ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第七十九話

「もっとだレオ!攻撃をもっと集中させやがれ!!」

 

アシュクロフトと装備した折紙目がけ、火力を集中させ拘束するレオノーラ。そこにアシュリーが最大速でのランスチャージを叩きこむ。

だが、それらの攻撃は、周囲に展開しているテリトリーに全て弾かれる。

 

「全然攻撃が通じねえ!!どうなってやがるんだ!!」

「アシュクロフトの処理能力を使い、防性テリトリーの強度を極限まで高め、ありとあらゆる攻撃を遮断する。それがあの機体――アシュクロフトⅠアリスの能力…!」

 

ゆったりとした足取りで距離を縮めていく折紙に、セシルはジャミングを試みているが、一向に効果は見られていなかった。

 

「ジャバウォックのジャミングも届いていない…。こうなってしまってはアリスの強奪は難しいでしょう…。くやしいけど、ここは一度退いて態勢を…」

「ああ!?逃げるのはもうごめんだっての!!」

 

アシュリーはセシルの言葉を拒絶し突撃すると、防がれながらも折紙へとランスチャージを叩きこむ。

 

「仕方のない子ね…。引き上げの準備をしておくわよレオ」

「う、うん…」

 

セシルとレオノーラがやり取りしている間にも、アシュリーは攻撃を続けるも結果は変わらずにいた。

 

「ぐ、何て硬さだっ…。剣先が一ミリも通らねぇ!!」

「……。防性テリトリーの組成に特化した機体。それなら…」

 

機体の機能を把握し終えた折紙は、自身を中心にSSS組を覆うようにドーム状のテリトリーを新たに展開していった。

 

「ななななっ何だとこれ!?」

「防性テリトリーの結界。逃がすつもりは毛頭ないみたいね…」

「どどどどどうしよう…!」

「…これ、少し預かってくれないかしら?」

「あ?――ってこれジャバウォックのデバイスじゃねーか!!」

 

ワイヤリングスーツのみとなったセシルは、アシュリーに待機状態のジャバウォックを投げ渡す。

 

「私が血路を開くわ。あなた達はいつでも逃げられるよう準備しておきなさい」

「ハァ!?てめーまさか囮になるつもりか!?」

「そんな!駄目だよセシルッ!!」

 

退路を断たれたことに動揺が走るSSS組だが、折紙の味方である燎子らもまた同様であった。

 

「折紙ッ。これじゃ私達も中に入れないでしょ!!」

「そうでやがりますよ!!とっとと全員で決着を…」

「必要ない」

「なんですって!?」

「私1人でやる…。アリスの力を試す絶好の機会。あの3人を倒せないようなら、とても精霊には対抗できない」

「試す!?何言ってんのアンタ!!ゲームじゃないのよ!!ちょっと、聞いてんの!?」

 

仲間の言葉に耳を貸さず、単独で戦おうとする折紙。そんな彼女に勇は歯ぎしりしながら両拳を握り締める。

 

「隊長――ッ!?!?!?」

 

勇の異変に気付いた美紀恵が声をかけると、思わず息を詰まらせた。今の彼の表情は激しい憤怒の色に染まっており、余りの迫力に味方である彼女ですら怯えてしまう程であった。

 

『折紙ぃぃぃぃイイイイイッ!!!』

 

折紙の張ったテリトリーへと駆け出すと、勇は迷うことなく殴りつけた。その衝撃によって手の装甲に亀裂が入るも、衝撃はテリトリー全体を揺らし、負荷によって激しい頭痛が折紙を襲った。

 

「ッ勇…?」

『1人でやるだぁ!?ふざけるなァァ!!』

 

叫びながら何度も何度も両拳で殴りつけていき、徐々に手の装甲が砕けていく。

 

「駄目、止めてッ」

『俺達は仲間じゃねのかよ!少しばかり強くなったから、もういらねぇってのか!?そんな強さ俺はぜってぇ認めねェ!!認めねぇぞッ!!!』

 

折紙は慌てて制止するも、勇は止まることはなかった。遂には肉体まで傷つき血が飛び散っていく。

そんな彼の姿に、折紙はテリトリーを解除すると、勇は彼女に駆け寄り両肩を掴む。

 

『強さってのはよぉ、独りよがりなもんじゃねえだろ。手と手を取り合って力を合わせていくのが、人間の強さなんじゃねえのかよ…!』

「勇…」

 

涙ぐみながら訴えかける勇の姿に、冷静さを取り戻していく折紙。

それと同時に、彼と出会ってから積み重ねてきたものを全て捨ててしまおうとしていた自分に、恐怖さえ感じていた。

 

「ごめんなさい。私…」

『気にするな。それに反省は後でできる。今は任務に集中しよう』

「わかった」

 

折紙の頭を軽く撫でると、戦闘に復帰する勇とそれに続く折紙。

それを見たセシルは素早く判断を下す。

 

「今がチャンスよ!また結界を張られる前に離脱を!」

 

囲いが解かれたことで好機と見たセシルらが逃走を始める。

 

「おっと!そうはさせやがらねえですよ!」

 

その間隙を突き肉迫した真那が、レーザーブレードの柄頭をセシルの腹部に叩きこんだ。

 

「がはッ!?」

「一番厄介なあんただけは、逃がすわきゃあいかねーです」

 

気絶したセシルを片腕で抱える真那。

それを見たアシュリーは助けに向かおうとするのをレオノーラに制止される。

 

「どけよレオ!!セシルが…!!」

「駄目!!セシルは逃げろって言った!!ここであたし達まで捕まっちゃったら、セシルもアルテミシアを助けられなくなる!!だから…!!」

 

押しのけようとするも、レオノーラの気迫に抑えられるアシュリー。泣き虫で普段は自分の意見を主張することが少ない彼女が、涙ぐみながらも仲間のために心を鬼にしようとする姿に、冷静さを取り戻していくのだった。

 

「――ああ、そうだなこんなところであたしらは終われねぇ。セシルも、アルテミシアも必ず助け出すぞ!」

「うん!」

 

レオノーラを抱えたアシュリーは飛翔して逃走していく。無論それを妨害しようと勇らが迫る。

 

「折紙、拘束だ!」

「了解ッ」

 

アシュリーら目がけ片手をかざし、意識を集中させる折紙。テリトリーを生成しようとした瞬間、窓を突き破ってきた線上の閃光が彼女に襲いかかった。

 

「!?」

 

頭部に被弾し弾き飛ばされる折紙。不意を突かれたため十分な強度のテリトリーを張れず、そのまま倒れてしまう。

 

「折紙さん!?」

「狙撃ッ。まだ仲間がいたの!?」

 

飛来してきた閃光――ビームに勇らが気を取られている間に、アシュリーらは割られた窓から建物の外へ飛び出す。

だが、この事態は彼女らにとっても予想外なのか、困惑しているようであった。

 

「なんだ!?協力者からの援助はもうねえんじゃ…」

「わ、わからないけど。とにかく逃げよう!」

「おう!」

 

事態は飲み込めないも逃げるべきと判断し、飛び去っていくアシュリー。それを勇らが追撃しようするも、それを阻むようにビームが次々と撃ち込まれていく。

 

「わわ!い、一体どこから撃たれているんですかベル!?」

『索敵圏外からの狙撃ですマスター。恐らくこれは警告かと』

「警告?」

『はい。ビーム痕を良く見て下さい』

 

ベルに言われ着弾箇所を見ると、自分達の眼前にラインを引くように横一文字に全て撃ち込まれているではないか。

 

「これは…」

『『これ以上進めば本気で撃つ』という警告です。ですので、絶対に追撃はしないで下さいマスター。今のあなた方では歯が立つ相手ではありません』

「ベル?」

 

まるで狙撃手のことを知っているかのような口ぶりのベルに、美紀恵は違和感を感じるも。今は撃たれた折紙の安否を確かめるべきだと彼女の元に向かう。

 

「大丈夫、折紙!?」

「…問題ない」

 

先に駆け付けていた燎子に支えられ、上半身だけ起こす折紙。

 

「良かったです…」

「撃たれた場所が場所だけに、検査するまで油断はできんがな」

「ですね。でも、アシュクロフトを装備してなけりゃ危なかったでやがりますよ」

 

一先ず仲間が無事であることに安堵する一同。

 

「片はついたようだな…」

「お父様…」

「とんだデモンストレーションになってしまったな…。見せるべき客ももういないが…」

 

声をかけてきた虎太郎は辺りを見回す。来賓は全て避難し、散乱とした会場は今では物寂しいだけの静寂に包まれていた。

 

「お父様!!今回の任務…。アリス防衛、達成することができました!!それに、主犯格も捕らえることができました…」

 

父と向き合い、恐怖心を抑え込んで言葉を紡いでいく美紀恵。

 

「だから、だから…。皆さんも私も役立たずじゃありませんっ。私にこれからも軍人を続けさせて下さい!!」

「……」

 

娘の言葉を静かに聞いていた虎太郎は、考え込むように沈黙すると背を向けてしまう。

 

「…駄目だな」

「そんな…っ」

「言った筈だ。お前を軍から除隊させ、私の元に戻すと…」

「そんな!!何故ですかお父様!!私は、私はっ」

 

必死に呼びかけるも、向き合うことを拒絶するように背を向けたままの虎太郎に、やはり駄目なのかと諦めそうになる美紀恵。そんな彼女を支えるように折紙が隣立つ。

 

「軍から除隊させるべきではない。アリスを守れたのは、この子の力によるところが大きい。彼女がいたから敵を撃退できた。美紀恵は私達にとって必要な人材。あなたも戦いを見てわかった筈」

「折紙さん…」

「この子は期待の新人。上官としても、みすみす手放す訳にはいかないわ!」

「まあ、どうしてもというのならもうひと暴れしてやってもいいですが…」

「皆さん…」

 

燎子と真那も同じように美紀恵と並び立ち、頭部の装甲を外した勇もそれに続く。

 

「岡峰社長。あなたが娘さんを護りたい(・・・・)という想いは理解します。それならば、今こそ彼女と向き合うべきです。人は言葉を交わさねば理解し合うことなどできないのですから」

「……」

 

勇の言葉に、虎太郎はようやく美紀恵へと向き合う。

 

「お前はどうして、私の思うようにならないのだろうな」

「お父様?」

「昔から…。そう、昔からだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様。これが1学期の通知表です…」

 

低い。平均的な数値だが、岡峰の者としては余りに足りな過ぎる。

 

「岡峰の人間たる者、常に完璧でなければならん…。そう教えた筈がなんだこの成績は…」

「あ、う…。お父様…その、あのっ…!!」

「これ以上勉学に励んでも無駄だろう。もう金輪際成績は見せなくていい」

「お、お父様…」

 

美紀恵…。お前は昔から何をやっても駄目だった。

岡峰の一族は経済界にその名を轟かせるエリート揃い。才のないお前ではとても一族の中で過ごしてはいけないだろう。

お前を優れた人物に育てようと努力した時期もあったが…。私はいつか考えを変え、お前に冷たく当たることにした。

私を憎み、疎み…。そして、やがて岡峰から離れていくことだろう。だが、それでいい。それで…。

 

「お父様…。2学期の通知表です」

「…もう成績は見せなくてもよいと言った筈だが…」

「こ、今回は前よりはいいんです、だから…」

 

殆どが最高評価…。だが、そのためにお前は…。

 

「いつもいつもごめんなさいお父様…。期待にお応えできなくて。でも私頑張りますから。そのっ。お側において下さい…」

 

目の下のクマ、それにやつれ気味の体…。寝食を忘れ無理をしたのだろう。いや、それだけでなく、誰かと遊ぶこともなく、その年頃の子がしたいだろうことすら断ち、己に鞭を打ってまで努力したのだろう。

 

「…はっきり言わねばわからぬようだな」

 

何故だ美紀恵…。お前を岡峰から遠ざけるつもりが。

 

「もういい。お前に期待をかけた私が愚かだった。岡峰の恥さらしめ」

 

何故…。

 

「お前は役立たずだ。もはや私からお前に何か言うことはあるまい。二度と岡峰に近づくことは許さん」

 

…今度こそ…これで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私自身岡峰に生まれはしたが才はなかった。私は岡峰に相応しい人物になれるようしゃにむに励んだ。それこそ自分の持てる全ての時間をつぎ込んで…。ようやく一族として他の者と対等となった時、もう何十年も時が過ぎていた。残ったものは…何もない。お前にそんな人生を歩んでほしくはない。お前は普通に…身の丈にあった生活を…平和に過ごしてほしかった」

 

父の告白に、美紀恵は驚嘆しながらも聞き入っていた。始めて触れる彼の心に、嬉しさに気づけば涙を流してさえいた。

 

「なのに何故だ?岡峰を離れ…今度は軍のウィザードなど。常に生命の危機と隣合わせの場所に…。答えろ美紀恵、何故なのだ?」

「…それは、それは…。役に立てる人間になって、お父様に認めて欲しかったからです」

「……。私に…!?私はお前にあれだけきつく当たってきたのだ。私を憎んで疎んでいる筈…」

 

その言葉に、美紀恵は手で涙を拭いながら首を横に振る。

 

「私はお父様を憎んだことなんて一度もありませんっ…。私は今でもしっかり覚えています。私が幼かった頃の…優しかったお父様を…。お父様が冷たくなったのは私のせいなんだって…。私がお父様の期待に応えられる人間になれれば、またきっとお父様は…」

 

声を震わせながらも、精一杯言葉を紡ぐ美紀恵。まるで、今まで叶わなかった、親子としての時間を取り戻そうとするように。

 

「私はお父様を憎むどころか、今は感謝しています!!形はどうであれ、軍に入隊するきっかけを作って下さった!!私…軍に入って初めて人に役に立てたんです!!凄く、凄く嬉しかった…。そして私は気づいたんです。ここが私の居場所なんだって…。もっともっとここで色々なことを学びたい、もっともっと色々な人の役に立っていきたい!!だからお願いです…。私を軍にいさせて下さい!!」

 

深々と頭を下げる娘に、虎太郎は困ったように、だけれでもどこか嬉しそうに眼鏡を直しながら息を吐く。

 

「お前は私によく似ている…。不器用なところも思い込みが激しいところも…。そして頑固なところもきっと、な。最後にひとつだけ問う。お前は今。幸せか…?」

 

父からの問いに、屈託のない満面の笑顔を向ける美紀恵。

 

「はい!!私は今とても幸せです!!」

「…ならば、もう何も言うまい」

 

そういうと背を向ける虎太郎。

 

「…アリスの処遇については、軍に管理を移転するようDEMにかけあってみよう。それと、天道少尉」

「はい?」

「マオ・インダストリー社より打診されていた、君の機体のための技術供与の件は協力させてもらおう。美紀恵のことを守ってやってくれ」

 

それだけ告げると歩き去っていく虎太郎。

 

「(私には何も残らなかった…。だが、お前には…。お前ならきっと、自分の心にままに生きていくことができるだろうな…)」

 

会場を出ていく直前に、虎太郎は顔だけ横を向け視線を背後に向けて、仲間に囲まれ勇に頭を撫でられ微笑んでいる娘の姿に、口元に笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

会場のある建物の入り口前にて。到着した応援の護送車に乗せられるセシル・オブライエンを見届ける俺達。ちなみに、折紙は検査のため病院に搬送されている。

 

「これで一先ずは安心ですね」

「そうね。アリスを守れただけでなく、主犯格を逮捕できたし言うことなしね」

 

少しだけだが肩の荷が下りたように肩を軽く回す燎子さん。まだ解決した訳でないが、指令も父さんも不在の状態で気を張り詰め続けていたのだから、これくらいは許されるだろう。

 

「いよっお疲れさん。犯人の1人を捕らえるたぁ大手柄だったな」

「斯波田外務次官。ご無事で何よりです」

 

風鳴氏を引き連れ、扇子を扇ぎながら斯波田外務次官が声をかけてこられる。

俺達は敬礼して応じると、彼はそんな固くなんなと宥めてくる。

 

「ああ。悪いとは思ったが、足を引っ張っちゃならねぇと真っ先に非難させてもらったぜ」

「お2人に何かあれば一大事ですから当然かと」

 

実際に怪我でもされたらそれこそ日本の一大事なので、寧ろ避難していてもらわないと困る。

 

「そういってもらえると助かるよ。いや、お前さんらみたいな頼りになる若者がいてくれて頼もしいね」

「ありがとうございます。それで、何か御用でしょうか?」

 

正直、彼のような政府高官に声をかけられる覚えがないので、内心ヘマでもしたのかと不安になる。

 

「いやな、褒美って訳でもなもないが。岡峰社長に聞いたんだがな、新型のアリスだったか、アレの処遇の件だがこっち(日本政府)からも便宜を図らせてもらおうと思ってな」

「それは助かります。ありがとうございます」

「いいってことよ。政治家って言っても、命這ってくれている若者にできるのそれくらいしかないからな」

 

頭を下げる燎子さんに、大らかに笑う斯波田外務次官。

…失礼だけど、こうして話していると、近所にいる気のいいおっちゃんって感じの人だなぁ。

そんなことを考えていると、今度は風鳴氏が口を開く。

 

「それと、天道少尉が仮想課の菊岡君に依頼していた件だが。内閣情報調査室でも調査していたのだが、明日までには取り纏められるので彼から君に渡すよう伝えておこう」

「よろしいのですか?国家機密に関わることもあるのでは…」

「この件は最早軍の問題だけでは済まないのだ。今後同じようなことが起きないよう、原因は徹底的に叩かねばならん。そのために必要な処置だと信じている」

 

そう話す風鳴氏の声音には、何かに対する憤りのようなものが感じられた。

アシュクロフトを巡る今回の事件は、やはりただごとではないのだろうな。

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