「テイルギアの修理は完了しています。皆さんの傷の具合はいかがですか?」
「ああ、おかげでバッチリ治ったよ。ありがとうトゥアール」
総二の家の地下にあるツインテイルズの活動拠点である秘密基地のコンソールルームにて。テーブルにそれぞれのブレスを置いたトゥアールが問いかけると、問題ないことをアピールするように総二が軽く肩を回しながら答える。
ヴォルフが撤退した後、すぐにトゥアールに回収された総二と愛香。高い保護機能を持つテイルギアでも受けきれないダメージをその身に受けたが、トゥアールが開発した医療用カプセルで治療を受けすでに全開していた。
本来なら完治まで長い期間が必要であったが、ギアの修理を一晩で終わらせたことと合わせトゥアールの科学力はやはり目を見張るものがあった。
「…すみません。まさか、あのタイミングでファントム・タスクが総二様達を狙ってくるとは予想しておらず、完全に後手に回ってしまいました」
気落ちしたように謝罪してくるトゥアール。総二らの危機に何もできなかったことにかなり責任を感じているようだ。
「仕方ないわよ。正直言って、あたしにも油断があったし…」
そんな彼女をフォローする愛香。今回の襲撃は彼女にとっても予想外のことであった。
「それを言うなら俺もさ。リーダーなんだから、もっとしっかりしなきゃいけなかったのに…」
人と戦うのを恐れ愛香が窮地に立たされるまで何もできず、1人で戦わざるを得なくなり手も足も出ず敗れ、母をも危険に晒してしまった己の不甲斐なさに、血が出るのではという程手を握り締める総二。
「あらあら、皆元気がないわね。そんなんじゃ青春を無駄にするだけよ?」
室内に流れる陰鬱な空気をものともせず、未春が陽気に入室してくる。
「母さん…」
「ん?何総ちゃん?」
「ごめん俺のせいで危険な目に合わせて…」
しゃんぼりと項垂れる息子に対して――その背中を未春は、まるで喝を入れるようにバシンッ!と叩いた。
「痛ッ!?」
「何言ってるの、親が子供守るなんて当然のことじゃない。それよりもっと大切なことがあるでしょ?」
「でも…痛いってば!!」
なかなか吹っ切れない総二の背中をもう一度叩く未春。
「失敗を反省することは大切よ。でも、それだけじゃ駄目。そこからどうしていくか考えなくちゃ」
「そこからどうしていくか…」
母の言葉を噛みしめる総二。確かに下を向いているだけでは何も始まらない、自分達を信じてくれている人達のためにも、少しでも前に進まねばならないのだ。
「ありがとう母さん。俺頑張るよ、もう母さんを危険な目に合わせないために」
「そうそう、男の子はそれくらいじゃないとね」
力強く応える息子を、頼もしそうな目を向けながら満足そうに頷く未春。
「でも、おばさんのことが奴らに知られちゃったのはかなり不味いわよね。レッドがそーじだってばれるのも時間の問題だろうし…」
そう、ヴォルフに対して未春は堂々と名乗ってしまったのだ。ファントム・タスクならそこからレッドの正体に辿り着く可能性は極めて高いだろう。
「私もネット等を監視していますが、奴らがどのような手段に出てくるか予測しきれません…」
「あら、それなら心配しなくてもいいんじゃないかしら?」
そんな彼女らの不安をよそに、当の未春はあっけからんとした様子であった。そんな彼女に愛香が問いかける。
「どうしてですか?」
「彼なら黙っていてくれると思うから」
「いや、いくらなんでもそれは…」
余りにも希望的観測過ぎる答えに、トゥアールが思わず冷や汗を流す。
「いや、俺もなんでか分からないけど、そんな気がするんだ」
未春の考えに総二も賛同する。『良き母を持ったなテイルレッド。孝行の心を忘れるなよ』そう言った彼なら、今回のことで母に害になることをするとは思えなかったのである。
「そーじも!?そんなのお気楽過ぎるって!」
確かに愛香の言う通り楽観的といわれても仕方がないが、この件については観束親子には不思議とヴォルフのことが信用できたのだった。
それから総二らの周りでは何事もなく数日が経つのだった。
まだ愛香やトゥアールは警戒しているも、少なくとも総二はもう気にすることなくいつもの生活を送っていた。
「にしても増えたねぇ、ツインテール」
最早恒例ともなっているユウキも交えた昼休み、昼食を食べ終えて寛いでいると、不意にユウキが周りの女子を見ながら零した。
一月程前はバラバラであったクラスメートの髪型だが、今ではツインテールの割合が多くを占めていた。
「ツインテイルズ旋風ってやつかね?」
「…そうね」
自分と同じ髪型が増えているにも関わらず、愛香は面白くなさそうにしていた。ツインテイルズの活躍に合わせて世界中の人々がツインテールに関心を持ち、有名人が髪型を真似たり各企業が関連する商品を取り扱い始める等影響力を強め。今では子供向けだったツインテールは流行の中心となり、年齢を問わず親しまれるようになったのだ。
「なんで不機嫌そうなんだよ愛香?」
「……」
「え、なんで睨まれてるの俺?」
ジト―とした目を向けられて困惑している総二。
「総二が他のツインテールに目移りするのが嫌なんでしょう」
「べ、べべべべべ別にそんなんじゃないから!そんなんじゃないから!」
「お、おう?」
「(そこで攻めればいいのに…)」
せっかくの援護を、顔を赤くして机をバンッと叩きながら否定する愛香。そんな友人に、内心溜息をつくユウキ。
「てか、なんか嬉しくなさそうだよね総二」
予想していたよりも喜んでいなことに違和感を覚えるユウキ。泣きながら飛び跳ねて喜ぶくらいはあり得ると想定していただけに拍子抜け感があった。
「いや、嬉しいんだけど。なんていうか…なんか引っかかるんだよな。上手く言えないんだけど」
実は総二は、この熱狂にどこか意図めいたものを感じていたのだ。確かに企業辺りは利益目的ではやし立てているだろうが、それらとは別の悪意ある意思が働いている気がしてならなかった。
「あ、今テイルレッドが俺に微笑みかけてくれた!!」
「ふん、いつまでも次元の低いことを…。俺なんて、トランクスにテイルレッドを熱転写してきたぜ!最早、常に一緒にいないと学業もままならねぇ!!」
「てめぇ、レッドのbot作っただろ!俺が先に作ったんだぞ!!」
「うるせぇ、俺の方がフォロー数が多いんだぞ!第一、もう全世界で3000アカウントぐらいテイルレッドbotはできてるんだよ!!今更だろうが!!」
「うん、わかった、じゃあ放課後映画観に行こうね、テイルレッドたん」
人目をはばかることなく繰り広げられる、男子のテイルレッド談義も最近ではお馴染みとなっていた。普通であれば周りの目を気にするのだが、強烈過ぎるブームはそんな卑屈さをも吹き飛ばしていた。まあ、最後の1人電話は流石に気にすべきだとユウキは思うが。
そしてその風景を見ると、なぜか総二の顔色が悪くなるのは心配になる。
ちなみに相方であるブルーはキャラが強烈過ぎるためか、思い出したように極たまに話題に出れば御の字といった感じとなっている。
「そうそう。2人に見せたいのがあったんだ~」
何か思い出したように自分のカバンを漁り始めるユウキ。
「じゃ~ん!テイルブルーのカードのウルトラレアがやっとゲットできたんだ~!」
ユウキが両手で突き出すように見せてきたのは、ツインテイルズを題材としたコレクションカードで、その中でもブルーのカードで最もレア度が高いものであった。
「え?」
それを見た愛香は思わず意外そうな声を漏らしてしまった。ツインテイルズを題材にこそしているも、実際はレッドの割合が多く、ブルーはせいぜい各レア度に一種類ある程度であったりするのだ。しかも世間からは、それら全てがハズレ扱いされていることに愛香はやるせなさを感じていたのだ。
そんな自分のカードを、本当に嬉しそうに持っている人がいることに感激した。
「ブルー好きなのかユウキ?」
「うん!悪く言われること多いけど、レッドを守ろうと一生懸命な所大好き!」
眩しさすら感じられる笑顔で話すユウキに、本気で感激する愛香。
「いや~ブルーのカード全然手に入らなくて――ちょ、愛香、なんで泣きそうになってるのさ!?」
「ごめん、あたしもブルー好きだから、嬉しくて…」
思わず零れた涙を拭う愛香、そんな彼女の背中を優しくさする総二。確かにやり過ぎと言われることもあるブルーこと愛香だが、全てはレッド――総二のためであり。そんな彼女に助けられたことも少なくなく、そんな幼馴染の頑張りが正しく評価されたことは総二としても喜ばしかった。
「誰かを守りながら戦うって大変だからね…。ブルーは凄いよホント」
誰かに思いを馳せるように窓の外に視線を向けるユウキ。その表情はどこか憂いを帯びていた。
そんな彼女の様子に言葉を詰まらせる総二と愛香。
実はここ数日勇の姿が見えず、行方不明となっているという噂がまことしやかに広がっていたのだ。
総二らもそのことは気になっており、妹であるユウキならば何か知っているだろうが。プライバシーに関わるデリケートな問題でもあるので、あえて触れなかったのだ。
「ああ、ごめん変な空気にしちゃって。やっぱあの噂気になるでしょ?」
「それは…」
「2人だけに言うとね、本当なんだ。兄ちゃん、この前の休日に出かけてから帰って来てないんだよね」
他の人にはナイショね、と片目をつぶり、右手の人差し指を口に添えるユウキ。その姿は、総二らを気遣って明るく振舞っているようにも見えた。
「それは、心配だな。何か連絡はないのか?」
「ん~ないね。多分1人で考えたこいとでもあるんじゃないかなぁ」
あはは、と両手を頭の後ろで組みながら笑うユウキ。心配こそすれど不安はないといった様子である。
「ま、あいつのことだからその内帰ってくるでしょ」
腕を組んで気にした様子もなく話す愛香。なんだかんだ言っても勇のことを信頼しているからだろう。
「…そうだね。でも、たまにはこっちから迎えに行ってもいいよね」
誰ともなく呟くユウキ。その目は何かを決意したようでもあった。