ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第六十八話

謎のテロリストから襲撃を受けた翌日。

登校した美紀恵は、うわの空な様子で自分のクラスの向かう。昨日の今日であり、休むことも認められていたが。無様を晒したうえでそのようなことをしたら、軍人になってまで自分を変えようとした意味がなくなるとして提案を辞退したのだった。

 

「はぁ~~~」

 

とはいえ、何事もなかったようにできる筈もなく、無意識にだが溜息が漏れてしまう。

 

「おはよ~美紀恵~。うんにゃ?どしたの朝っぱらから人生終わったみたいな顔して?」

 

席に着くと同時に、前の席のユウキが椅子を動かさずに振り返り背もたれに肘をのせながら不思議そうな顔で話しかけてくる。

 

「えっと、その…」

 

非常にデリケートな話題となるので、どう答えるべきか迷う美紀恵。一般人である彼女に任務のことを話す訳にはいかず、何より――

 

「(い、言いにくい…!あなたのお兄さんに怒られて嫌われたんじゃないかなんてっ!)」

 

悩みの原因である人物の妹に相談するというのも、どうにも気が引けてしまうのだった。

 

「?」

 

何も知らないユウキは、冷や汗をかきまくって挙動不審になる美紀恵に、疑問符を浮かべて小首を傾げていると。担任である樽井(たるい)ことりが教室に入ってきたため、また後でね、と言い前に向き直る。

 

「え~はいHRを始めま~す。あ~伝達事項は他のクラスの人にでも聞いて下さい」

「「「「いや、言ってくれよ!!」」」」

 

余りのいい加減さに思わずクラス一丸でツッコミが入る。がそんなこと気にしていない様子で、ことりは出席を取り始める。

この女性教師は仕事に関して全くやる気がなく、常にサボることしか考えておらず。何故教師になったのか少なくとも小一時間は問い詰めたい人物なのである。

 

「あ、そうだ。今日はこのクラスに転校生がいるんだった。入って下さ~い」

 

思い出してしまったといった様子で気怠げに告げる担任に。この一年無事に学生生活を過ごせるか途轍もなく不安になる生徒ら。

 

「…日本の教師ってこんな適当で務まるのか?」

 

困惑しながら教室に入って来たのは、金髪白人の少女であった。

 

「イギリスから来たアシュリー・シンクレアっつーんだ!以後よろしくなっ」

 

小柄で年齢よりも幼さを見せるも、勝気の強そうな笑みを浮かべるアシュリー。

まさかの美少女外国人に男子を中心におお!と歓声が上がるが。そんな中1人だけ異なる反応を見せる者がいた。

 

「あーっ!!き…昨日の爆破犯!!何で学校に!?」

 

驚愕した様子で椅子から勢いよく立ち上がると、新入生の少女を指さす美紀恵。何を隠そう昨日の爆破テロにて、自分と折紙を襲撃してきた相手だったのだから。

 

「え…爆破犯!?」

「あ…いえ!!ばくはごはん!!つまりかやくごはんのことです!!」

「その言い訳は流石に苦し過ぎて反応に困るっス」

 

思わず機密を叫んでしまったことを必死に誤魔化そうとする美紀恵に、ユウキのツッコミが入る。

 

「昨日のことは当然機密扱いだろ?そんな軽口で大丈夫なのかよ泣き虫ちゃんよ」

「わ…私泣き虫じゃないですよー!!」

 

両手を腰に当て挑発的な笑みを浮かべて歩み寄って来たアシュリーに、机を強く叩きながら反論する美紀恵。

 

「よく言うぜ昨日のこと思い出させてやろーか?『助けて下さい~』って泣きながら懇願してたのはどこのどいつだ~?」

「あっ…あれは違いますっその…」

「何が違うんだ?言ってみろよ~」

 

アシュリーに頬を指ぐりぐり突かれながらとなじられ、嫌そうに引き剥がそうとする美紀恵。

 

「あれは…あれは…」

「言い返せないだろ?おらおら泣いていいんだぞー?」

 

反論できず涙目になる美紀恵に、アシュリーは近くの生徒の消しゴムを勝手に取ると、千切りながら指で弾いて当てる。

 

「な…泣かないですっ私は泣き虫じゃないです…から!!」

「ほうほうそうかーよく頑張ったなーご褒美に頭をなでなでしてやるぜ!」

「あなたなんかに撫でられても嬉しくないです!!子供扱いするなですー!!」

 

ポカポカと叩いてくる美紀恵に、鬱陶しそうな顔をするアシュリー。

 

「あー?だって子供だろー?」

「あなたこそよっぽど子供でしょう!!何ですかその体つき!!高校なんて来てないで小学校行けです!!」

「あああ!?てめーも人のこと言えねーだろが!おら!あたしの方が背も高いだろ!」

「あっ…!!ほんとです…そんな…って凄い背伸びしてるじゃないですかー!!」

 

あーだこーだギャーワー言い合う両者。まるで猫がじゃれ合っているような様に、周囲は微笑ましいものを見るような気分になる。

 

「仲良しだね~君達」

「「仲良くないです(ねえ)!!」」

 

愉快そうに話すユウキに、揃って反論する両者。

そんな中HRの終了を告げるチャイムが鳴ると、居眠りしていたことりが目を覚ます。

 

「は~い、これでHRを終了しま~す。あ、シンクレアさんの席は岡峰さんの隣なんで」

 

言い終わるとさっさと教室を出て行くことり。ぞんざいな扱いに、ホントにあれ教師なのか?と呟きながら言われた席に座るアシュリー。

 

「チッ、てめーの隣かよー!」

「何ですかっこっちこそ不満ですー!っていうか…あなた一体何しに来たんですかっ。まさか昨日の決着をつけに…」

「安心しな…今日は襲いに来た訳じゃねー。あたしだって花のティーンエイジャーだぜ?別に学校くらい来たっていいだろ?」

 

両手を頭の後ろで組み椅子ごと後ろに傾きながら気楽に言うアシュリー。そんな彼女を美紀恵は懐疑的な目で見ている。

 

「(遊びに来ただけ?そんな筈はありません!こんな時はそう…報告です!自分で判断できない事態が起きたら迷わず報・連・相するよう天道隊長が言っていました!!)」

 

事前に聞かされていた徹底事項を美紀恵は、携帯を手にするとメールを打とうとする。

すると、メールが受信され送り主には天道隊長と表記されていた。

これから連絡を取ろうとする相手からのメールに少し驚いてしまうが、美紀恵すぐにメールを開く。内容はアシュリーのことであり、彼女については彼も把握しており対応を検討中のため、取り敢えずそれまえでの間美紀恵には彼女の監視を行うようにとのことだった。また、周囲に彼女が先の爆破テロの容疑者であることが漏れると学園全体がパニックに陥りることになり、そうなると相手がどのような行動に出るか不明なため慎重に行動するようにと記されていた。

 

「(か、監視任務…っ!訓練じゃそんなことやったことないですけど、怪しいことをしていないか見張ればいいんですよね?えっと、スパイ映画みたいに隠れて?いやでも慎重に動くようにってことでしたし…。と、とにかく隊長から頂いた任務必ず全うして昨日の汚名を挽回してみせますっ!!)」

「いや、汚名って返上するもんじゃねーの?」

「はわー!?!?」

 

後ろから画面を覗き込んでいたアシュリーからのツッコミに、驚きの余り思わず飛び跳ねてしまう美紀恵。

 

「ど、どうして私の心の中を!?まさかっ読心能力が!?!?」

「いや、普通に呟いていたぞ?」

「はわー!?!?」

 

呆れた様な顔で指摘され涙目になる美紀恵。

そんな彼女をよそに、アシュリーは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。

 

「はっ!まさか天道隊長に危害を加える気じゃ…!そんなことさせませんよ!!」

 

威嚇する猫のように唸る美紀恵だが、気にした様子もなくアシュリーは肩をバシバシ叩く。

 

「ハッハッハッ安心しろって!問題を起こす気はねーよ。言ったろ、学校に通いに来ただけだって」

「そんなこと言っても騙されませんですからね!あなたの野望は私が阻止してみせます!!」

「は~お前に何ができるってぇ?」

 

指を突きつけて宣言する美紀恵の頬を、アシュリーは指でぐりぐりと再び突くのだった。

 

 

 

 

「本当に正規の手続きで転校してきたんですか?」

 

来禅学園高等部の校舎裏にて、俺は1人携帯で通話していた。

 

『ええ、提出されている書類に不備は見つからないわね。アシュリー・シンクレアはれっきとした留学生として転入してるわ』

 

通話相手である燎子さんの声には戸惑いの色が滲み出ていた。まあ、爆破テロを起こした相手が昨日の今日で何食わぬ顔で敵対した俺達のいる学校に転校してくれば当然だが。

 

「彼女らのバックには、政界にも顔が利くデカいスポンサーがいるってところですか」

『多分ね。でなきゃこんな大胆なことできないでしょうよ』

「岡峰伍長には監視を命じていますが、可能なら捕縛しますか?」

『ん~目的がハッキリしない今下手に刺激したくないのよね。専門外で悪いんだけど、まずはそこら辺から探ってみてくれる?無理のない範囲でいいから』

「了解です。それでは」

 

通話を終えて携帯をしまう。

さて、諜報活動か。そういったことは得意じゃないんだけどなぁ。

何て考えていると、体育で使う共用の更衣室へ向かっていく折紙が見えた。彼女のクラスは体育かな?ちょうどいいや、今後のことについて――

 

「うん?」

 

更衣室に入っていく彼女を見て思わず間抜けな声を出してしまった。いや、更衣室に入るのは別にいいんだけど、あそこって男子の方じゃないっけ?まだ一限目だし寝ぼけて間違えたのかな?

何故だか嫌な予感がし、気配を消して後を追う。

 

「ふー!ふー!」

 

数あるロッカーの一つに上半身を突っ込ませ、手にした男子用制服の上着の匂いを貪るように嗅いでいる同僚の姿がそこにはあった。

 

「はふー!はふー!」

「…おい、何やってんだ?」

「!?」

 

背後に立ちドスの効いた声で話しかけると、ビクッと体を震わせ、錆突いた機械のような動作でこちらに振り返る。

 

「勇、奇遇」

「ああ、そうだな。で、何やってんだお前さんは?」

「…見回りを」

「もう授業だろお前」

「士道のロッカーを掃除してあげようと…」

「ここ共用だろ」

「……」

 

言い訳を思いつかなくなったのか、目を逸らす折紙。そうかそうか、人間潔さって大切だよね。

 

「後でじっくり話し合おうか」

「…はい」

 

項垂れ気味に頷く折紙。

…こういったやりとりが日常化してきてきてるけど、正直彼女の将来が色々と心配でしかない。

 

 

 

 

「よーし、次は部活棟を見ていこー!」

「だー!そんな腕引っ張んじゃねー!!」

「わー!待ってです~!!」

 

放課後となった高等部校舎内で、ユウキに腕を掴まれ引っ張られているアシュリーが抗議の声を上げていた。そして、そんな両者を美紀恵が慌てて追いかけていた。

校舎の案内を申し出たユウキは渋る彼女を、半ば強引に連れ出していたのである。そうなると監視任務を受けている美紀恵も必然的に一緒に行動することとなったのだ。

 

「つーか初対面なのに、馴れ馴れし過ぎるだろテメェ!?」

「美紀恵の友達ってことはボクの友達ってことでしょ!だから気にしなーい!気にしなーい!」

「こいつとはそんなんじゃねーつってんだろーが!!」

「そうですってばー!!」

 

にゃははー!と心の底から楽しんでいる様子のユウキに、2人の抗議が入るも、彼女はお構いなしに部活の紹介をしていく。

 

「ここが女装部で、あっちがリンボーダンス部にピザ部と、こっちが二次元嫁部にアイドル応援部に――」

「いや待て待て!おかしいのがってかおかしいのしかなくねーか!?」

「この学園生徒の自主性を重んじるから、人に迷惑のかかるようなこと以外なら割と許可が出るだってさ」

「だからって限度があるだろ…。アメリカ以上に自由なんじゃねーか?」

 

独特な校風に思わず呆れ顔になるアシュリー。そんなやり取りをしているとユウキはある部屋の前で足を止める。

 

「それでここが『ツインテール部』だよ!」

「ツインテール部???」

 

今まで以上に聞き慣れない名称に、思わず首を傾げるアシュリー。

聞き間違いかとも思うも、扉にはツインテール部と書かれた真新しいプレートが取り付けられており、己の聴覚が正常であることの証明となっていた。

 

「友達が作った部活で今日許可が出るんだってさー」

 

そう言いながらドアをノックするユウキ。すると中から何やら言い合う声と打撃音が漏れてくる。

何事かと3人が訝しんでいると、ドアが開かれ何やらやりきった顔をした愛香が姿を現す。

――その背後には、高等部の制服の上に白衣を纏った少女が床にうつ伏せで倒れ、側には『蛮族』と書かれた赤色の文字があった。

 

「あら、ユウキに美紀恵とシンクレアさんじゃない。どうしたの?」

「部室ができたって言うから遊びに来たよ~。っていうか今人を撲殺できる音がしてたんだけど…」

「ああ、あいつならあれくらいどうってことないから大丈夫よ」

「ちょっとおおお!?人の顔にエルボーかましておいて何て言い草ですか!?私の体は超合金でできてるんじゃないんですからね!!」

 

あっけからんと言い放つ愛香に、倒れていた少女ががばっ!と起き上がると猛抗議してきた。

 

「人を危険物扱いするからでしょう」

「自分の胸に手を当てて考えて下さい!あ、すみません私なんてことを…!いくらなんでも愛香さんにそんなことをさせたら可哀そうですよね!自分の惨めさを自覚させることなんて、ぷくくッ」

「気遣ってくれてありがとう。お礼に幸せな夢を見せてあげるわ」

「ぐえっ!?く、首は…2度と目を覚ませなくなりそうなんですが…」

 

チョークスリーパーで本気で締め落としにかかる愛香に、白衣の少女は必死に解こうと抵抗するがみるみる顔が青ざめていく。

 

「総二~。あの君の童貞を喰いたくてムラムラしている変態白衣の人はどなたさん?」

「失礼ッ!失礼過ぎですよユウキ!?!?!?」

「訴えられても文句言えね―レベルだぞ…」

 

さも当たり前のように暴言を吐いたユウキに、泡を喰う美紀恵と戦慄するアシュリー。

 

「初めまして!私は総二様の親戚で今は同じ!同じ屋根の下で暮らしている観束(・・)、観束トゥアールと申しますっ!!どうぞよろしくっ!!」

 

どうやったのか不明だが、拘束を逃れたトゥアールがハイテンションで詰め寄りながら、一部をやたら強調しつつ事前に決めていた『設定』で自己紹介をしてきた。

 

「「(え、そこは抗議しないの???)」」

 

これ以上ない名誉棄損をされたにも関わらず、憤慨するどころか寧ろ受け入れているトゥアールに美紀恵とアシュリーは唖然としてしまう。

 

「そうなんですか。総二と同じクラスメートの天道木綿季です」

「あ、あれ?そこは『観束だって!?』とか『こんな美少女と同じ屋根の下ぁ!?』とか驚愕する場面では?あなた冷静過ぎませんか???ってか天道?うっ頭が…!」

 

まるでトラウマを刺激されたように、苦悶の表情で頭を抱えだすトゥアール。

 

「だ、大丈夫かトゥアール?」

「う、うう…。あ、悪魔が、悪魔の集団が…。そ、総二様む、胸を…胸をさすってくだ――グげぇッ!?」

 

豊満な胸を突き出してくるトゥアールに、愛香のボディブローが突き刺さり膝から崩れ落ちる。

そこから追撃しようとする幼馴染を何かを感じ取った総二は止めに入る。

 

「――待て愛香、静かに…。ツインテールの気配だ。近づいて来る」

「はぁ!?突然何エレメリアンみたいなこと言ってんのよ!」

「お前にだけは言われたくねーよ!」

 

非常識な奴扱いされるも、常日頃から獣並みの索敵能力を発揮する彼女には、まあ言われたくないだろう。

そんなやり取りをしていると、コン、コン、と扉が控えめにノックされる。

 

「生徒会長の神堂慧理那ですわ。入ってもよろしくて?」

「――――ええぇ!?せ、生徒会長!?ど、どうぞ!」

 

その名を聞いた途端に緊張した趣きでシャキッと姿勢を正す総二。まるで、外国の要人を出迎える政治家のようであった。

 

「お邪魔しますわ」

 

扉が開いた瞬間。室内の空気が一変する。

しゃなり、しゃなり、と音が聞こえてくるような、たおやかな歩み。

そしてメイドを1人後ろに携えて入室するその姿は、生まれ持った高貴さを余すことなく目にした者に印象付けていた。

神堂慧理那――高等部の生徒を束ねる生徒会長であり、総二が敬愛の念を抱くツインテールの持ち主である。

 

「あ、ああ…」

 

洗礼され尽くしたその姿に圧倒された総二に、愛香は不満そうに唇を尖らせながら自身のツインテールを弄る。

そんな彼女の肩をユウキが励ますように叩く。

 

「…そちらの方は――」

 

室内を一瞥すると、トゥアールに目が留まる慧理那。日本人離れした容姿の彼女はやはり目立つのだろう。

 

「確か、今日編入手続きをされた女生徒が一名いると聞いていますが、その方ですか?」

「はい。俺の親戚で、海外から引っ越してきたんです。すいません、正式に登校する前に、一度校内を案内して欲しいってせがまれて…」

 

本当は無断で部室まで来ていたのだが、せっかくなのでと室内を彼女の技術力でツインテイルズとして活動できるよう改造してもらっていたのだが。当然言える筈もないので、その場の思い付きで誤魔化す総二。

 

「そうですの。今日は隅々まで見学して、来禅学園を好きになって下さいね。そちらのアシュリー・シンクレアさんも」

「え?何であたしのことを?」

 

初対面であるにも関わらず、自分のことを把握している慧理那に驚愕の目を向けるアシュリー。

 

「今日から一年に転入されたのですよね?私、在校生の方の顔を名前は全て把握できるよう心掛けておりますので」

 

当然のように語るが。マンモス校である来禅学園は、高等部だけでも千人は優に超えていたりする。まして、入学したばかりの一年生どころか手続きを終えたばかりのトゥアールまで把握しているとなると、それだけ己の責務への熱意を持っているのだろう。

 

「それに、ユウキさんもお久ぶりです。去年の天宮祭に遊びに来られた際にお会いして以来ですね。本校に来て下さり嬉しく思いますわ」

「お久しぶりです。兄に負けないよう高校ライフを楽しんでいきま~す!」

「はい。私も応援しますので、困ったことがあったら行って下さいね」

 

満面の笑みで陽気に話すユウキに、つられて笑顔になる慧理那。

 

「何、あんた会長と知り合いだったの?」

「うん、兄ちゃんに紹介してもらったんだ~」

 

以外といった顔で問いかけてくる愛香に、両手を頭の後ろに組みながら答えるユウキ。

 

「それで申請のあった部活新設の書類を見て、少し気になりまして。直接確かめさせて新設許可を出させていただこうと思い、こちらへ伺いました。部活内容は、ツインテールを研究し、見守ること、とありますが」

 

慧理那は手にしていた書類に目を落とすと、にこやかだった表情を引き締め生徒会長としての顔を見せる。

 

「間違いありません」

 

自身がツインテールであることもあるのか、かなり真剣に問いかけてくる慧理那に。総二は精一杯の真顔で、彼女のツインテールを見て返答する。

ツインテール相手ならば、その相手のツインテールを見て話すことこそ礼儀であるというのが、彼の信条なのである。

 

「観束君。あなたは…ツインテールが好きなのですか?」

「大好きです」

 

息をするように、総二は即答していた。テイルレッドとして戦う中で、いかに己がツインテールを愛しているかを認識した彼は、最早昔のように他者の目を気にして自分を隠すことをやめたのだ。

 

「何故、ツインテールが好きなのですか?それも部活動をするほどに」

「ツインテールを好きになるのに、理由が要りますか?」

 

その言葉を聞いた途端、慧理那は難しい顔をして黙り込んでしまう。

総二の目には、彼女のツインテールに僅かにだが動揺が走るのが見えた。これだけ見事なツインテールの持ち主なのだから、当然共感してもらえると思っていただけに思わず首を傾げてしまう。

 

「(もしかして、俺を試しているのか!?)」

 

芸術的なまでのツインテールの持ち主だからこそ、この髪を前にそんな大言壮語を吐くだけの覚悟があるのか、と問いかけているのかもしれないと彼女の様子から総二は感じ取った。

 

「(だったら、負けないぜ会長!!)」

 

己の中に息づくツインテールを、その愛を変身しなくとも具現化せんばかりに高めていく総二。

 

「こ、これは…!?何て小〇宙(コ〇モ)の高まりだッ!!」

「いや、ただのツインテール馬鹿よ」

 

何やら某少年漫画作品のようなオーラを放ち始めた友人に、お決まりのような反応を見せるユウキへ、愛香はひどく冷静にツッコミを入れる。

そうこうしている間に、ツインテールとツインテールの鍔迫り合いは、慧理那が深く頷くことで、終わりを迎えた。

 

「…そうですか…ええ、分かりましたわ」

 

何か含みのあるような態度を見せる彼女に、愛香が聞き返す。

 

「活動内容が問題ですか?」

「いえ、問題ありませんわ。ツインテールを愛する部活なら、ツインテイルズの応援にも繋がると思いますし」

 

実は慧理那はこの世界で初めてアルティメギルが侵略を開始した日に、エレメリアンに襲われたところを総二――テイルレッドに救われ。それ以来ツインテイルズのファンとなり自身を先頭に、学園を挙げてツインテイルズの応援をしているのだ。

そのこともあり、ツインテールを探求する部なら却下されないだろうと総二は見ていたのだ。

 

「…あら?」

 

不意に慧理那が総二の右腕をまじましと見つめてきた。

 

「観束君。いくら部室の中と言っても、派手なアクセサリーは校則で禁止ですわよ?」

「っ…!?」

 

思いがけない言葉に、咄嗟に右腕を庇うように胸に抱く総二。

 

「テイルレッドのデザインのものですわね。最近、よく見かけますわ」

 

続いた言葉に、愛香も驚きを隠せずすぐに自分の右腕を背に隠す。トゥアールも自身の技術に自信を持っていただけに、2人以上に驚愕の色を浮かべていた。

非常時に備え、整備などの時以外は常に身に着けているテイルブレスは、内蔵されている認識撹乱装置(イマジンチャフ)と呼ばれる昨日によって、一般人にはブレスそのものが見えないようにされているのだ。

故障でもしたのかと疑うも、ユウキやメイドには見えていないようで不思議そうな顔でやり取りを見ていた。

ちなみに、美紀恵とアシュリーは途中から展開に着いて行けず、どこか遠い目をしていた。

 

「お嬢様、そろそろお時間です」

 

連れてきていたメイドの言葉に、小さく頷く慧理那。

 

「ええ。それでは、ツインテール部のこれからの躍進に期待していますわ、皆さん」

 

当然ながら他にも処理しなければならない案件があるようで、慧理那は別の書類に軽く目を通すと歩き去っていく。

その後に続こうとしたメイドが、総二へ振り返って口を開いた。

 

「時間を取らせてすまなかったな。ところで君、さっきはいい目をしていたな。真剣さが伝わってきたぞ」

「そ、そうですか」

 

生真面目な教師のような口調で礼を言うと、今度こそ彼女は慧理那の後に続いて出て行く。

 

「なあ、ツインテールってなんだっけ?」

「髪型、ですよ多分…」

 

遠くを見たままのアシュリーの問いに、美紀恵は当然のことを返すも何故か自身が持てなかった。

 

「……」

 

そんな2人をよそに、ユウキは誰にも気づかれないよう鋭い視線で総二の右腕を見ているのであった。


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