ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第八十二話

やあ、アルテミシア。よく来てくれたな…。歓迎するよ。

はい…。ですが、これは…

意識が遠いかな?だが心配することはない。これから起きることは全て『不慮の事故』として処理される。君は安心して眠りにつくといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、これから新たなるリアライザと、眠り姫の誕生だ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資料を読み進めていると、覚えのない記憶が呼び起される美紀恵。まるで誰か(・・)

の記憶を覗き込むような奇妙な感覚――そして、最後に意識を切り刻まれるかのような感覚に、呆然としてしまう。

 

「――さん。岡峰――?岡峰さん?」

「ッ!?」

「大丈夫?随分顔色が悪いわね。内容が衝撃的過ぎたかしら?」

「い、いえ大丈夫…。大丈夫です…」

 

心配するように話しかけるセシルに、全身から冷や汗を流しながらも応えつつ残る資料に目を通す。

 

「その資料を見ればわかる通り…。アルテミシアを奪った組織の名は…DEM!奴らはアルテミシアの力を使って新しいリアライザを作りたいと申し出てきた…。私達は何かきな臭さを感じて止めたのだけれど、彼女は自分の力が少しでも人々を守ることに役立つのならとその申し出を受けたわ」

 

そう話すセシルの手は、ギリギリと握り締められていた。その表情はあの時無理やりにでも止めていればと、後悔の色に彩られていた。そして、それはアシュリーもレオノーラも同様であった。

 

「作業自体は数日で終わり、アルテミシアもすぐに帰れる…そういう話だった。でも彼女は帰って来なかった。いえ、帰って来たのは肉体だけだった…。次に再会した時、彼女は病院のベットで死んだように眠っていたわ。どうしてそんなことになったのか、上層部やDEMに問い合わせてもまともな回答は得られなかった。痺れを切らした私は原因を探るためにDEM本社に潜入し、その資料を見つけたの…」

 

資料を読み終えた美紀恵は、その内容に唖然とし、顔面蒼白となり資料を手から落としてしまう。

 

「新型リアライザアシュクロフト。その『コア』はあるウィザードの脳をベースに造られたもの。『アリス』『ジャバウォック』『レオン』『ユニコーン』『チェシャー・キャット』五つのアシュクロフトは全て…アルテミシアの脳内情報を吸い上げて作られたもの。いわばアルテミシアの脳そのものなのよ。だからこそ、アシュクロフトの装着者は、アルテミシアの持っていた世界最高峰のウィザードとしての力を行使できる…。彼女の意識そのものを代償として、ね」

 

人を人と思わぬ悪魔の所業に、込み上げる吐き気から、口を抑え涙を浮かべながら力なく座り込む美紀恵。

 

「脳情報を吸い取られたアルテミシアは脳死状態。今も機械に繋がれ、覚めぬ眠りについているわ…。助け出す方法は1つ!!五つ全てのアシュクロフトにメモリーされている脳情報を、彼女にフィードバックさせること!!だから私達はアシュクロフトを狙っているのよ!!『奪われた恋人』を取り戻すために!!」

「こんな、こんなことがッ…」

 

手にした力の正体を知り、その恐ろしさに体を震わせながら自身の体を抱く美紀恵。

 

「私は…私は…!!」

「あなたは言っていたわね。私達を助けたいと…。ここまで聞けばもうわかった筈、そのためにあなたがすべきこと――チェシャー・キャットを私達に手渡すことだと」

「そ、それは…。それは、まだ…できません!!」

 

美紀恵の言葉に、セシルは残念そうにそう…と呟いた。

 

「そうよね…。例えアシュクロフトが、アルテミシアを人柱に作られたものだと知っても。精霊を打倒しえる強力な兵器であることには変わりはないものね…。では今まで通り戦って奪い合いましょう、アシュクロフトをかけて」

「いえ、もうその必要はありません!!いくらアシュクロフトが強力な兵器とはいえ、1人の人間を犠牲にしたままでいい筈がありません…。アシュクロフトは五つ全て集めアルテミシアさんを復活させるべきです!!」

「…どういうことかしら?そう思っておきながら、さっきあなたはアシュクロフトを渡せないと…」

「私の一存では今すぐに渡すことはできないという意味です…。時間をください!!私は急ぎ基地に戻り、、ここで聞いたこと全てを報告します!!あそこにいる皆さんは人類を守ることをに誇りを持つ方達です…。アシュクロフトの真実を知れば必ずあなた達の事情も理解してもらえます!!私が必ず説得してみせます!!ですから、その資料を預けて下さい!!」

 

美紀恵は懸命に訴えるも、セシルはそれを拒むように首を横に振る。

 

「無駄よ。仮に真実を伝えても、1つの基地だけでどうにかできる問題ではないわ。DEMの力は統合参謀本部にすら及んでいる。私達がどれだけ訴えようとも揉み消されたように、全てがなかったこと(・・・・・・・・・)にされるだけよ…。それに、もう時間がないわ…」

「時間?」

「ええ。私達が日本に渡るのと同時に、あいつらは1人の追手を差し向けた。私達では、例えアシュクロフトの力を使っても勝てるかわからない強敵。もう見つかるのも時間も問題でしょう…。その前に何としても全てのアシュクロフトを揃えなければ…ッ!?」

 

セシルの言葉を遮るように、突如倉庫全体に衝撃が走る。そして、天井に亀裂が入ると、崩れ落ちていくではないか。

 

「こ、これは!?」

「まさか、もう見つかったというの!?」

「…その通りだ。お前達がどの国に逃れ…どこに隠れようとも必ず見つけ出す…」

 

騒然とする美紀恵らの前に、崩れ落ち穴の開いた天井から1人の人影が降りてくる。それは見慣れない形状のCR-ユニットを装備し、右目に切り傷がある女性であり。彼女らを見下すような不敵な笑みを浮かべていた。

 

「久しいなセシルにレオノーラにアシュリー…。さあ、返してもらおうかアシュクロフトを」

「…よくここがわかったわね」

「お前が脱走したという情報を掴んでな。すぐに後を追わせてもらった」

「なる程…。注意して逃げた筈なのだけれども、こうもほいほい後を着けられちゃうなんてね…」

「気にするな。所詮お前の実力などその程度だというだけだ」

 

馬鹿にしたような女性の言葉に、アシュリーがんだと!?と掴みかかろうとするのを、セシルが手で制す。

 

「も、もしかしてあの人がさっき言っていた追手…!?」

「そうよ…。元SSSのナンバー2ウィザードにして、DEMの私兵である執行部の中で選りすぐられた精鋭のみが集められた第一執行部所属――ミネルヴァ・リデル…!!」

「お前達も追われる生活にそろそろ疲れただろう。だが良かったな。それも今日で終わる」

 

ミネルヴァが、準備運動といった様子で、手にしていたレーザーブレードを軽く振るいながら歩み寄ってくる。

放たれる殺気が圧となって肌を撫で、嫌でも己より格上であることを理解させられ、思わず息を吞む美紀恵。

 

「アシュリー!!」

「おうっ!!」

 

投げ渡されたジャバウォックのデバイスを受け取ると、すぐさま起動させるセシル。残る2人も続くように、それぞれのデバイスを起動させ、アシュクロフトを身に纏っていく。

 

「アシュクロフトが3機か…。相手にとって不足はない」

「いいえ、違います!!4機です!!」

 

美紀恵はキティ・ファングを起動させると、切っ先をミネルヴァへ突きつける。

 

「あなた達DEMの非道は聞きました!!もしここでアシュクロフトを奪うというなら私も相手になります!!」あなた達の思うようにはさせません!!アルテミシアさんは必ず…」

「アルテミシア…?」

 

その名が出た途端、感情が爆発したかのように、ミネルヴァから発せられる圧が一層強まった。

 

「私の前でそいつの名を軽々しく口にするな…殺すぞ」

「ッッッ!?」

 

全身を切り刻まれたかと錯覚する程の殺気を当てられ、たじろぎながら後退ってしまう美紀恵。

 

「アルテミシア、アルテミシア…皆そうだ。いつもいつもそいつの名を口にする。何故だ?何故いつもあいつのばかり…。何故私では駄目なのだ?」

「(何ですかこの人…感じが豹変して…!?それに…それに…物凄い殺気…!!)」

 

自分に向かって歩み寄ってくるミネルヴァに、美紀恵は蛇に睨まれた蛙のごとく指先一つ動かせず固まることしかできなかった。

 

「いつまでたっても届かない…届かないなら、いっそ…」

 

ゆらりと揺れたかと思えば、ミネルヴァの姿が搔き消えてしまい。背後に気配を感じた時には、背に刃が隠れる程にブレードを大きく上段に構えるミネルヴァが立っていた。

振り向こうとした時には刃が振り下ろされるも、割って入ったセシルが蹴りを放ち、ミネルヴァはブレードで難なく受け止める。

 

「勘違いしないで、あなたの相手は私達の筈よ…!!」

「セシル、そうだな…。ではまず、お前から仕留めるとしよう」

 

押し返えされると同時に、連続で放たれた斬撃をバク転しながら避けつつ、距離を取るセシル。

 

「セシルさん!?」

「あなたも勘違いしないで…。これは私達の戦いよ。あなたは部外者、引っ込んでいなさい」

「で、ですがっ」

 

歩調を合わせようとせず、ジャミングを展開しようと、セシルが背部のユニットを稼働させるも。それよりも早くミネルヴァが動く。

 

「ジャバウォックのジャミングか…。ウィザード相手なら無敵の能力なのだろうが。遅い!!リング・ローゼス閃剣形態(ストリングスタイル)!!」

 

操作をしながら、その場でブレードを振るってくるも、刀身が消えただけで何かが起きることはなかった。

 

「ブレードが消えた?」

「あいつ、何を…」

 

一同が警戒する中。セシルの視界に何かが光るのを捉える。それは蜘蛛の糸のように細いワイヤーらしきものであり、まるで彼女を囲むように張り巡らされているではないか。

 

「皆!!すぐに私の側を離れなさい!!」

 

危険を感じ取ったセシルが叫ぶと、アシュリーとレオノーラは迷いなく距離を取るも、理解の遅れた美紀恵はその場にとどまったままであった。

 

「(岡峰美紀恵が…間に合わない!!)」

「きゃっ!?」

 

そんな彼女を、セシルは蹴り飛ばし無理やり離れさせる。

 

「セシルだけは見えたか、相変わらずいい目だ。だが、さっきも言った…遅い!!」

 

ミネルヴァが柄のみとなったブレードを引くように振るうと、セシルらの周囲にあった柱やコンテナが次々と切り刻まれていった。

 

「こ…これは!?」

「レーザーのワイヤーか!?」

 

一同が驚愕している間にも、ワイヤーはセシル目掛け狭まっていき。逃げ場のない彼女を絡めとり吊るし上げてしまう。

 

「そうだ。極限まで細くし見えにくくしたレーザーワイヤー。…お前ともあろうものが、あんなチビを助けて逃げ遅れるとは。あのチビはお前らの敵ではなかったのか?」

「…それもそうね。どうして助けちゃったのかしら…」

 

ミネルヴァの言葉に、自分でもわからないといった様子で自嘲気味に笑うセシル。

 

「セシルさん…!」

 

美紀恵はそんな彼女を助け出そうとするも、ミネルヴァがブレードを軽く振るとワイヤーが締め上がり、セシルが苦悶の声を漏らすと動けなくなってしまう。

 

「うわわっセシルー!!」

「くそッ。ミネルヴァ!!セシルを離しやがれ!!」

「相変わらず仲良しのようだなお前達は…。だが、気をつけろ。このレーザーワイヤーは私の意思で自由に切れ味を調整できる。下手な行動にでれば、お前達の大好きなセシルは一瞬でなます切りだぞ…?」

 

そう言いながら、ミネルヴァがワイヤーを更に締め上げると、セシルの皮膚に食い込んげき血が滲み出てくる。

 

「チッ人質なんてベタな真似をしやがって…」

「卑怯とは言うまい?そっちは4人がかりなのだからな」

 

不敵に嗤いながらカードキーを取り出すと、セシルに歩み寄っていくミネルヴァ。

 

「…何をするつもりなのミネルヴァ!?」

「直ぐにわかる」

 

カードキーを近づけると、ジャバウォックの背部の装甲の一部が変形し、ソケットらしきものが露出する。

そこにカードキーが差し込まれると、機体から電信音が流れ出す。

 

『アシュクロフトⅡジャバウォックコード確認。コード正常、処理を開始します』

「え!?」

 

突如装着が解除され、デバイスとなったジャバウォックが床に落ちるのを、ミネルヴァが手にしコンテナへと向かっていく。

 

「強制解除!?そんなものが…!!」

「当然だ。アシュクロフトを作ったのが誰か忘れたのか?あの策略家がこういった事態を想定していないとでも?」

『アシュクロフトⅡジャバウォック認証解除完了しました。装着者情報をクリア。認証待機モードに移行します』

 

コンテナにデバイスを収めると、ミネルヴァはブレードを躊躇いなく振るい、セシルの体が切り刻まれ血を噴き出す。

 

「これでもうお前に用はない。さらばだセシル」

「そんな、アシュクロフトが…。アルテミシア…」

「せ、セシルー!!」

 

倒れ伏すセシルに3人が駆け寄るのをよそに、コンテナを愛おしそうに撫でるミネルヴァ。

 

「さて、まずは一つ。これでジャバウォックは正式(・・)な所有者の手に戻った。この日をどれだけ待ち望んだか…」

『アシュクロフトⅡジャバウォック認証処理を開始します』

 

コンテナのパネルに手を触れると、ミネルヴァにジャバウォックが装着されていってしまう。

 

『認証処理完了。封印を解除します』

「くくく…。遂に手に入れた…。アシュクロフトをぉ…」

 

恍惚な笑みを浮かべると、ミネルヴァはまるでこの場に自分だけしかいないかのように、腕の装甲を舐め回し始めたではないか。

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

突然の奇行に一同が唖然とするのも構わず、ミネルヴァは座り込むとジャバウォックを撫でまわしていく。

 

「あ…ああ…あああ…。感じる、感じるぞっ…。こ、これがアルテミシアの…力…!!この瞬間の…この瞬間のために、私はあの男なんぞに手を貸したんだッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。貴様が下手人か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルヴァの愉悦をかき消すように響いた声に、その場にいる誰もが倉庫の出入り口に視線を向ける。

その先には、ハウンドを身に纏ったヴォルフが立っていた。

 

「漆黒の、狩人――」

 

ゆったりとした足取りで向かってくるヴォルフを、ミネルヴァは忌々しく睨みつけ――ようとしてビクリッと体を震わせた息を吞んだ。

バイザー越しに見える彼の眼は、卑劣な下衆への燃え盛るような憤怒と、獲物を必ず生かして帰すまいという執念を感じさせる程の殺意に染まっていたのだった。

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