ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第七十話

DEM日本支社の地下空間にあるファントムタスク用の格納庫にて。ヴォルフはハンガーの前に立ち、格納されている愛機を見つめていた。

 

「ここにいたのねヴォルフ」

 

そんな彼の元に上司であるスコールが姿を見せると、ヴォルフは一度視線だけ向けるが、また愛機へと戻す。

 

「ようやく、あなたの望んだ『ヒーロー』が現れたのね」

「ああ。天道勇――奴こそ()が全てを賭けて狩るべき者だ」

 

静かに闘志を燃やしながら、愛機へ手を伸ばすヴォルフ。装甲に手を置くと、勇に受けた傷をなぞるように撫でる。既に修復されているが、彼には今もありありと傷跡の全てを思い浮かべることができた。

そんな部下を微笑ましく見ながら、スコールは手にしていた書類の束を差し出した。

 

「これが今回ブルーアイランド基地に配備される新型CR-ユニットと、『彼女』についての資料よ」

 

書類を手にし目を通していくヴォルフ。

 

「…これは間違いないのか?」

 

書類に目を通しながら、スコールへ問いかけるヴォルフ。その目も声音も先程とは打って変わって冷えきっていた。

 

「ええ。今現在この島で暗躍している元SSS3名が所属していた部隊、その隊長であるアルテミシア・ベル・アシュクロフトは原因不明の昏睡状態だそうよ。奇しくも新型CR-ユニット『アシュクロフト』シリーズの開発が始まったのと同時期から、ね」

 

スコールからの言葉に、ヴォルフは手にしていた書類を持つ手に自然と力を込めていた。

 

「その書類にウチの技術者の見解も載っているいるわ。あなたなら、もう予想はできているでしょうけどね」

「ああ」

 

全てに目を通したヴォルフは、書類をスコールへ返すと。ハウンドを粒子変換させ、待機形態であるドックタグにし首にかけると出口へと歩み出す。

 

「この件、DEM社から介入するなとのお達しが来てるわよ?ちなみに通達者はアイザックCEOではなく、社専務取締役であるエドガー・F・キャロル氏。暫く休暇でも楽しんでいろと嫌味ったらしくね」

「そうか、ならば休暇を楽しんで来るとしよう。スコール暫く俺は連絡も取れなくなるかもしれん。何かあればオータムに代理をさせろ」

「わかったわ。楽しんでらっしゃい」

 

振り返ることなく語るヴォルフに、スコールは仕方のない子、とでも言いたそうに返す。

 

「…ヴォルフ。あなたは己の為したいことをなさい。そのために必要な責任は全て私が負ってあげる」

 

背中越しからでも伝わる殺意を滲ませる部下を見送りながら、スコールは呟くのであった。

 

 

 

 

『ごめんなさいお父様…。期待にお応えできなくて…。でも私頑張りますから…そのっ』

『もういい。お前に期待をかけた私が愚かだった。岡峰家の恥さらしめ。お前は役立たずだ。最早私からお前に何か言うことはあるまい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様ッ!」

 

離れて行く背中に向けて手を伸ばすも。その手は空を切り、眼前に広がるのは天井のみであった。

 

「夢…」

 

先程まで見ていたのが現実でないことを理解した美紀恵は、力なく伸ばしていた手を降ろし目を覆うと、心を落ち着けるように深く息を吐いた。

 

「お父様…」

 

手を伸ばそうとしていた人物に思いを馳せる。

名のある家に生まれた彼女は跡継ぎとして周囲に――父に期待されていた。

だが、彼女はその期待に応えることができず。遂には見切りをつけられてしまうこととなる。

勘当同然の扱いをされ、失意の中彷徨っていた彼女の目の前に現れたのは。世界を壊す災厄と呼ばれる精霊であった。

出現と同時に大きく抉られた大地と、大きく傷つき崩れ落ちそうになる建物。発せられる殺意を受け、体中から力が抜け落ち恐怖で震えることしかできなかった。

当時一般人であった彼女にとって、目の前に広がる現実が受け入れられなかった。それでも理解できたのは、己に迫る『死』とそれを恐れる自分がいることだった。

死ぬことさえ願っていた筈なのに、本当は生きたいのか?そんな彼女の心境に答えを出す間も眼前の死は与えてくれなかった。

自分へ向けられる斬撃によって、岡峰美紀恵という存在はこの世から消え去るのだろう。そうなっても悲しんでくれる者はいないのだろう。父は悲しみどころか、邪魔者がいなくなったと喜ぶのだろうか?そんな考えが脳裏をよぎると、目から涙が流れ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――おい、大丈夫か!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の目の前に『ヒーロー』が現れた。

危険を顧みず自分を助け出し、超常的な力をもつ精霊に恐れくことなく立ち向かう姿に、架空の世界にだけいる筈の正義の味方の姿が重なったのだ。

あの後、その人物が通っている学校のOBであることを知り。彼について知ろうとすると、自然と彼についての話題が聞こえてくるのだ。

目の前に困っている人がいれば、赤の他人だろうが手を差し伸べ、弱きを助け悪しき者を許さない正義感を持ち。人の輪の中心に常におり、誰からも愛される――自分の理想とする姿であった。

彼のようになれば父に認めてもらえると信じ、その背中を追いかけることを決めたのだ。

 

「(何やってるんだろう私…)」

 

だが、彼の期待を裏切り失望させてしまった。その結果戦力外通告(いらない子宣言)を受け、結局自分を変えること等夢でしかないのかと落胆する日々を送っていた。

 

「起きた?」

 

考えに耽っていると、部屋の扉が開き折紙が姿を現す。

 

「あ、おはようございます!折紙さん!」

 

上半身を起こしペコリ、と頭を下げる美紀恵。以前アシュリー・シンクレアに襲撃されてから、彼女は身の安全を守るための措置として、折紙の家に居候しているのである。

 

「おはよう。私はこれから基地へ行ってくる。朝食ができているから良かったら食べて」

「あ。わ、私も…」

「あなたは謹慎中。同行は認められない」

 

同行しようとするも、にべもなく断られしゅん、と落ち込む美紀恵。

 

「…一つ言っておく」

「?」

「勇はあなたに失望なんてしていない。彼が一度の失敗程度で見限るような人なら、部隊の誰もが信頼を寄せることなんてなかったと思う。だから、あなたが諦めない限りあの人はあなたの味方でいてくれる」

 

そう言い残すと部屋から出て行く折紙。

 

「折紙さん…。ありがとうございます」

 

出会ってから付き合いが長い訳ではないが。人と距離を取ろうとする彼女が自分から多くのことを語ったこと、まして自分を励まそうとしてくれたことに驚きもあったが、それ以上に嬉しさが込み上げるのであった。

 

 

 

 

「(…とはいえ。どうしたらいいんでしょうか?)」

 

朝食を終えた美紀恵は、今度のことについて考えるべく、近くにある公園を訪れていた。休日で学校もなく、家にいてもいい案は浮かばないと思い外の空気を吸うことにしたのだ。

 

「…何も思い浮かばないです」

 

いくら頭を捻ろうともそうそう名案が浮かぶものでもなく、やはり自分には何もできないのではないかという不安に苛まれてしまう。

 

「うわあああああああっ!」

 

そんな彼女の耳に何やら悲鳴が響いてきた。

何事かと視線を向けると、自転車に乗った少女が猛スピードで自分目掛け迫って来ているではないか。

 

「あぶあぶあぶッ」

「にゃああああ!?!?!?」

 

危うく轢かれそうになるのをギリギリで回避すると、自転車は段差にぶつかり、乗っていた少女が放り出され茂みへと突っ込んでいった。

 

「あたた…」

「だ、大丈夫ですか?」

 

美紀恵は慌てて少女の元へ駆け寄る。茂みに落ちたこともあり、少女に目だった外傷は見られないが――

 

「あ…あなたは…」

 

少女の顔をみて固まる美紀恵。

そう目の前にいる少女は、かつて自分に襲い掛かってきた精霊プリンセスこと、夜刀神十香であったのだから。

 

「ん…?」

 

当の十香は美紀恵のことを覚えていないのか、固まってしまった彼女を見て、キョトンとした顔で可愛らしく首を傾けるのであった。

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