スーパー五色旗に超栄光あれ!   作:戦え民主主義

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超休暇

 

青春とは、人生の一時期だけではない。

それは心の状態だ。

 

長く生きただけで老いる者はいない。

 

人は理想を放棄することによって老いるのだ。

 

 

西歴1922年 サミュエル・ウルマン

 


 

 

 

 

 ギアーデ連邦軍の第86機動打撃群――――正義を国是とするギアーデ連邦のプロパガンダ部隊であると同時に"主人公"たちの新天地であるその部隊――――の次なる派遣先はヴァルト盟約連合に決まった。

 

 

「……とのことですが、内実は休養と訓練を兼ねた保養地での展開演習(バカンス)となります」

 

 副官がそう報告するのを聞いて"彼"は小さく息をつく。

 

「やはり、彼ら彼女らは戦いを止めないか」

 

 分かってはいたこと。

 この世界でも"エイティシックス"は存在する。86区行政府を組織させたところで差別はなくならない。

 

 "雪の魔女"の一件を思い出すまでもなく、差別は白系種(アルバ)の特権ではないのだから、当然だ。

 

「彼らに最高級の葡萄酒とジュースを送ってくれ」

「お言葉ですが、シチューか何かの下味に使われるのがオチだと思いますよ」

「構わない。彼らはそれでも食べ物を無駄にはしないだろうさ」

 

 "彼"が有色種(コロラータ)を「有効活用」したこの世界において、エイティシックスとは単なる有色種の生き残りを意味していない。

 彼らは戦場で磨かれた戦士であり、そして連邦の掲げる正義を共和国の正義(ソレ)よりはまだマシと信じて旅立った…………

 

 

「副官さん。この人また妙なことを考えているから無視していいわよ」

「妙なこととはなんだ。私は崇高なる民主主義を掲げる共和国大統領としてその国民に思いを……」

「あの子達が連邦にいった理由なんて〈ジャガーノート〉より〈レギンレイヴ〉のほうが良かったからに決まってるじゃない」

 

 

 


 

 

 

 数週間前。共和国工廠にて。

 

「〈ヴァナルカンド〉はおろか〈レギンレイヴ〉のライセンス生産権すら獲得できなかった」

 

 〈レギンレイヴ〉は〈ジャガーノート〉の改良型(パクリ)なんだからむしろロイヤリティーを受け取るべきだと主張する人民総力戦会議のメンバーほどではないが、"彼"にも〈レギンレイヴ〉くらいは欲しいという気持ちがある。

 というかもっと高性能の機甲兵器がなければ国土の過半を平坦な地形が占める共和国の防衛は覚束ない。

 

「というわけで主任、ああいう感じの多脚戦車(フェルドレス)を作ってくれ」

「ああいう感じの、と言われましても……」

 

 明らかに困惑の表情を浮かべる車両開発主任。世界最高工業先進国であるサンマグノリアといえど、既存の履帯式戦車と全く異なる技術が求められる多脚戦車に関しては後進国もいいところ。

 

 作れと言われたところで、簡単に作れるハズもないのである。

 

 

 


 

 

 

「いちおう、改良型ジャガーノートの評判は悪くないんですがね」

 

 副官が謎のフォローをしてくるので"彼"は嘆息。

 

「それは初期型ジャガーノートが梱包爆弾よりマシだったのと同じレベルの話だろう」

 

 基本兵装は57mm滑空砲、上下方向への機動(ワイヤーアンカー)を捨てれば88mm滑空砲も装備可能だが……結局は兵装を全て剥いで大口径榴弾砲を曳かせたり、陣地構築時の土木作業担当として使うのが有効というのが前線からの評判。

 

 結局やってることは"原作"で共和国から回収された棺桶と同じじゃないかと嘆く"彼"だったが――――その操作系にテコ入りが入り、改良型ジャガーノートは単体での牽引砲再装填……つまり乗員(プロセッサー)1人で騎馬砲兵としての運用が可能であり、自律式(ホンモノ)無人機の〈スカベンジャー〉を弾薬補給機替わりにすれば砲身が焼け付くほどの急速射撃が出来ることには目が行っていなかったりもする。

 さしもの共和国工廠も改良型ジャガーノートを真剣に改良しているのだ。

 

 ……とはいえ。()()()()()()()()()()()()とは、普通すぎるために()()()()()()のが常である。

 

 

 そして今の"彼"にとって、そんなことはどうでもいい。

 

「いま私が話しているのはギアーデ派遣軍(第86機動打撃群)なる存在に多くの未成年が志願して、そして実際に戦っているという問題についてだ」

 

 そもそもの話、まだ学校に通い青春(モラトリアム)を謳歌するべき年齢の彼らが戦場にいるのはおかしい……おかしいの、だが。

 

「(それでも、結局この国はそれを彼らに強いた)」

 

 彼らがどのような経緯で前線へ赴いたのかは分からない。戦争という騎士物語(ロマン)に掻き立てられたのか、正義への憤怒によるものか、はたまた食い扶持の確保、親兄弟への復讐…………

 

「(そうか。だから"主人公"は進むしかなかったのか)」

 

 "彼"は1区での強制収容を止められなかった。つまり"原作"で起こるあまりに深く救いのない断絶――――そこを発起点とした"首なし死神(アンダーテイカー)"の物語は始まってしまう。

 それが結果として共和国を救うのだから皮肉なものだ。

 共和国が滅亡を免れたことで無傷な市民たち――――それも最後に立ち上がった勇敢な市民たちを除いた市民たち――――はなお戦前の平穏を望み、それが洗濯洗剤の議会での躍進を招くのだから救いがない。

 

「あなた、悲観的になりすぎよ」

「……顔に出ていたか?」

 

 思わず天井を仰ぐ"彼"。

 人民により選出された代表にして自由民主主義の守護者たる第72代サン=マグノリア共和国大統領に「弱み」は許されないというのに。

 

「悲観的なのは、あなたの悪い癖ね」

 

 そんな"彼"をむしろ微笑ましげに見つめる大統領の夫人(ファーストレディ)が、例えば……と口を開く。

 

86区(彼の地)にて鮮血の女王(ミリーゼ大佐)戦帝(しゅきぴ)手勢(連邦軍)引き連れて(救援軍として)帰還する(巻き込んでくれる)のを待ちわびていた、そう考えることは出来ないのかしら?」

「………………」

 

 伴侶の意味不明なルビ振り(しゅきぴ発言)に反応するかしないか、迫撃砲弾が落着するのに必要な時間ほど迷ってから"彼"はそこには触れないことにした。

 彼女が言いたいことは、分からないでもない。つまり"原作"ほど隔絶されていない共和国で、"主人公たち"が早くから絆を深めていたという仮定の話……短絡的に色恋(しゅきぴ)発言に繋がるのは、ちょっと、いやかなり理解しがたいが。

 

「それは、希望的観測というものだ」

「それでも」

 

 私は希望とやらを信じていますわ。

 

「そうよ、いっそ大統領府書記官(プロパガンダライター)にそういう三文恋愛小説でもを書かせてみたら? そしたらエイティシックスからの支持率もうなぎ登り……」

「やめてくれ。大統領府(ここ)は88ミリに耐えるようには出来てないんだから」

 

 言ってから、肩を竦めた彼女の目を見て"彼"は苦笑。

 ――――そういえば、笑えなくなったら負けとは"原作"でも言われていたか。

 

「うん。そうだな。私も外の空気が吸いたくなってきた……しばし大統領府を空けることにしよう」

「あら」

 

 少し嬉しそうな顔をした"彼"の妻であったが、その喜びは一瞬で消え失せる。

 当然、彼女も大統領を支える者(ファーストレディ)として、口にこそ出さなかったが……。

 

 

「外遊だ。ギアーデ連邦へいくぞ」

 

 

 


 

 

 

 荘厳な都市。とはまさにこの硝子細工で出来た街のためにあるのだろう。

 

 ギアーデ連邦における西の玄関口ベルルデファルグ。他国からの来訪者を出迎える(威圧する)目的で帝国時代に作られたここは、世界最高建築技術大国サンマグノリアの産み出した鉄筋コンクリート芸術であるシャリテ市に勝るとも劣らぬほどの巨大芸術といえる。

 

 

「ようこそ。()()()()()()()にして人民総力戦会議議長閣下。私はギアーデ連邦陸軍西部方面軍司令部、参謀長のヴィレム・エーレンフリートだ」

「出迎えに感謝する、エーレンフリート准将」

 

 全くそれにしても、300年前の先進的民主主義者たちにはほとほとため息が出るなと"彼"は嘆息。

 

 大前提として、この惑星(ほし)の国家元首はフットワークが重い。

 かつて"彼"が生きていた世界では列強やらG7やらを名乗る国家の元首たちもホイホイ外遊していたものだが、国防の名目で国際高速鉄道すら国境での乗り換えが必要なこの世界では、国家元首とは首都に留まり数万人の兵士と数千台の装甲車両に守られていなければならない存在である。

 となれば戦時の外遊などもっての他。形式上戦時でない共和国はともかく、ギアーデ連邦側が許さない。

 

 そして、こういう時に便利なのが"彼"の個人的な肩書き……つまり他国における爵位なのだが、圧倒的民主主義を実現した平等国家サンマグノリアにおいて爵位などという反動的存在は許容されない。

 

 で、そうなると"彼"が持ち出せる「肩書き」は予備役階級*1(大統領はシビリアンのため)と人民総力戦会議という()()()()()()()()の首領というものだけ。

 ……そういう点で、政治抜きとはいえギアーデ帝室に近しいノウゼン家に繋ぎを持てる"主人公"がいかに強いかが分かるというもの。まさしくチートである。

 

「それにしても、あの有名な(世界最高(笑))民主主義国家であるサンマグノリアの大物政治家が駆け出し民主主義国家であるギアーデを訪れるとは、どういう風の吹きまわしですかな?」

 

 それにしてもこの参謀長、敵愾心というものを全く隠さない。うーん、人民総力戦会議議長は名乗らないほうがマシだったかなと思うも後の祭り。

 

「かねてよりの懸案であったギアーデ()()が打倒された以上、私のような右派の政治家は暇で暇でしょうがないのだよ」

「ご謙遜を」

 

 嘘つけと顔に書いてある夜黒種(オニクス)の視線を流しつつ"彼"は苦笑。

 嘘をついてでもギアーデ連邦に足を運ぶ必要があったというのは、可能な限り連邦の高官に渡りをつけるため――――というメッセージが目の前の彼に伝わっているのかは分からないが……こんなところまで"人斬り包丁"が出てきてくれたのだ、信じるしかあるまい。

 

「君も私も、無為な時間を過ごすのは嫌いだろう。ゆえに簡潔に、これだけ伝えておく」

 

 "彼"の言葉に、エーレンフリートは周囲を囲む護衛にハンドサイン。

 彼らを取り巻く視線と耳が消えたところで、いよいよ"彼"は本題へ。

 

「機動打撃群の()()()()()に妙な兆候が出ている。どうやら〈レギオン〉はずいぶんと面倒なことを考えているらしい」

「……なんだと?」

 

 瞬間、エーレンフリートの表情、その皮膚の裏側に浮かんだのは強い疑念。まだ若い(おとこ)だ、感情の制御がしきれていないなと"彼"は謎の後方腕組。

 

時間と資源と連帯を毀損するだけだ(勝手に疑心暗鬼に陥ってもらっては困る)から言っておくが、連邦内部(そちらから)の情報ではない。そして機動打撃群に共和国への忠誠がないことは知っての通り……ああ、諸君らが『正義』の名の下に保護した幼子たちも、君らが()()()()検査しているなら、それこそ本当に問題はないハズだ」

 

 言葉とは、あまりにも雄弁だ。

 ましてそれが、共和国を統べる国家元首からもたらされたのならば、なおさらに。

 

「……分からないな」

 

 ()()()()()()()()、エーレンフリートは苦虫を噛み潰したような表情を隠せない。

 

「その言葉、どうして信じろと?」

()()()()()()()()()()()、私が来た」

 

 言ってから、今のは某平和の象徴ヒーローみたいだなと思う"彼"。

 というか今の発言で概ね伝わってしまうあたり、やはり共和国への信頼は随分大きいのだと思わなくもないが……。

 

「……情報は精査させてもらう」

「精査したまえ。そして参謀長に過ぎない君に情報を切り捨てる権限はない。今はそれで十分だ」

 

 では、知りたがりの記者たちに当たり障りのない話でもしに行こうかと"彼"は言う。

 "主人公"たちにとっては壮年(おじさん)に見えても内実は20代後半の青年将校に過ぎない夜黒種(オニクス)の准将は、そんな"彼"の背に化け物でもみるかのような視線を注ぐ。

 

 

「……ああ、そうだ。ひとつだけ妻子持ち(としより)からのアドバイスを」

「?」

「人間、相当に追い詰められないと形振り(なりふり)構わずに動けないものだよ」

 

 

 だからこそ。背後の彼が最後まで立派な男として振る舞えることを。

 "彼"は祈らずには、いられない。

 

 

 


 

 

 

『サンマグノリア共和国大統領のセクハラ発言が顰蹙(ひんしゅく)を買っています』

 

 ギアーデ連邦首都、ザンクト=イェデル。

 最前線とは対称的に静謐を保つ雪の都、その高級住宅地の一角にその邸宅はある。

 

『セクハラぁ?! 信じられないですね!』

 

 コメンテーターの座席(ポジション)に座った男性がわざとらしく声を荒げる。正義で連帯する(つながる)この国において、()()()()()()()()を定義することは諸刃の剣。

 ゆえにこそ、明らかに間違っていることばかりが好んで報道される……「どうあるべきか」ではなく「こうあってはいけない」と、ブラックリストの羅列はどこまでも膨れ上がる。

 

『それでは問題の記者会見映像をどうぞ』

 

 そして切り替わる画面。写し出されるのは共和国の大統領と、憮然とした表情でとなりに佇む夜黒種の青年。

 

『あー、みなさん。どうも、ありがとう。今回の外遊では早速大きな成果を得られたことを嬉しく思います』

『今回の外遊の目的は?』『どんなお話をされたのですか?』『エイティシックスを解放しろ!』

『どのような話をしたか、を答えるのに隣の彼を抜きにしては語れませんな。()()()()、きみのような若者が大勢いる連邦を私は好ましく思うよ』

『…………』

 

『なるほど~、確かにこれはセクハラですね。同性に色目を使うなんて』

『え? あ、いまのってそういうヤツなんですか???』

『その可能性が高いのでは? という疑惑が広まっているわけですね。もちろん、現在の連邦にそういったものを規制する法律は存在しませんが……』

『それを肯定する制度も存在しない。ちなみにサンマグノリアには「同性パートナー」なる概念が存在するそうですよ。いやはやなんというか、前衛的ですな』

 

 ほとんど勝手な空想と思い込みで話を続けるコメンテーター役のスピーカーたち。個人の間でどのような絆を育むのかなんて、それこそ個人の自由に委ねられるべきだろうに。

 それでも、旧態依然とした帝国の諸制度がまだまだ残る連邦において、斯くあるべしという王道から外れたモノが迫害されうるというのが実情だった。

 

「……やれやれ、まったく嫌になる」

 

 そんなテレビ番組からすら滲み出る現実に、しかしその程度では怯まないのがこの邸宅の主。

 安価な大量生産品のスーツに身を包み、しかし威厳はたっぷりに背筋を伸ばす。

 

 ギアーデ連邦の暫定大統領にして革命の英雄。連邦の国是にもある「正義」と、そして自らに課した「理想」を誰よりも求める男。

 

 

「それにしても、大統領。きみは……」

 

 僕の()()()かな?

 

 

 

 

 

 

 

*1
大統領就任前の"彼"の階級は上級陸軍大将なのだが、これは職位に基づく階級であるため正式な階級は大将となる




やっぱり転生ものは原作知識チートしないとですね!

【機体紹介】
・改良型ジャガーノート
正式名称:射手搭乗型自律式無人多脚戦車M1A4-G〈ジャガーノート・ガンナー〉
主な武装:
(G1:通常型)主武装57mm滑腔砲、副武装35mm機関砲
(G2:重装型)主武装88mm滑空砲、副武装12mm機関銃
(G3:対戦車)主武装105mm連装無反動砲、同軸12mm機関銃
(GE:砲兵型・工兵型)武装ナシ

致死的戦闘行為の発生時における倫理的判断の非無人化、いわゆるHITL(ヒューマン・イン・ザ・ループ)に対応した無人戦闘車両。ガンナーとの名前の通り、射撃システムに介入可能な射手が搭乗し対人攻撃が発生しうるシチュエーションにおける倫理的判断を担う。ちなみにこの射手は「自律式コンピューターに代わって操縦も可能である」。



なお、歴戦のプロセッサーは大攻勢以前のF型(伏撃能力と継戦能力に特化したゲリラ戦仕様)や〈レギンレイヴ〉のような暴れ馬チューニングが好みとのことで、これが連邦軍へのエース級プロセッサー大量引き抜きを食らった遠因とも言われている(外交努力により連邦の共和国派遣軍を常駐させることが出来たので、共和国軍事部門は胸を撫で下ろしたとか……)。
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