ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第八十三話

「漆黒の狩人の狩人――!!ミネルヴァだけでも厄介だってのにッ!!」

 

乱入してきたヴォルフから発せられるプレッシャーに圧されるも、ランスを構えようとするアシュリーを、セシルが制止した。

 

「待って、アシュリー…」

「何だよ!てか喋んなっ、死ぬぞ!!」

 

深手を負っているセシルを気遣うも、それでも彼女は弱弱しくも言葉を紡ぐ。

 

「…軍に捕まった私を、逃がしてくれたのは彼なの…」

「はあ?ファントムタスクの奴が何で??」

「わからない。わからないけど。もしかしたら、彼の目的も…私達と同じなのかも…」

 

困惑しながらも動向を見守る中。ヴォルフは彼女らを無視し、怯えた様にへたり込むミネルヴァへと対峙する。

 

「ふ、はは…。そうだ、今の私にはアルテミシアの力がある。最早貴様など恐れることはないんだ…」

 

まるで自分に言い聞かせるように呟きながら、立ち上がるミネルヴァ。そして、自らを誇示するかのように仰々しく腕を広げ、挑発的な笑みを向ける。

 

「何やらドブネズミらしく、こそこそと動き回っていたようだが、残念だったな。既に私は無敵の力を得た。貴様であろうが、エレン・ミラ・メイザースだろうが私を止めることはできんぞ」

『……』

 

ミネルヴァの言葉など興味がないと言わんばかりに、ヴォルフはバスター・ランチャーの銃剣を展開させると、ブースターを吹かせていく。

そんな彼を、ミネルヴァは一笑に付す。

 

「言ってもわからんか。いいだろう教えてやる。圧倒的なまでの力の差を――」

 

言い終える前にヴォルフの姿が視界から消え、それと同時に突風がミネルヴァの髪を靡かせる。そしてゴトリ、と何か(・・)が落ちる音がし、右腕に違和感を覚える。肘から先の感覚がなくなり、まるで空気にでもなったかのように軽く感じるではないか。

何事か?と視線を向けると、先程まであった右腕が切り取られたように肘から先がなくなっていたのだ。

 

「――あああアアアア腕がァァァァぁぁぁぁっ!!!」

 

そのことを理解するのと同時に傷口から血が噴き出し、激痛が襲い掛かり悶えながら膝から崩れ落ち悲鳴を上げるミネルヴァ。その際に足元転がっていた右腕を蹴り飛ばし地面を転がっていく。

 

『どうした?アーシャならば、この程度でそのような醜態を晒しはせんぞ?』

 

悶え苦しむミネルヴァ背中側に立つヴォルフは。銃剣に着いた血を払い落とすと、彼女に歩み寄っていき、彼女の後頭部を踏みつけると、頭部を地面に叩きつけた。

 

「あギャぁ!?」

 

脳を激しく揺さぶられ意識が朦朧とする中。本能的にテリトリーで押し返そうとするも、

精密な操作などできる筈もなく、辛うじて押しとどめるだけであった。

 

「強ぇ。わかっちゃいたが、やっぱり化け物だぜあいつ」

「ま、前に戦った時よりも強くなってない?」

「ヴォルフさん…」

 

自分達が歯が立たなかった相手を、難なく圧倒するヴォルフに、戦慄するアシュリーとレオノーラ。

彼女らとは別に、美紀恵は彼の様子に違和感を感じていた。

監禁された時には、できる限り相手を傷つけないよう配慮してくれる優しさが見られたが。今の彼からは、ただ敵を駆逐するためだけの冷淡さしか感じられなかったのだ。

 

『駄目…止めてヴォルフ…。そんなことは…』

「ベル?」

()のために、自分を傷つけ(・・)ないで…!!』

 

不意に懇願するよう言葉を発するベル。機械的だった今までと違い、人のようにまるで今にも泣き出しそうな『感情』を感じさせる声音であった。

 

「ッ――!?」

 

それに呼応するように頭痛が走り、覚えのない記憶が頭に直接流れ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

医療関係の室内で、ベットに横になり上半身だけ起こしているヴォルフがおり。そんな彼の側に記憶の持ち主である少女は、丸椅子に腰かけているようだ。

窓からは欧州の風土が感じられる町並みが広がり、沈みかけた夕陽の光が窓から差し込み2人を暖かく照らしている。

外から聞こえる人々の営みの音をBGMとし、どこか居心地の良さを感じられる雰囲気の中。窓の外を眺めるヴォルフに少女が話しかける。

 

「ねえ。あなたはどうして戦うの?世界を敵にして、自分を傷つけてまで…」

 

その問いに、ヴォルフは暫し沈黙するも、やがて少女を見据えるとゆっくりと口を開いた。

 

「知りたいからだ。『母さん』が愛したこの世界が存在するに値するのか。そして、『正義』が存在するのかを、な』

「そっか、やっぱり『優しい』んだねあなたは」

 

ヴォルフの答えに、少女は心から嬉しそうに微笑んだ。

 

「何度も言うが、見当違いも甚だしいぞ」

「ふふ、そうだね」

 

眉間に皺を寄せながら苦言を呈するヴォルフだが、少女は意に返さない様子でくすくす、と笑っていた。

 

「ねえ、ヴォルフ」

「何だ?」

「答え、見つかるといいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは、一体…?」

「岡峰美紀恵?」

 

頭を抑え呆然としている美紀恵に、セシルが声をかけるも、その声は混乱している彼女には届いていなかった。

 

「あ、ぁガっ…!」

 

敢えて苦しみを長引かせるように、ヴォルフが足に徐々に力を込めていくと、頭蓋骨を軋ませながら地面にめり込んでいくミネルヴァ。痙攣を起こしながら、涙と鼻水で顔を汚す彼女を、ヴォルフは冷え切った目で見下ろしていた。

そして、限界を迎えたのかテリトリーが消えると、止めを刺そうと踏みつけていた足を持ち上げていく。

 

「ッ――!!ま、待って下さい!!」

 

頭部を踏みつぶそうとしたヴォルフを、美紀恵が声を荒げて制止すると、ギロリッ、と睨みつけられてしまい、思わず後ずさりそうになるのを堪える。

 

「あ、あのっ。あなたがそんなことをしても、アルテミシアさんはけ、決して喜ばないと思います!!」

『……』

「怒りに任せて命を奪っても、あなたの望む答え(・・)は得られないと思います。だから、こんな復讐をするようなことは止めて下さい!!

 

美紀恵の言葉に沈黙したヴォルフは、まるで何かを見極めるように凝視してくる。

一秒が永遠に感じられる緊迫感に、セシルらも息を吞んで見守っていた。

 

『そうか。お前はそこにいるのだな…』

 

何か納得したような様子のヴォルフは、足をゆっくりと地面に置く。心なしか、冷徹さが薄らぎプレッシャーが弱まったことに美紀恵はホッと胸を撫で降ろす。

 

「えっと、彼女の身柄は私が預かるということでいいでしょうか?」

『構わない。この件に関してはお前に全て任せる。それがアーシャの望みでもあるのだろう』

 

美紀恵からの提案に素直に応じるヴォルフ。どういう訳か、彼女を信頼するようになったらしい。

 

『ッ!退がれ!』

「きゃ!?」

 

突然ヴォルフが美紀恵を押しのけると、彼女がいた地面を飛来した鏃状の刃物が抉り取った。それはジャバウォックの尾であり、等間隔に分裂したものがワイヤーで繋がれていた。

 

「フーっフーっ」

『…まだ意識があったか。往生際の悪い奴だ』

 

四つん這いの状態で起き上がっていたミネルヴァを、呆れ果てた目で見ながら左腕のガトリングを展開させ向けるヴォルフ。だが、発砲するよりも先に、ミネルヴァが錯乱したように叫びながら、尾をでたらめに振り回して来た。

 

「ああああアアアアア!!!」

 

尾は周囲の物を無差別に斬り裂いていき、柱まで切断され、これまでの戦闘で損傷していた倉庫は音を立てて崩れていく。

 

「天井がっ!?」

『チィッ!!』

 

崩落し次々と降り注いでくる天井へ、ヴォルフはランチャーを胸部のコネクターに接続して向け、高出力のビームを放ち纏めて吹き飛ばしていく。

その際に発生した粉塵によって視界が塞がれ、ミネルヴァの姿が見えなくなってしまう。

 

『無事か?』

「は、はい。ありがとうございます…。!アシュリーやセシルさん達は!?」

「…生きてるよ」

 

粉塵が晴れていき、SSS組の無事な姿を見て安堵する美紀恵。だが、ミネルヴァの姿は消えてしまっていた。

ヴォルフはハウンドのレーダーで索敵するも、完全に見失っていた。

 

『完全に逃げられたな』

「…すみません。私のせい、ですよね…」

 

責任を感じて俯く美紀恵を、ヴォルフは励ますように頭に手を置く。

 

『気にするな、間違ったことした訳ではない。寧ろ感謝している』

 

そう告げると、ヴォルフは背を向けて去ろうとする。

 

「ヴォルフさんどちらへ?」

『もうこの場に用はない。それに、お前の迎えが来た』

「迎え?」

『伍長!!』

 

ヴォルフの言葉に美紀恵が首を傾げていると、武装した勇が飛び込むようにして倉庫内へ姿を現す。その後を同じく武装した折紙と真那も続いていく。

 

「…漆黒の狩人」

「ただでさせ面倒な状況なのに、更に厄介なのが出てきやがりましたねっ」

 

ヴォルフの姿を見た折紙と真那が戦闘態勢を取ると、その間に美紀恵が慌てて割って入る。

 

「ま、待て下さい皆さん!!彼は私達を助けてくれたんです!!」

「はあ?そいつはあなたを監禁したんでしょう?何で??」

「えーと、それは」

『勘違いするな。味方した訳ではない、目的のために死なれると困るのでな』

『…セシル・オブライエンを逃がしたのもそのためか?』

『そうだ。…この場で矛を交えたいのであれば、相手になろう宿敵よ』

 

殺気を滲ませ始めるヴォルフに対し、勇は静かに首を横に振る。

 

『…いや、止めておこう。今はアシュクロフトの問題を解決することが最優先だ。その点に関しては敵対する気はないのだろう?』

『そちらが邪魔をしないのであればな』

『ならば問題ない。こちらも余計なトラブルは避けたい』

 

両手を上げて敵意がないことを告げる勇に、ヴォルフはよかろうといった様子で筒状の物体を手にし、足元に投げると煙幕を噴き出されていく。

 

「あ、あのヴォルフさん!!敵は一緒なんです、だから私達と協力して…」

『水と油が交わらぬよう。光と闇は交わることはない。覚えておけ、俺は悪党だ』

 

美紀恵の言葉を遮ると、ヴォルフは煙に紛れ姿を消していく。

 

「待てよ漆黒の狩人ッ!!てめー何でアルテミシアを助けようとすんだよ!?」

 

アシュリーが呼び止めるも、答えることもなく去っていくヴォルフ。

 

「あんにゃろ!!」

「追ってアシュリー…。ここで見失ったら、もう彼から全てを聞き出せなくなってしまうわ…」

「おう!セシルのことは任せるぜレオ!」

「うん。気をつけてね」

 

SSS組も煙に紛れて離脱していき、煙が晴れると倉庫内にいるのはCNFの面々のみとなった。

安全を確認すると真那が勇に話しかける。

 

「追わなくていいんで?」

『情けないが、今ヴォルフ・ストラージまで相手にして勝てる自身はないからな。避けられる争いは避けたい』

「まあ、確かに骨が折れるだけじゃ済まない相手でいやがりますが」

「では、今後はどうするの勇?」

『それはこれから教えてもらうさ。な、伍長』

 

勇が視線を向けると、美紀恵は真剣な趣で頷く。

 

「はい。お話します。アシュクロフトの秘密と、私達が戦うべき本当の敵について…」

 

皆の注目を集める中。美紀恵はセシルから教えられたことを話していくのであった。

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