ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第六十一話

「月並みな台詞だが、昇進おめでとう少尉(・・)。これからの一層の活躍を期待している」

 

ブルーアイランド基地にある父さんの執務室にて、俺は称賛の言葉を受けていた。胸の階級章は今までの軍曹ではなく、少尉を示すものに変わっている。

病院で目が覚めてから数日して、どうにか退院した俺を待っていたのは昇進であった。それも2階級特進という。

尉官クラスとなるため、先日必要な試験を受けて今日合格が決定となるのと同時の昇進となった。

 

「それにしても、昇進をそんな不服そうに受けた者を見たのは初めてだよ。少しは喜んでもらわんとこちらも立つ瀬がないのだがね」

「そんなことはありませんが?」

「なら鏡を見て来るといい」

 

革製の椅子に腰かけた父さんが、俺の顔を見てヤレヤレと言いたそうに息を吐いた。

はて?先の表彰式前に見た時はいつも通りだったのだが…。

首を捻っていると、雰囲気だ雰囲気、と呆れた様な顔でツッコまれてしまった。

 

「プリンセスとハーミット。精霊2体の討伐における功績を称えての昇進だが。まあ、お前の性格上、理由が理由だからそうなると予想は着いていたがね」

 

椅子に深く座りながらまた息を吐く父さん。

 

「…自分は討伐などした覚えはありませんので」

 

そう、俺は夜刀神も四糸乃も討伐なんてしていない。それなのに彼女らは討伐されたことにされ、あまつさえその立役者が俺だから昇進?こんなのどう喜んだらいいのか教えてもらいたい。

 

「本部の連中としては、そういうことにしておきたいのだろう。いつまでも精霊のことを隠せるか分からんからな、万が一市民へ公表することになった際に、有効な手立てがありませんなんて言えんだろう」

 

情報社会が発展した今の世の中、精霊の活動が活発化していることもあり、どこから情報が漏れ出るか予想しきれないのは分かるけど…。

 

「自分はいざという時の言い訳に使われると?」

「まあ、そうなるかね。俺としても気乗りはしないが、実際に軍内で真正面から精霊の相手をできるのは、お前と遊撃隊の者達だけだしな。」

 

不本意ながらといった様子で話す父さん。まあ、父さんにいくら文句を言っても仕方ないか。今回のことは本部が決めたことだしな。

 

「ともかくこの件を抜きにしても。お前のこれまでの功績は、2階級特進とまでいかなくても、昇進させるには十分だったからな。いずれにせよ、近い内に昇進させる予定だったんでな、1階級分はサービスだと思ってくれんかね。階級が上がればできることも増える、貰っておいて損はなかろう」

「…了解です」

 

正直言えば不服だが、これ以上は不毛か…。何事も柔軟に動くべき、と考えるとしよう。

 

「さて、話を変えるが。以前話していた、お前の部隊への追加人員を紹介しよう」

 

父さんが机の端末を操作して部屋の前にいる者を呼ぶと、2人の少女が入室してきた。

 

「失礼します。中国代表候補性の凰 鈴音(ファン リンイン)です。今日から独立混成遊撃隊のお世話になります」

 

最初に敬礼しながら名乗ったのは。腰まで届く茶髪をツインテールにし、肩を露出させたIS学園の制服に身を包みんだ勝気そうな顔をした子であった。

と言うか、俺は彼女のことを良く知っていた。

 

「久しぶりだね鈴。また会えた嬉しいよ」

「私もです勇さん」

 

鈴音――愛称である鈴に歩み寄ると、笑顔で握手しあう。

彼女は箒が転校して間もない時期に、一夏のいる小学校に転校し、あいつと親しくなった縁で知り合ったのだ。その後はユウキと親友と言える関係となり、良く家に遊び来たこともあって仲良くさせてもらったものだ。だが、親の都合で彼女が中学2年の時に中国に帰国してしまい、こうして顔を会わせるのは1年ぶりである。

 

「一夏にはこっち(日本)に来ていることは伝えているのかい?」

「いえ、驚かせてやろうと思って言ってないんです。だから、まだ言わないで下さいね」

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、唇に右手の人差し指を当てる鈴。こういったところは相変わらずだな。

 

「OK。存分に驚かせてやるといい」

「ありがとうございます」

 

和やかに話していると。軍服を纏ったもう1人の少女がわざとらしく咳払いをすると、自分を無視するなと不機嫌そうに目で訴えてくる。いかん、再会に喜び過ぎてしまった。

 

「ああ、すまない。君は…」

「DEMから出向となった崇宮 真那(たかみや まな)少尉でいやがります。どうぞよろしく」

 

どこか挑発的に敬礼する崇宮と名乗った少女は。肩に触れるかくらいの青髪をポニーテールにしており、鈴と同じくらい勝気そうな印象を与える顔つきだった。というか、彼女の顔――

 

「……」

「な、なんでいやがりますか。人の顔をジロジロと…」

 

崇宮の顔に引っ掛かりを覚えて注意深く見てしまうと、彼女は怪訝そうに眉を顰める。

 

「いや、君に似た顔に見覚えがあってさ」

 

つい最近見たことがある気がするんだよなぁ。それも精霊絡みで…。

 

「!それ、本当でいやがりますか!?」

 

崇宮に胸倉を掴まれると、額が触れ合う距離まで引き寄せられる。

 

「ってちょっと、何してんのよあんた!?」

 

突然のことに呆気に取られていた鈴が、慌てて止ようとするが。興奮した様子の崇宮は聞こえていないようであった。

 

「それって、この人に違いねーですか!」

 

上着の胸元をまさぐりロケットを引っ張り出すと、蓋を開けて見せつけてくる。

ロケットには写真が納められており。それには幼い頃の彼女が映されていて、その隣に彼女と年が近く似た顔つきの少年が仲睦まじい様子でいる。てか、これ――

 

「五河?」

「!知っていやがるんですか、この人を――兄様を!!」

「兄?五河が君の?」

 

縋りつくように放たれた言葉に、衝撃が走る。この子が五河の妹?確かに顔つきは瓜二つだが…。

そこで、静観していた父さんが口を開いた。

 

「…崇宮少尉。資料では君は数年前からの記憶がないとあったが?」

「ええ、それ以上前の記憶がてんと抜け落ちちまっていやがります」

「それって記憶喪失って奴?」

「ええ、それで行く当てもない私を拾ってくれたのがDEMなんです」

 

鈴の言葉に頷く崇宮。

すると父さんが椅子から立ち上がり、写真を見せてもらうと、顎に手を添えて思案顔になる。

 

「これを撮ったのがいつかは覚えているかね?」

「いえ、実を言うと名前すら覚えていやがらないんですが。何となく分かりやがるんです、この人が私の兄様だって」

 

不安そうに話す崇宮だが、父さんは疑う素振りすら見せずにそうか、と納得した。

 

「疑わねーんですか?こんな話を…」

「我が子らなんて血の繋がりすらなくても、似たようなことを言うし、実際にそうなるからね。だから信じたくなるのだよ」

 

俺を見ながら話す父さんに、鈴がああ、とどこか納得したように頷いている。

 

「ありがとうごぜーます。それで、あんたは兄様がどこに住んでいるのか知ってやがるんですか?」

「うん、知ってるけど…」

 

詰め寄って来る崇宮を宥めながら、父さんに視線を向ける。彼女に協力したいけど、五河については慎重な対応が求められから軽々しく動けないんだよな。

 

「構わんよ。時間がある時に案内してあげなさい」

「念のため、本人に確認してからが良いかと思いますが」

「そうだな。そこは任せる」

 

何か気になる様子があるけど。許可が出たし、明日にでも学校で五河に聞いてみよう。

 

 

 

 

「ここがIS学園寮だよ」

「へーやっぱり広いですねぇ」

 

あの後、鈴の案内も兼ねて寮へと戻ってきた。

鈴は敷地の広さに興味深そうに辺りを見回す。ちなみに彼女は2組に編入されるそうなので、俺や一夏とは隣の寮になる。

 

「部屋は基本的に2人1部屋で、食事は食堂があるけど、各部屋に台所もあるから自炊することもできるんだ」

 

歩きながら寮の説明をする。一応事前にパンフレットが渡されているだろうけど、実際に暮らしてみて気になった点なんかも伝えていく。

 

「随分お金かけてますね。どれも最新の設備ばかりですよ」

「世界中から人が来るから、見栄え良くしときたいんだろうね。それに一般に出回る前ものをテストするのにもってこいだ」

 

世界中の人が集まるということは、グローバルに意見が手に入るということだ。だから企業としては、他の国で商品を売るのに有利となる。聞くところによると近年は世界中で日本製品が好評で売れているらしい。

 

「そういえば、ご両親は元気かい?」

「はい、と言ってもお父さんとは忙しくて電話でだけですけど」

 

先とは一転して鈴は表情を暗くして俯く。

彼女が中国に戻ったのは、実を言えば両親の離婚が原因だった。母方に引き取られた彼女は、国に帰る母に着いて行かざるを得なかったのだ。

 

「そっか、あの人達が作る料理は好きだったんだけどね…」

 

鈴の両親は中華料理店を営んでおり、味は元より暖かい店の雰囲気もあって地元でも人気であった。

 

「仕方ないです。そうなってしまったんですから…」

 

視線を向ければ、鈴の表情に陰りが見えた。いかん、この話題をこれ以上続けるのは良くないな。

 

「話は変わるけど、この前中国で起きたノイズとの戦闘では大活躍だったと聞いたよ」

 

当時彼女は予備役で出撃予定はなかったが。想定外の規模に急遽実戦に投入され、避難が遅れていた市民を守り切ったと聞いている。ただ、その時の機体の損傷が大きく、入学式に間に合わなくなってしまったが。

 

「いえ、勇さんの教えが良かったからですよ」

 

謙遜した様子の鈴。戦闘の映像を見せてもらったけど、初陣とは思えない程良い動きだったけどな。

 

「俺が教えたのは初歩だけだよ。それを独学であそこまで昇華できたのは、ひとえに君の努力の賜物だよ」

 

IS乗りになることを決めた彼女に、帰国するまでの僅かな時間に武術の稽古をつけたのだが。帰国してからは彼女1人で実戦に通じるまでに技を磨いたのは才能もあるが、何より血の滲むような努力によるものだろう。

 

「それに、こうして日本に戻って来れたのも、あの時勇さんが道を示してくれたからなんですから。本当に感謝してます」

 

鈴は感慨深そうに日が沈みかけた空を見上げる。

一夏や俺達と離れたくなかった彼女に、俺は時間をかけず日本に戻れる方法としてIS学園への入学を薦めた。学園と彼女が元々暮らしていた場所とは近く、比較的時間を共にする機会が多くなるからだ。

無論そのためには、学園に入れるだけの知識や、ISを動かせるだけの適性や体力等が必要になるが、元々彼女は身体能力に優れ、適性はAと非常に高かった。だが、知識に関してはISに興味を持っていなかったこともあり1年という限られた期間で必要なことを覚えるのは困難であった。

 

 

「俺は示しただけさ。辿り着けたの君自身の力だ、誇っていい」

 

それでも彼女はやり遂げたのだ。それも国家代表候補性として専用機を与えられるという、同年代では破格の待遇を得られる地位まで手にしたのだ。そこに至るまでにどれほどの苦難があったか、その努力にただ敬意を表することしかできない。

それでも謙遜している鈴を微笑ましく見ていると、訓練施設の方から声が聞こえてくる。

 

「だから…だな…」

 

視線を向けると箒が腕を組みながら、ムスッとした顔で何かを話している施設から出てくる。その雰囲気は何故言っていることが理解できないのかといった感じだ。

 

「だから、そのイメージが分からないんだよ」

 

そんな彼女を追うように一夏が出て来てくる。その姿を見た鈴の体がビクンと震える。

 

「一夏、いつになったらイメージが掴めるのだ。先週からずっと同じところで詰まっているぞ」

「あのなぁ、お前の説明が独特過ぎるんだよ。なんだよ『くいって感じって』」

「…くいって感じだ」

「だからそれが分からないって言って――おい、待てって箒!」

 

足早に去っていく箒を追いかけていく一夏。犬みたいだなあいつ。

 

「――勇さん」

 

背後からの声に、冷水を流されたように体温が下がった。

重くなった我が身をどうにか動かし振り返ると、笑顔の鈴がいる。

 

「今の娘誰ですか?あいつと随分仲が良いみたいですけど」

 

――ただし、目は笑ってないというか光がない。Oh…。

 

「彼女が君と知り合う前に良く一緒にいた娘だよ。ああやってたまに一夏にISのことを教えているのさ」

 

とはいっても、箒はこの学園に来るまでISに触れたことがないから、できることは限られているんだけどね。まあ、オルコットがマンツーマンで指導していることへの対抗心だよね、うん。

 

「へえ、そうなんですかぁ」

「先に言っておくと『同じ』娘がもう1人いるよ」

「へえ、そうなんですかぁ」

 

笑顔のまま口角を吊り上げる鈴。その姿は、獲物に喰らいつかんとする肉食獣に見えた。

一夏よ死ぬなよ。いや、あいつの自業自得でもあるから、あんまり同情できないや。




前回伝え忘れたのですが、主人公部隊名称についての意見募集は打ち切らせて頂きました。
恐らく、次回くらいで発表となると思います。
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