スーパー五色旗に超栄光あれ! 作:戦え民主主義
今日の我々に必要なのは、まさしく政治的な意思に他ならない。
我々には別の次元のリーダーシップが必要だ。
それは当然ながら、集団的なリーダーシップとなる。
私は楽観主義者として歴史に残りたい。
ギアーデ連邦首都、ザンクト=イェデル。
今回は、さすがに騎馬警察を見せびらかす余裕はなかったらしい。
「残念だよ」
とはいえ、事務レベル協議から始めるべきところをいきなり呼び出しというのは……厚遇と言うより「多少は粗相があっても(国際)問題にはならないだろう」と足元を見られていると捉えるべきだ。
「本当に残念だ。軍のお偉方も様々な努力をしてくれたのだけれど、どうにも損害が大きくなってしまったように思う」
具体的な数字はさておき、今回の〈第ニ次大攻勢〉にて連邦軍が被った被害は相当に大きい。
それこそ、全ての戦線にて後退を強いられ、各方面軍が予備戦力を使い果たしてしまうほどには。
「その損害を補填する意味でも、我が市民軍の参入は大きいかと思うが。いかがだろうか」
「いやぁ、その申し出は本当に助かるよ? でもねぇ、そのなんだい」
言葉をやけに濁してから、ギアーデ連邦暫定大統領は口を開く。
「その『市民軍』とやらは、単なる市民により構成されているんだろう?」
「いちおう、合成食糧に文句を言わず、共和国正規軍
「そりゃ、君と違って僕は軍隊のことは分からないけれどねぇ……現代の軍隊ってのは、高度なテクノロジーで動いているだろう?」
その言い回しは以前伴侶も使っていたなと“彼”は思いつつ、紅茶の注がれたカップを口に運ぶ。
「(……この紅茶、天然物か)」
天然物を回してくれる程度には、共和国
「やっぱり訓練されていない兵隊は数合わせにしかならないと思うんだよ」
「その数合わせも、今の
「なってないよ。全くなっていない」
かぶりを振る暫定大統領。
「僕らの国ではね。人命は
そんなこと考えてるのはお前だけだろと言うと
「
「……他国の民を犠牲にして自分たちだけ生き残ることを、正義とは言わないよ」
共和国批判としか思えない台詞を吐く連邦の暫定大統領。
つまりそういうことだ。連邦は共和国を「悪」とした。
「しかし、このままだと連邦内での徴兵が必要になる。違うか?」
「内政干渉かい?」
「ふむ。私が共和国の政府関係者であり、共和国が連邦の政策に口出しているのであれば内政干渉になるだろう」
その言葉に目線だけで疑義を示してみせる連邦暫定大統領。
「共和国はすでに滅んでいる。残されたのは首脳部を失い烏合の衆と化した共和国軍の残党のみ、連邦が責任を取るべき難民は未成年者と少しの成人女性だけ」
「……」
じゃあお前はどういう立場で呼び出しに応じたんだよと首都警察のSP(暫定大統領の護衛)がジットと見てくるが、“彼”は微笑みを絶やさない暫定大統領へと言葉を向ける。
「私は民間のシンクタンク、人民総力戦会議の議長として、連邦の民主主義に奉仕すべく助言をしに来たのだ」
「民間、ねぇ」
一応、構成メンバーは退役軍人と政治家(国政議員だけでなく地方議員も含む)がメインなので民間組織と言えなくはないのだが……あまり説得力はないのでそこには触れない。
「我々の試算が正しければ、我が同胞たる市民軍が戦列に加われば連邦は徴兵という
「その理屈で、きみの国は
「そうだ」
"彼"はその指摘を真っ向から受け止めた。
「人民が気に食わない政策をとる政権は、人民により 打倒される」
民衆に参政権が与えられていない国家においても、民衆が主権を発揮する方法はある。
反乱などという暴力的な手段には限らない、かの民主活動家も非暴力不服従の原則を貫いて民族独立の夢を現実にした。
徴兵逃れ、ストライキ、サボタージュ……人民の力を軽視する専制国家は、最終的には人民により倒される運命にある。
「子供やうら若き女性が戦場に送られるのは、暫定大統領閣下とて本意ではないだろう?」
「連邦はそこまで追い詰められてはいないよ。それに、僕としては正義も大切でね? そのほら、僕らの国は歴史が浅いから」
肩を竦めてみせる暫定大統領。
連邦が未だに国家としての体を保っているのは、民衆が満足する正義の執行と将来的な民主化という未来の保証をしているから……というのは人民総力戦会議の面々に向けた説明じみてはいるものの、一面の真実ではあるのだ。
「それなら、どうだろう。共和国由来のエンジニアリングを連邦の生産能力向上に活用するというのは?」
「技術供与ということかな? それは助かる」
「……意外だな。連邦の産業政策の傾向からして、この場での即決は難しいと思っていたが」
「僕だって政治家の端くれさ」
暫定大統領は疲れた笑みを"彼"にみせる。
「家を失った君たちが、手持ちの財布だけで買い物をするしかないことは知っている」
実際、共和国難民たちが出せるのは自分の身体と持ち込んだ資材だけである。
そして、共和国人を盾にした連邦が……かつての共和国と同じように
最初から、着地点など1つしかなかった。
"彼"と暫定大統領は、即興劇としてそれを口にはせず形にしてみせる。
具体的には実戦経験のある共和国正規軍のみを連邦軍に編入し、残りは後方の生産属領に移送となるだろう。仔細は事務レベルで詰めればよい。
「しかし、徴兵を実施しなければ連邦の予備兵力は尽きる。その避けられない未来はどう対処するつもりだ」
「僕は軍隊の専門家ではないからね。そこら辺は専門家に任せるつもりだ」
「
「…………ここだけの話だよ?」
もったいぶるように暫定大統領。
「新帝朝派の動きが不穏なんだ」
“原作”知識で補強すると、〈レギオン〉停止のために実施される
当然だ。新帝朝派の動きは暫定大統領が保護している「幼女」に危害が及ぶことに直結しうる。
そしてもちろん、部外者の“彼”に暫定大統領はそこまでの事情を明かすことはなかった。
「まぁ僕としてはね? そんなことをするくらいなら人類は滅びた方がいいとは思うのだけれど、それでもまあ、大統領としての務めは果たすつもりだからね」
「
「議長はいられます」
「状況を簡潔に」
“彼”の言葉に応えるため、各
「軍事部門より報告。共和国軍正規軍は連邦西部方面軍に編入。第二次大攻勢より共和国軍に参加した
「人的資源部門より報告。その市民軍について、食料及び軍需品に関わる
「兵站部門より報告。疎開した合成食糧プラントの稼働により、市民軍には必要量のカロリーを供給できております」
「政治部門より報告。ザンクト=イェデルにて亡命共和国政府の設置準備が整いました。ちなみに脱出に成功した国政議員は435名。上院下院ともに定足数を満たし、共和国立法府は健全な状態を維持しております」
「司法部門より報告。第二次大攻勢発生以後に布告された大統領令のうち12個が共和国憲法に抵触するおそれがあります」
「ありがとう」
万事良好である。
人民総力戦会議にてか各部門からの報告(ちなみに共和国政府の各省庁は市民軍の統制にてんてこ舞いとなり大統領の指示を実行できる状況にない)を受けた“彼”は、自由と民主主義の実現のために労力を惜しまない
「さて諸君。知っての通り我々は祖国を追われ、土地なき民となった」
その現実を噛みしめるような沈黙が天幕の中に降りる。"彼"はそのまま続けた。
「連邦は我々を厄介な隣人と思っているだろうが、
戦闘属領の先住民と共和国人(共和国難民)の摩擦は想像するまでもない。
幸い、共和国人は合成食糧プラントの持ち出しに成功し、必要なカロリー摂取と生活廃棄物の処理の両方を一挙に解決している。そのおかげで、両者の摩擦はまだ「混雑して困る」程度で済んでいる。
とはいえ……狩猟により高品質なタンパク源を確保できる先住民と、それを横目に見る共和国人という構図は、近いうちに「事故」を引き起こすことだろう。
「そこで、連邦の民主派と共同作業だ」
“彼”の合図で副官はプロジェクターに端末を繋ぐ。
「これから連邦は崩壊する」
表示される部外秘の資料。戦前の帝国崩壊論を流用したそれ。
「前提を共有する。諸君らにとっては知ったことの復習に近いが……ギアーデ
ギアーデ帝国は、経済・軍事の両面において分業化されている。これは効率化のためではなく統治を容易にするためである。
例えば、貴族 A は鉄鉱石鉱山を所有しており、貴族 B は製鉄所を所有している。両者 それぞれには特権としてそれらの独占が認められている。
だが一つの貴族が鉄鉱石鉱山と製鉄所を所有し、鉄製品のサプライチェーンを独占することはできないようになっている。
そして、生産属領に封じられた貴族が直卒の連隊を持つことは禁じられている。
経済基盤と軍事基盤を同時に持つ権力主体、それは国家と同義なのだから、当然だ。
このように特権を認められつつも、単独では経済的にも軍事的にも自立していない。
それが帝国の貴族であり、貴族が帝国に忠誠を誓う 理由であった。
「数多の人民を直接支配するのではなく、貴族を通じて 間接的に人民を支配する。帝国に軍事と産業の双方を司る貴族は存在しないため、
そのためギアーデは連邦となっても貴族連合という形を取らざるを得なかった。
「だが、長きにわたる戦争がその構造を変えた」
新たに誕生した
最初こそ数合わせのためであったはずの市民たちは、促成教育と度重なる実戦経験のお陰でいまや連邦軍の背骨である下士官、手足である下級士官のほとんどを占めるに至る。
第二次大攻勢が発起するまで、最前線の連邦軍は
「
連邦軍は傷つき、補充兵を迎え入れたことで質が急速に低下している。一方の
「今はいい。
その時、
貴族たちの複雑なパワーゲームが終わるのだ。後はより多くの兵力を持つ
「ことここに至っては、生産属領が実際に陥落する必要もない。生産属領に一発でも砲弾が落ちれば十分だ。生産属領が陥ちる
そして、〈レギオン〉にはすでにその手段がある。
〈グラン・ミュール〉を破壊した長射程の砲兵がいる。
「……以上が、私の想定する連邦崩壊の具体的なシナリオだ。これは議論の前提、今すでに進行中の出来事だと思ってほしい」
だからこそ、今すぐに手を打たなければならない。
「人民総力戦会議はこれより連邦の民主派
天幕内の一人が口を開いた。
「閣下。お言葉ながら、それは決定事項ですか?」
「他に民主派で、新帝朝派の首魁であるブラントローテ大公家に対峙するだけの連隊を持つ貴族がいるならそちらを支援してもいいが」
"彼"の言葉に総力戦会議の面々は顔を見合わせる。
なにが悲しくて自由民主主義世界を侵略し、部下たちをカナリア地峡で殺した連中と手を組まなければいけないのか。
だが共和国は滅びた。
ならば
「諸君」
"彼"は天幕に詰めかけた全員の目を見る。一人ずつ、その思いを汲み取るように。
「君たちは何のために戦う?」
人民総力戦会議は対ギアーデ強硬派の集まりである。
"彼"が確実に
「この世を去った
「すでに滅びたギアーデ帝国を打倒するためか?」
「ギアーデに編入された共和国と友邦の領土を奪還するためか?」
それでも。
「違うだろう」
民主主義とは。
ひとりの個人が自らの歩む道を決められる世界とは。
「階級によって支配され、生まれによって人生が決まる。そんな世界を滅ぼし、自由で開かれた平等な世界をつくる……それが、自分たちの
どんな主義主張よりも、優先されるべきなのだ。
「今までのことは忘れろ。明日の世界だけを考えろ。連邦が崩壊し、それでも滅びない人類のことを考えろ」
その時に、我々が支援し、生き残らせるべき派閥はどこか。
我々と同じ旗を掲げられる盟友は誰か。
「民主派、ノウゼン家」
「異論がないようでなによりだ。具体的な手段の話に移ろう」
とはいえ、現在の共和国人にできることは人材の供出だけ。避難民の有効活用という体で、ノウゼン家と付き合いの深い生産属領に優秀な人材を送り込み、そうでないところには穀潰しを送るくらいしかやることはない。
「それにしても、追い詰められた人類が最後にやることが内戦とは……やるせないですな」
「だが、我々は根っからの革命家だ。造反には常に理があり、革命に罪はない」
「そして連邦市民は革命により同志となった。同志の支援に不満が?」
それでも、そのわずかな重みが。新帝朝派の背骨を折る最後の藁の一束になると信じて動く。
「革命を、民主主義を最後までやり遂げよう」
これで、ひとまず地固めは出来た。
次は、この運動に大衆を巻き込まねばならない。
「扇動は閣下の得意とするところでは?」
「民主主義は人類が選ぶべき道だ。私は先頭に立っているにすぎないよ」
「そういうところですよ」
そして一堂は笑う。
まだ笑っていられる。