ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第八十四話

日が沈み夜の帳が降りた天宮市内にて。ミネルヴァは路地裏を壁伝いに朧げな足取りで歩いていた。

右腕からの出血はテリトリーで抑えていたが、倉庫から逃げるまでに相当量血液を失っており、意識が朦朧としいたため、積まれたビール瓶ケースに気づかず蹴つまずき瓶を散らかしながら倒れ込む。

 

「…畜、生…。私が、こんな…虫けら…みたいに…」

 

起き上がることもできず、這いつくばるしかできないミネルヴァはこんな筈じゃなかったと言いたげにぼやく。

本来なら残るアシュクロフトも手にし、完全にアルテミシアと一つになっていた筈が無様な姿を晒している己に歯軋りする。余りの不甲斐なさに激しい苛立ちと、こんな状況へおいやった者への憎悪――そして、更なる力のへの渇望を募らせていく。

 

「――欲しいか力が」

 

そんな彼女に建物の陰が生み出す暗闇から、何者かが声をかけてくる。

 

「誰、だ…?」

「君の味方さ。理不尽に願いを踏みにじられた君の、ね」

 

まるで暗闇から生まれるかのように、陰から1人の男が姿を現す。

男はミネルヴァの目の前まで歩み寄ると、膝を突き彼女に寄り添うように語りかける。

 

「可哀そうに…。ただ愛する者と一つになりたいだけなのに、それを理解しない愚か者達に邪魔をされて。でも、もう大丈夫さ。俺と共にくれば君に力を与えよう」

「力…?」

「ああ。何者にも負けない、君の本当の力を開放してあげることができる。さあ、行こう。君の理想とする世界に」

 

そういって手を差し伸べてくる男。胡散臭い内容でありながら、まるで言葉巧みに政治家が民衆へ訴えかけるように――いや、革命家が扇動するかのように、人を引き付ける魅力ある声音は。弱りきったミネルヴァの心に難なく入り込み、瞬く間に蝕んでいくのであった。

 

「もう一度聞こう。力が欲しいか?」

「欲しい。アルテミシアを手にする…力がッ」

 

藁にも縋るように、男の手を取るミネルヴァ。そんな彼女を、悪魔(ヴァサゴ・カザルス)は歪んだ笑みで向か入れるのであった。

 

 

 

 

同時刻、天宮市の繁華街を人ごみに紛れ1人歩くヴォルフ。そんな彼の背後から何やら喧騒が聞こえてくる。

 

「うぉお!!あっぶね!!また撒かれるところだった!!」

 

通行人を縫うように駆け寄ってきたアシュリーは、ヴォルフを追い越すと、ぜぇぜぇと荒い息をしながら、通せんぼをするように立ち塞がる。

 

「今度は逃がさねぇ!!観念して話をおわぁ!!」

 

言い終わる前に首根っこを掴んで持ち上げてどかすと、再び歩き出すヴォルフ。そんな彼の後を急いで追いかけるアシュリー。

倉庫街を出てからというものの、尾行するアシュリーを撒こうとするヴォルフとで、同じようなやり取りを繰り返していたのだ。

 

「だー!!人の話をちったぁ聞けよッ!!」

「お前達の味方ではないと言った筈だが。聞こえなかったのなら耳鼻科へ行け」

「聞いてんだよ!!でも、どう見てもあたしらの味方じゃん!!アリス奪おうとして逃げる時援護してくれたよな!!」

「知らん」

「いや、あんな索敵圏外からの精密狙撃なんてできる奴他にいるか!!お前あれだろ、ツンデレってやつだろ!!」

「お前だろ」

 

はあ!?ちちちちげーし!!と照れ隠ししているアシュリーを放置し、先に進むヴォルフ。

 

「だー!!待てってば!!いい加減お前とアルテミシアのこと教えてくれよ!!」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐアシュリーを無視し、とあるマンションに入ろうとする。

 

「んん?」

 

そのマンションを見て引っかかりを覚えるアシュリー。辺りを見回せば、倉庫街のアジトが使えなくなった時のための、予備のアジトとしているマンションではないか。

 

「うおおおおい?!あたしらのアジトバレてるんかい!?!?」

「人の庭であれだけ暴れておいて何を驚いている…」

 

衝撃を受けているアシュリーに、呆れた様な目を向けるヴォルフ。

考えてもみれば、ここら一帯は彼らの活動範囲であり、自分達のようなお尋ね者がうろついていないか目を光らせていても不思議ではなかった。恐らくこれまでも自分達のことを監視していたのだろう。

 

「ってこたぁ、教えてくれんのか!?」

「これ以上は時間の無駄にしかならん。ただし、碌な話ではないぞ」

「何であれ、真実なら受け入れるさ。セシルもレオもな」

 

渋々といった様子のヴォルフを連れて、アジトである部屋に向かうアシュリー。

ドアの前に立ち、一定のテンポで何度かノックすると、暫くしてゆっくりと開かれる。

 

「アシュリー!!良かった無事で――ってひょあ!?」

 

顔を覗かせたレオノーラは、ヴォルフの顔を見ると、驚きの余りに手にしていた拳銃を落としてしまい。それをアシュリーが慌ててキャッチした。

 

「うおおい!?馬鹿!!暴発したらどうすんだ!?!?」

「だ、だって。漆黒の狩人と一緒だなんて思わなかったんだもん~」

 

あわあわとしているレオノーラの背後から、車椅子に乗ったセシルが姿を見せる。

 

「おうセシル。傷はもういいのか?」

「ええ、レオが医療用リアライザで治してくれたから。…それにしても、見失って帰ってくると思ってたけど、連れてくるのは予想外だったわね…」

「あたしの実力ならこの程度朝飯前ってやつだ。ってしくじること前提だったのかよセシル!?」

「…8回は見失いそうになってたがな」

「だー!!言うなよ!!」

「…取り敢えず中に入って、近所迷惑だから。あなたもどうぞ」

 

玄関前で騒ぐアシュリーを適当に流しながら、ヴォルフを招き入れるセシル。

最低限の家具しか置かれていないリビングに通されたヴォルフは、勧められて椅子に腰かける。

 

「まずは私を逃がしてくれたこと、そして、ミネルヴァから助けてくれたことに礼を言うわヴォルフ・ストラージ」

「礼など不要だ。俺はただ、お前達を餌にしただけなのだからな」

「そうね。ミネルヴァは狡猾な女、勝機が無い限りあなたの前には現れない。だから、敢えて彼女にアシュクロフトを手に入れさせた」

「そうだ。あの時奴を止めずに、お前を意図的に危険に晒したということだ」

 

そんな話をしていると、レオノーラがキッチンから出てきて、コーヒーの入ったカップをどうぞ、とヴォルフの前に置く。そして、何か言いたげにヴォルフにことを見る。

 

「何だ?」

「あ、あの…。本当にセシルが危なかったら、助けに入ってくれたんですよね?」

「……」

「あ、かっ勝手なこと言ってごめんなさい!ごめんなさい!」

 

ただ視線を向けられただけなのだが、レオノーラはビクビクと怯えながら手にしていたトレーで顔を隠して平謝りを始める。

そんな彼女に、ヴォルフは何も言わずにカップを持ちコーヒー啜る。

それをアシュリーは、片肘をテーブルに乗せ手に顎を置きながら半目で見ていた。

 

「…お前、やっぱツンデレだろ」

「違う」

「…話を戻すけど、それでここに来てくれたということは、1年前にあなたとアルテミシアに何があったか話してくれということでいいのかしら?」

「ああ。そこのチビにいつまでもストーカーされるのはかなわんのでな」

「誰がチビでしかもストーカーかッ!!」

 

キシャ―ッ!!と、髪の毛を逆立てながら威嚇してくるアシュリーを無視して話を進めるヴォルフ。

 

「あの当時SSSの司令官が、テロ組織に武器を横流ししていたのは覚えているな」

「ええ。それを暴いたのがアルテミシアということになっているけれども、あなたも関わっているのでしょう」

「俺は彼女を利用しただけだ。その方が都合が良かったのでな」

 

勘違いするなと釘を刺すような視線を向けると、カップを置きヴォルフはその当時のことを語りだすのであった。

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