スーパー五色旗に超栄光あれ! 作:戦え民主主義
民族が必要としているのは、入植のための土地である。
我々は東方に目を向け、そこにある土地を
これは単なる希望ではなく、民族が生き残るための不可避な義務である。
例え話をしよう。
有色人種の作った
これは輸送能力に換算すると1編成定員約1300×17として毎時22000人。24時間運転するとして1日約54万人。
これはほとんど物理的な限界であり、ちょっとやそっとの技術革新でどうにかなる数字ではない――――1編成あたりの車両数を増やすという力技もなくはないが、そんな力技で故障率を上げるより運用実績のある既存編成の数を増やした方がよほど輸送力は増大するだろう。
ちなみに。
それは“原作”での〈レギオン〉による虐殺が起きなかったゆえに生じた、幸福な不都合である。
さて、ここに高速鉄道の車両数を増やさずに輸送人員を増やす手段がある。
それも車体の基本的な設計には手を加えず、むしろ使用資材を減らす形で実現する手段である。
「む、無理だ……こんなの、私には出来ない!」
ゆえに、共和国国有鉄道の職員は頭を悩ませることになる。
それが合理的だと、これが最善だと理解できるから。
「本部長、お電話です」
「ハァ、こんな時に誰が……シャリテ国際高速鉄道車両整備センター、統括本部長のアーカンソーだ」
『私だ………………』
「!!!」
国際高速鉄道の車両整備を一手に引き受ける本部長の顔が引き攣った。
それもそのはず、電話の相手はこの難題をもたらした男。
「自由と民主主義の守り手、五色旗の旗手にして民族統合の象徴、人民により選出されし大統領閣下……!」
『挨拶はいい、
「そ、それは……」
そう。彼に課せられていたのは弾薬運搬車なる国際高速鉄道向け車両の製造。
要するに大量の砲弾を極めて迅速に運搬するための車両である。
『
「はい閣下、いえそれは、しかし」
客車から座席を取り払うだけなら、簡単だ。
『とはいえ、無理なことをやらせるのはそれ以上の無能だ。足りないものを言いなさい。弾薬箱を固定するためのテザーか? それとも車体に用いる複合材料か?』
「違うのです、大統領閣下、違うのです」
では、その座席が取り払われた客車に、本当に弾薬箱などが載るとでも?
本部長は理解していた。理解していたからこそ、それをどうにかして拒みたかった。
『なにが違う? 本部長、あなたが法令上の問題があるというから鉄道大臣に話をつけた。あなたが工員が足りないというから私の工場からエンジニアを派遣した。資材が足りないというから工面した。次はなにが足りない? なにがあれば完成する?』
「う、うぅ…………!」
大統領は本気だ。
本気で高速鉄道の輸送能力を底上げしようとしている。
『本部長。椅子を取り外すだけだ。それだけであなたの祖国への貢献は証明される』
高速鉄道の客車から椅子を取り外すことが、なにを意味しているのか本部長は理解している。
「恐れながら申し上げます。大統領閣下」
『恐れることなどない。あなたは愛国者なのだから』
「では! 愛国者として! このような所業に手を貸すことは出来ません!!!」
『…………』
なぜだ。どこで間違った。
本部長は
本部長は〈大攻勢〉のあったとき銃を手に取らなかった。彼には車両整備センターの長として鉄道輸送を支える使命があったから。
本部長は総選挙で“彼”が選ばれたとき一票を投じた。“彼”は国際物流の回復を、本部長が愛してやまない高速鉄道の運行再開を公約に掲げていたから。
『本部長。私を止めたいならやるべきことはひとつだ。私の主張する「椅子さえ外せば輸送能力は飛躍的に向上する」という仮説を否定したまえ。エビデンスをもって説明してくれ』
無理だ。
高速鉄道は乗客の快適・安全性のために余裕をもって設計されている。椅子がなくなればそれだけ多くの
しかし、それでも、椅子を全部取るのはやりすぎだ。
「それに……椅子がない状態で、なんらかの要因で
『素人の想像で恐縮だが、荷物が慣性の法則に従って車内を動くことで玉突き式に衝突するのではないか?』
それが分かっているなら!!!
本部長は歯噛みするが、それが限界だった。
「閣下、砲弾なら貨物車両でも十分運べます。閣下が運ぼうとしているのは……弾薬箱などではないはずです……!」
『
要するに、こうだ。
数千万の命を救いたければ、1編成の事故で潰れる
『また電話する。努力しなさい』
そして電話は切れる。
本部長の脳裏に浮かぶのは椅子がないの幸いと車内で
そして突然の急制動。揺れる乗客。
1人がよろめき、密着した隣人もまたよろめき、それが何百と折り重なる車内で連鎖していき…………
「…………ぉえっ…………!」
「大変だ、統括本部長が」
「……以上が、今回の机上演習における〈レギオン〉再侵攻による共和国陸軍の被害予想となります」
――――人民総力戦会議。
“彼”の出身母体であり、“彼”の支持母体であり、つまり対ギアーデ強硬論と軍備の拡張を声高に叫ぶ
「やはり、共和国の陥落は必至か」
今日はその定例会議。
どうにかこうにか時間を捻出して出席した“彼”に示されたのは残酷な現実。
「そのようなことはございません。精強無比なる共和国陸軍はその敢闘精神を以ってして任務の遂行に最後まで挑みます」
「うむ。ちなみに連邦軍と
「はっ! やはり被抑圧人民により構成された軍隊は脆弱にして、共和国の
「……大変興味深い結果だな、それは」
つまりギアーデ連邦軍の共和国派遣軍が足を引っ張ることになると?
想定外の検討結果に首を傾げる“彼”。
「彼らには自由と民主主義に基づく敢闘精神が足りません」
「敢闘精神というと、あー……つまり、アレか。民主主義担当官か」
民主主義担当官。偉大な共和国陸軍に一点の曇りも許さぬ純潔さを希求する自由民主主義を体現した将校――――つまり政治将校である。
つまり総力戦会議の結論としては、連邦軍と合同で共和国を防衛する場合、政治将校のいる共和国陸軍と政治将校のいない連邦軍の行動がチグハグになり、戦線の崩壊が早くなったり被害が拡大するということ。
「前提からの確認で悪いんだが、
「制度上は存続しております」
「実態としては?」
「
「それは悲しい話だな。民主主義の擁護者が前線に赴かないとは…………だが、民担がいないなら問題は起きないのでは?」
“彼”のもっともな指摘に、視線を合わせる人民総力戦会議の面々。
「閣下、
「そして閣下、民主主義担当官の任命権は下院国防委員会にあります」
「……なるほど、それは……」
革命政府時代からの伝統である民主主義担当官は国民会議にルーツをもつ下院議会の国防委員会から選出される。
そして下院議会委員会のメンバーは、下院の議員から選出される訳で……。
「となると、下院第一党の
「そのとおりです。そして奴らは決定的タイミングでのみ介入を実施することでしょう」
「
つまりは共和国陸軍が決定的な敗北を喫し、共和国の領土を失陥した時……特に85区を喪失した時に介入すると。
そして、そのような状況における政治将校のセリフは相場が決まっている。
「
口にしてから、“彼”はようやく気付いた。
「まさか、連邦軍が足手まといになるというのは」
「はい。連邦軍に共和国陸軍の弾薬が一定量
「…………」
開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
いや、しかし。現実に共和国は
「いや、いくらなんでもそこまでやるか?
「閣下。ご認識をお改めください。彼らは政治の玄人です。我々のような軍事の専門家とは視点が異なります」
いや君らも軍事の専門家かと言われると怪しいだろと“彼”が口にするより先に共有されたのは共和国内のSNS。
そこに並ぶは国政議員のアカウントとは思えないほど気品のない
「連邦はこのことを?」
「ネットが繋がっていなくとも、共和国派遣軍の面々は知っているかと」
そして、当然ながら共和国派遣軍と連邦は
「……プリムヴェール女史と食事会をセッティングする必要がありそうだな。直ちに遅滞なく」
「手配いたします」
即断即決の“彼”に応じる副官が退出していくのを見て、総力戦会議の一人は聞こえよがしなため息。
「議長。彼らと協調路線を取られるのは良いですが、
「ネットの虚言でいらぬ不興を買うこともないだろう」
「いらぬ不興とは言いますがね」
そこで間を置いた一人は、会議室の全員を見渡す。
「連中の放言に、多少は
団結するには、敵を作るのが早い。
まして身内に「敵」を生み出せば、誰もが「敵」にはなりたくないと必死になって協力する。
そして
そうして最後の1人になるまで、誰かを排斥し続ける。
「そうだ。私ですら命に順番をつける」
外国人より自国民を。
「……第二次大攻勢が起きれば、共和国は今度こそ滅びる」
それはつまるところ。
"彼"の介入が"原作"になんら影響を及ぼしていないことと同義である。
だから、ここからが本当の“原作”介入だ。
民主主義を保ち、共和国を保ち、人類に栄光ある生存をもたらすために。
「五色旗に、栄光あれ」
呟く“彼”に応じる相手はいない。
ここからが本番ですね。