ワールド・クロス   作:Mk-Ⅳ

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第九十八話

「たぁッ!」

 

十香の振るった鏖殺公(サンダルフォン)を、れいは弓形態のまま刀身を滑らせていなし、至近距離で顔面目掛けビームを撃ち込む。それを、驚異的な反応速度で顔を逸らし避ける十香。

その間隙を縫うように、れいは弓から剣へと変形させ無防備となった胴体に刺突を放つと、四糸乃が生み出した氷の壁が阻む。

 

『チッ!』

 

足元が凍りつき始めていることに気づき、即座に跳び退くれい。壁を生成するのと同時に、四糸乃は相手を拘束しようと地面の凍結も行っていたのだ。

 

「すまない助かった四糸乃」

「い、いえ。これくらいしかできませんから」

『にしてもあいつ強いね~。こりゃちょっと骨が折れるかもね~。ま、よしのんには骨ないんだけど!』

「ムッそうなのか!?よしのんはタコさんとかと一緒なのか!?」

「その、よしのんは体は人形なので…」

 

そんなやり取りをしていると、アシュクロフト・モンスターが断末魔のような叫びを上げながら崩壊を始めていくのが見えるのだった。

 

『お、イサムン達が上手くやってくれてみたいだね~』

「どうする?まだ戦うか貴様は?」

 

ならば相手になってやると、剣を突きつける十香。

 

『……』

 

対するれいは冷静に状況を分析する。引き連れてきたソルジャー――ソルダートは壊滅状態であり、あの怪物が倒された今、これ以上この場でできることなど皆無となってしまった。

元より意味のない戦いなのだ、ここで退くのも頃合いであろうと判断し武器を降ろす。

十香らとしても、倒すことが目的ではないので、退くであれば追う理由もないので彼女らも警戒はしつつも武器を降ろす。

 

『…………あなた達はもう、私とは違う』

 

暫しだけ2人を見つめた後にそう言い残すと、れいは踵を返し撤退していくのであった。

 

「???どういうことだ?」

「さ、さあ?」

『ん~わかんない』

 

その意味がわからず、首を捻ることしかできない十香と四糸乃。ただ、彼女の目はかつて世界のどこにも居場所がなく、諦観してしまっていた頃の自分達に、どことなく似ているように感じられたのだった。

 

 

 

 

「あたた…」

 

砂上となって崩壊していくアシュクロフト・モンスターから、美紀恵は放り出されるように地面を転がる。

 

「岡峰さん!!」

「美紀恵!!」

「セシルさんアシュリー、皆さんご無事でしたか」

「ああ。…本当に終わった、のか?」

 

インスペクターも殆ど駆逐されたことで、先程までの喧騒から一転し、静寂が訪れる中アシュリーが思わずといった様子で呟く。

 

「その筈ですが――ヴォルフさんと、アルテミシアさんは?」

「いや、見てねえ。一緒じゃねぇのかよ?」

「そうなんですが――まさか、あの中に!?」

 

最悪の事態を思い浮かべ、慌ててアシュクロフト・モンスターの残骸の山に駆け寄ると、手で掻き分けていく美紀恵。

他の者達もそれ続き、暫くすると美紀恵の眼前に鋼鉄の腕がズボッと突き出して来たではないか。

 

「にゃーーー!?」

 

仰天してひっくり返って尻餅をつく彼女をよそに、生えてきた腕の周りの残骸が盛り上がっていきハウンド――ヴォルフの頭部がボコッと生えてきた。

彼は周囲を見回すと、眼前にいる美紀恵に何事もないかの如く話しかけてきた。

 

『よう』

「ど、どうも…」

 

ホラー映画顔負けの登場の仕方に、目を点にしてバクバクと心臓を鳴らす美紀恵を尻目に、のっそりと這い上がるヴォルフ。

 

「――じゃなくて、アルテミシアさんは!?」

『そう騒ぐな。――おい、何か言ってやれ』

『…………き………ぇ……………美紀、恵ちゃん』

 

差し出された右手が開かれると、握られていたアシュクロフトのコアが露出し、通信機越しにノイズ混じりだがアルテミシアの声が聞こえるのであった。

 

「アルテミシアさんッ!!」

『ありが…とう…。セシル、アシュリー、レオも…。また、皆に会えて…嬉しい…』

「はいッ…!はいッ…!」

「アルテミシア――」

「アルテミシアぁ!!」

「無事で、よがったよぉぉぉ!!」

 

友の無事に、思わず感動の涙を流す少女達。その光景をヴォルフは暖かな目で見ていた。

 

『…ヴォルフも、ごめんね。また、助けられちゃったね…』

「為すべきことしただけだそれより、今は休んでいろ」

『うん…ありが、とう――』

 

その言葉を最後に、アルテミシアの声は聞こえなくなるが。美紀恵はアシュクロフト・モンスターが出現した時とは違い、彼女の存在が消える感覚はなく、確かにその温もりを感じられていた。

不安な様子を見せるセシルら3人に、そのことを伝えると、それぞれ安堵するように息を吐いた。

そんな彼女らの元に勇が降り立った。

 

『美紀恵!』

「隊長!」

『やったんだな』

「はい。アルテミシアさんも皆さんも無事です』

『そうか、良かった』

「隊長が力を貸して下さったからです。本当にありがとうございました」

 

感謝を述べる美紀恵に、勇はゆっくりと首を横に振った。

 

『君が最後まで諦めなかったこと、何より彼女達を信じたからこそだ』

 

そういってセシル達に視線を向ける勇。

 

『敵対した者であろうとも、真実を掴むために信じきった君の優しと強さが、この結果を掴み取れたんだ』

「隊長…」

『美紀恵。君がいたから皆の笑顔を守れたんだ、共に戦えたことを誇りに思う」

「――ありがとう、ございます!」

 

敬愛する人に一人前として認められたことに、感極まり涙を流す美紀恵。そんな彼女の頭を優しく勇は撫でるのであった。

そこに、そこにヴォルフが声をかけるのだった。

 

『岡峰美紀恵。お前にこいつのことを頼みたい』

「私に、ですか?」

 

差し出されたアシュクロフトのコアに、美紀恵はどうすべきか困った様子でヴォルフを見る。

 

『そちらで解決したことにすれば、あいつが目覚めてからの問題は少なくなる。そうだろうお前達?」

 

確認するような視線を向けられ、セシルらは同意するように頷いた。

 

「そうね。私達3人は犯罪者として裁かれるけど、アルテミシアはただの被害者だもの、彼女には平穏に生きてほしいもの」

「ですが、DEM社のことが…」

『その点は取り敢えず問題ないよ岡峰伍長』

 

懸念を示す美紀恵の元に、勇太郎が姿を現す。

 

『確たる証拠を掴んだ以上、もう奴らもとぼけてはいられんさ。軍部も庇いきれんとして、今回の件に加担した者の切り捨てが始まっているし、これ以上の妨害はもう起きんよ。それに、彼女ら3人も無罪放免とはいかんが、減刑できるよう紫条指令が各方面に働きかけてくれている』

「本当ですか少佐!?」

『ああ。だから、事後処理については心配しなくていいさ。君の為すべきことをするといい』

「…わかりました。では、アルテミシアさんのことは責任を持ってお預かりします」

『頼む』

 

美紀恵はヴォルフからコアを受け取ると、さした重量のない物でこそあるが、そこに宿る命と託された願いの重さを感じ取りつつ、それらを取りこぼさないよう両手でそっと包み込むのだった。

 

『我が宿敵――天道勇よ。お前にも借りができたな』

『軍人として――いや、人としてすべきと思ったことをしただけだ。礼はいらないさ。だから、俺に遠慮しようとか考えてるんなら、遠慮なくぶちのめしてしょっぴいてやるよ』

 

深々と頭を下げてくるヴォルフに。勇はあえて挑発するかのように、握りこぶしをもう片手の平に軽く打ちながら、不敵な笑みで応えた。

そんな彼に、ヴォルフはふっ、と愉快そうな笑みを浮かべる。

 

『そうか。ならばお前は俺がの全てをかけて討たせもらう。戦場で相まみえようぞ我が宿敵』

『…それはいいが。取り敢えずその宿敵って呼び方は止めろヴォルフ(・・・・)。小恥ずかしいわ』

『何だ、嫌か』

『当たり前だ、そんな中二臭いもん』

『そうか。では()、いずれ雌雄を決しよう』

 

そう言い残すと、その場を去ろうと背を向け歩き出すヴォルフ。そんな彼をセシルが呼び止めた。

 

「私達からも礼を言わせて、アルテミシアを助け出せたのは、あなたのおかげでもあるのだから」

『…これからはあいつと静かな場所で生きろ。あいつも、お前達も甘すぎて戦場は似合わん』

 

それだけ言うと、待機していた仲間を連れて去っていくヴォルフ。戦いの激しさを物語るように、皆少なからず傷を負っているも、それを苦とも感じさせない様子でキリエらは付き従う。

それを見送る勇らの中で、燎子が勇太郎に声をかける。

 

「よろしいので少佐?」

『流石に今戦り合ってもこっちもただでは済まんしな。何より、善意で協力者してくれた者に銃を向けたくないだろ?責任な俺が取るさ』

「いえ、その時は私も取らせて下さい。それくらいは手伝わせて下さい」

 

1人で背負わないで欲しいと目で訴えてくる部下に、勇太郎はその肩に手を置きながらありがとう、と微笑むのであった。

 

 

 

 

帰路に着くヴォルフは、背後にいる部下らに視線だけ向けながら、労うように声をかけた。

 

『お前達にも迷惑をかけたな』

「まったくだつーの。ワガママあ隊長さんは何か奢れよな~。何にすんよ、やっぱ肉?」

「寿司を所望する」

「クリスは何がいい?」

「いや、あたしは…」

「え~行こうよぉ」

『…払える範囲にしろよ』

 

加減のする気のない様子で、ワイワイと盛り上がる部下らに、これから起きる出費に頭痛に襲われながらもどこか楽し気な笑みを浮かべるヴォルフであった。

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