ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第六十九話

ブルーアイランド基地内にあるブリーフィンググルームにて、俺含むCNFのメンバーとASTの隊長である燎子さんが集まっていた。

 

「集まってもらったのは他でもない、昨日市街地で起きた爆破テロについてだ」

 

理由は当然アシュリー・シンクレアとその仲間に関することであり。情報の共有と今後の対応について伝達するためである。

 

「被疑者はアシュリー・シンクレアとセシル・オブライエン。どちらも元はイギリスの対精霊部隊Special Sorcery Service――通称『SSS』に所属していたウィザードだ。彼女らは同じ部隊に所属していたが、軍を脱走後行方を眩ませていたそうだ。それと、未確認だが彼女らと共に脱走した同部隊員のレオノーラ・シアーズも行動を共にしている可能性がある」

 

データから見て俺を狙撃してきたスナイパーが、レオノーラ・シアーズの可能性が高いだろうな。

 

「イギリスってことはセシリアは何か知ってるのか?」

「直接面識はありませんが。彼女方は欧州方面軍のエースとして名を馳せていましたから、メディア等で活躍を耳にすることは多かったですわ。最近は取りざたさることがなかったので不思議に思っていましたが、まさか脱走何てされているとは…」

 

一夏からの問いに、答えるセシリアの声音には困惑が隠せておらず。対象がこのような行動を取るなど信じられないといったところか。

 

「天道。彼女らが軍を脱走した理由は」

「そこはあたしが答えるわ。って言っても欧州方面軍に問い合わせても『現在調査中につき、判明次第報告する』の一点張りなんだけどね」

 

挙手した風鳴に、燎子さんが辟易した様子で肩を竦めながら答える。

 

「脱走してからそれなりに時間が経っているんですよね?何かしら掴んでいることはあるのでは?」

「いかにも『これ以上嗅ぎ回るな』って感じだったわね。新型のCR-ユニットの配備や指令と少佐の本部への招集での強引さといい、どーにもきな臭いなってきたわね…」

 

顎に手を添えながら思案顔になる燎子さん。

ここ最近起きている不可解な出来事の連続。父さんが感じた様に、何かよからぬ思惑が働いているのだろうか?

 

「それで、あたし達はどう動けばいいんですか?転校してきたって奴をとっ捕まえるんですか?」

「いや、君達には待機していてもらう。この件には軍属である俺と折紙と崇宮少尉、岡峰伍長で対応する」

「え、何でですか!?」

 

やる気満々な様子で手を挙げる鈴に待機を命じると、不満な様子で抗議の声を上げる。

また、他に待機させられる者も大なり小なり不満と疑問を持った様子であった。

 

「最悪軍内部のいざこざに発展する可能性がある。この件に関してまだ背後関係がハッキリしていない現状、他国の代表候補や民間からの協力者である君達を守るためでもあるんだ。無論必要があれば協力してもらう。だからここは我慢してくれないかな?」

「そういうことなら分かりました…」

 

完全に納得はできないだろうが、渋々といった様子で引き下がってくれる鈴。

 

「とはいえ、相手の狙いが不明な以上。軍属以外の者も襲撃される可能性があることを念頭に入れ、単独行動は極力避けて何かあればすぐに報告するようにしてくれ。では、これで解散だ各自気をつけて帰るように」

 

伝達事項に各自で応えるのを確認すると、不測の事態に備え念を押しながら解散させるのだった。

 

 

 

 

「精霊に家族を殺された、か…」

 

折紙や美紀恵が暮らしている軍所有のマンション付近にある公園にて。アシュリーはベンチに腰かけながら1人呟いていた。

 

「チィ…つまんねー事聞いちまったぜ…。例の新型に関して何か聞けるかと発信機をつけておいたが…」

 

美紀恵に取りつけた盗聴機能のある発信機から聞こえた会話から、折紙の過去を知ったアシュリーは、神妙な面持ちで上半身を前に傾けながら俯く。彼女が転入したのは無論学生生活を楽しむためなどではなく、障害となる要因の1人である折紙を排除すべくウィークポイントとなる美紀恵に接近するためであったのだ。

 

「でもまあ、わかってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ありがとう私のために怒ってくれて。でも喧嘩は駄目だよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(わかってるさ…。こんなことをしてもお前(・・)は喜ばないことなんて。でも、もう一度あの笑顔を見れるなら…ッ!)」

 

顔を上げたアシュリーは強い決意を宿した表情で、ポケットから取り出した発信機に内蔵された小型爆弾の起爆スイッチを押す。

 

「……?」

 

だが、折紙らがいる部屋には何の変化も起きなかった。

誤作動かと何度もスイッチを押すも爆発が起きることはなかった。

 

「クソッどうなってんだよ!?」

「電波を妨害しているからだよ」

 

立ち上がりながら困惑と憤りを見せていると、茂みの奥から声が響いてくる。

警戒しながら声のした方へ顔を向けると、陰から勇が姿を現した。

 

 

 

 

「ッテメェは、何で…!?」

「君の挙動が怪しいと教えてくれた人がいてね。君達を誘い出すために折紙達には一芝居うってもらったよ」

「…!テメェの妹かッ!只者じゃねぇと思ってたが…。どうりでやたら絡んできやがった訳だッ」

「あの子としては君とも仲良くしたいと思ってたよ。こんなことになって残念だし、こういうことに首をつって込んでほしくはないんだけどね」

 

歯噛みするアシュリー・シンクレアに、語り掛ける俺の顔は複雑さを隠せていないのだろう。

ユウキがアシュリーと触れ合ったのは、彼女から不穏な気配を感じ取ったのはあるが。それでも、彼女に自分の住む世界を好きになってもらいたいという好意も確かにあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――悪い人じゃないと思うんだ。きっとこうするしかない理由がある筈なんだ。だからアシュリーのこと――止めてあげて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子がそう言うのだから間違いないだろう。それに、それなら彼女らの行動に感じた違和感にも納得ができる。

 

「クソがッ!」

 

アシュリー・シンクレアが悪態をつきながらも、ワイヤリングスーツを身に纏いレーザーブレードを手にし臨戦態勢に入る。

 

「――あぁ?何で構えねぇ?ふざけてんのか!」

 

生身のままでいる俺に憤慨しながら叫ぶアシュリー・シンクレアへ、俺は両手を上げて交戦の意思がないことを告げる。

 

「こちらに交戦の意思はない。そちらと話がしたい」

「ふざけんなってんだろォ!!」

 

怒りという感情を乗せるように突進してくるアシュリー・シンクレア。テリトリーで強化された身体能力からもたらされる加速は生身で捉えられるものではないが、恐らく狙いは心臓部への刺突だろう。

俺は無防備のままその場に佇み相手の行動を待つ。

 

「……!何のつもりだよテメェッ!!」

 

眼前で制止した彼女は怪訝そうな顔でこちらを見てくる。心臓部目がけて突き出された刃は触れる寸前で止められていた。

 

「君や仲間は精霊によって大切なものを奪われている。だから軍に入ったんだろう?その後の行動からも君達がこのような行動をする理由が見当たらない。相応の理由があるんじゃないのか?何か力になれるかもしれない、信じてくれなんておこがましいが話してみてくれないか?」

「舐めてんのかこの野郎ッ」

 

脅すようにして体を沿うようにして刃を首元まで動かすも、それ以上は躊躇っているように動かさない。

こちらの真意を探るように目を見つめてくると、やがてアシュリー・シンクレアはブレードを降ろしゆっくりと距離を取った。

 

「……」

「話してくれるのかい?」

「話してもどうにもならねぇよ、お前が軍人である以上な。もうあたしらは止まれないんだ。次はねぇかんな」

 

世の無情さを嘆くかのように、悲痛な顔でに拳を強く握りしめながら言うと、背を向けて歩き去っていくアシュリー・シンクレア。俺はそれ以上何も言えず、その背を見ているしかできなかった。

 

「勇」

「折紙か。待機していてくれて良かったのに」

 

茂みの陰から現れたのは、待機を命じていた折紙であった。どうやら陰ながら護衛してくれていたようだ。

…というか、何やら不満というか怒ってますって言いたそうな気配を漂わせていないか?

 

「どうかしたのかい?」

「…あなたの行動は心臓に悪い。もっと節度を持って行動すべき」

「それは本当にすまないと思ってる。でも、何も知らずに彼女達と戦うべきとは思えないんだ」

「それでも無謀過ぎる。アシュリー・シンクレアが躊躇わない可能性も十分あった」

「そこは妹を信じたとしか…。まあ、身内贔屓なんだけどさ」

 

まともな受け答えができず気まずさの余り、思わず頬を掻く。

やっておいてあれだが、酷く不確かな根拠だよな。彼女が物申したくなるも当然か。

 

「人を信じたいという気持ちは尊重する。とはいえあなたは部隊の長としての自覚が足りない。あなたがいなくなった場合のリスクも考える必要がある」

「ごもっともで…」

「それにあなたは――」

「(あ、これ長くなるやつだ)」

 

口調こそいつものように淡々とだが、有無を言わさぬ圧力を持った説教に。正論なだけに姿勢を正して聞き入れることしかできなかったのだった。


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