 

以外そうに五河が問うと、ハーミットはうんうんと頷いた。

 

「よしのんは…私の、理想…憧れの、自分です。私、みたいに…弱くなくて、私…みたいに、うじうじしない…強くて、格好いい…」

「理想の自分…ねぇ」

 

五河は頬を掻いて、何かを思い出している様子。

つまり、彼女は自分が嫌いで思い描いた自分を、あのパペットに投影しているということなのか…。

 

「俺は…今の四糸乃の方が好きだけどなぁ…」

 

五河が何気ないと様子でそう暴露すると、ハーミットはボンっ!と顔を真っ赤に染め、背を丸めながらフードをたぐって顔を覆い隠してしまった。一夏かな?

 

「よ、四糸乃…?どうした?」

 

五河が顔を覗き込むみながら声をかけると、ハーミットはフードを握っていた手を離し、そろそろと顔を上げた。

 

「…そ、そんなこと、言われた…初め…った、から…」

「そ、そうなのか…?」

 

ハーミットが、深く趣向する。五河さんよ、君恋人いるんだよね?

 

「それで――ええと四糸乃、お前は軍に襲われても、殆ど反撃しないらしいじゃないか。何か理由があるのか?」

 

新たな問いに、俺は思わず息を詰まらせる。最も問いかけてみたいも、知ることに恐怖心を感じていたからだ。

ハーミットはまたも顔を俯かせた。

霊装であるインナーの裾をぎゅっと握るようにしてから、消え入りそうな声を出してくる。

 

「…わ、たしは…いたいのが、きらいです。こわいのも…きらいです。きっと、あの人達も…いたいのや、こわいは、いやだと…思います。だから、私、は…」

 

油断していれば聞き逃してしまいそうな程小さな、掠れるような声音。

だが、俺達はその言葉に心臓を穿たれるような衝撃を覚えた。

 

「……っ、四糸乃…お前、そんな理由――」

 

五河が言い終わる前に、ハーミットが全身を小刻みに震わせながら、言葉を続ける。

 

「でも…私、は弱くて、こわがり…だから。1人だと…だめ、です。いたくて…こわくて、どうしようもなくなると…頭の中が、ぐちゃぐちゃに…なって…きっと、みんなに…ひどい、ことを、しちゃい、ます」

 

後半は、もう涙声だった。

ずずっと洟を啜るようにしてから、さらに続けてくる。

 

「だ、から…よしのんは…私の、ヒーロー…なんです。よしのん…私が、こわく、なっても大丈夫って、言って…くれます。そした、ら…本当に、大丈夫に…なるんです。だから…だ、から…」

 

聞いていた五河は唇を噛みしめ、両の手は血が出るのではないかという程握り締められていた。そして、席を立ちハーミットの隣に腰を下ろすと、彼女の頭をわしわしと撫でる。

 

「……っ、あ…っあの――」

「俺が」

「――っ、……?」

「俺がー―お前を救ってやる」

 

五河の言葉にハーミットが目を丸くするも。構わず続ける五河。

 

「絶対によしのんに会わせてやる。それだけじゃない。もうよしのんに守ってもらう必要だってなくしてやる。もう、お前に『痛いの』や、『こわいの』なんて近づけたりしない。俺が――お前の、ヒーローになる」

「……?……?」

 

ハーミットは暫し目を白黒させていたが、数十秒の後、小さく唇を開く。

 

「…あ、ありがとう、ございま…す」

「…おう」

 

嬉しそうに頷くハーミットに、微笑む五河。その姿はまさにヒーローだった、俺では決してなることのできない正義の味方がそこにはいた。

 

「俺からも、いいかな?」

 

宥めるような口調で語りかけると。ハーミットは目元にうっすらと浮かんでいる涙を、五河が差し出したハンカチで拭いながら頷く。

 

「俺は軍に所属する人間、つまり君を排除しようとしている者なんだ」

「!?」

「!?天道さん!」

 

ハーミットが驚いたように体を震わせ、五河が慌てて止めに入ろうとする。

彼から今のハーミットは、非常に精神状態が不安定なので刺激しないようにと言われていたが、彼女の真摯な姿に黙っていることができなかった。

 

「……!」

 

怯えた目で俺を見るハーミット。背後のキッチンの流し台からボコボコと水が蠢く音が聞こえてくる。

 

「落ち着け四糸乃!俺がいるから!俺がお前を傷つけさせないから!」

 

五河がハーミットをギュッと抱きしめると、顔を赤くしたハーミットの体の震えが徐々に収まり、背後からの音も収まる。

 

「驚かせてすまない。それでも君に伝えたいことがあるんだ」

 

ビクビクとしながらも首を傾げるハーミット。

 

「俺は2日前に君に助けられたんだ。紺色で頭部にV字のアンテナがついているPTって分かるかな?」

 

俺の言葉に彼女はコクコクと頷く。夜刀神よりある程度こちらの情報を把握しているようだ。

 

「そして次の日には君を殺そうとした。君が精霊というだけで恩を仇で返す、人間とはそういう生き物だ。そして、俺はこれからも君を排除しようとし続ける。それでも君は戦わないのかい?」

 

ハーミットは俯きながら、五河の上着の裾の握る。少しして顔を上げるとその澄んだ瞳で真っすぐに見つめてくる。

 

「わた、し…の、せいで色んな人に、めいわく…を、かけて…いますから、しかた…の、ないことだ…と思います。あなた…にも、まもり…たい人がいる、でしょう…から…」

 

どこか諦観の混じった笑みを浮かべるハーミット。まるで、俺が罪悪感に囚われないように気を配るように。

その姿に叫び散らしたくなるのを必死に堪える。なんでだ、なんでこんな慈悲深い子が精霊なんだ!どうして彼女を殺さなければならないんだ!!

 

「あの…」

 

五河から離れたハーミットが俺に歩み寄ると、そっと手を握ってきた。

 

「あり、がとう…ござい、ます…。わた、し…の、こと…しんぱい、して…くだ、さって…。あなた、も…士道さんと…いっしょ…で、やさしい…人、なん、ですね…」

「――――ッ!!」

 

その言葉に、俺は思わず手を振り払って椅子から立ち上がり玄関へと駆け出すと、五河家から飛び出す。

 

「俺は…俺は…!」

 

雨に濡れるのも構わず走り続ける。大切な人達を守るために彼女と戦わねばならない気持ちと、自分を殺そうとする相手をも思いやれる心優しき彼女を、傷つけたくない気持ちが混ざり合って、心が張り裂けそうになる。

ひとしきり走ると足を止め、側にあった電柱に拳を力の限り叩きつけると、その手の皮膚が裂け血が滲み出る。

 

「何のために戦ってるんだッ!!!」

 

雨雲の広がる空に向けて叫ぶも、答え等帰って来る訳がなく、ただ降り注ぐ雨音だけが虚しく響くのだった。

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