「…まだ勇とは連絡は取れんのか鳶一?」
「以前消息不明」
翼の問いに折紙は静かに首を横に振る。表情こそ平然としているもどこか困惑の色が伺えた。
精霊の出現を感知したブルーアイランド基地は機動部隊へ出撃を指示。そんな中、遊撃隊は格納庫で待機していた。
「勇さんどうしたんでしょうか…」
響が不安を隠せず漏らす。出撃しようにも肝心の隊長である勇が不在なのだ。
「多分、迷っているんだと思います」
「迷う、ですか?」
セシリアの言葉にアミタがはい、と頷く。
「自分の戦う理由について、精霊と戦うことが正しいのかを」
「今更何を馬鹿な!そのような軟弱なことを…!」
その言葉に憤りを覚えた翼はアミタに詰め寄るが、そこに折紙が割って入る。
「このまま勇は戻らなければ隊長不在のため、規定に基づき私が指揮を執る。異存は?」
落ち着くよう促す折紙の目線に、翼は深く息を吐いて心を落ち着ける。
「…ない」
翼が同意の意思を示すと、他の者達も賛同する。
「大丈夫です。勇兄なら必ず戻ってきますから」
確信に満ちた様に言う一夏。
「…その確証は?」
「いや、ないんだけど。しいて言うなら、勇兄だから、から?」
セシリアからの問いに、曖昧に答える一夏。だが、誰もそれを否定はしなかった。不思議と勇のことならそれでも信じることができたからだ。
そんな彼らの元に、出撃の命が下されるのであった。
「ハーミットの状況は?」
「以前結界を拡大中。こちらの攻撃を受け付けません」
ブルーアイランド基地指令室にて、司令官席に腰かけた悠里の問いにオペレーターが答える。
現界したハーミットの討伐作戦を実施する中、ハーミットが
結界はこちらのいかなる攻撃も凍りつかせて受けつけず、その規模を拡大させていた。このままでは島内全域が凍りつき機能を喪失するだろう。
「結界周辺に展開したアルティメギルとノイズの方は?」
「結界を拡大に合わせて移動する以外、目立った動きは見せていません」
結界の対処に追われる中、突如これまで単体か少数でしか出現しなかったエレメリアン多数と、アルティロイドの大軍が現れ、それに呼応するようにノイズの群れも出現し。こちらを結界に近づけまいと言わんばかりに陣形を形成したのだ。
「指令ゴースト1より通信です」
「繋ぎなさい」
『こちらゴースト1、部隊の配置を完了しました』
指令室の巨大モニターに表示された戦域図には、結界を中心に展開されたエレメリアンとノイズに対峙して展開された機動部隊が映されている。
「分かりました。それでは、これより作戦を開始します!」
「了解!全部隊へ作戦を開始せよ!繰り返す、全部隊へ作戦を開始せよ!」
悠里の指令と共に、オペレーターらが世話しなく動きだすのであった。
「この躍動、これこそがツインテールの魅力であろう!」
氷嵐吹き荒れる結界周辺。そこに展開しているアルティメギルとノイズの集団、その中心にて、ドラグギルディが空間に投影された、過去のツインテイルズの映像を前に拳を握り締めて熱弁していた。
「ふむ、なる程な」
それを、ハウンドを纏いながら頭部の装甲だけを外したヴォルフが、興味深そうに聞いていた。
「……」
そんな光景に対して、キリエはどこか遠くを見る目をしていた。
ハーミットの結界を前に軍が一時後退するのに合わせ、ヴォルフはネフシュタンの少女にノイズを展開させたのだが。それと同時に同じ場所にアルティメギルも姿を現し、一触即発にでもなるかと思えば、両陣営のトップがツインテール談義を始め出すではないか。
「モケ~」
「あ、どうも」
アルティロイドが、ホットコーヒーが入ったカップを差し出してくれたので受け取るキリエ。辺りを見回せば、オータムとエムはアルティロイドを交えてカードで賭け事をして遊んでいるし。アルティロイドの中にはノイズと組体操なんかをしていたりと、なかなかにカオスな状況になっていた。
そんな中、ネフシュタンの少女は周囲から距離を置いて、1人瓦礫の上に胡坐をかいて座り込んでいた。
「ねえ」
「あ、なんだよ?」
その背に話しかけると不機嫌そうに振り返る少女。
「隣座ってもいい?」
「…好きにしろよ」
少女のぶっきらぼうながらの了承を得ると、隣に腰かけるキリエ。
「なんか用かよ?」
「ん~そういえばさ、あなたの名前しらないな~って。あ、あたしキリエ・フローリアンっていうの」
協力関係ではあるも、少女はキリエらと必要以上に関わろうとしないため、彼女の名前すら知らなかった。
「は?なんで教えなきゃならないんだよ。別にお前らの仲間になった覚えはねぇ。言っておくがあたしはお前らが嫌いだ」
「じゃあ、なんで協力してるの?」
「教える義理はねぇ」
取りつく島もなしと言わんばかりに拒絶の意思を示す少女。
「…それじゃ、勝手にあたしのこと話すけどさ」
そんな少女に、自分がシャドウズに入った経緯を話し出すキリエ。以前ヴォルフの営業活動につき合った際に、彼は『己を曝け出さない者に、相手の信頼を得ることなどできない』語っていた。
そのため、少女の信頼を得るには自分を知ってもらうべきだろうと、キリエは思ったのだ。
「……」
そっぱは向いているも、興味はあるのか少女は静かに話を聞いてくれていた。
「…お前はパパ…父親のために戦ってるのかよ」
「うん、間違ってることであっても、パパに努力が無駄じゃないって知ってほしい。だから、私は戦う」
決意を込めた目を向けると、少女がジッとこちらを見てくる。
「…あたしが戦うのは、戦いのない世界を作るためだ」
「戦いのない世界?」
「そうだ。誰も傷つけあわず笑って暮らせる世界にするんだ。そのために戦う意思と力を持つ者を潰す、それがあたしが戦う理由だ。だから、だからお前らあたしの敵なんだよ、今は利用価値があるから見逃しているだけだ」
分かったか、と釘を刺してくる少女。
「優しいねあなた」
「はぁ?」
何言ってんだといいたげな視線を向けてくる少女。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。あたしは優しくなんかない、あたしにできるのは何かを壊すだけなんだ…」
「あたしにはそうは見えないけど」
自嘲するように吐き捨てる少女。そんな彼女の言葉に、キリエは右手の人差し指を顎に添えながらう~んと、首を傾げる。
「なんだよ」
「誰かのために戦うなんて、何かを壊すだけの人にはできないと思うけどなぁ」
「お前にあたしの何が分かるってんだよ」
「そうね。だから、あなたのことを知りたい。世界から嫌われても、誰かの幸せを願える人と仲良くなれたらいいなって思う」
微笑みかけるキリエに、少女は少し困惑したように頭を掻くも、観念したように息を吐くと口を開く。
「クリス」
「?」
「あたしの名前だよ。雪音クリスだ。
照れたように頬を僅かに赤くしながら名乗る少女に、キリエは満面の笑みを浮かべる。
「うん、よろしくねクリス!」
「……」
キリエとクリスのやり取りを遠目から見ていたヴォルフは、どこか満足そうな様子であった。
「良いものだな人とは、どのような壁も打ち破ろうとする気概がある」
そんな彼にドラグギルディが語り掛ける。
「ほう、お前達は人に対してそのような感性を持つ者なのか?」
「我らエレメリアンは人の心より生まれし存在。故に人への敬意を忘れたこと等ない」
「なる程な、だから真正面から人と戦う訳か」
得心がいった様子で頷くヴォルフ。
基本的にアルティメギルの戦術は、小細工無用と言わんばかりに一対一での戦闘を好む。複数のエレメリアンが同時に挑むこともあるが、それには必ずなんらかの理由が伴っていた。
「左様。強き心の輝きを持つ者に、己の力のみで勝利することこそ、我らにとって何物にも勝る誉となる」
「その言い分では、お前らの獲物を横取りしようとした俺は、唾棄すべき存在ではないのか?」
ツインテイルズを襲撃した件の話を持ち出すと、ドラグギルディは気にした様子もなく笑みを浮かべる。
「矜持もない輩はともかく、そなたのような気高き者なら文句はない。彼女らがあのまま討たれていたとしても、それまでだっただけのことよ」
「気前がいいな」
「それはお主も同様ではないか?」
見透かしたような目を向けてくるドラグギルディに、違いない、と口元に笑みを零すヴォルフ。どうやら互いに気が合うらしい。
そんな彼らの元に、1体のエレメリアンが姿を現す。
「ドラグギルディ様!」
「スワンギルディか、何用か?」
自らの前に跪いたスワンギルディに、腕を組んで問いかけるドラグギルディ。
「どうか、どうかわたくしめも前線に出ることをお許し下さい!」
「ならん。出撃前に言ったはずだ、貴様ら未熟者らは後方で我らの戦を見ておれと」
提案をにべもなく両断するドラグギルディ。前線に出ることが許されたのは経験豊富なエレメリアンのみであり、スワンギルディら若手は後方待機が言い渡されていたのだ。
「私は
それでも引き下がらないスワンギルディ。実は以前ツインテイルズと相対する者を決める際、彼はエロゲミラ・レイタ―(要は、自分のエロゲのプレイ状況を、つぶさに分析されて暴露されること)と呼ばれる試練を受けたのだが。開始早々に轟沈してしまっていたのだ。
それからというもの、スワンギルディは過去を弱かった自分を乗り越えようと自らを鍛え直した。
その成果は確実に実を結び、短期間で彼から発せられる
「スワンギルディと言ったな、貴様の属性力は?」
しようとし。ヴォルフが割って入ってきた。
「…ナースだが」
人間である彼に怪訝な顔をするも、その真剣な目に立ち上がると自らの属性を明かすスワンギルディ。
「では、ナース服は持っているか?」
「当然だ」
「持ってるんかい」
さも当たり前のようにナース服を取り出すスワンギルディに、思わずツッコミを入れてしまうキリエ。
「ふむ、キリエ!」
「何よ?」
顎に手を添えて暫し思案すると、キリエを呼ぶヴォルフ。
「お前、これを着てくれ」
「…ハァァァ!?」
ナース服を指さして頼み込んできたヴォルフに、目を見開いて間の抜けた声で叫ぶキリエ。
「いやいやいやいやいやいや!何言ってんのあんたは!?!?!?」
「この場にいる者でお前が一番適任なのだ。さあ」
さあ、じゃないがなと、真面目な顔で促してくるドアホウにジト目を向けるキリエ。
「仕方ねぇな。ここはあたしが…」
「年増は引っ込んでいろ。どうやら私の出番のようだ」
「止めとけ、お子様じゃアレの魅了を十分の一も出せねぇよ」
いつものように取っ組み合いを始めた
「…そんなに見たいの(あたしのナース服姿を)」
「ああ、見たい(スワンギルディの覚悟を)」
暫しの沈黙を後。真剣なヴォルフの目に、意を決したのかキリエはナース服を受け取ると試着室へ入っていった。ちなみにスワンギルディは、思春期の男子のようにソワソワしながらその背中を見送っていた。
「(なんか、こんな感じの芸人いたっけな…)」
2人のやり取りを見ていたクリスが遠くを見る目をしている。正直キリエの将来が不安であった。
「…これでいいの?」
着替え終えて出てくると、思っていたよりも短いスカートを抑えながらモジモジとするキリエ。
「ぐァァァァアアアアアア!!!」
その姿を見たスワンギルディが、何もされていないにも関わらず、地面を削りながら弾き飛ばされたように瓦礫に叩きつけられた。
「グフッ!何という破壊力!だが、この程度では…私は倒れん!!」
膝を着くも、吐血してふらつきながらも立ち上がるスワンギルディに、周囲のアルティロイドから喝采が上がる。
「ほう、では…」
その姿に関心したように頷くと、スケッチブックに何かを書き込んでキリエに見せる。
それを見たキリエがギョッとしたような顔をすると、顔を真っ赤にしてプルプルと震えるも、覚悟を決めたようにアルティロイドが差し出してきた注射器を手にした。
「お、お注射天使キリエちゃんだぞ♪」
右手で注射器を持ち、左手を腰に添えてしならせながらウィンクするキリエ。
「ぐ、ガぁぁぁぁアアアアアア!!!」
全身に衝撃波走ったように身悶えると、スワンギルディ倒れ伏してしまった。
「やはり、お前ではまだ早いようだな連れて行けい」
冷淡に言い放つドラグギルディ。だが、その目にはスワンギルディの成長への喜びの色が浮かんでいた。
スワンギルディが担架で運ばれていく中、ドラグギルディの副官であるスパロウギルディが歩み寄ってきた。
「ドラグギルディ様。どうやら敵が動き出したようです」
「うむ、来たか」
ドラグギルディが頷くのと同時に、前衛に展開していたアルティロイドとノイズに、砲弾とミサイルが降り注いだ。
「的確だな」
効果的に打撃を与えてくる敵に、感嘆の言葉を漏らすドラグギルディ。
「この地に配備されているのは、この世界でも指折りの精鋭だからな」
「なれば、我らも相応にもてなすとしよう。者共かかれぃ!!」
ドラグギルディの号令の元、エレメリアンとアルティロイドが雄たけびと共に前進開始した。
「客人、こちらも始めよう」
「あいよ」
クリスがソロモンの杖で指示を与えると、ノイズも前進を開始した。
「では、スパロウギルディ。後は任せるぞ、今より我は1人の戦士に戻る」
そう告げると、マントを翻し戦場へ向かっていくドラグギルディ。
「ハッ、ご武運を」
その背中に恭しく頭を垂れるスパロウギルディ。
一歩を踏む度に高まった闘気が全身から溢れ出し、周囲の景色が陽炎のように揺らめく。そんなドラグギルディの隣を、頭部の装甲を装着し直したヴォルフが並ぶ。
「目的地は同じようなのでな、ご一緒させてもらおう」
「よかろう。そなたと肩を並べるのも一興」
互いに愉快をそうに笑みを浮かべる両者。その後ろをシャドウズとクリスが続く。
「ちょ、あたしを置いていくなーー!」
そんな彼らの背後から、着替えるために試着室に入っていたキリエの怒号が響くのであった。
なんとなく考えてみた、勇とヴォルフのスパロボ風特殊技能と精神コマンド
※OG基準
勇
特殊技能 精神コマンド
念動力 不屈
底力 集中
インファイト 必中
アタッカー 気合
気力限界突破 熱血
闘争心 闘志
ヴォルフ
特殊技能 精神コマンド
ヴォーダン・オージェ 集中
(極と同様の効果) 直感
ガンファイト 狙撃
ヒット&アウェイ 気迫
集束攻撃 魂
集中力 強襲
カウンター