スーパー五色旗に超栄光あれ!   作:戦え民主主義

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超対立

(国政政党を右翼過激派に指定するのは)民主主義に対する重大な打撃だ。

 

 

西歴2025年 アリス・ヴァイデル

 


 

 

 

 

「戦友諸君。私はいま、()()()()()()()へと語りかけている」

 

 

 人民要塞線。

 

 正式な名称は「自由と正義、博愛と高潔と平等を愛する諸人民による圧政からの防護を達成するため魂を捧げるべき施設群」というが、長すぎるので人民線やら五色線(レインボウ=ライン)と呼ばれるアレ。”彼”に言わせるところの本気(マジ)要塞線(ライン)

 

 つまり大要塞壁〈グラン・ミュール〉の実用的バージョンであり実戦的バージョンであり……要するに最初期の対ギアーデ()()戦において多少なりと戦線を押しとどめた防衛施設群。

 

「私は感謝をしなければならない。諸君らがこの地を守り、共和国がもっとも欲してた時間を生み出す盾となったことを。そして謝罪をしなければならない、今日まで諸君の骸を風雨にさらし、諸君を愛する全国民が諸君を顧みることができなかったことを!」

 

 ”彼”の言葉に呼応して、背後に控える軍楽隊が曲を奏でる。

 

 そう。これは共和国の偉大な勝利の一つ。

 連邦からの救援軍の力も借りることである程度の領土――――当然ながら、その領土はとにかく連邦との連絡線確保が最も重視されている――――を奪回した偉大にして大陸最強の共和国陸軍は、この勇者たちの眠る地へとその軍歌を再び届かせることに成功した。

 

 だが、しかし。

 それは鎮魂歌(レクイエム)ではない。

 偉大なる共和国陸軍の体現者であり歴史そのものである彼らを讃える歌ですらない。

 

 ――――油で揚げたタマネギが好き、僕はうまいタマネギが大好き。

 ――――戦友よ進もう、共に進もう。

 

 軽妙なマーチを刻みながら、”彼”は紺青の制服を前に出す。

 〈レギオン〉の砲撃により完全に崩壊した、その堡塁の残骸へと歩み寄りながら。

 

「諸君の名誉と、永遠の充足を約束する――――そして新たなる共和国の盾として、共和国建国の理念に賛同するあらゆる共和国市民を受け入れる。諸君らの後継が、諸君らの名誉と安寧を永遠に守ると誓おう」

 

 そして大空へと語りかけるように。

 

「ここに――――自由と正義、博愛と高潔と平等を愛する諸人民による圧政からの防護を達成するため魂を捧げるべき施設群に駐屯する全将兵の任を解く。爾後のことは大陸随一の共和国陸軍に全て任せるように」

 

 そして、虚空へ向かって敬礼。

 

()ッ!」

 

 弔砲。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()自律式無人多脚戦車M1A4〈ジャガーノート〉の57mm滑空砲が空砲を撃つ。規定通りの間隔を空け、偶数発の空砲を空へと放つ。

 

 ちなみに中枢処理装置(プロセッサー)を収めるハッチの中で必死に耳を終えている搭乗員(プロセッサー)白系種(アルバ)有色種(コロラータ)が半々といったところ。

 こんな耳を痛めるだけの任務で大変申し訳ないが、これも政治である。

 

「それにしても……」

 

 あくまで「無人化」と表現されていた要塞線が陥落したことを認め、ヒトを乗せた無人兵器が国防の中枢にあることを認めるだけでこれだけの労力。これでは共和国内情勢の正常化にどれほど掛かるか分かったものではないと”彼”は嘆息。

 とはいえそれでも、この明るい曲と弔砲が戦友たちを慰めてくれないかと。そう願うように彼は祈るように膝をつき、そっと地面にタマネギをひとつ。

 

 草に覆われた大地。

 レギオンの砲撃に均されたとは思えない豊かな自然。

 

「……これが、十年放置されたあとの国境地帯か」

「閣下?」

 

 ”彼”の呟きを聞き逃さなかったらしい副官が問いかけてくるので、なに大したことではないと返しつつ立ち上がる。

 

「さあ。次に行こう、人民要塞線の次は流血戦線だ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 あなたは白系種(アルバ)だ。

 

 先祖代々、エルガド盆地の少し向こう、ケスタの傾斜で農作物の生産をやってきた家系の生まれだ。

 

 あなたは、自分が白系種(アルバ)の中の()()であるかは知らない。それどころかそんな分類があることも知らない。

 大学で「彼は白銀種(セレナ)だからモテる」と友人が口にしたのを聞いて、そういう属性が存在するのだろうということを辛うじて知っている程度である。

 

 そう、大学だ。

 あなたは農学部の擬似生態(パラバイオ)専攻で学位を取得した。

 

 あなたは世界最高科学先進国である共和国の擬似生態(パラバイオ)学には興味もない。

 ただ農家の息子が最先端農業科学のひとつも修めていないとなれば両親も悲しむだろうという考えから進学して、それで可もなく不可もなく学位を取得した。

 

 そして、戦争が始まった。

 精強な共和国陸軍は連戦連勝を重ねているようなのであなたは気にも止めない。

 そんなことより戦争のエスカレーション、つまり核兵器のようなヤバイ兵器による気候変動の方が気掛かりだ。

 

 しかし、戦争はあなたの家の玄関にもやってくる。

 押し掛けた有色種(コロラータ)は「土地を供出することで85区内での生活が得られる」などと言う。

 あなたは85区がなんなのかを知らない。とりあえず、自分の土地、先祖代々伝わる畑が取りあげられたことだけは分かった。戦時徴用だなんだで、兌換できるかも分からない軍票と引き換えに。

 

 そして、85区内という壁内での生活が始まった。

 

 あなたに与えられた家は集合住宅だ。離れはおろかガレージすらないアパートメント。

 

 あなたに与えられた仕事はライン工だ。流れてくる円筒形の何かに何かを取り付ける。

 

 あなたに家と仕事を与えたのは白銀種(セレナ)だ。ここでようやくあなたは白銀種(セレナ)が共和国における支配階級なのだと知る。

 そしてようやく、あなたは白銀種(セレナ)の"彼"があなたを窮地から救ってくれたことに気付く。

 

 そう。あなたの畑と懐かしい家は、あなたが離れてすぐに戦火の中で消えていたのだ。

 

 だから、あなたは仕方なくこの生活を受け入れる。あなたの新しい支配者となった"彼"は「マトモな方」らしいと同僚が言っていたし、あなたの見逃した不良品を見つける同僚が言うなら間違いないからだ。

 

 それでも、あなたはこの生活に飽きてくる。

 土を弄りたい。枝葉を撫でたい。空がみたい。

 

 もちろんそれは叶わない。

 あなたの家も、畑も、果樹も。

 全てはこの世界に存在しない。

 

 あなたは両の手を見る。

 土の匂いが消え、金属と油の臭いに染まった手を。

 

 どこで間違えた?

 わからない。

 

 農学部出身の自分が、どうして機械弄りを?

 わからない。

 

 いやそもそも、こんな仕事が何の役に?

 わからない。

 

 

『悪いのは――――有色種(色つき)です!』

 

 

 だから、その主張は。

 あなたの心に、すっと届く。

 

 

 


 

 

 

 

 政治家とはその動きの全てが政治である。

 

 特に大統領ともなれば常にパパラッチ、もとい自由民主主義の根幹たる検閲そのほか一切の規制を受けない報道陣の容赦ない視線にさらされ、その一挙手一投足はもちろん欠伸の数すら数えられかねない。

 

 ――――こと、人に会うとなればなおさらのこと。

 

 

「このような場を設けて頂き、感謝しますわ。大統領閣下」

 

 嘘ではないだろう。

 

「こちらこそ、貴女のような豪胆な精神をお持ちの方と食事を出来ること、嬉しく思う」

 

 ゆえに"彼"の発言も嘘ではない。

 

「それにしても、貴女の手腕には舌を巻かせてもらったよ。まさか我が人民共和党の議員を、()()()()()()()()()()()()()()()()とは」

 

 つまり"彼"が言う「豪胆な精神」とは、よくもまあノコノコ出てこられたな、とそういうことである。

 

「あら。偉大な共和国が建国の精神を取り戻しつつある今、民政移管前の強権的な規制は不要ではなくて?」

 

 解説しよう。

 "彼"の目の前で共和国の偉大にして絶対不朽の理論である民主主義を語る女性はイヴォーヌ・プリムヴェール。“原作”においては“聖マグノリア純血純白憂国騎士団”なる“彼”の率いる人民総力戦会議よりも長ったらしく内実の掴めない組織を率いて、“主人公”たちには洗濯洗剤と呼ばれた民族浄化まっしぐらな女性である。

 

 そんなプリムヴェール女史との食事会など楽しくもなんともないのだが、これも政治である。

 

 そう。政治。

 それも選挙という民主主義の一丁目一番地に関する政治である。

 事実上のクーデターによって政権を掌握した人民総力戦会議は、民政移管における混乱を回避するため()()()()()()()が認めた候補者のみを被選挙権保持者、つまり立候補可能とした。

 ……まず前提として、これは民主主義における敗北である。当たり前の話として被選挙権の制限はその年齢にのみ依るべきである。

 

 しかしその制限を求めてきた勢力がいる。

 言うまでもなくクーデター前の議会である。彼ら現職議員にしてみれば「マトモな選挙」をやれば敗北するのは間違いない。制限を設けてどうにかやり過ごそうとするのは当然である。

 

 そして、その企てに"彼"も乗った。

 マトモな選挙をやると"彼"も……つまり軍部と対ギアーデ強硬派の最右翼、そして86区行政府の極一部("彼"は白豚代表なので大半のエイティシックスに嫌われている)にしか地盤のない"彼"は勝てないからだ。

 

 ゆえに"彼"は既存政党である人民共和党に「身売り」をし、大統領選挙への立候補権を獲得。人民共和党は「後ろ楯」を獲得し圧勝、勢いそのままに上院を吹き飛ばし圧倒的な政治的優位を…………

 

 

「(獲得できるわけがないことは、もちろん理解はしていたが)」

 

 もちろん離反工作の動きは知っていたし、なんなら人民共和党の幹事長は選挙後に結成される新党へ移籍するつもりだと義理堅く伝えてきていた。

 それでも、まさか議員の半分が離党とは驚きだ。

 

「そこまで魅力的かね? きみらの革新的国防政策とやらは」

「もちろんですわ、大統領閣下」

 

 そこから続いたプリムヴェール女史のご高説は"原作"ママなので省略するとして。

 

「……要するに、憂国騎士団(きみたち)が求めるのは〈大攻勢〉以前の日常ということであっているかな?」

「あら。随分と無遠慮な言い方をしますのね」

「すまないな。私も忙しい身ゆえ」

 

 主義主張でガチガチになった相手との論戦(レスバ)はごめんこうむりたいのが本音である。

 では本題に入ろうかと“彼”。

 

「連立か閣外協力かはともかく、諸君との協力は政権運営に必須だ。そして我々は偉大な共和国を守護し輝かしい未来へと導く同志だ。同志ならば、腹を割って話そう」

 

 腹を割って話すという建前はともかく、憂国騎士団との連携は避けようがない。

 

「大統領の私。そして与党たる人民共和党の政治勢力はさんさんたるものだ」

 

 大統領職は、まあいい。

 

 しかし上院は共和国の86行政府から選出された議員がほとんど全てを占め、数少ない85区割当ての議席は憂国騎士団に奪われた。

 総選挙時には7割を占めた下院も、半数が憂国騎士団に流れた挙げ句に残りの3割も憂国騎士団に合流したことで第一党の座を奪われている。

 

 そして"彼"がかつて生きた別世界の有色人種国家がそうであったように、下院は上院に優越し、なんなら国家元首の罷免権も持つ。

 つまるところ、下院を占める憂国騎士団の勢力は非常に大きく、超強大である。

 

「私の持ち駒(議員)は下院で四割、上院で二割。憂国騎士団(きみたち)持ち駒(議員)は下院六割と上院一割弱」

「大統領閣下があの上院議員どもを排除しなければ、閣下の上院シンパはもっと多かったのではなくて?」

「ふむ。選挙人投票という古めかしい制度ゆえに世襲制が定着しており(流動性が極めて低く)、きみたちに門戸が開かれることが決してなかったであろう上院議員の座は、余計なお世話だったかな?」

「恩着せがましいのね」

 

 不満そうに鼻を鳴らすプリムヴェール女史。

 今の会話に、下院の過半数を確保できない"彼"が上院を()()できた理由がつまっている。

 

 彼女は機会主義者だ。

 このタイミングでなら下院を取り、"彼"と組めば上院の一部にすら食い込める。だからこそ彼女は憂国騎士団などという組織を立ち上げた。

 

 もちろん、彼女はまさか"彼"が上院議席の配分をを国土面積比例にするとまでは思っていなかっただろうが……。

 

「一票の格差、という言葉をご存知?」

「知っているとも。下院の議席配分が改められる度に話題になる」

 

 民主主義国家においては重大な問題である、一票の格差。すなわち全国民の票が、等しく同じ重みで扱われているかと言う問題。

 

()()()()()()でざっと計算しましたところ、上院における一票の格差はおおよそ150倍を越えます。これは、重大な民主主義の毀損といえるのでは?」

 

 なぜ戦前のデータを使うのだろうかと"彼"は思う。

 どう考えても現在のデータ……85区内に多くの共和国人が逃げ込み86区に踏みとどまった勇敢な市民もその数を相当数減らしてしまった現在のデータを用いた方が一票の格差が大きくなる(政権批判には都合のいい)データが取れるはずなのだが……。

 

 いや、そうか。と"彼"は思い至る。

 目の前の彼女は機会主義者。そして成功する機会主義者とは、眼前の情勢によくよく目を配り、正しい現状分析が出来る者。

 

「ちなみになんだが、戦後(いま)のデータで語ると一票の格差はどうなるんだ?」

「閣下。0の割り算に解はないのですよ?」

 

 エイティシックスは人間ではないのですから。

 一票を0人で割れるはずがないと彼女は言う。

 

「それが()()()()()()というわけか」

 

 ほとほと嘆息しかない"彼"にプリムヴェール女史は微笑む。

 

 やはり彼女は機会主義者だ。

 そして成功する機会主義者とは、徹底的な現実主義者(リアリスト)

 

 ゆえに"彼"は、彼女に最後のリトマス試験紙を垂らす。

 

「憂国はともかく、騎士、騎兵は私も好ましく思っている。連立を組んでくれるなら、副大統領か国防大臣のポストを用意しよう」

 

 そして彼女は、やはり聖母の微笑みで応じる。

 失敗する機会主義者とは、火中の栗を拾う者ゆえに。

 

「謹んでお断りしますわ」

「だろうな。では、貴女と私は敵()()だ」

 

 

 

 翌日、共和国の各紙は一斉に人民共和党と憂国騎士団の連立協議が破談に終わったと報じる。

 

 こうして共和国議会は上院を親エイティシックス派の野党、下院を反エイティシックス派の野党が占めるという超逆風議会となった。

 

 今後大統領は、あらゆる局面において各野党への妥協と配慮を迫られることになるだろう。

 

 しかし。

 

「それでこそ民主主義だ」

 

 

 反対されない(一党独裁)など、過ちのもとでしかないのだから。

 

 

 

 

 




【一票の格差は150倍?】

①85区は関東地方ほどの面積(2万平方キロ)とされており、元ネタとなっているらしい某国の総面積が60万平方キロのため85区と86区の面積比は30倍。
②共和国における有色種の比率は不明ですが、元ネタになっているらしい某国のアフリカ系住民の比率はおよそ2割。

①と②を鑑みると、戦前統計で実施すれば面積比×人口比で白系:有色=1:150となります。

一票の格差について感想でツッコんで頂けたので議会について掘り下げました。

ちなみに海外事例ですと上院は基本的に「土地」の代表であることが多く(アメリカ上院は州ごとに2人ずつ選出するので最大で70倍くらい格差がある)、一票の格差が問題になることは基本ないそうです。下院はもちろん人口比で議席を分配するので、まあ洗濯洗剤が勝ちます。
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