イギリスにあるDEM本社にて。
「……」
「どうしたんだいエレン?浮かない顔をして」
側に立って控える腹心のエレン・ミラ・メイザースに、ウェストコットは不思議そうに問いかける。
「よろしかったのですか?真那をブルーアイランドへ送ってしまって。もしも…」
「
最近は軍内部を始め、DEMに反発している勢力から、DEM社が世界中の反政府勢力を支援している
最も、誰もがそんなことは見せかけであることは理解しているも、明確な証拠がない現状では抑えとしては十分であった。
――というのはあくまで
「それはそうと、僕らも近い内に日本に行こうじゃないか。ヴォルフを下したという彼に会ってみたいしね」
ウェストコットが話題を変えると、その内容にエレンの纏う空気が張り詰める。
世界最強の戦士を名乗るためにも、いずれ下すべき相手を先に打ち破られたこと――まして、それが戦士になって間もない者であったことは、彼女にとって耐えがたい屈辱であった。
汚された誇りを自身の手で取り戻す機会を、エレンは求めていた。
「そう焦ることはないさエレン。君が最強であることを示す機会は必ず訪れるさ」
そんな己の剣を、ウェストコットは満足そうな目で見るのであった。
「というわけでっ!織斑君クラス代表決定ならびに、勇さん昇進おめでとうございま~す!」
「「「「おめでとうございま~す!」」」」
一斉に鳴り響くクラッカー。それに伴い舞い散る紙テープが俺と並ぶ一夏に降り注ぐ。
貸し切られた食堂にて、一夏のクラスメートが盛り上がっている。
IS学園では各クラス毎にクラス代表――要は委員長が選ばれるのだが、本人の知らぬ間に多数決で一夏が選ばれたんだそうだ。そのため祝われている当人な何とも言えない顔をしていた。
「ありがと~う!yeah!」
「いや、なんでお前が言うのさ」
祝いの言葉に送られた俺達を差し置いて応えるユウキに、ツッコミを入れる。それとアミタと詩乃も同居しているということで招待されていた。
「まあ、いいじゃん。兄ちゃんはボクでボクは兄ちゃんなんだし」
「ああ、そう…」
よく分からん理論をかざす妹に、面倒臭くなったので適当に流す。
「どうも~。おめでとうございます~」
「ありがと~う!yeah!」
「yeah~!」
クラスメートの1人である布仏が、のそりとのそりとした動作でやってくると、ユウキとグラス合わせてはしゃいでいる。波長が合うのか、すっかり仲良しなってるな。
「?嬉しくないんですか天道さん?」
「いや、そんなことはないけど。どうしてだい?」
む、感づかれないようにちゃんと気をつけていたんだけどな。
「ユッキーがやけに張り切っているんで、そうなのかな~って思ったんです~」
ユッキーとはユウキの愛称らしい。彼女は親しい相手に、こういった呼び方をするのだそうだ。
そう、ユウキがやたら元気なのは、本当は気乗りしない俺を気遣ってくれたからなのだ。そこに気が付くとは、やはりいい観察眼を持っているなこの子。
とりあえず、感謝の気持ちを込めて頭をわしゃわしゃと撫でてあげると、にゃーと喜んでいる。
「まあ、大人の事情って奴でね。昇進は余り気乗りしないけど、このパーティーは楽しまないとね。せっかく皆が用意してくれたんだから」
申し訳なさそうにしてしまった布仏を、空いている手で思わず撫でてあげると、うにゃーと喜んでくれた。おう、なんて癒されるのでしょう。
「……」
軽いジャブで妹が抗議してきた。
「殴るな。お前も癒されるから」
実際お前には何度も助けられてるよ。この前の戦闘も、お前もいてくれたから俺はここにいられるんだからな。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君とそのお兄さんであり、軍期待のホープである天道勇さんに特別インタビューをしに来ました~!」
パーティが盛り上がりを見せる中、IS学園の制服を着て2年生を示すリボンをした少女が姿を現す。
その少女の言葉を聞いたユウキと一夏と箒は何故かあっ、と気まずそうな声を漏らした。
「あ、私は2年の
自分に対して苦笑いしている一夏を不思議に思いながらも、薫子はとりあえず名刺を渡すと、隣にいた勇にも渡そうとするも。その姿が跡形もなく消えているではないか。
「兄ちゃーん出ておいでー。マスゴ――悪いマスコミさんじゃないよー」
一夏と箒以外のその場にいる者達が彼を探していると、ユウキが勇のいた位置に近いテーブルに屈んでかけらていたクロスを捲りながら、その中に話しかけていた。
「本当?」
するとテーブルの下の暗がりから、勇がひょこりと顔を僅かに出してきたではないか。その表情は怯え切っており、小動物のようにうーと、唸っている。
「「「「(何この可愛らしい生物…!)」」」」
普段の凛々しさしさとは真逆の保護欲を駆り立てられる姿に、大半のものが鼻を抑えて悶える。というか、一部の者は鼻から赤い筋が流れている。
「えっと…」
「あ~すいません。あの人昔マスコミに色々されてから、極度に怖がるようになってしまって」
想定外の事態に唖然としている薫子に、一夏が事情を説明する。
10年前のテロを生き延びた勇に対して。日本中のマスコミが様々な憶測を立て、数ヶ月にわたって彼の家の前に四六時中張り付きて騒ぎ立てられたことで、今なお心に残る傷――トラウマとなっているのだそうだ。
「やはり、まだ治っていなかったんですね…」
「ん~少しはマシになってんだけどね~。この場から逃げなかったから」
自分のことのように悲痛な顔をする箒に、勇の背中を摩って宥めながらどこか安堵した様子で話す。
「大丈夫ですか勇君?」
「♪~」
ユウキの隣に並び、顎の下を撫でるアミタ。すると、気持ちよさそうに目を細める勇。
「やっぱり、マスコミって糞よね」
似た経験のある詩乃は吐き捨てるように言いながら、勇の耳の付け根を撫でる。本人にその気はないが、地味に言葉が薫子の心に突き刺さっている。
「(ペットみたいな扱いされとる…)」
愛でられている兄貴分に、出かかったツッコミを飲み込む一夏。本人が幸せそうだからいいかと、深く考えないことにした。
「よしよし」
「(箒、お前もか…)」
さらりと混ざっている幼馴染に、やっぱり女の子なんだなぁ、遠くを見る目をしながら思うのであった。
「あの、すみません。何も知らなくてその…」
「ああ、気にしないで下さい。リハビリの良い機会なんで」
申し訳なさそうにする薫子に、ユウキがにこやかに答えるのであった。
一夏とついでにとイギリスの代表候補性であるセシリアの取材を終えると、勇の番となるが。真正面からは無理との当人の意向により、ユウキを壁にしながら取材が行われた。
「はい、それではご協力ありがとうございました」
取材を終えた薫子が礼を述べると、ボイスレコーダーをしまう。
「あ~う~」
「お疲れ様です勇君」
緊張の余り疲れ果てた勇を、アミタらが頭を撫でたりしながら労う。
「それじゃ私はこれで失礼するから、パーティ楽しんでね~」
用の済んだ薫子がそう告げると、一夏のクラスメートがお疲れ様で~すと、それぞれ答える。
食堂から出ていこうとする薫子の前に、ユウキが姿を見せる。
「どうも、お疲れ様で~す」
「お疲れ~ユウキちゃん。いやぁ協力ありがとうね~、おかげでいいもん書けそうだわ」
ホクホクした様子で話す薫子。彼女のスタイルとしては、新聞を面白くできれば記事の改竄・捏造も辞さなという不真面目なものがあった。
流石に勇のものは憚られたが、一夏やセシリアは弄りかいがあった。
「そうですか~。それじゃ薫子さん」
ユウキが薫子の肩に手を置きながら、耳元にそっと顔を近づける。
「清く正しい新聞楽しみにしていますよ」
「――――」
囁かれた言葉に、全身の体温が奪われた感覚に陥る薫子。
それでは、と笑顔で兄らの元へ戻っていくユウキ。その笑顔はまるで、首元へ添えられた刃のように思えてしまうのであった。
「薫子先輩と何話してたんだユウキ?」
「ん~ま、念のためちょっと
戻ってきたユウキに一夏が何気なしに話すと、彼女はいつもの様子で答える。
後日。薫子が掲載した新聞は、彼女を知る者から別人が書いたのではないかと疑われる程、至極全うなものであったとかなんとか。
予定より長くなってしまったので、部隊名発表は次回にさせ頂きます。申し訳ありません。