ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第五十九話

「ブルゥァ!」

『セィ!』

 

突進してくるボアギルディの胸部に、カウンターで左拳を打ち込む勇太郎。だが、勢いを止められず突進を受け地面に叩きつけられてしまう。

 

「無駄だぁ!オメェではオラには勝てねぇどお!」

 

ふらつきながらも立ち上がる勇太郎に、ボアギルディが断言する。

強固なボアギルディの肉体に、打ち込み続けている勇太郎機の左腕は。プラズマ・ステークはいつ破損してもおかしくなく、装甲にはいくちもの亀裂が走っており、生身の腕はズタズタに裂けて血だらけになっていた。

他の部分もダメージが深く、満身創痍としか表現できない状態となってしまっていた。

 

『……』

 

それでも勇太郎は戦闘態勢を取る。その目には揺らぐことなき闘志が宿っていた。

 

「ブフゥ、いい根性だ!気に入っただぁ!オメェの名前を聞かぜろ!」

『ブルーアイランド基地所属、ゴースト大隊隊長天道勇太郎だ』

「その名、確かにオラの魂に刻んだァ!」

 

歓喜するように鼻を鳴らすと、再度突撃するボアギルディ。対する勇太郎も臆することなく踏み込みながら、握り締めた左拳をカウンターで胸部に打ち込む。

 

『ッ!』

 

ステークを中心に装甲の亀裂が広がっていき、左腕から更に出血が激しくなる。

 

『オォオオオオオァ!!』

 

止めどなく走る激痛に意識が飛びかけるも、歯を食いしばりブースターの出力を上昇させていく勇太郎。

 

「フンガァ!!」

 

だが、限界を迎えたステークが砕け散り、弾き飛ばされた勇太郎は、地面に叩きつけられながら転がっていく。

 

「ブルゥ、これでオラの勝ちー―ウがァ!?」

 

勝利を確信したボアギルディだが、突如胸部を抑えて苦しみだす。

良く見れば、最も強固な筈の胸部の中心に亀裂ができており、それが徐々に広がっているではないか。

 

「こ、こればぁ!?」

『…自身の頑丈さを過信し過ぎたな』

 

起き上がった勇太郎の言葉に、ボアギルディに動揺が走る。

 

『強固であるということは、衝撃を与えやすくなるのと同時に、自身が受ける分も逃がしにくくなるといことになる。…故に同じ箇所に衝撃を与え続ければ、蓄積された分だけお前の体を蝕んでいき、限界を超えた結果がその姿だ』

「!まざが、オメェ。オラの突進を受けながら…そんなことを゛ォ!?」

『手持ちの装備でお前の肉体を砕くには、それしかなかったのでな』

 

突きつけられた事実に思わず膝を着くボアギルディ。一歩間違えれば命とりとなる中で、ただ一点を狙い続けることがどれだけ困難なことか、歴戦に戦士であるボアギルディには理解できたのだ。そして、それを成しえた勇太郎の胆力に畏怖の念さえ抱いた。

 

「うぐぐぅ…!」

『勝負は着いた。投降しろ、エレメリアンと言えども捕虜としての権利を保障しよう』

 

立ち上がれないボアギルディに、投降を促す勇太郎。人外の存在であろうとも、無力化した相手に危害を加える気は彼にはなかった。

 

「まだだぁ。オラはまだ負げでねぇ!!ドラグギルディ様の邪魔は誰にもさせね゛ぇ!!」

 

今にも崩れ落ちそうになりながらも立ち上がるボアギルディ。この男は強い、満身創痍の状態であろうとも、テイルレッドと雌雄を決っしているドラグギルディの障害となるだろう。師であり、敬愛する上官の悲願を邪魔させる訳にはいかなかった。

 

「ぬぅオオオオオ!!!」

『…そうか。ならば、その心意気に全力で応えよう!!』

 

今まで以上の気迫を漲らせながら突進してくるボアギルディに、勇太郎は敬意と共に機体に登録されているモーションパターンの中から、『EX』とカテゴライズされたものを選択した。

 

『弦十郎と共に編み出したとっておきだ!』

 

そして、ブースターを吹かし上昇しながら機体の全てのリミッターを解除していくと、SHOUT NOW!!(叫べ!!)とモニターに表示される。

 

『究ゥ極ッゲシュペンストォキィィィイイイッッッック!!!』

 

猛烈な速度で急降下しながら突き出された蹴りが、ボアギルディの胸部へと直撃した。

 

「ぶ、ブぁぁぁアアアアアア!?」

 

ボアギルディの巨体を押し出しながら突き進む勇太郎。

 

『ハァァァァァアアアアアア!!!』

 

残る力の全てを込めて蹴り出すと勇太郎。ボアギルディは砲弾のように吹き飛ぶと瓦礫に激突するのであった。

 

「ぐ、グゥ…。み、見事だぁ…オメェに倒されて、オラは胸を…張れるぞぉ!!!」

 

絶叫と共に爆散するボアギルディ。それを見届けると勇太郎は崩れるように膝を着いた。

 

『流石に限界か…』

 

機能を停止した機体内で再起動を試みる勇太郎。しかし、酷使した結果、完全に沈黙してしまっていた。

 

「モケー!」

 

そんな勇太郎目がけてアルティロイドが、ボアギルディの仇を討たんと言わんばかりに押し寄せ、それに混ざったノイズもやって来ていた。

――が、勇太郎の背後から降り注いだ弾幕によって薙ぎ払われた。

 

『天道少佐が男を見せたぞ!我らも続けえええええ!!』

 

飛び出してきたPT部隊が、次々と敵陣に突撃していく。

 

「モケ―!?」

「モケケー!」

「モ、ケ~!」

 

その勢いに押された敵部隊が次々と壊走し始める。

 

『ご無事ですか少佐!』

『俺はともかく、機体がどうにもならんなこれは』

『脱出して後退を、後は我々にお任せを』

 

駆け寄ってきたみずはの言葉に応じると、装甲を開放して機外に出る勇太郎。無念だが、これ以上この場にいても足手纏いにしかならないだろう。

 

「大尉も少佐と共に後退を」

「いえ、私はまだ…」

 

みずは共にいた燎子に提案するも、彼女は指揮官としての立場から離脱することを渋る。

 

「隊長」

「何よ?」

 

いつの間にか集まっていたASTのメンバーの中から、副官が声をかけてきた。

 

「後は我々に任せて、少佐殿と共に(・・・・・・)後退を」

「そうです!少佐殿と共に(・・・・・・)ですよ!共に(・・)!」

 

他のメンバーも燎子に後退を勧めてくる。それも、やたら勇太郎と共にであることを強調してである。

 

「無理はするな、君に何かあると困る。それに、このザマでは1人で帰れそうにないのでな。すまないが手を借してもらいたい」

「…了解、しました」

 

傷しかない自分の姿を見て自嘲気味な勇太郎の言葉に、燎子は顔を赤くしながら答える。

 

「それでは、失礼します」

「ああ、頼む」

 

勇太郎の体を抱えた燎子は、テリトリーで保護しつつ、彼に負担をかけないように意識しつつ飛行する。

 

「(って言うか、これって…)」

 

体を密着させている状況に、羞恥心から思わず胸が高鳴る燎子。

 

「辛いか大尉?」

 

そんな彼女の様子に、勇太郎が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「い、いえ!そんなことはありません!少佐こそお辛くはありませんか?」

「テリトリーのおかげで問題ない。すまないな、こんな情けない姿を見せてしまって」

 

疲労感からか、どこか弱気な様子を見せる勇太郎。

 

「そんなことは…!あなたのおかげで多くの者が助けられました、私もです。とてもご立派でした」

 

勇太郎に庇われなければ今頃どうなっていたか、そう考えただけで背筋が寒くなった。

 

「そういって、もらえると助かる…」

「少佐?」

 

おぼつかない様子の勇太郎に視線を向けると、うつらうつらとしていた。

 

「どうぞ、後は私に任せてお休み下さい」

「…すまない。そうさせて、もらう…」

 

限界を迎えたのか、糸が切れた様に眠りにつく勇太郎。

 

「お疲れさまでした少佐」

 

そんな勇太郎を、燎子は愛情の籠った目を向けると、大切そうに抱え直すのであった。

 

 

 

 

「ハァァアアア!」

「オォォオオオ!」

 

レッドとドラグギルディが振るった剣が、ぶつかり合い火花を散らす。

 

「先程よりも遥かに強さと美しさを増した…!まるで別人のようだ!!」

「っだりめーだろうが…気合が違うんだよ!!

「ぬう!」

 

レッドの放った斬撃を受け止めたドラグギルディが、その衝撃に耐えきれず地面を削って押し出される。

 

「これが、お主の真の力か!」

 

強敵との戦いに歓喜しているように吼えると、ドラグギルディが斬りかかり、それをレッドが迎え撃つ。

 

「そうさ、これが俺の――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然響いた制止の声に、思わずズッコケてスライディングのように地面を滑った。

 

「誰だよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

出鼻をくじかれるどころか、ものの見事に粉砕されたレッドが絶叫した。

そんなお構いなしと言わんばかりに、戦場に木霊する笑い声。

 

「何者だ、名を名乗れい!!」

 

声を荒げるドラグギルディ。その視線の先――建物の屋上に1人の少女が立っていた。

 

「私の名は、世界を渡る復讐者、仮面ツインテール!!」

「ブ~~~~~~~~~~~~」

 

日の差し込まない曇天の下であっても、謎の輝きを放つその珍妙なフォルムに、レッドが吐血紛いに噴き出した。

 

「ようやく姿を現しましたね、ドラグギルディ…。この時を待っていました」

「むむう、仮面ツインテールとな!?」

 

大仰(おおぎょう)に驚くドラグギルディ。役者顔負けのオーバーリアクションである。

腕組をして屋上に立っているのは完全に不審者だが、ドラグギルディは大真面目に反応していた。

フルフェイスのヘルメットの左右から雄々しく展開された二本ウィングパーツ。レッドから見れば、それはまさしくツインテール。

問題なのは、そのマスクから下は白衣に露出の高い服…ようするにトゥアールそのものだったことだ。余りにお粗末な変装に、気が抜けきったのか、レッドの手に持つブレイドが消えてしまった。

幸いなのは、戦っている内に他の者達と離れていたことだろう。色々な意味で彼らには見せられなかった。

 

「だが貴様、気迫とは裏腹、際立ったエレメーラも感じぬが…よもや、ツインテイルズの加勢に来たとは言うまいな!?」

「加勢!?何を馬鹿な。あなたを相手にこれ以上の戦力が必要なのです!私は、口八丁でやり込めようとする往生際の悪さを見過ごせず、こうして参上しただけです!」

「だったらもっと早く来なさいよ!!」

 

ナイトと戦っていた筈のブルーが、仮面ツインテールの立っているビルへ渾身の跳び蹴りを放ち。縁に立っていたこともあり、その衝撃で滑り落ち地面に叩きつけられた仮面ツインテール。

 

「な、なんてことを…。私を殺す気ですか、ブルー…」

「生きてるからいいじゃない。それより今更何しに来たのよあんた」

 

フラつきながらも起き上がると、弱弱しく抗議する仮面ツインテール。死んでいてもおかしくない高さから落ちたにしては元気である。

そして、当のブルーは何事もないかのように仁王立ちして、彼女を睨みつけている。

 

「し、仕方ないじゃないですか!出るタイミングを見計っていたら、レッドが滅茶苦茶カッコイイこと言うもんだから出るに出られなかったんですもん!!それに撮影もしなきゃですし。永久保存決定ですよこれは」

「何アホなことやってんのよあんたは…。撮ったのは後であたしにも寄越しなさいよ」

 

話がおかしな方向に行こうとしていることにレッドがあれ?と違和感を感じていると、ドラグギルディが仮面ツインテールを見てむむぅと唸っていた。

 

「そのツインテールに似合わぬ下品なる乳は…。そうか!貴様は以前侵略した世界で我らを最も追い詰めた戦士か!!」

「何!?」

 

ドラグギルディが放った言葉に、衝撃を受けるレッドとブルー。そんな中、仮面ツインテールは否定することなくそうです、と頷いた。

 

「ドラグギルディの言う通りです。本当は彼らの侵略の最中、アルティメギルが意図的に流失させた技術を用いて、私は既にテイルギアを開発し自ら装着して戦っていました。ですが、力及ばす破れたのです…」

「だが、我らは貴様からはエレメーラを奪っていない。なのに何故、今の貴様からはあの弾けんばかりに輝いていた無敵のツインテール属性が感じられぬのだ!!」

「それは…託したからです」

「何い!?」

 

仮面ツインテールは、レッドの方を向くと、にっこりと笑った。無機質な仮面の下の笑顔がレッドには確かに見えた。

 

「ドラグギルディ。私はあの頃、途中で気づいていたんです。何故、こんなにも敵が弱いのか。何故、死活問題であるエレメーラ奪取に、さほど精力的ではないのか。世界がツインテール一色に染まっていく中…今のレッドと同じ想いを、抱くようになっていました」

 

過去を思い起こすように語る彼女。その姿は、先程までのふざけた雰囲気が嘘のように消えていた。

 

「だからきっと…止める術はあったんです。何でもいい、私が世界の人達がツインテールへの興味を失うように振舞えばよかった。でも、私はできなかった。世界に芽吹いたツインテール属性を、むざむざ消すに忍びなかったから。私に憧れ、ツインテールにした可愛い幼女達が、また元の髪型に戻っていくのが怖かったんです…」

 

最後の部分に言いたいことはあったが、雰囲気を大事にしてレッドとブルーはどうにか真顔を維持した。

 

「その心の隙を突かれ、私はドラグギルディに負けた。基地にこもって策を練っている間に侵略は勧められ――世界中からツインテール属性は消えた。二度とツインテールを愛することができない、灰色の世界になってしまった…」

 

その終末をもたらした張本人は、無言で聞き入っていた。罪を、受け入れるかのように。

 

「様々な属性を奪われつくし、吐きを失った世界で…私1人だけが、ツインテール属性と幼女属性を残していた。私が道行く幼女のスカートをめくっても碌に注意されない――冷たい世界でした」

「誰一人ツインテールにできないなんて…地獄だ!!」

 

レッドは、爪が手の平に食い込むほど拳を握り締めた。仮面ツインテール――トゥアールの、心抉られるような痛みが我がことのように感じられたからだ。

ブルーも同じ気持ちなのだろう、白目を剥いて口を開けているではないか。…きっと、そうに違いない。

 

「そして復讐を決意した私は、テイルギアと、戦いのデータを元に、徹底的に与えられたテクノロジーを分析しました。幼女のちっぱいを後ろから揉んでもリアクションされない虚しさを糧に、認識阻害装置(イマジンチャフ)を完成させ…元気な幼女を求め、世界間航行の技術を解析しました」

 

「酷い、酷過ぎる!!」

 

語られた衝撃の秘密に、遂にブルーが頭を抱え倒れそうになる程仰け反った。レッドも同じ気持ちであった。…決して語っていた者のことではないと信じて。

 

「そして、けじめとして…私の持つツインテール属性を(コア)に、もう一つテイルギアを完成させました。それが…総…テイルレッド、あなたのテイルギアなのです」

「俺のテイルギアが…じゃあ君は、自分からツインテール属性を手放したのか!?」

 

トゥアールの告白に、レッドは思わず自分の手を見る。

ツインテールを愛する資格を、自ら手放す。それは、臓腑を抉るよりもつらい決断だっただろう。

 

「後は、装着できなくなった私のテイルギアを、ここにいるテイルブルーに託した。これが全てです。疑いを持たれるような物言いをしまして、すみませんでした」

「…へー。これ、あんたのお下がりなんだ…。どうりで胸のとこが…へー…」

 

ブルーは胸元を見て笑っていたが、その瞳からは光が消え失せていた。

 

「執念が…先代テイルブルー…いや、仮面ツインテールよ!此度はしてやられたのは我らの方であったようだな!お主の、ツインテールへの深き愛を侮った!!」

 

足元を掬われたにも関わらず、清々しさすら感じられる笑みを浮かべるドラグギルディ。

 

「…疑って悪かったわよ。テイルレッドを幼女にしたのも、ツインテール属性ばかりが世界に拡散しないように…幼女属性も付加したってことなのね」

「再三の説明で申し訳ありませんが、テイルレッド幼女になるのはあくまで趣味です。私が作ったものですから…ツインテール属性を失い、残った幼女が色濃く反映されたのでしょうえへへへ」

 

ブルーの拳がアッパー気味にトゥアールの腹部に着き刺さると、パァン!!という打撃音共に彼女の体が軽く宙に浮き、膝から崩れ落ちた。

 

「うぐぐぐ、こ…この蛮族!もう返して!私のテイルギア返して下さいぃぃぃ!!」

「フン…もう、あんたには使えないんでしょう?あたしが有効活用してやるわよ…」

 

縋りつくように弱弱しく抗議するトゥアールを見下ろしながら、邪悪極まりない笑みを浮かべるブルー。

 

「よき仲間を持ったな――テイルレッド」

 

そんな2人のやり取りを見ていたドラグギルディが、眩しいものを見るように目を細める。その目端にうっすらと光っていた。

 

「(今のに感動する要素はあったのだろうか?)」

 

ブルーを追ってきたナイトは、場の雰囲気的に様子を見ていたが。途中色々な意味で耳を疑う話をどうにか納得して飲み込んでいたが、これだけは無理そうであった。この数分だけで、自分の感覚が正しいのか不安になってしまっていた。

 

「――ああ。かけがえのない仲間さ」

 

どうにか真面目な雰囲気を保ったレッドは、気を取り直すように剣を召喚すると構えた。

 

「仮面ツインテールよ、そこまで弁を尽くさずとも、我には分かっておる。どれだけ打ちのめされても、こ奴らのツインテールはいささかも輝きを失っておらぬ。端から、御託でどうにかなるとは思っておらぬわ!!」

 

レッドの動きに応える応えるように、大剣を構えるドラグギルディ。

 

「だが、いかなる輝きで照らそうとも、覆らぬ闇もあるのだぞ!!」

 

ドラグギルディの纏う闘志が膨れ上がり、周囲の大気を、大地を揺るがしていく。

 

「これまでと同じよ!1人が2人になったとて、何も変わらぬ!ツインテールが世界を支配するまでの時間が短くなるだけなのだ!!」

「2人…?それは違うぜ、ドラグギルディ」

 

レッドは仮面ツインテールの手を取り立たせる。

 

「レッド…」

「ツインテールは、左右の髪を支える頭があって初めてツインテールだ…」

 

トゥアールを真ん中に据え、3人が並び立つ。

 

「俺達は、3人でツインテイルズなんだ!!」

 

流れ弾が彼女らの背後に着弾して爆発を起こした。まるで特撮物でよくある演出になっていた。

 

「ああ、なんて凛々しく素敵な幼女…涎が止まりません…うぇへへへ」

「そ、うよぉ…さ、3人でー…うん、ツインテイルズ…はぁ~あ…」

 

――なのだが、左担当のテンションが著しく低く。かつ、頭担当のマスクの隙間から物凄い勢いで放水していて台無しであった。

 

 

 

 

「ハァァァァ!」

 

セイバーを振るうと、刀身に纏わせた念が衝撃波のようになって飛ぶ。

漆黒の狩人は減速することなく、擦れるかどうかのギリギリの間合いで避けると、ナイフを展開した足で回し蹴りを放ってくる。

 

「シッ!」

 

セイバーで受け流すと、右手に念を纏わせて振り上げる。

 

「T-LINKナックルッ!!」

 

拳を地面(・・)目がけて振り下ろすと、砕けたコンクリートが散弾のように飛び散る。

 

『ッ!』

 

漆黒の狩人はすぐに後退するも、至近距離で浴びせたので流石に全ては躱せず、いくつかの破片が被弾して装甲がかなり削れていた。やはり軽量化している分防御面が脆いな!

 

「シャドウ1!」

 

不利と感じたのかアミタの妹さんが援護しようとしてきた。

 

『手を出すなぁ!!』

「!?」

 

それを声だけで制止する漆黒の狩人。

 

『これが、これこそが俺の求めた戦いだ!!』

 

どこか喜々しているような声音で叫ぶと、奴のバイザー奥の目が金色(・・)に輝きを帯び、その姿が消えた――

 

「ッ!?」

 

殺気を感じ、本能的に背後を向きながらセイバーを盾のように構えると、背後に回っていた漆黒の狩人が振るったランチャーの銃剣とぶつかり合う。

 

「グッ!?」

 

態勢が不十分だっため、僅かにバランスを崩してしまった間に、再び敵の姿を見失ってしまう。

 

「まだ速くなるのか!?」

 

前後左右から迫るビームを避けるか防ぎながら、合間に挟まれる銃剣と足先のナイフによる近接攻撃で、徐々にダメージが蓄積されていく。

このままだと押し切られる!こっちから攻めないと!

 

「そこォ!」

 

気配のする方へショットガンを放つと、進行方向を塞がれた敵の動きが鈍る。

 

「行っけぇ!!」

 

セイバーな投擲、ブースターを全開にして突撃する。

 

『チィ!』

「ウラァ!」

 

体を捻りながら回転し、セイバーを避けた漆黒の狩人へ加速を乗せた蹴りを放ち、左腕で防がれるも装甲を砕き肉体にダメージを与えた。

 

『シッ!』

 

それと同時に放たれた膝蹴りが脇腹に叩きこまれ、衝撃が全身を駆け巡る。

 

「ガッ!?――アァ!!」

 

敵を蹴り飛ばすと激痛の余り膝を着いてしまう。

 

『――見事だ、ここまで心昂ったのは彼女(・・)以来だ」

 

地面を削りながら押し出された漆黒の狩人は、唐突に称賛の言葉を送ってきた。その目は何かを懐かしんでいるようで、俺を誰かと重ねているのか?

 

『だが、なぜそうまでして精霊を守る。人類にとって、破壊しかもたらさない存在だと言うのに。世界を敵に回すことになるぞ?』

「…確かにお前の言う通りだな。間違ってるのは俺かもしれん」

 

精霊によって大切な人を奪われた人がいるかもしれない。今も苦しんでいる人がいるかもしれない。俺の守りたい人達が危険に晒されるかもしれない。

 

「でも、お前は精霊と話したことがあるのか?どれだけ彼女達のことを知ってるんだよ」

 

鉛のように重く感じる足を無理やり動かして、どうにか起き上がる。血を流し過ぎて体の感覚殆ど感じられなくなっているし、今にも意識を手放しそうになる。それでも、ここで倒れる訳にはいかない!誓ったんだ、大切な人をもう失わないって!!

 

「少なくとも四糸乃は俺達人と変わらないんだ。笑って泣いて、俺の作った味噌汁を美味しいって喜んでくれるんだ。それに、傷つくことを怖がって、それでも誰かを傷つけることの方がもっと怖いって我慢して、自分が傷つくことを選ぶ子なんだ!!」

 

自分のせいで誰かを危険に晒しているから、だから自分が傷つくのは仕方がないことだって、そう言って無理に笑っている彼女の顔が脳裏をよぎる。

 

「そんな子のために戦うのが悪だってんなら、俺はそれでも構わない!俺は自分の心が正しいと思う道を進み続ける!それに――」

 

離れた場所にあるセイバーを念で引き寄せると、その切っ先を漆黒の狩人へと突きつける。

 

「俺は彼女のことを殆ど知らない。どんなことが好きで、どんなことで笑うのか、もっと彼女と会って知りたい。だから、その可能性(未来)を摘むってんならお前は俺が倒す!!!」

 

心の内をありったけ叫んだ俺に、漆黒の狩人は左腕の装甲を展開し、ガトリングの銃口を向けてくる。

 

『ならば、()を倒して見せろヒーロー!!』

 

ガトリングから放たれて無数の弾丸が付近の地面に当たり、砕けたコンクリートが舞い上がり視界を塞いでいく。目くらましか!

セイバーを振るい砂塵を吹き飛ばすと、敵の姿が消えていた。

 

「――ッ!」

 

敵の動きを警戒していると、上空から高出力のエネルギー反応をレーダーが捉える。

視線を向けると。機体の胸部装甲が展開し、ランチャーを接続させた漆黒の狩人がいた。

砲口からは収束されたエネルギーが迸っている。直撃すれば跡形もなく消滅するだろう。それでも、俺に回避という選択肢はない。射線上――背後には動けないアミタがいるからだ。だったら!!

 

「T-LINKフルコンタクト!」

 

ありったけの念をセイバーに送ると、刀身が今まで以上の輝きを帯びていく。

 

『抗ってみせろ!!デットエンド・シュートォ!!!』

 

ランチャーから放たれたビームの奔流が押し寄せてくる。

それに対して俺はmブースターを最大まで吹かすとビームへと突撃する。

 

「ウオオオオオオオオぉおおおおおおお!!!」

 

ビームへとセイバーを突き出して受け止めると、激しい衝撃が全身を駆け抜け、機体が肉体が軋んで悲鳴を上げる。

 

「グ、がぁ…!」

 

それでも勢いを止められずに、徐々に押し込めれていく。まだだ、まだ俺は――!

 

「ハァあああああああああぁアアアアアアアア!!!」

 

更に念をセイバーに送ると脳が焼かれていく感覚がするも、ビームを斬り裂き押し進み始めた。

それに合わせ、負荷によって相手の砲身と機体から火花が散っていく。

 

『どうしたハウンドォ!俺達はこの程度ではないだろう!!』

 

漆黒の狩人の叫びに呼応するように、ビームの出力が上がり再び押し込まれていく。更なる負荷によって向こうの機体からより激しく火花が散っていく。

 

「――ッ、ぐぅ…!」

 

機体とセイバーに亀裂が走り広がっていき、体はバラバラに引き裂かれるような激痛と、脳が焼かれるような痛みに苛まれる。

意識が朦朧としていき力が抜けそうになる。駄目、なのか…――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――勇君!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!守、るんダァァアアアアアア!!!」

 

死の奔流に飲まれそうになった時。背後から聞こえた大切な人(アミタ)の声に、意識が引き戻されると、セイバーを握る手に力を込めて突き出す。

刃がビームを斬り開いていき、徐々に前へ進んでいく。これなら――

 

『ヴォルフ!!!』

 

そう思った時、アミタの妹さんの叫びに応じるように、ビームの出力が跳ね上がる!

 

「うあああああぁァアアアアアア!!!」

『ハァァァァあああああああああ!!!』

 

装甲が融解していき、晒された肉体が焼かれていくが。最早痛覚すら感じられなくなるも、セイバーを握る手だけは離さないように意識する。

機体の配線がショートしていき火花が各部から盛大に散っていく。頼む、後少し、後少しだけ耐えてくれ相棒!!!

 

「もう失ってたまるかぁアアアアアア!!!」

 

自分の中に残っているものを全て注ぎ込むように念をセイバーに送り、焼き切れかけているブースターを更に吹かすと。海を掻き分けるようにビームの中を突き進んでいく。

 

『!!!』

 

負荷に遂に耐えれなくなった漆黒の狩人の機体が、一際大きな火花を散らすと、ランチャーからビームの放出が弱まっていく。

 

「いっけぇぇぇエエエエエ!!」

 

一気に懐まで突撃すると、盾のように構えられたランチャーにセイバーを突き刺し、そこから流し込むようなイメージと共に念を送り込み跳び退く。

 

「念動、爆砕!!!」

 

念を爆発させるようにイメージして右手を握り締めると。ランチャーが内側から弾けるようにして大爆発を起こし、爆発に飲み込まれた漆黒の狩人は勢いよく吹き飛んで墜落していくと、瓦礫に激突して埋もれていった。

 

 

 

 

 

地面がに次々と抉り取られ、破片が熱気に焼かれ灰となる突風に煽られ散っていく。

テイルレッドとドラグギルディの剣が撃ち合う度に、周囲の地形が形を変えツインテールの地上絵が描かれていく。

 

「お前らが、エレメーラを取り込まないと生きられないのは聞いている!でも、奪うだけじゃなく話し合いや他の方法は取れなかったのか!」

 

戦いの中、レッドは剣を振るいながら不意にそう問いかけていた。

これまでのエレメリアンとの戦いで、フォクスギルディのように互いに認め合い心を通わせることも少なくはなかった。故に心のどこかで、エレメリアンとの共存の道が選べるのではないかという思いも生まれていたのだ。

それが、自分と同じくツインテールを心から愛するドラグギルディと剣を交え、理解していく中で強まり言葉として出たのだ。

 

「どちらが上の存在とは言わん。だが、食い食われる連鎖の中、話し合いなど所詮は不可能なのだ!我らは、お主達とは別の生命なのだからな!!」

 

ドラグギルディから帰ってきたのは明確な拒絶。彼らの生き様を言い含めた重い言葉であった。

それに対してレッドに落胆も同様のなかった。理解したからこそ、そうなるとレッドには分かっていたからだ。それでも一縷の望みにかけてみたかった。それ程までに種族をも超えて、ドラグギルディと通じ合ったのだ

 

「そうか――なら!」

 

休みなく稲妻の如く繰り出される斬撃を全て捌き、一瞬ん隙をついて、レッドは見上げる程に巨大な目の前の男に渾身一撃を放った。

 

「ぬう!」

 

受け止めた剣ごと巨体が吹き飛ばされ、地面を削りながら押し出される。レッドはその間に打ち込んだ反動で身を翻し、ドラグギルディの背後に回り込む。

 

「何!?」

 

反応が遅れたドラグギルディの背中にブレイドの刃が一閃された。

 

「ぐっ…至高の幼女に流してもらうために守ってきた我の背中に傷を…!!」

 

以前背中を見た時他の部分と違い、背中のみ傷跡がなかったのでもしやと思ったが予想通りであった。

 

「ゴシゴシこすってやったぜ!願いがかなってよかったな!!」

「なる程、一本取られたわ!!」

 

たじろぐことなく、攻撃を再開するドラグギルディ。

 

「お主の魂確かに我が体、そして魂に刻み込んだ!故に我の全てをかけて倒そうぞ!!」

 

ドラグギルディは後ろに大きく跳んで間合いを取ると、地面に剣を突き刺し、深く呼吸を繰り返し始めた。

 

「フォクスギルディみたいに、妄想を…!?」

「フォクスギルディか…。我もあやつの強大な妄想力には一目置いておった」

 

ドラグギルディの双眸(そうぼう)が怪しく光り、全身を取り巻いていた闘志が徐々に左右の側頭部へと収束していった。

 

「だが、人形に頼るなどは惰弱!体1つで愛を体現(うみだ)すが、戦士の華よ!!」

「何!!」

 

闘気がツインテールを形取り、ドラグギルディの頭部から流麗になびきよそぐ。

属性玉(エレメーラオーブ)の光に似た、生命そのものの輝き。

無数の光条(こうじょう)が今二つの房となり、遥か見上げる巨躯を彩った。

 

「ドラグギルディがー―――ツインテールに!?」

「これこそが我が最終闘態…ツインテールの竜翼陣(はばたき)!!ツインテール属性を極限まで解放した、見敵必殺の姿よ!!」

 

男がツインテールであるという疑問も、不快さも、どこには微塵もない。

羞恥心を捨てるという安易な開き直りとは一線を画す、堂々たる居姿。

 

「男子に許されしは、ツインテールを愛でることだけではない…。自らツインテールとなる――ーそれが、ツインテール属性を持つ者の本分よ!!」

 

赤裸々に己の信念を叫ぶドラグギルディ。

本来男に強く芽吹くことのないと言われているツインテール属性。その例外であるレッド――総二はそのことを誇りに感じていたか。恥じらいを持っていなかったか。

ドラグギルディとの覚悟の差に、敬意の余り、一礼も辞さない心境となった。

 

「ゆくぞ、テイルレッド!!」

 

ドラグギルディの攻撃は、飛躍的にその速度を増した。

その規格外の大剣から放たれる斬に、空爆でも受けた様に地面が捲り上げられる。

それに呼応するように、レッドも加速していく。

高速過ぎて。互いの剣閃が実体化し浮遊しているようにさえ感じられた。

 

「敵に感銘を受けるなんてな。もう一度、礼を言わなきゃいけないかな!!」

「真意はさておき、礼を言うのはこちらもよ。お主の輝きを見て、がむしゃらにツインテールを愛していたあの日に戻れたわ!!」

 

時をも凌駕する剣閃の応酬。

高熱は高速に煽られ、俺達を中心に地面が融解していく。

 

「けど…そこまでツインテールを愛していたなら、それを奪われる悲しみも分かる筈だ!」

「恨み言など、とうの昔に受け慣れたわ!心を食らう者として、当然の運命よ!!」

「だったら、今こそ…お前らが汚してきた世界の人達の仇を、俺が討つ!!」

 

レッドの信念を乗せた一刀を受け止めたドラグギルディが押し負かされ、大木に叩きつけられた。

 

「なんと…ここに来て更にその輝きを増すとは…お主のツインテールは底なしか!?」

「そうさ…俺のツインテールは…無限だ!!」

 

終わりなきものの頂点と例えられる宇宙でさえ、なお未だに成長し続けるという矛盾。

形がないからこそ、そこに終わりは見えず、果てなく成長する。心は宇宙なのだ。

 

「見事だ!だがァ!!」

「うわ!?」

 

ドラグギルディが気迫と共に押し返すと、弾き飛ばされたレッドは。受け身も取れず背中から地面に叩きつけられる。

 

「く、うぅ…」

 

すぐに起き上がろうとするも、力が入らず膝を着いてしまう。

 

「惜しかったな…。確かに凄まじい力だ。かつてのあの少女よりも、遥かに強い。だが、なまじこれまでのの相手との力の差があり過ぎただけに、実戦経験が経験たりえなかったのだろう…我との年季の差が…明暗を分けたな!!」

「まだだ…」

 

懸命にブレイドを振るうも、軽々と受け止められ巻き上げられてしまう。

 

「素晴らしき検討だった!我が生涯最強の敵…そして、我が最高の想い人よ!!」

「くっ…!」

 

ドラグギルディが払うように剣を振るうと、ブレイドが弾き飛ばされる。

炎を散らしながら宙を舞ったブレイドが、力なく地面に突き刺さった。

 

「さらばだアアアアアアっ!!」

 

名残惜しむ間さえない潔さは、己の戦いの美学の遵守か。

ドラグギルディの大剣が、レッドの脳天へと振り下ろされる。

手を上げて防御しようと――せず、レッドの右手はフォースリボンに触れた。

右手を炎が包み、炎が新たなブレイザーブレイドが形成するとそれを掴んで大剣を弾き上げた。

 

「何ィ!?二刀だと!?」

「伊達にツインテールじゃねえ!ってな…!!」

 

動揺するドラグギルディの肩口目がけ、切り札の二刀目を渾身の力で叩きこんだ。

 

「ぐあっ!!」

「ブレイク!」

 

よろめきながらも、それでも再び剣を振り上げるドラグギルディ。

 

「レリーーーーーーーズ!!」

 

ブレイドがドラグギルディの肩で変形し、炎を噴き上げる。

 

「テイルレッドオオオオオオオオ!!」

「グランドブレイザアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

袈裟懸(けさが)けに斬り下ろされる炎の剣。

大竜の身を焼く炎竜は太陽の紅炎(プロミネンス)を思わせ、それを繰り出す幼女のツインテールは、太陽にも劣らぬ燦久(さんさん)とした輝きを放っていた。

 

「――――美しい…まさに神の髪…神、型…」

 

それは、多くの世界を渡った歴戦の戦士の双眸に、その生涯を天秤の片皿に置いても釣り合う程の光景――髪型だっただろうか。

遂にドラグギルディは、力尽き、両膝を地に着いたのだった。

 

「う、く…初めから一刀目は囮であったか…」

「いや、これは咄嗟の思いつき…ぶっつけ本番だ。…小難しい駆け引きなんてできないけどさ――二人守るんだ、二本剣が必要なのは道理だろ」

「み、見事…!!見事だ、テイルレッド!!」

「…ツインテールがか?」

 

ドラグギルディはニヒルに笑う。

 

「無論だ!わーはっはっはっはっ!!」

 

雄叫びのような笑い声を上げながら、ドラグギルディは体から放電させていく。

 

「麗しき幼女に倒される…うむ、これも生涯を添い遂げたに変わりはあるまいて!!」

「どこまでもボジティブな奴…」

 

本当は男なのだが、無粋なことだとレッドは笑う。

敵であり、罪を重ねてきたどうしようもない悪党だが、少しだけ憎めない部分もあった。

それは、今まで戦ってきたエレメリアン全てに言えるのかもしれないが…。

 

来世(いつか)…また逢おうぞ」

「お前がツインテールを愛する限り…そんなこともあるかもな」

 

レッドが分かれを通じて告げるように背を向けると同時に、ドラグギルディは大爆発を巻き起こし、散ったのだった。

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

漆黒の狩人が墜落した地点を警戒するも、変化が起きない。勝った、のか?

 

『ヴォルフ!!』

 

アミタの妹さんが埋もれた場所に駆け寄る。

 

「グッ!?」

 

その様子を見ていると、負荷をかけ過ぎたブースターが、爆発を起こして機能を停止した。

重力に引かれて真っ逆さまに落下していく。再起動を試みるもブースターは完全に沈黙してしまっていた。

どうするか思考しようとすると、軽い衝撃と共に何かにぶつかった。

 

『勇君、大丈夫ですか!?』

「アミタ…」

 

視界に今にも泣きだしそうなアミタの顔が広がる。

彼女に支えられながら着地すると、足――いや全身に力が入らず倒れそうになる。

 

『勇君!』

 

慌てた様子のアミタに支えられてどうにか座り込む。

 

「アミタ、怪我は大丈夫…なのか?」

『ッ――!あなたの方が傷だらけなんですよ!?あなたはもっと自分を大切にして下さい!!』

 

少しでも動くだけでも激痛が走るだろう彼女の心配をすると、憤ったように怒鳴られた。

 

「えっと、ごめん」

 

気迫に押されながら謝る。こんな彼女は初めて見たな…。うう、怖い。

ふと、側にあったガラスに映った、目からも血が流れている自分の顔が視界に入る。そういや耳からも血か何か流れてる感触がするな。どうりで見にくいし聞きずらい訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんなことを考えていると、漆黒の狩人が埋もれている場所の瓦礫が盛り上がっていった。

 

 

 

 

「う、え…っ、え…っ」

 

結界の中心部で、四糸乃は氷結傀儡(ザドキエル)の背にうずくまり、1人泣いていた。

吹き荒れる氷弾の中とは思えない程に、静かな空間である。ただただ、四糸乃の嗚咽と(はな)をすする音だけが、いやに大きく反響した。

とても怖くて、外には出られない。でも、ここは――とても、寂しかった。

 

「よ、し、のん…っ…」

 

涙に濡れた声で、友達の名前を呼ぶ。

答えてくれる筈がないのは、四糸乃にも分かっていた。

だが、呼ばずには――

 

『は・あ・い』

「……ッ!?」

 

四糸乃はビクッと肩を震わせると、バッと顔を上げて辺りを見回した。

 

「――!」

 

そして、四糸乃は涙を拭って目を見開いた。

なぜなら結界中心部と外縁部の境目辺りに、見慣れたパペットが確認できたからだ。

 

「!よしのん…っ!?」

 

四糸乃は叫ぶとザドキエルの背から飛び降り、そちらにパタパタと走っていった。

四糸乃が見間違える筈がない。それは紛れもなく、数日前にいなくなってしまった四糸乃の友達『よしのん』だった。

だが――

 

「…ひっ…!」

 

『よしのん』の後ろから、誰かが倒れ込んできて、四糸乃は思わず足を止めてしまった。

否――正確には、今倒れ込んできた人が『よしのん』を手に着けているようだった。

容貌は、よく分からない。

それと言うのも、その人が全身血塗れ傷だらけで倒れ伏しているからだった。

 

「っ…」

 

きっと、四糸乃の結界を無理やり通ってきたのだろう。その男の人が倒れ込んだ場所から夥しい量の血が流れている。

四糸乃の目にも明らかだった。これはもう人というよりも、死体に近い。

しかしすぐに、四糸乃はその認識を改めなければならなくなった。

何故なら――突然、その半死人の体が淡く輝いたかと思うと、体にできた幾つもの傷口を舐め取るように、体表を焔が這っていったからだ。四糸乃が呆気に取られていると、その人物の体から傷が消え去った。

そして――ようやくその容貌が見てとれるようになる。

 

「…!?士道さ…っ」

 

四糸乃は、驚愕に染まった声を発した。

そう、そのボロボロだった人間は、あの五河士道だったのである。

士道はごろん、とその場に仰向けになると、ふぅぅぅ…と深ぁく息を吐きだした。

 

「し…死ぬかと思った…」

 

むくりと体を起こした士道は、四糸乃の姿を捉える。

 

「――四糸乃!」

 

うさぎのパペットを掲げるようにしながら立ち上がった。

 

「約束通り、お前を――助けに来た…ッ!」

 

すると四糸乃は目を丸くしたのち――

 

「う、ぇ、ぇぇぇぇ…」

 

目に涙を溜め、泣き出してしまった。

 

「うわ…っ、ちょ――な、泣くなって。な、なんか俺いけないことあったか…?」

 

士道があたふたと手を動かすと、四糸乃がふるふると首を振った。

 

「違…ます、来て、くれ…嬉し…て…っ」

 

そう言って、再び泣き出してしまう四糸乃。

士道はそんな彼女に苦笑しなあがら、右手で四糸乃の頭を優しく撫でた。

そして、左手に装着していたパペットを、ぴこぴこと動かしてみる。

 

『やっほー、お久しぶりだね。元気だったかい?』

 

なんて、口をもごもご言わせながら、見よう見まねで腹話術をする。

拙さ極まる芸ではあるも、四糸乃は嬉しそうに首を何度も前に倒した。

普通に考えれば、おかしな光景なのかもしれない。

だってあくまで、『よしのん』は、四糸乃の腹話術で動く人形の筈なのだ。

だが――士道は、以前令音から聞かされたことを思い返した。

調べてもらった結果、四糸乃はパペットを装着している時に、彼女の中にもう一つの人格が存在しているのだそうだ。つまりそれが『よしのん』なのだろう。

デパートであった時、偶発的とは言え、封印可能な状態でキスをしたのだが失敗に終わったのだが。その時、四糸乃は『よしのん』に対応を任せ、意図的に心を閉じていたからだったのだろう。

 

「ありが、とう…ござ、ます」

 

そんなことを考えていると、不意に四糸乃が頭を下げてきた。

 

「え?」

「…よしのんを、助けて、くれて」

 

士道は一瞬頬を掻いてから、ああと、頷いた。

 

「約束したからな。って言うか、俺だけじゃ何もできなかったし。天道さんがいたからここまで来れた訳だし」

「天、道…さん、が…?」

 

その名に四糸乃は覚えがあった。士道の家であった軍人の男性を彼がそう呼んでいた。倒すべき筈の自分を心から案じてくれた、士道と同じくらい優しい人だ。

 

「ああ、お前のために悪い奴と戦ってくれているんだ。それで約束したんだ、――四糸乃。お前を、助けるって」

「え…?」

 

四糸乃が不思議そうに返してくる。士道は四糸乃と目線を合わせるように、その場に膝を突いた。

インカムからは何も聞こえない。きっと結界を通る際に壊してしまったのだろう。

四糸乃を封印可能なのか知れないのは痛かったが、仕方ない。どちらにしてもやるしかないのだ。

パペットを失った四糸乃との触れ合いと、今この時の会話と。それだけの時間で、士道が四糸乃に最低限の信頼を得ていると信じて。

 

「――ええと、だな、四糸乃。お前を助けるためには――その、1つやらなきゃいけないことがあるんだ」

「なん…ですか?」

 

士道は緊張に渇く喉に唾液を流し込んでから、言葉を続けた。

 

「その…、変な奴だと思わないでくれ。…キスって、覚えてるか」

 

四糸乃が一瞬キョトンとした顔を作り、すぐに首を縦に振ってきた。

 

「…っ、そ、そうか。ええと――その…お前を助けるためには、それをしなきゃならないんだ。…いや、ホント変な意味じゃないんだぞ!これは――」

 

しどろもどろで話している士道に。四糸乃はふっと目を伏せてると、迷うことなくキスをするのであった。

 

 

 

 

『見事だ…』

 

瓦礫を退けながら漆黒の狩人が姿を現す!

胴体の装甲は殆ど剥がれ、剥き出しとなった肉体は焼け焦げ。四肢の装甲は辛うじて原型を留めて言るも、亀裂から止めどなく血が流れており、満身創痍としか言いようのない状態であった。

しかしその双眸からは闘志が消えることなく、寧ろ高まっているようであった。

 

「ッ――!」

 

咄嗟にアミタを背に庇うようにしながら、セイバーを杖のようにして起き上がる。

 

『お前が、お前こそが。俺が求めていた獲物よッッッ!!」

 

獣のように叫びながら、無手のまま戦闘態勢を取る漆黒の狩人。来るかッ!

 

迎え撃とうとセイバーを構えると――四糸乃を囲んでいた結界の勢いが弱まっていく。

 

『空が…』

 

アミタの声に空を見ると、暗雲に覆われていた空が晴れていき日差しが差し込んでいく。まるで暗雲を生み出していた者の心を表すように。

やってくれたのか五河!!

 

『時間切れ、か』

 

結界が消滅し、快晴となった空を見た漆黒の狩人が、先程までと打って変わって戦意のない声を漏らす。

 

『我々のの負けだな。帰るぞシャドウ4』

『あ、うん』

 

清々しいとさえ言える様子で去ろうとする漆黒の狩人に、アミタの妹さんが呆気に取られながらも応じる。

 

『俺の名はヴォルフ・ストラージ。お前の名を聞きたい』

「天道、勇だ」

 

つい先程まで命をかけ合ったとは思えない程、自然に聞いてくるので思わず素直に答えてしまった。

 

『天道勇、か。その名魂に刻んだ。次は負けん』

 

背を見せると、フラつきながらも去っていく漆黒の狩人。その後をアミタの妹さんが追うとその肩を支える。

追撃する力も残っておらず、ただその背を見ていることしかできなかった。

姿が見えなくなると、糸が切れたように後ろに取れる。

 

『勇君!?』

 

アミタに受け止められて抱えられる。何か言ってるけど聞こえないし、目が霞んで――駄目だ、凄く眠いや…。泣か、ないで…アミ、タ…大…丈夫、だから…。

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