ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第六十四話

ブルーアイランド基地内にある女性用更衣室前にて、AST隊長である燎子が壁に背を預けながら誰かを待っているようであった。

暫しすると更衣室の扉が開き、ワイヤリングスーツを身に纏った1人の少女が、慌てた様子で出てきた。

 

「お、お待たせしました!」

「実戦じゃないんだから、そんなに急がなくていいわよ」

 

かなり緊張した様子の少女を落ち着かせるように話す燎子。

 

「は、はい!」

 

それでも力みが抜けていないが、初々しさを感じた燎子は微笑ましく思いながら少女を連れて通路を歩いていく。

 

「あなたの実地研修先だけど、隊長始め同い年の子が多い――というかそれくらいの年代しかいないから馴染みやすい筈よ」

「特別編成された遊撃部隊、ですよね?」

「そう、通常の指揮系統に組み込めない特異戦力を運用するための試験部隊よ。とは言っても今じゃジョーカーみたいな感じになってるけどね」

「そんな所に私なんかが?」

「それだけ期待されているってことよ。あたしらとの訓練通りにやれば大丈夫よ」

「が、頑張ります!」

 

胸の前で両手を握り締めて気合を入れている少女。

そんなやり取りをしていると、地下訓練室用の扉の前に辿り着いた。

 

「(ここに、あの人がいるんだ…!)」

 

待ち望んだ瞬間に、少女は緊張の余り唾を飲み込むのであった。

 

 

 

 

「一夏出過ぎだ!もっと周りを見て連携を意識して動け!アミタはもっと攻めていいぞ、攻めれる時は攻めよう!」

 

チームを組んだ模擬戦を行っており、ガラス越しに隔てられた待合室で俺はマイク片手に適時アドバイスを送っていた。

ちなみに隣では、了子さんが色々とデータを取っている。

 

「ちょっといいかしら勇」

「はい、何でしょうか日下部大尉」

 

入室してきた燎子さんに敬礼すると、隣にいる少女に無意識に視線が向かった。

 

「前に話があった実地訓練生よ」

「お、岡峰 美紀恵(おかみね みきえ)伍長です。よろしくお願いします!」

「あら、また可愛い子が入ってきたわねぇ」

 

不慣れな様子で敬礼してくる岡峰伍長に、了子さんが喜々として声を上げる。

ん~にしても、彼女の顔に見覚えがある気が…。

 

「君とは以前、どこかで会ったことがなかったかな?」

「はい、精霊に襲われている所を助けて頂いたことがあります!」

 

やはり俺が初めて戦場に出てプリンセス――夜刀神と遭遇した時に救助した少女か。まさかこのような形で会うことになるとはね。

 

「あの、その節は本当にありがとうございました!ずっとお礼を言いたかったんですけど、色々あって遅れてしまって…」

「責務を果たしただけだから気にしなくていいさ。何事もなくて良かったよ」

 

軍人として当然のことをしただけだけど。こうして誰かを守れたのだと実感できたのは、正直嬉しいと思う。

 

「あの後検査で、リアライザの適性が高いことが判明してね。本人もやる気があったからスカウトしたのよ」

 

なる程、リアライザを扱える者は限られているため、適性者は折紙のように規定年齢より低くても特別に入隊できるんだよな。

 

「それで、あたし達(AST)の所で基礎訓練していてね。それが一通り終わったから実地訓練をすることになったのよ」

「1つよろしいですか」

「いいわよ」

「自分が救助してからということは、彼女が訓練を始めて2ヶ月そこらですよね。それで実地訓練は早過ぎると思うのですが?」

 

人材の育成というのは、どの分野においても長い期間を要するものだ。特に命のやり取りをする兵士の育成となると年単位の膨大な時間と予算が必要となる。実地訓練とは即ち実戦に参加させるとこであり、数ヶ月しか訓練していない者にやらせることではないのだ。

 

「ああ、それね。あなたが受けた早期育成過程って覚えてる?」

「ええ、忘れたくても忘れられないですね」

 

早期育成過程とは、特殊な事情で入隊することになった俺のためだけに、父さんが組んでくれたカリキュラムである。1ヶ月で教育課程を終えるために、スパルタという言葉さえ生温い密度で扱かれたなぁ。今思い出してみると、俺良く生きてたなぁ…。

 

「あれを知った本部が、本格的に育成過程に組み込めないかって言ってきたらしくてね。流石にそのままって訳にはいかないから、ある程度見直して試験中なのよ」

「失礼ながら、自分は事前に準備をしていたからであって、誰にでも適用できるものではありませんよ」

 

俺が1ヶ月という短期間で終えれたのは。10年前から軍属になるという人生設計をしていて、一般的な生活を捨てて自己鍛錬と学習を積み重ねていたからだ。

自分で言うのもなんだが、かなり特殊でイレギュラーなことであり。どう見直そうとも、とてもではないが実用的なものになるとは思えない。

 

「そうなんだけど、数字しか見ない人間っているからね…。天道少佐も反対したけど聞き入れられなかったのよ」

「…出過ぎたことを言いました。申し訳ありません」

 

ヤレヤレと言いたそうに息を吐く燎子さん。まあ、現場の人間ならそれくらい気づいて当然か…。これが中間管理職の悲哀ってやつなのかな。

 

「あの~」

「ああ、ごめんなさいねミケ、あなたは何も悪くはないからね。勇、他の子達にも紹介したいから集めてくれる」

「了解です」

 

申し訳なさそうに気落ちしてしまった岡峰伍長を、フォローしなが指示する燎子さん。中間管理職の大変さを感じながら模擬戦を中止させるのであった。

 

 

 

 

「という訳で、暫く我が隊に預かることになった岡峰美紀恵伍長だ。皆仲良くしてくれると助かる」

「よ、よろしくお願いします!」

 

緊張した様子で頭を下げる岡峰伍長に、それぞれ応える一同。

 

「では、せっかく訓練場にいるので、伍長がどれくらい動けるか見せてもらおうかな。折紙手合わせを頼めるかな?」

 

指揮官として、伍長の現時点での技量を把握しておきたいんだよな。それには同じウィザードである折紙が適任だろう。

 

「問題ない」

「ありがとう。誰か武器庫から、伍長の分のレーザーブレード持ってきてくれるか」

 

訓練中の伍長には、CR-ユニットは用いない簡単な形式で行ってもらうことにしよう。

ある程度距離を取り、ブレードを構え向き合う折紙と伍長。俺や他のメンバーは離れた位置で見守る。

 

「行きます!」

 

伍長が先手を取り駆け出すと、ブレードを上段から振り下ろす。基本に忠実で初歩的な動きは、折紙み難なく見切られ軽々と避けられる。

 

「わわっ!?」

 

勢いのつけ過ぎた伍長は、小石に躓き前のめりに派手に倒れてしまう。

 

「ひゃわぁ!?」

 

そんな彼女の眼前に、折紙がブレードを突き立てられた。

 

「よし、そこまで!伍長大丈夫か?」

「は、はい~」

 

終了を告げると同時に、伍長へ駆け寄る。

 

「…あれの面倒を見ろって言いやがるんですか?」

「まあ、そうなるわね…」

 

嘘だろと言いたそうに伍長を指さす崇宮の言葉に、アチャーといった様子で額を抑えながら肯定する燎子さん。

その間、俺は手を貸しながら伍長を起き上がらせる。

 

「私…すっごいあがり症でテストとかだと大丈夫なんですけど…いざ実践となると全然動けなくて…。でも、いつかきっと人の役に立てるように頑張りたいんです!!」

「心意気は結構ですが、現実はそんなに甘くねーですよ。あんたなんて戦場に出ても10秒もしないでお陀仏でやがりますよ」

「あう…」

 

熱意をもって語るも、崇宮の正論に落ち込んでしまう伍長。

 

「確かに崇宮の言葉は否定できないけど。誰でも最初から上手くできるものじゃないさ。俺だってそうだし、君だって誰かの手を借りて今があるだろう?」

「まあ、そうですがね。それでも限度があるでしょう」

 

暗に伍長には才能がないといいたいんだろう。それについては今の段階ではどうとも言えないが、それでも才能だけで人の生き方が決まるとは俺は思えない。

 

「不安があるのは分かるけど、何があっても俺がどうにかしてみせるよ」

「どうにかって、あんた今本調子じゃないでしょうが」

「え、天道さんどこか具合悪いんですか!?」

 

崇宮の言葉に、伍長が慌てだす。

 

「いや、俺自身は問題なけど機体がね。前の作戦で大破させてしまってね、今は代替機なんだ」

 

現在MK-Ⅱは破損が深刻なため、開発元のマオ・インダストリーに戻しているのだ。ミリィ曰く一から作り直した方が早い程らしい。

その間の代わりとして、T-LINKシステムのテスト用に使用していたゲシュペンストが送られてきたので、それを使用している。

 

「だからって、それを言い訳にしたくないんだ。できることがあるなら、それに全力を尽くすだけさ」

「言うだけなら誰でもできますがね」

「無論、そこは行動で示すさ」

 

綺麗ごとなんて言うのは簡単だ。でも、世の中それだけで上手くいくような甘いものじゃないのは身に染みている。形どうあれ、どうしても『力』が必要になってくる。だから、俺なりの力を持てるように努力してきたし、己惚れる気はないけど漆黒の狩人との戦いで、それが間違いじゃなかったと自信が持てるようになったんだ。

 

「だから伍長。今は自分に自信が持てなくてもいい、いつか己を信じきれる日が来るまでは俺を信じて前に進んでほしい」

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

どこか肩の力が抜けたように笑う伍長。ずっと緊張したままだったから、自然と笑えるようになってくれて何よりだ。

 

「自然とそういうこと言うんだよなぁ」

「またユウキに吊るされますよ」

 

後ろから弟分とその幼馴染がぼやいているけど、そんなつもりは毛頭ありません!

 

「ちょっとお邪魔するよ~と」

「少佐、何かありましたか」

 

不意に現れた父さんに、俺や軍属組は敬礼して応じる。

気楽な様子だから非常事態ではなさそうだけど、何かあったのかな。

 

「いやね、君達の部隊が正式に認可されたのでね。それを伝えに来ただけだよ」

「正式にですか?」

 

遊撃隊はあくまで試験運用中であり。場合によっては、そのまま解散になる可能性もあると聞いていたけど認可されたのか。

 

「ああ、これまでの活動で遊撃隊の有用性が高いということで、このまま特務作戦部隊として運用してくことになったのだ」

 

父さんの言葉に、一部のメンバーからお~といった声が上がる。

 

「よって勝手ながら正式名称を決めさせてもらった。君達は今後『対脅威装機独立遊撃隊クロスナイツ・フォース(CNF)』として行動してもらう。任務内容は今までと同様だが、君達の多様性を踏まえ、場合によっては災害救助や避難誘導に協力してもらうこともあるかもしれん」

「クロスナイツ・フォースですか」

「うむ、世界――人々を守る力が交わる場所。そういう想いを込めてつけさせてもらった」

「…大袈裟過ぎませんか?」

 

こんな少数の部隊につけるような名前ではないと思うんですが…。他の皆も困惑気味な様子をしているし。

 

「時代を世界を動かすのは君達若者だ。そしてこれから人類には、今まで経験のしたことのない困難が降りかかるだろう。確かに今の君達の力は小さい、だがいずれはあらゆる困難を切り開くだけの力となると私は信じている。そういった期待も含んでいるのだ」

「少佐…」

「無論君達にだけに重荷を背負わせるつもりはない。我々大人も全力で君達を支えていく、だからこの名を受け取ってもらいたい」

 

父さんの言葉に、同意するように燎子さんら大人組も頷く。

俺は皆の方を向くと。戸惑いはなくなった訳ではないが、誰も反論の色は見られなかった。

 

「はい!ご期待に応えられるよう全力を尽くします!!」

 

皆を代表して、俺は敬礼しながら力強く答えるのであった。




お待たせしましたが、主人公部隊の正式名称を決定しました。
一条 秋さんと秋告ウサギさん、againliveさんから頂いた意見から、一部変えさせてもらいながら採用致しました。

ご協力頂いた全ての方々へ、この場を借りてお礼申し上げます。誠にありがとうございました!
又同じようなことがありましたら、ご協力頂けると嬉しいです。

※捕捉
クロスナイツ・フォースのナイツはknights(騎士団)で、騎士には人々を守る――守護者という意味合いもあるので。『護り手としての力が交わる』というのと。騎士と言えば円卓の騎士というイメージが強く、円卓の騎士は上下関係なく皆が対等であるという考えがあり、主人公の部隊の雰囲気に合っていると思いこのように名付けました。
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