ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第九十七話

勇に斬り裂かれ苦悶するように叫ぶアシュクロフト・モンスターだが、直ぐに再生能力が働き傷口が塞がり始めてしまう。

それを遠く離れた位置から見ていたアシュリーが、もどかし気に拳を己の掌に打ち付ける。

 

「――くそっ、あれでも堪えてねぇのかよ!!」

「…いや、そうでもない」

 

折紙が指摘した箇所を凝視すると、再生こそされているも、瞬時に万全な状態になっていた今までよりも、その速度は遥かに遅くなっていた。

 

「再生が追いついていない?あの異常な再生力も無制限という訳ではないのね」

「つっても、あたしらこのまま見ていることしかできねーのかよ!!」

「で、でもアシュクロフトもなくなっちゃったし、今のままじゃ足手まといにしかならないよぉ…」

 

リアライザが使えるとはいえ、ユニットもない身では丸腰よりは多少マシと言える力しかなく。安全圏から見ていることしかできないことに、歯噛みすることしか彼女らにはできなかった。

 

「折紙!」

「日下部大尉」

 

そんな彼女らの元に、ASTを連れた燎子が降り立つ。

 

「無事みたいね。美紀恵はあっち(前線)?」

「そう。でも、まだ戦力が必要。だから、装備を貸してほしい」

「状況は把握してたから。はい、ユニットは流石に無理だったけど、あんたの武装」

 

そういって、アサルトライフルとレーザーブレードを手渡す遼子。そこにセシルが声をかける。

 

「日下部大尉。こんなことを言う資格がないのは重々承知しているけれど、私達に装備を貸してほしいの」

「アルテミシアを助けたいんだ!!終わったらちゃんと出頭するし、どんな罰でも受けるから、頼むよ!!」

「お、お願いします!!」

 

縋るような目で懇願してくる3人に、どうしたもんかと頭を掻く燎子。事情を知ったとはいえ、当然ではあるが、テロリスト認定されている相手に、そんなことは立場上許されはしないのだ。

 

「大尉、私からも要請したい。今の彼女らなら信じられる(・・・・・)

「…………はぁ~。わかったわ、拒否ってそのまま突っ込まれても困るし、ほら、これ使いなさい」

 

盛大に溜息をつくと、観念したように自分の装備をセシルに渡すと、部下にアシュリーとレオノーラにも貸すように指示を出すのだった。

 

「!ありがとう大尉…!」

「返せるやつはちゃんと返しに来なさいよ、ウチだって予算は限られてるんだから。ただでさしょっちゅうぶっ壊すのが最近までいたから」

 

冗談抜きで、と中間管理職としての悲哀を見せる燎子に、折紙がどこか気まずそうに視線を逸らしていた。

 

「え、ええ。気をつけるわ」

「セシル~!アシュリーがもう行っちゃったよぉ!」

「ああ、もうあの子は!!」

 

うおおおおおおお!!と猪突猛進を体現するように突っ走っていくアシュリーに、引き止めきれなくて涙目になっているレオノーラも含めてフォローすべく、駆け出すセシルなのであった。

 

 

 

 

『シッ!』

 

襲い来るソルジャーの首元に、手刀を突き刺し捩じ切るヴォルフ。

勇から受けたダメージによって動きを止めたアシュクロフト・モンスターを目指すヴォルフと美紀恵。

千載一遇の好機を逃したくない彼らの都合など構うことなく、ソルジャーは襲い掛かるのだった。

 

「邪魔をしないで下さい!」

 

無駄であるとはわかっているが、苛立ちを隠せず叫びながら打ち倒していく美紀恵。

次々と味方が倒されていくも、何の感情も持たない無人のソルジャーは、臆することもなく攻撃を加えてくる。

 

『流石に数だけは多いものだな』

 

キリがない状況に、流石のヴォルフも悪態ついていると、背後から飛来してきた無数の弾丸がソルジャーに襲い掛かり、陣形を乱す。

 

「オラァァァ!!」

 

その隙に飛び込んできたアシュリーが、サブマシンガンから持ち替えたレーザーブレードで敵を斬り伏せていき、そんな彼女を折紙がアサルトライフルで援護していく。

 

「アシュリー、折紙さん!!」

「へっお前だけにいいカッコさせてられるかよ!」

「援護する。あなたは前だけを見て」

「はい!!」

 

一方で、ヴォルフに斬りかかろうとしていたA型を、セシルがハンドガンで牽制しながら接近し蹴り倒す。

 

『すまん、助かった』

「あなたには個人的な借りもあるからね。さあ、先に行って」

『ああ』

 

先に進もうとするヴォルフを砲撃しようとするB型を、レオノーラがスナイパーライフルで狙撃して沈黙させる。

 

「こ、こんなことしかできなくて。す、すみません」

 

何故か謝ってくる彼女に、ヴォルフはサムズアップで感謝を伝えるのだった。

 

『――――!!』

 

完全ではないが、ある程度の再生を終えたアシュクロフト・モンスターが、近づいてくるヴォルフと美紀恵に対し、片手を振り上げ迎撃の構えを取る。

ヴォルフはすぐに回避行動を取るが、限界を超えて動き続けていた美紀恵は足がもたれて転倒してしまった。

 

「あうっ!?」

『岡峰美紀恵!!』

 

ヴォルフがカバーに入ろうとするよりも早く、振り下ろされた手が美紀恵を押し潰した――

 

「――?」

 

かに見えたが、痛みもなく思わず閉じていた目を美紀恵は開けると。割って入った響が手を受け止めて抑え込んでいる姿が飛び込んでくる。

 

「響さん!!」

「大、丈夫、美紀…恵ちゃん…。あぐッ!?」

 

完全に抑え込めてはおらず、徐々に力負けして押し込まれ始める響。

 

「ク、うぅ――」

 

どれだけ頑張ろうとも、ただ痛くて苦しくて辛いことしかなく、良いこと等何一つ起きはしないかもしれない。

 

「(それでも――それでも!!)」

 

今までもこれからも、誰かを助けることに後悔なんてしたくない。幼馴染や周りの人達の笑顔を護りたいとこの生き方を選んだのは自分なのだ、だからこそどれだけ惨めで無様だろうと最後まで諦めたくはなかった。

 

「(――いや、違う!!友達を助けたい!それ以外の理由なんかいるもんか!!)」

 

理屈だ正論だなんてどうだっていい、ただ、目の前で友が困っているから力を貸す。少なくとも、今この場ではそれだけで自分には戦う理由になるのだから――

 

「歌え、心のままにィィィィィィ!!!」

 

折れかけていた膝に喝を入れると、押し込んでいた手が止まり拮抗状態となる。

 

『――――!?」

 

それどころか逆に徐々に持ち上げていき、遂には完全に押し戻すことに成功する。

 

「!立花!?」

「何だっ奴の歌テンポが変わりやがっただと!?」

 

響の変化に翼とクリスが驚愕する。

今までと異なる迷いを捨てて突き進む覚悟と勇気、そして、誰かを助けたいという優しさに溢れた――初めてシンフォギアを纏った時と同じ力強いものへと戻っていたのだ。

 

「こんのぉぉぉオオオ!!!」

 

踏ん張りを利かせながら、手が浮かぶ勢いで押し返すと右腕を引きながら正拳突きの構えを取る響。それに合わせるようにガングニールの腕部装甲が変形を始め銃の撃鉄を起こすように展開されエネルギーをため込んでいく。

 

「ぶち抜けぇぇぇぇエエエエ!!」

 

右腕を突き出すのに合わせて、撃鉄が弾丸の雷管を叩くように装甲が連動し、爆発的なエネルギーが開放されていき。再び迫ってきた手に拳が叩きこまれるのと同時に一点に撃ち込まれ、手どころか腕までもを貫通していき、肩を突き抜けるのと同時に衝撃が内部で拡散し、腕を木っ端微塵にして粉砕するのだった。

 

 

 

 

「何が起きた!?」

 

特異災害対策機動部二課司令部にて、戦況をモニタリングしていた弦十郎が響に起きた変化に驚嘆の声を上げる。

 

「響ちゃんのフォニックゲイン値が安定――いえ、これまでにない数値に上昇しています!!」

「!これは、ガングニールのアームドギアが起動しています!!」

 

オペレーターのあおいと朔也の報告に、何!?と更なる衝撃を受ける弦十郎。モニターに映る響はこれまでと変わらぬ無手のままであった。

 

「了子君、これは…」

 

隣にいるシンフォギア第一人者に問いかける視線を向けると、手元の端末で分析していた彼女は、多分だけど…と確証の持てない様子で意見を述べる。

 

「シンフォギアシステムは装者――つまり使用者の精神に強い影響を受けるわ。だから、同じ聖遺物をベースにしていても、用いる者によって仕様にも差異が生じるの。きっと響ちゃんの奪うためではなく、護るために戦うという想いに応える形で顕現したってところかしら」

「敵であろうとも人は傷つけずに戦う――そのための徒手空拳という訳か」

 

だが、それは何よりも過酷な茨の道だ、と弦十郎は不安の隠せない目で響を見守るのであった。

 

 

 

 

「美紀恵ちゃん!!」

「うん!!」

 

美紀恵が態勢を立て直している間に、ヴォルフがアシュクロフト・モンスターへと肉薄し、彼女もそれに続く。

 

「――――!!」

 

2人を阻もうと、アシュクロフト・モンスターが、装甲を針山のように変化させ突き出してきたが。そこに勇が割って入る。

拳に念を纏わせるのと同時に、ムラサメの腕部装甲が変形し、ボクサーグローブのように拳を覆う。

 

『ガイスト・ナックルッ!!!』

 

迫る針に拳を叩きつけ、増加された装甲が衝撃を増大させ広範囲に拡散した余波が全ての針を粉砕する。

 

「隊長!!」

『そのまま進めェェ美紀恵(・・・)ッ!!』

 

今度は脚部の装甲が変形し、脛から先に装甲が集中する形になり、ブースターを最大に吹かしアシュクロフト・モンスターへと加速していく勇。

 

『カタパルト・キィィィック!!!』

 

勢いそのままに叩きこまれた蹴りは、増加装甲によって先程同様に増大された破壊力は、相手の装甲を軽々と粉砕し、深々と抉り取っていくのだった。

 

『――――!?!?!?』

 

衝撃の余波で全身に亀裂が走り、息も絶え絶えといった様子で弱弱しく唸ると、地面に倒れ伏した。

その機を逃さず、ヴォルフと美紀恵がアシュクロフト・モンスターへと取りつこうとする。

 

「ヴォルフさんそこです!!そこにアルテミシアさんが!!」

『!そこか!!』

 

美紀恵が指さす先――露出したアシュクロフト・モンスターの中心部に降り立つ両者。

そこには、チェシャー・キャット以外のアシュクロフトのコアが埋め込まれていたのだった。

 

『ッ!』

「わわ!?」

 

コアへ駆け出そうとする彼らを、足元の装甲がスライムのように蠢き、触手のように変化すると全身に纏わりつき拘束されてしまう。

 

「――ぁ――ある、て…みしあ――ワ、ワァタ…サ、ナァィィィィィィィ!!!」

「ッ!?み、ミネルヴァ・リデル!?」

 

コアを覆うように変化した装甲が、人の顔形作っていきアシュクロフトに取り込まれたミネルヴァの顔が浮かび上がる。

 

「ヨ、ヨコセェ…アルテ、ミシアァヲォ――ヨコセェェェェェェェェ!!!」

「ッ!?ひ、引き込まれていく!?」

「チッ、しつこい奴だ」

 

美紀恵の体が、足からめり込むようにアシュクロフト・モンスターへと引き込まれていってしまい、ことここに至って自我を残しているミネルヴァの執念に思わず舌打ちをするヴォルフ。

 

「あ、アルテ…ミシ、アァァ――こ、コンド…こそォひ、ヒトツぅぅ二ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「――!!アルテミシアさんは、あなたの物なんかじゃありませんッ!!!」

 

美紀恵は渾身の力を込めて片腕だけ拘束を引き千切ると、キティファングでヴォルフの拘束の大半を斬り裂いた。

 

「ヴォルフさん、後は頼みます!!」

『ッッッ!!!』

 

残る拘束を自力で脱すると、最大加速でコアのある場所まで跳び込むヴォルフ。

 

「ヴぉォルフ、すとらァァァァジぃぃぃぃ!!!」

『アルテミシア、今助けるッッッ!!』

 

ミネルヴァのことなどどうでもいいと言わんばかりに、顔に手刀を突き刺すと、内部にある全てのコアを抉り抜くのであった。

 

「―――――――――!!!」

 

ミネルヴァが声にならない断末魔を叫びながら、アシュクロフト・モンスターに走る亀裂が広がっていき、最後には積もった流砂が崩れ落ちるかの如く、崩壊していくのであった。

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