ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第七十一話

「イタタタタ…」

「だ、大丈夫ですか?」

 

盛大に茂みに突撃した十香を引っ張り出してあげる美紀恵。

 

「おお、すまんな。助かったぞ」

「いえ、お怪我とかしてませんか夜刀神さん?」

「いや、大事ない。驚かせてすまないな。…む?はて、お前と会ったことがあったか?」

 

やはり美紀恵のことを覚えていないようで、不思議そうに首を傾げる十香。

 

「あ、その。知り合いからあなたのことを聞いていたので…」

「ん?そういえば天道と一緒にいるのを見かけたな。そうかあ奴の知り合いか!」

 

余程勇を信頼している様で、疑うことなく納得した十香。

対して成り行きで出会ったものの、命を奪われそうになった相手だけに、美紀恵はどう接すべきか迷っていた。

 

「(天道隊長の話では、今は人類に友好的になっているとのことでしたが。本当、みたいですね…)」

 

以前出会った時とはまるで別人のように明るく振舞う十香の姿は、美紀恵の恐怖心を和らげていく。

 

「あの、それでここで何を?」

「うむ!!自転車なる乗り物の練習をしているのだ!!何やら便利なものだと聞いたのでなッ。補助輪も取れて走れるようになったからな、乗りこなすのも時間の問題といったところだ!!」

「私にはとてもそうは見えないのですが…。もう一度補助輪をつけた方がよいと思いますよ?」

 

自信満々に先程の衝撃でひしゃげた自転車を見せてくる十香に、極めて真っ当な助言をする美紀恵。

 

「むー、そうかまだ早かったか。では、帰ったらシドーにまた着けてもらおう。助言に感謝するぞ。それで、お前はこんなことろで何をしていたのだ?」

「私…私ですか…?そう、ですね…何をしているのでしょうね私…」

「ど…どうしたのだ?何か元気がないな、さっきどこかぶつけてしまったか!?」

「あ…いえ、違うんです…」

「ならどうしたのだ?何か考え事か?」

 

心の底から心配している様子で問いかける十香。出会って間もない相手に話してもどうにもならないことだが、彼女の他人事ではないと言いたそうな表情を見ていると、自然と口が動いていた。

 

「…その私ずっと役立たずって言われてきたんです。そんな自分を変えたくて…やっと憧れの仕事についたんですが。失敗続きで…もしかして私は…誰からも必要とされない人間なのかなって…」

 

そこまで話すと、自分の不甲斐なさや先の見えないこれからの不安で、涙が零れそうになってしまう。

 

「すみません。…おかしいですよね知り合って間もないのにこんなお話…でも…誰かに聞いて欲しくて…でないと私…」

「いや、わかるぞ。私もそんな風なことを考えていた時があった」

「え…?」

「かつて私はその存在を否定され続けてきた。私は必死に抗った…悲しみを怒りに変え…何度も…何度も…」

 

そこで一旦言葉を区切る十香。その表情は初めて出会った時と同じ、とても切なく今にも消え入りそうで、

美紀恵はまるで鏡を見るように今の自分と重ねてしまった。

 

「でも、いつしか私は気づいてしまった。むしろ私は消えるべき存在なのだと。だが、ある日1人の人間がそれを否定した。そいつは言った。もしも世界の全てが私を否定したとしても、自分だけは私を肯定し続けると」

「……!!」

「その言葉があったから私はきっとこの世界で生きていられるのだ…。あいつは恩人だ。私を…私にしてくれた…大事な人間だ。だから私はあいつの側にいたい。今度は私があいつの支えになりたいのだ…」

 

先程までとは一転して、花の咲いたような笑顔を見せる十香。その人物との出会いが本当に大切で希望なのだと感じることができた。

 

「お前はどうだ?私にとってのあいつのような存在がお前にはいないのか?」

「(私が側にいたい人、支えになりたい人…)」

 

十香の言葉に引き寄せられるように思い浮かぶのは、絶望に押しつぶされそうになり全てを投げ捨てようとしたあの日。死を目前にして本心に気がつき、後悔しながら死んでいく筈だった自分を助け出してくれた人の背中だった。

力強さと安心感を与えてくれるのと同時に、今にも燃え尽きてしまいそうな危うさを感じさせるあの背中を、側で支えてあげたかった。

 

「います!!いますよ!!私にも大切な…そんな人が!!」

「おおそうか!!それは良かった!!ええと…お前名は?」

「岡峰美紀恵です!!」

「そうか!!私は夜刀神十香だよろしくな!!」

 

『友』となったことへの喜びから、手を取り合いその場で円を描くように回る両者。

 

「ありがとうございます十香さん!!おかげで元気出ました!!あなたは天使のような方です!」

 

頑張れよー!!と手を大きく振りながら見送る十香と別れると、美紀恵は全速力で駆け出すのであった。

 

 

 

 

「彼女が昨日捕らえたSSSの1人ですか?」

「ええ、狙撃してきたところを返り討ちにしてやったわ」

 

ブルーアイランド基地の一角にて、俺の言葉に燎子さんが胸を張ってふふん、と鼻を鳴らす。

部屋の中心置いてあるパイプ椅子には、俺と同年代と見られる長身の女性が座っており、両手には床に固定された鎖に繋がれた手錠がかけられている。

昨日俺がアシュリー・シンクレアと対話していたのと同時刻、休暇中であった燎子さんを彼女が襲撃してきたが、逆に撃破され拘束されたのだそうだ。

 

「それで、何か情報は得られたんですか?」

「ん~昨日からずっとだんまりなのよね。まあ、対精霊部隊にいたんだから当然だけど」

「そこら辺の訓練は受けていますからね」

 

元は軍属だったのだから、捕虜になった際の訓練は受けているだろうし、まして特殊部隊の出だからなおのことだろうな。

 

「さて、レオノーラ・シアーズさん。いい加減だんまりなのも飽きてきたし、そろそろおしゃべりに付き合ってくれないと痛いこととかしなくちゃいけないんだけど?」

 

歩み寄りながら左手の握りこぶしを、右手で握り関節を鳴らしながら笑顔で脅しをかける燎子さん。

 

「効きやがりますかね。肝の座ったツラしてやがりますし」

「まあ、この手のことでは常套手段だしね。やるだけやって損はないし」

 

同室している崇宮が訝し気に話しかけてくる。ちなみに、俺達の他に折紙を含めた4人で尋問している。

テロリストとはいえ、拷問していい訳でもないので、当然ながらハッタリだが。相手もそんなこと百も承知ではあろうけど。それに、凄い剣幕でずっとこっち睨んでるしこんなことで折れるタマではないだろうけどね。

 

「…い」

「い?」

「い…いや…痛いのはいや…。助けてアシュリー…セシル…」

「「弱っ!!」」

 

予想を裏切り、強気な態度が一転し涙目になってガタガタと震えだすレオノーラ・シアーズに、燎子さんと崇宮の驚愕の声がハモる。

 

「もういじめないで…お家に帰りたい…っ」

「あー泣かないの泣かないの。喋ること喋ったら帰してあげるから」

「(こけおどし、か?)」

 

燎子さんの問いに、素直な様子で答えていくレオノーラ・シアーズ。先程までの強気な態度は演技だったのか?

そう考えていると、折紙が変わらず落ち着いた様子で話しかけてきた。

 

「…あなたはどう思う?」

「演技って感じじゃないかな?多分今の方が素なんだと思うよ。ただ、言っていることは本当かは別だけど」

 

失礼な言い方になるが、怯え切っている様子の彼女の方が、自然な様子で違和感が感じられなかった。とはいえ、こうも簡単に口を割るのには疑問が残るが。

折紙も同じ考えなのか異論を挟むことなく頷いて同意を示してくれる。

 

「ふむ…。メンバーはあんたを含めて、セシル・オブライエンとアシュリー・シンクレアの3人ね。で、肝心の…あんた達の目的は何?」

「…明日ここに搬入される新型リアライザ『アシュクロフト』…。空輸されてくるアシュクロフトを空中で輸送機ごと強奪…。上手くいくよう。当日護衛に着く人物を1人でも多く減らした方がいいって…。うう…行っちゃった…ごめんなさい…ひぐ…っ」

「なる程…当日の段取りまで承知とは…。機密情報が駄々洩れね」

 

呆れ果てた顔で、得られた情報を書き纏めていたメモ帳を閉じる燎子さん。彼女らの規模から考えて独力で得られたとは考えにくい、となると関係者に情報を流している者がいると見るべきか…。

 

「その情報はどうやって手に入れた?協力者がいるのではないか?」

「……」

 

俺からの問いに、レオノーラ・シアーズは黙って俯いてしまう。ここにきて黙秘とは、やはり内側に繋がりがあるらしい。

 

「…質問を変えよう。ここまでの危険を冒してアシュクロフトを手に入れて、君達はそれで何をする気なんだい?」

「……」

「これまでの言動から、君達が短絡的な理由でテロリストになったとは、俺にはとても思えないんだ。できれば、君達とは戦いたくない、だから教えてくれ君達は何のために戦っているんだ!」

「――ッ!」

「ちょっ隊長さん、熱くなり過ぎでやがりますよ!?」

 

沈黙を貫こうとする彼女に、思わず声を張り上げ詰め寄ろうとする俺を、崇宮が割って入って止めてくれる。

 

「――すいません。頭を冷やしてきます」

 

このままいても邪魔にしかならないので、一旦退出し1人になれる場所を探しに行く。

近くにある休憩スペースが無人だったので、椅子に腰かけ息を深く吐き気持ちを落ち着けていく。

 

「…大丈夫でいやがりますか隊長さん?」

 

着いてきてくれていた崇宮が心配そうな顔で話しかけてくる。

 

「ああ、大丈夫だ。心配させてすまない。でも、尋問の方はいいのか?」

「あ~まあ、ああいうのは得意じゃないんで、後はお2人に任せた方がいいかな~って」

「ああ…」

 

あはは、と視線を逸らしながら頬を掻く崇宮。まあ、これまでの言動から否定はできそうもないな。

 

「それで、何であんなこと聞いたんで?敵に戦う理由なんて、聞いてもどうしようもないでやがりましょうに。敵は倒す、それで十分だと思いますがね」

「そうだね、君の言う通りだ。でも、何でかわからないけど、彼女達をただ倒せばいいって気がしないんだ」

 

彼女達からは誰かを思いやる暖かさを感じることがある。だから、彼女達を敵として見ることができないのかもしれない。

 

「ふ~ん。念動力者は人の考えが読めるとか、そこら辺ウィザードと違うって聞きやがりますけど。どっちにしろ迷いを抱えたまま戦場に出たら、死にやがりますよ?」

「死なないよ。必ず生きて帰るって約束してるからね」

 

妹と交わした大切な約束だ。心配ばかりかけて、兄らしいことなんて碌にできていないからね。だから、これだけは絶対に破る訳にはいかない。

 

「…ま、真那いればまず負けることはないんで、大船に乗ったつもりでいてくれていいですよ」

 

ふふん、と得意げな顔で胸を張る崇宮。実際彼女の技量はかなりのもので、何度か手合わせしたが、俺は一度も勝てたことがない。

 

「ありがとう。頼りにさせてもらうよ」

 

何が正しいのか、どうすべきかわからないけど、今は仲間を信じできることに全力を尽くそう。

 

 

 

 

「(何も考えずダッシュでここまで来てしまいましたが…。具大的に何をすれば良いのでしょう…)」

 

市街地の歩道でポツリと立ちながら、そんなことを考える美紀恵。

十香と別れた後、勢いよく行動したはいいものの、具体案などなどなく途方に暮れてしまうのだった。

 

「(そうです!!アシュリー・シンクレア!!今日中に彼女を見つけ出せれば…!!)」

 

ピコーン!と!と名案が浮かんだように、左手の平を右握りこぶしで軽く叩く美紀恵。とはいえ、すぐに大きな問題点に突き当たるのだが。

 

「(しかし見つけたとして、その後どうしましょう。彼女を拘束?いや、戦って勝てる訳ないですし…。そもそもそんな簡単に見つかる訳…)「あーもう男がピーピー泣いてんじゃねー!!」」

 

うーんうーん、と悩んでいると聞き覚えのある声が響き渡って来た。

 

「ほえ?――あ!?」

 

その方向を向くと、何とアシュリーが幼い男の子の手を引いて反対側の歩道を歩いているではないか。

 

「(み…見つかりました!!アシュリー・シンクレア!!…でも、何をしているんでしょうか?)」

 

彼女の行動に疑問を持った美紀恵は近くにあった電柱のに隠れながら様子を伺うことにした。…傍から見ると不審者にしか見えず、通りすがる人から奇異の身で見られているが、今の彼女に気にする余裕はなかった。

 

「おかーさーん!!」

「あーもー!あたしが探してやるから泣くなっての!!」

「(あれは、迷子の子の親御さんを探しているのでしょうか?)」

 

会話からの憶測を立てる美紀恵。テロリストらしからぬ姿に、報告することさえ忘れて見守ってしまう。

口調こそ粗いも、アシュリーは男の子を励ましながら辺りを共に捜し、暫くして無事母親を見つけることができた。

 

「ありがとーおねーちゃーん!!」

「おー、もうママに迷惑かけんなよー!」

 

母親に手を引かれながら手を振ってくる男の子に、軽く手を振り返しながら見送ると。さーて、と満足そうな顔をしながら移動し始めるアシュリーを、隠れながら追跡していく美紀恵。

その後もアシュリーは怪しい行動をするでもなく、コンビニで肉まんを買って食べ歩いたり、野良猫と威嚇し合いながら戯れたりと、年齢相応の変哲もないことをしているのだった。

 

「(さっき迷子の子を助けてあげたり。…やっぱり悪い人じゃないんでしょうか?)」

 

学校でユウキと一緒に笑い合った姿と先程見た光景から、彼女が悪人なのかという疑問が湧いてくる美紀恵。

そんなことを考えていると、アシュリーは年代の入ったアパートの一室に入っていった。

 

「あそこがアジト、でしょうか?――あっ!隊長に報告しないと!!」

 

そこでようやく大事なことを思い出した美紀恵は、慌てて携帯を取り出し勇に電話をかけようとする。

 

「――それは困るな」

「ひゃ!?」

 

背後から男性の声とカチャリ、という音がすると同時に、背中に硬い物体が押し当てられる感触に。体を震わせ固まってしまう美紀恵。

 

「(これって、じゅじゅじゅ銃!?!?!?)」

「こうも無防備とは、本当に我が宿敵の部下か?」

 

目に見えてパニッくっている美紀恵を見て、男が困惑すらうかがえる声を発する。

 

「さて、彼女らの邪魔をされると困るのでな。大人しく着いてきてもらいたいのだが?抵抗はするな、この件で無闇に血を流したくない」

 

警告するような声と共に、背中に押し当てている拳銃を軽く押す男。

声から年齢は自分と同年代のようだが。圧倒的な威圧感に、本能が抵抗は無意味だと叫んでおり。美紀恵は顔を真っ青に染め、ただ従うことしかできないのであった。

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