イギリスにある都市の港湾部にて。人気のない深夜帯にも関わらず、その日は突然の強風によって荒波が立っており、まるで嵐の到来を感じるようであった。
そして、それを示すかのように、倉庫街の一画は殺伐とした空気に包まれており、建物の陰に数人の人影が見られた。
「くそッ状況はどうなってんだ!?おい、セシル!!他の奴と連絡は着いたか!!」
「…駄目ね。ジャミングされていて基地との通信すらできないわ」
角から覗き込んで周囲を警戒しているアシュリーが、焦れたような様子で問いかけると、通信機で交信を試みていたセシルが、険しい顔つきで首を横に振る。
SSSの指揮官を務める少佐より、この地に潜伏しているテロリストの鎮圧のために、彼女らが所属する中隊に出撃が命じられたのが数時間前であった。
相手は国際指名手配されているとはいえ1人であるとのことで、誰もが精鋭である自分達が出張る必要もないだろうと多かれ少なかれ軽く見ていたが。いざ作戦が始まるとそれがいかに愚かだったかを思い知らされることとなった。
ターゲットがいると見られる倉庫を強襲するも、そこには誰もおらず。それどころかトラップとして仕込まれていたスタングレネードが炸裂し、暗闇包まれていた内部に備え暗視装置を使用していたことが災いし、視覚を一時的に潰されてしまったのだ。
予想外の事態に混乱している間に、身を隠していたターゲットに襲撃され。目が見えるようになった時には、2人の隊員が無力化され地に伏せており、ターゲットの姿は影も形もなくなっていた。
仲間が倒されたことと、侮っていた相手に一杯食わされたことによる怒り、そして作戦が読まれていたことによる焦りから、残る隊員の大半が冷静さを失ったまま敵を追撃し、更にジャミングによって分断され互いの安否すら不明の状況に陥ってしまったのだ。
「チッ何でこんなことに…!アルテミシアがいねーってのにっ!」
「落ち着いてアシュリー。ユニットが調整中だったのだから仕方がないわ。今は私達だけで切り抜けないと」
「わーってるよ。で、どうすんだ?」
「私とあなたでこのポイントに敵を誘導するから、レオは狙撃できるポイントに移動を」
「う、うんわかった」
「おっしゃ、行くぜ!!」
威勢よく先陣を切るアシュリーに続くように、セシルとレオノーラも行動に移ていった。
「ハァ、ハァ…」
入り組んだ路地にて。SSSの隊員のである女性が壁を背にし、息を乱しながら怯えた様子で周囲を警戒していた。
先程まで複数人で行動していた筈が、時間が経つごとに1人1人と姿が消えていき、遂には彼女1人となってしまったのだ。
ウィザードは確かにテリトリーという特異な能力を持ち、厳しい訓練によって精鋭と呼べるだけの技量を持つが、それはあくまで精霊やノイズといった人ならざる存在を想定としたものであり、テロリストのような対人戦には重点を置かれておらず、ましてゲリラ戦のような非正規戦については素人同然と言える練度しか持ち合わせていないのだ。
更にテリトリーという超人的力を持つが故の慢心が、彼女らの判断を誤らせ、己の身を窮地に陥れることとなってしまった。
「くそッ、奴はどこだ…?」
得物であるアサルトライフルを構え、クリアリングしながら索敵をしていく女性。狭い路地の影響で、激しく吹き付ける風と、激しく降り出した雨が視界と聴覚を阻害されたことで、不安と苛立ちと募らせていく中。不意に静寂を破るようにガタンッと音を立て、反射的に銃口を向ける。その先にあったのは倒れたポリエチレン製のゴミ箱であり、過剰に反応したことに恥ずかしさを覚え気が緩んだ。
「何だ脅かして――」
自嘲するように息を吐いた瞬間、背後から伸びてきた手に口元を塞がれる。
「――!?!?!?」
本能的に振り返ろうとするも、それより早く近くの壁に背中から叩きつけられてしまう。その衝撃でライフルを落としてしまい、ナイフを取り出そうとするも、その手を掴まれて阻まれしまい、口を塞いでいた手が離されるも、今度は肘が喉元に当てられ圧迫されていく。
「あ、が…」
呼吸ができずもがこうとするも、完全に拘束され抵抗もできず酸欠に陥っていく女性。薄れ行く意識の中、彼女が見たのは、闇夜に溶け込むかのように黒く塗装されたM型ゲシュペンストと、バイザーから覗かせる猟犬のような鋭さを持った瞳であった。
『……』
ヴォルフが気絶した女性から離れると、壁に沿って崩れ落ち。暫く警戒しながら観察し動き出す気配がないことを確認すると、物陰に隠れ周囲の様子を伺う。
「(…残るは3人。この状況下でも取り乱さず行動しているか)」
不慣れな状況下で不測の事態に陥りながらも、冷静さを失っていないセシルらに、警戒心を高めながら次の行動を思案するのであった。
――そもそも、極東方面担当の彼が何故欧州にで活動しているのかと言えば、暫し前に時は遡る。
「イギリスに行けだと?」
「ええ。欧州方面から、あなたの力を借りたいと泣きつかれたの」
日本支部オフィスにて。デスクの前に立つヴォルフは怪訝そうな様子で眉を顰める。そんな彼に、デスクを挟み対面しているスコールは革椅子に腰かけたながらやれやれと言いたそうに息を吐く。
「Special Sorcery Service――SSS、知っているわよね?」
「イギリスの対精霊部隊だな。そこで問題が起きた、と」
「そう。最近装備の更新が行われたのだけれど。それで余った旧式の装備をそこの司令官が反政府組織に流しているのよ。特に一番問題なのが、提供元であるDEMの人間と結託していることね。で、それが公に漏れそうになったの。だから迅速に
「それくらいなら珍しいことでもあるまい。そんなことで、他方面担当の者が出張ることもあるまい?」
腑に落ちないといった様子を見せるヴォルフ。古来よりそういった不正は繰り返されているため、ファントムタスクはそういった案件の処理も担当しており、別段難しいことではなかった。
「そうなのだけれど。それに気づいたターゲットが、手駒のSSSに身辺警護させるようになったのよ」
「…アルテミシア・ベル・アシュクロフト、か」
「当たりよ。世界で五本の指に入る実力者である彼女に対抗できる者が、欧州にはいないの。だから、あなたに白羽の矢が立ったという訳。苦労をかけるけど頼むわね」
「(やはり、こちらの動きは筒抜けか)」
担当地域を空ける訳にはいかないため、オータムとエムを残し単独でイギリスに潜伏するも、間も置かずに強襲を受けることとなったのだ。恐らくターゲットと手を組んでいるDEMの人間から情報が漏れたのだろう。組織というものが一枚岩になれないとは理解しているものの、流石に簡単に情報が漏れすぎだと苦言を呈したくなるヴォルフ。
『!』
レーダーが警報を鳴らすのと同時に、背後から敵意を感じその場から跳び退くと、屋上から人影が飛び降りてきており、振り下ろされたレーザーブレードが、先程までいた空間を斬る。
「チッ、あのタイミングで避けるかよ!」
必中を確信していた一撃を避けられたことに舌打ちしながらも、アシュリーは右手に持ったサブマシンガンをヴォルフ目掛け発砲しながら駆け出す。
「ウラァ!!」
牽制しながら回避先を限定させ、距離を詰めると左手に持ったレーザーブレードを一閃し。それをブースターを吹かせて跳んで回避したヴォルフは、カウンターで回し蹴りを側頭部へと放つ。
「っとォ!」
身を屈めてやり過ごしたアシュリーは、テリトリーで頭部を保護すると、CRーユニットのブースターを吹かし、その推力と膝を伸ばす反動とを利用し胴体に猛烈頭突きをかました。
その衝撃でヴォルフの動きが一瞬止まった隙を狙い、ブレードを下段から振り上げたが、体を強引に捻り左肩の装甲の一部を切断するにとどまる。
『無茶をするッ』
倒れるように地面を転がりながら距離を取ると。へこんだ胴体を見ながら呆れたような声を漏らすヴォルフ。
下手をすれば自滅しかねない攻撃を繰り出してくるアシュリーに、ヴォルフは接近戦を避けるべく、ホバリングで後退しながら距離を取ろうとする。アシュリーはそれをサブマシンで追撃しながら、空になったマガジンを交換する。
相手の方を向きながら後退しつつ、ヴォルフは左腕を彼女へ突き出すと装甲を展開させ、露出したガトリングを起動させると、銃身が回転を始め無数の弾丸を吐き出していく。
迫る弾丸の雨を、壁から壁に跳んで避けていくアシュリー。小柄であることを生かし、縦横無尽に狭い路地裏という空間を跳び回り距離を詰めようとするが、ヴォルフの機体は推力が大幅に強化されおり、更に背中に目があるかのように背後を気にする素振りも見せず背面機動を行いながら迎撃してくるではないか。
「(なんつー機動だ、隙がねぇ。けどなっ!)」
相手の驚異的なまでの技量に舌を巻くも、元より1人で戦う気など無く、これまでの行動は全て相手を所定のポイントまで誘導するためのものであった。
二手に分かれた曲がり角にヴォルフが差し掛かると、片方への道を遮るように弾幕を張りもう片方の道を誘導し。そこからユニットに取り付けられたグレネードランチャーを起動させ敢えて建物目掛け打ち込み爆煙で相手の視界を塞ぐ。すると、角を曲がったヴォルフの足に建物間に張られていたワイヤーが引っかかり、進路上一帯が激しい爆発に見舞われた。
上空へ逃れるため飛翔するヴォルフ。それを見計らったように、建物の屋上からセシルが頭を抑えるようにレーザーブレードを手に飛び出した。
「そこ!」
『ムッ!』
突き出された光刃を、ランチャーで受け止めるヴォルフ。そこからブレードを手放すと、横向きに回転しながら右側面に回り込み、勢いを乗せながら、右側のブースターに蹴りを叩きこみ弾き飛ばす。
ひしゃげたブースターを切り離すと爆発を起こし、その衝撃に煽られランチャーを手放しながら、路地に積まれていた木箱に激突するヴォルフ。
「(ワイヤートラップか。この短時間で良く仕込んだものだ)」
配置から見て、襲撃前に設置したものでなく、作戦が読まれていると気づいた後に急遽設置したのだろう。的確な判断力と手際の良さに、機体の状態を確認しながら態勢を立て直しつつ感嘆するヴォルフ。
『おっと』
「チィッ!」
飛び込むように突撃してきたアシュリーの斬撃を跳んで回避すると、左腕部のガトリングで反撃しようとすると、セシルがアサルトライフルを発砲し阻む。
『良い連携だ』
「上から見てんじゃねぇ!!」
『そんなつもりはないが…』
言いように腹を立てたのか、苛烈に攻め立てるアシュリーを、いなしながら後退していくヴォルフ。
反撃しよとすると背後に回ったセシルが跳び膝蹴りを放ち、そちらを向いて両腕を交差させて受け止めると。背を向けることになったアシュリーがブレードを突き出し、ヴォルフはスラスターを吹かしながら旋回しセシルを受け流し、その勢いで蹴りを叩きつけた。テリトリーを盾にしながら片腕で受け止めるも、衝撃で弾き飛ばされるアシュリー。だが、その口元は笑みを浮かべており、罠であると気づき退避しようとするヴォルフの残る片方のブースターを、飛来してきた弾丸が貫いた。
『狙撃か…ッ』
ブースターを切り離すと同時に距離を取り、爆発から逃れようとするも、近くにあった可燃物に引火して起きた大爆発に巻き込まれる。
「アシュリーッ」
「問題ねぇ!!それより良くやったレオ、流石だぜ!!」
『う、うんやったよ!!』
安否を確認してくるセシルに、笑って応えながら、通信機越しに
「流石にこいつは耐えられないだろ。アルテミシアがいなくてもやれるもんだならあたしらもよ」
「油断しないでアシュリー。何が起きてもおかしくない相手なのよ」
大物を仕留められたことに、興奮を隠しきれないアシュリーへ警告するセシルだが、彼女も興奮を抑えきれない様子であり。通信機越しから聞こえる息づかいからも、レオノーラも同様であることが伺えた。
「わーってるよ。最後っ屁は御免だからな――」
口調こそ軽いものの、サブマシンガンを構え警戒しながら相手の安否を確認に向かうアシュリー。だが、その足取りが不意に止まる。
何かに驚愕するように動きを止めた仲間に、セシルは何事かと思い、呼びかけながら向かおうとし、目を見開いて彼女も動きを止めてしまう。
彼女らの視線の先には、燃え盛る炎の中を、歩きながら向かってくるヴォルフの姿であり。装甲の至る所に亀裂が走り、露出している肉体は高熱で炎症を起こしており、満身創痍である筈の状態でありながら、足取りはそれを微塵も感じさせず、発せられるプレッシャーは更に増し、まるで精霊と相対しているのかと錯覚する程であった。
『見事だ。貴官らに敬意を表し、全力でいかせてもらう』
「な、消え――」
一瞬のことにアシュリーが瞠目すると、彼女の目の前に現れたヴォルフの膝が腹部にめり込むと、吹き飛ばされ建物の外壁に叩きつけられる。
「アシュリー!?」
肺から息を吐き出しながら崩れ落ちていく仲間に、セシルは意識を取られるも。自分目掛け跳んで迫って来くるヴォルフの気配に、咄嗟に後ろに跳んで距離を取ると、ヴォルフの回し蹴りが空を切る。
攻撃後の隙を狙いセシルはアサルトライフルを放つも、ヴォルフは機体本体のブースターを吹かして跳躍すると、建物の外壁を蹴って移動しながら回避していく。
「あんな状態でなんて機動をッ」
爆発のダメージで殆どのスラスターが破損しており、機能している僅かなスラスターのみで姿勢を制御しているヴォルフに、驚愕の色を隠せないセシル。
「(動きが捉えきれない!?)」
彼女の動体視力をもってしても、残像が見える程の高機動で翻弄してくる敵の技量に内心舌を巻きながら、両腕部のガトリングで牽制しつつ肉迫し放たれた蹴りを、脚で受け止め弾き返すセシル。
「レオ!!」
通信機越しに合図を送り、レオノーラがスナイパーライフルの引き金を引き。放たれた弾丸がヴォルフの頭部目掛け直進していく。
ヴォルフはブースターとスラスターを最大まで吹かし。常人では耐えられない負荷をかけながら回避行動を取ろうとするが、それを見計らったように突進してきたアシュリーに密着されて阻まれる。
決まったっ!と三人が勝利を確信する中、ヴォルフは取り乱すこともなく左腕を弾丸へと突き出し、手の平で受け止めたではないか。弾丸は手を容易く貫通するも、着弾と同時に手を捻ることで強引に弾道を捻じ曲げたことで、頭部スレスレを飛んでいき回避することに成功したのだった。
「マジ…かよッ!?」
余りにの非常識な光景に、ただ唖然とすることしかできないアシュリーを、肘打ちで引き剥がしてから膝蹴りで吹き飛ばし、再び外壁に叩きつけるヴォルフ。
そこから再度放たれた狙撃を跳び込むようにして避けると、地面を転がりながら落としていたランチャーを片手で掴み、起き上がることなくレオノーラのいる方角へと構えて発砲した。
「う、うわわわ!?」
放たれたビームは寸分の狂いなくレオノーラへと向かっていき。咄嗟に倉庫の屋上から飛び降りて回避するも、続けて薙ぎ払うように放たれた線状のビームが倉庫の外壁を崩していき、崩落した瓦礫の下敷きとなってしまう。
「ッレオ!!!」
通信機越しに安否を確認し、微かだがうめき声が聞こえることと、データリンクから送られてくるバイタルから、取り敢えず無事であることに安堵するセシル。
それと同時に、この状況を打開すべく思考を巡らせるも、自分しか動ける者がおらず打つ手がないことに歯噛みすることしかできなかった。
そんな彼女に、ヴォルフは推進器を吹かして、逆立ちしながら跳ねるように起き上がると。ガトリングをセシルの足元に放ち、砂塵を巻き上がらせて視界を塞ぐ、強風のためすぐに晴れるも敵の姿は視界から消えており、その場から離脱すべきと判断し移動しようとするセシル。
「ッ!」
センサーが頭上から接近する物体をキャッチし、銃口を向けると、複数のスラッシュリッパーが降り注いできており、回避のために足を止めざるを得なくなる。
「しまッ――」
敵の狙いに気づいた時には、ヴォルフが懐に潜り込んで来ており、ライフルを蹴り落とされその勢いを利用して回し蹴りの態勢を取った。
ここまでか!と諦めかけた時、何かに気づいたヴォルフがホバリングしながら後退し。上空から飛来したレーザーが彼がいた地面に着弾した。
「アルテミシアッ!!」
「遅くなってごめん!!皆無事!?」
セシルの側に、ユニットを纏ったアルテミシアが降り立った。CR-ユニットの調整が終わり急いで駆け付けたようで、少し息が乱れているもすぐに息を整え落ち着けている辺り、流石といった所だろう。
「ええ、アシュリーもレオも気を失っているだけよ」
仲間達の無事を確認しホッと安堵すると、アルテミシアは警戒し様子を見ているヴォルフへと相対する。
「後は私に任せて、セシルはアシュリーとレオをお願い」
「…わかったわ、気をつけてね」
アルテミシアといえど、1人で戦わるべき相手ではないが。ユニットの推進剤の残量等から、自分がいても足手纏いにしかならないと考え、他の仲間の安全の確保を優先させるセシル。
「……」
『……』
セシルが離脱していくのを背中越しに確認すると、相手の状態を見極めていくアルテミシア。対するヴォルフも彼女の装備等を観察し戦略を組み立てていく。
そんな折、ふとアルテミシアが構えを解きながら口を開いた。
「…あなた、そのままだと死んでしまうわ。お願い投降して」
『断る。掴める勝機をみすみす手放すつもりはない」
外傷と息づかいから、今すぐに治療が必要な状態であると見たアルテミシアは、投降を促すも。それを拒絶し、ランチャーの斧型の銃剣を展開しブースターの出力を高めてき突撃態勢を取るヴォルフ。
その揺るぎない闘志を宿した瞳に、アルテミシアは何かを思案するようにそう、と目を閉じると、何らかの覚悟を決めたように見開き。レーザーライフルを手放し、新たに手にしたレーザーブレードを両手をを交差させて上段に構える。
「……」
『……』
仕掛けるタイミングを探り合う中、風に飛ばされたポリバケツが両者の間を横ぎり視界を一瞬遮った。その瞬間を逃さずヴォルフは機体を前進させ、限界まで引き絞られあ矢が放たれたように猛烈な勢いで突進していく。
それに対して、アルテミシアは迎え撃たんとブレードを振るう――ことなく手放し、無防備な姿を晒して棒立ちとなったではないか。
『!?』
これには流石のヴォルフも動揺で目を見開き、思わず銃剣の切っ先を逸らしてしまう。それによって刃はアルテミシアから外れるも、勢いは止められず彼女を押し倒すようにして地面を滑りながら倒れるのだった。
『――どういうつもりだッ。死にたいのか貴様!!』
テリトリーで保護していたため、ダメージは受けていないようだが、あどけない表情をし澄んだ瞳で見上げてくるアルテミシアに、意図が読めず苛立ちを隠せず怒鳴るヴォルフ。
「ごめんなさい。本気で戦うべきだってわかっているのに、どうしても今のあなたとは戦いたくないって思っちゃったの」
『~~~~俺が手を緩めなかったら、どうするつもりだったんだ!?』
「あなたならそうしてくれるかなって。セシル達の仲間のこと、できる限り傷つけないようにしてくれていたから」
とんでもないことを言い出すアルテミシアに、ヴォルフは頭を抱えたくなる衝動に駆られるのだった。
『そんなことで死んだらただの馬鹿だろうが!!』
「うん、そうだよね。アシュリーにも良くおバカだって言われちゃうんだ」
えへへ、と屈託なく笑うアシュリーに、ヴォルフは毒気が抜かれたように呆れ果てた目を向けることしかできなかった。
何とも言えない空気に包まれる中、側にある建物が戦闘の余波の影響で崩れ始め、瓦礫が2人へと降り注いでいく。
『ッ!!』
咄嗟にヴォルフは、アルテミシアを抱きかかえながら横転し回避する。
「ありがとう…。――?」
アルテミシアは助けてくれたことに礼を述べるも。返事がないことに不審に感じながらヴォルフの様子を見ると、どうやら避けきれなかったようで、頭部の装甲が大きく破損しており、かなりの量を出血しながら意識を失っているではないか。
「!!そんな…ッ。しっかりして、ねぇ!!!」
必死に声をかけるも反応はなく、弱弱しい息づかいで徐々に血の気が失われていくヴォルフ。一般的な応急手当を施しても手遅れになると考えたアルテミシアは、意を決した顔で頭部の傷口に手を添え意識を集中させるのであった。