ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第七十二話

男に従い連れてこられた廃工場で柱に縛られた美紀恵。男は廃材に腰かけながら拳銃を向けている。

 

「……」

 

連れてこられる途中からも一言も話さず沈黙を保つ男。その目は僅かな動作も逃すまいと見据えており、隙を見て逃げ出すという発想さえ愚かに思えてしまう。

 

「…あの」

「……」

「あなたは漆黒の狩人、さん?ですよね?」

「違う」

「え?」

「俺はそんな洒落た名前の奴は知らん。いつからかそんな呼ばれ方をされるようになったが、迷惑極まりない」

 

男――ヴォルフは不快感を滲ませながら、困ったように僅かだが眉を顰める。想像とは違った姿に戸惑いながらも、美紀恵は会話を続ける。

 

「えっと、ではヴォルフ・ストラージさん、でしょうか?」

「さんなどいらん。お前を誘拐した相手だぞ?敵に馴れ馴れしくするな」

「はぅッ」

 

正論にそうでした!とワタワタしている美紀恵を、ヴォルフはどこか呆れ気味に見ている。

 

「で、では。ヴ、ヴォルフ・ストラージ。わ、私を誘拐してどうするつもり何ですか?身代金はその、お父様は絶対に払って、くれません…よ」

 

父からの拒絶の言葉を思い出し、言葉の最後の方は尻すぼみになってしまう。そんな彼女を観察するように見ていたヴォルフが口を開く。

 

「…そんなことはせん。ただSSSの者達の邪魔をしてもらいたくないだけだ」

「!あなたも彼女達の仲間なんですね!一体何が目的なんですか!?」

「勘違いするな。俺は仲間ではない」

「…へ?」

 

あっけからんに否定するヴォルフに、思わず間の抜けた声を漏らしてしまう美紀恵。

 

「ち、違うんですか?」

「ああ、違う。寧ろ彼女らにとって俺は敵だ」

「あの――じゃ、じゃあどうしてこんなことを?」

「……」

 

話す気はないといった様子で沈黙してしまったヴォルフ。

先程とは違いどこか切なげな彼の瞳に、軽がるしく踏み込んではいけない気がしたのだった。

 

 

 

 

新型リアライザ搬送当日。俺含むCNF正規員らは、ASTと共にブルーアイランド基地の滑走路にいた。

捕虜から得られた情報の信憑性の問題もあり、万が一に備えそれぞれの部隊を二つに分け燎子さん始め主力と真那で輸送機を護衛し。残された者達は基地で待機することとなったのだ。

 

『司令部へ、こちらCNF天道異常なし』

『了解。引き続き警戒を厳と成せ』

『了解した』

 

俺含む待機組は輸送機が着陸する予定の滑走路の周囲に展開しており。定時報告を終えると現在時刻を確認する。予定通りなら、もうじきアシュクロフトを載せた輸送機が戻ってくる頃だな。

レオノーラ・シアーズの話では、空輸で受け渡しする際を襲う計画だそうだが…。

 

『今のところ輸送機は襲われていない、か』

『仲間を捕らえられ計画を変更した可能性がある。あるいは…』

『漏らした情報がダミーであるか、か』

 

簡単に口を割ったこともあり、彼女はこちらを撹乱するために意図的に捕らえられた可能性もあった。とはいえ相手の手札が見えない以上、彼女の話を無視する訳にいかないのも事実。踊らされているにしても、状況に合わせ臨機応変に対応するしかないのが辛いところだな。

 

『ん?』

 

そんなことを考えていると、正門のある方角から何か聞こえてくる。――これは銃声!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『司令部より全部隊へ!正門より所属不明の武装勢力が侵入!!付近の部隊は直ちに迎撃せよ!!』

『!司令部へ、こちらCNF天道!!状況を知らせッ!!』

 

問い合わせるのと同時に送られてきた映像には、正門を突き破り基地内に侵入している多数の大型トレーラーのコンテナから姿を現しているEOSや生身の人間の集団が周囲の施設に攻撃を加えていた。

 

『何だこいつらは!SSSじゃないのか!?』

『このマークは中東発祥のテロ集団が使用している物。示現エネルギーの廃止を標榜していた筈』

 

確かに侵入してきた集団のマークには見覚えがある。示現エネルギーの普及によってそれまで主流だった石油資源は価値を大幅になくし、中東を始めとする産出国らは経済に大きな打撃を受けることになった。そのため中東出身者によるテロが頻発するようになったが…。

 

『どうやってこの島に入り込みやがった…!』

 

世界の生命線であるこのブルーアイランドは、人・物問わず出入りには厳格な審査が行われている。だからあれだけの規模のテロ集団が入り込むことなど不可能な筈なのに…!いや、そんなこと考えるのは後だ!今はどう動くか考えないと!!

 

『!爆発…!』

『今度は何だッ!』

 

滑走路周囲にある建造物が次々に爆発し始めやがった!!

 

『司令部より天道少尉へ!聞こえますか!!』

『こちら天道!こちらの周囲で複数の爆発が起きている!何か分かるか!?』

『レーダーと防空機能が低下!それと、元SSS隊員レオノーラ・シアーズが脱走したとのこと!その爆発と関係がある可能性があるため、貴隊で追跡されたし!』

『了解した!CNFはこれより――ッ!?』

 

通信の最中、近くにいたSAT隊員の1人が肩に風穴が空き、そこから血を流しながら倒れ込んだ。

 

『なッ!?』

『狙撃だ!総員警戒を――ガッ!?』

 

俺と折紙はすぐに回避行動に入ったが、遅れた者達が次々と撃たれてしまう。

バイタルを即座に確認すると、乱れこそあるも皆反応は残されていた。

 

『急所は外している?負傷者を敢えて増やしてくるか!!』

 

仮に死亡してしまった場合は、そのまま割り切って行動するしかないが、負傷しただけの場合は救助のためフォローすべく残った者は行動を制限して動く必要があるのだ。

 

『勇!』

『ああ。レオノーラ・シアーズだ!彼女は陽動で、本命は――ッ!!』

 

言葉を遮るようにアラートが鳴り響き回避行動を取ると、先程までいた空間をレーザーが横切った。

 

『セシル・オブライエンに、アシュリー・シンクレアか!』

 

飛来した方向を見ると、欧州方面で採用されているCR-ユニットを装備した両者が、飛行しながらこちらに迫って来ていた。

 

『やはりレオノーラ・シアーズはワザと捕らえられた訳か!』

『そういうこった!アシュクロフトは貰うぜッ!!』

 

アシュリー・シンクレアが手にしていたレーザーライフルを手放すと、レーザーブレードを手にし折紙に吶喊する。

折紙はアサルトライフルで迎撃すると、バレルロールで回避しながら最低限のみテリトリー弾かれ接近されてしまい、振るわれたブレードをレーザーブレードで受け止めた。

 

『この前の借りを返すぜ鳶一折紙ィィィ!!』

『ッ!』

 

そのまま押し合いになる両者。援護しようとすると、接近してきたセシル・オブライエンが蹴りを放ってきたため跳び退く。

 

『あなたの相手は私よ。他人に見惚れる余裕なんて与えないわ!』

『それは光栄で!』

 

マシンガンで牽制しつつ左手にビームサーベルを持ち突撃し、横薙ぎに振るうと前転しながら上昇し回避され、その勢いを載せた踵落としが襲ってきたため左腕で受け流しマシンガンで追撃する。

すると後退しながら手榴弾状の物体を投げつけられ、手前で白煙を噴き出された。白煙は瞬く間に周囲を包み相手の姿を隠してしまう。

 

『煙幕かッ!』

 

マシンガンを手放し、気配を探りながら相手の出方を伺う。接近戦に絞ってくるというのなら望むところだ。こちらとしてもその方が得意なので都合がいい!

 

『ハァッ!』

『おっと!』

 

背後からの蹴りを身を屈めて避け、反撃しようとするとすでに距離を取られ見失ってしまう。

続いて右側、前方からと、相手は一撃放ったらすぐに後退することを繰り返してくる。

 

『(一撃離脱…。こちらも時間稼ぎ、か。この流れは不味いか?)』

 

ここまでの動きで、敵の意図はある程度読めた。が、それに対応するには手札が少ないのが痛いか…!

 

『折紙!分断されたままは不味い、合流するぞ!』

 

流れを変えるべく両腕を交差させ敢えて蹴りを受け、その勢いも利用し煙幕から抜け出す。

――その先で見えたのは、狙撃で撃たれたのであろう腕から血を流す折紙だった。

 

『折紙ッ!!』

『もらったァ!!!』

 

好機と言わんばかりにアシュリー・シンクレアがブレードを振り下ろし、テリトリーで受け止めるも、そのまま吹き飛ばされ地面に叩きつけられる折紙。

 

『アシュリー、レオ!このまま畳みかけるわよッ!!』

『おうよ!』

 

前方からアシュリー・シンクレアが、後方からはセシル・オブライエンが同時に仕掛けてくる。更にレオノーラ・シアーズからと見られる視線もまで纏わりついてくる!

ASTは――全滅かッ!3対1に持ち込まれた!?

 

『チィッ!』

 

前後からの攻撃を捌きながら反撃に出ようとすると、狙撃され回避せざるを得なくなる。押し切られる前に流れを引き戻さねば!

 

『リッパ―!!』

 

背部のパイロンに格納されていた三つ刃のカッターを4つ射出し、念で遠隔操作して2つをセシル・オブライエンに、1をつをアシュリー・シンクレアへ向け牽制する。

 

『クソッ思考制御兵装かよッ!』

 

機械制御では不可能な不規則な軌道に翻弄されているアシュリー・シンクレアへと突撃する。負荷なく一度に操作できるのは2つまでであり、激しい頭痛に襲われるも歯を食いしばり耐える。

こちらを阻もうと狙撃されるが残る一つのリッパ―で弾丸を受け止め破壊されるも、接近に成功し左腕のプラズマ・ステークを起動させる。

 

『ジェット・マグナムッ!!』

 

左腕を腹部に叩きつけると、手ごたえはあるも違和感を感じる。

 

『へへ…。捕まえたぜッ』

 

両腕で左腕を押さえつけたアシュリー・シンクレアは、口の端から僅かに血を流しながら獰猛な笑みを浮かべてくる!くっ肉を切られたか!?

咄嗟に身を捩じると脇腹を狙撃の弾丸が抉り取り、リッパ―を処理したセシル・オブライエンが背後から迫って来ていた。左腕を振りほどこうとするも、負荷を無視してテリトリーの強度を上げているようで、拘束が解けん!!

 

『悪いけど、もう加減はしないわ!』

『死んだら怨んでくれよ!』

 

セシル・オブライエンの蹴りが後頭部に、アシュリー・シンクレアの手刀が腹部に突き刺さる。

 

『――ッ、ぁ』

 

口から血を吐き出し、目の前が歪んでいく。踏ん張ろ言うとする体から力が抜けていき、そのまま意識が遠のくのであった…。

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