スーパー五色旗に超栄光あれ!   作:戦え民主主義

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超高潔

 領土は守らなければならない。

 たとえ命に代えてでも。

 

 何故ならば、国際法が力の行使に打ち勝たねばならないからである。

 

 

西歴1982年 マーガレット・サッチャー

 


 

 

 

 

 

 

 

 偉大なる共和国は、なぜギアーデ帝国を滅ぼさなかったのか――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは"彼"にとっての大きな疑問のひとつであった。

 

 まず当たり前の話として、ノウハウや技術というのは流出するものである。

 

 例えばナポレオンは軍略の天才で、登場した時には新しい戦術概念で敵を圧倒したものだが、彼の戦術を周辺諸国がこぞって真似をしたことで彼の戦術上の優位は縮小した。

 技術革新も同様で、優位性のあるアイデアは直ちに模倣されて世の中に拡散していく。

 それこそ、"原作"の描写からして完全自律の人工知能はギアーデ帝国の専売特許ではなかったのだ。もちろん、それを共和国が活かせる日は来なかった――――余談ではあるが、流石の"彼"も1区の有色人種強制収容には介入できなかった。そもそもそんなことが出来るなら、"彼"はとっくの昔に共和国を掌握していることだろう――――のではあるが。

 

 

 つまり何が言いたいのかというと、"彼"は共和国がなぜ要塞壁への引きこもりを選んだのか理解出来なかったのである。

 

 

 しかしそんな疑問も、共和国経済部門と軍事部門の掌握を進めるうちに氷解していった。

 というより、やはり現実逃避に失敗したと表現するべきなのだろう。

 

 そもそも"彼"は"原作"の描写から理解していたハズだ。

 

 なぜ共和国市民の――――〈グラン・ミュール〉の内部で平和と安眠を貪っているはずの市民が――――合成食糧などという粗末な食事を口にしなければならかったのか。

 上流階級――――偉大なる共和国において後進的な身分制度は廃止されている、念のため――――ですら満足に家畜を飼うことが出来ず、残飯と僅かな草で辛うじて維持できる鶏などからしか天然のタンパク質を摂取することが出来ない。それほどに食糧事情が悪かった理由を。

 

 

 そう、共和国は人道的だったのである。

 皮肉ではなく、本当に人道的で民主的だったのだ。

 

 白系種(有権者)の生存を優先したがゆえに、工業力や研究力……国家の継戦能力を維持する上で欠かせない要素を棄ててしまうほどに。

 

 

 

「閣下のご協力のおかげです」

 

 そう言って頭を下げるのは共和国工廠(RMI)の車輌開発主任。

 彼は南部工業都市出身の技術者であり……おそらく"彼"の介入がなければ単なる殺人兵器でしかなかった頃の〈レギオン〉に引き潰されていたであろう人物。

 

「それで、これが?」

「ええ、そうです」

 

 胸を張る主任。"彼"の目の前に鎮座しているのは、偉大なる共和国の誇る科学の結晶。

 

「自律式無人多脚戦車M1A4〈ジャガーノート〉。主武装は57mm滑腔砲、副武装に12mm重機関銃を装備しております」

 

 まさに自信満々、と言った具合の主任に"彼"は頭を抱えた。

 技術者を生き残らせても結局コレ(アルミの棺桶)なのか。

 

「不整地走破能力は装輪式や履帯式と比較になりません。かねてよりの課題であった接地面の問題については、最新式アクチュエーターを採用したことにより……」

 

 つらつらと解説を続けていく主任。聞けば聞くほど気落ちしていく"彼"。

 結局縦方向の機動性をワイヤーアンカーによって補う方針も変わっていないし、重戦車型(レーヴェ)への対応を高周波ブレードによる超近接戦闘に頼ることになるのも変わらなさそうである。

 

 とはいえ、武装に関しては後から改良していけばいいだろう。幸いにも大攻勢までは時間がある。

 

「……で、肝心の中央処理装置(プロセッサー)はどうなったんだ?」

 

 という訳で、早速"彼"は本題に切り込むことにした。

 

「あー……偉大なる共和国の先進的科学は圧倒的です」

「そうか。とりあえず目を瞑っていてくれ」

 

 建前論をしている場合ではない。主任を黙らせた"彼"は機体前方にある「メンテナンスハッチ」を開く。

 

 そこにあるのは、極めて簡便な椅子と入力装置(ジョイスティック)

 諸々の計器は航空機のそれから流用したらしく、その上に前方カメラと連動しているらしいモニタが取り付けられている。

 

「ふむ……よっこらせっ」

「えっ、あっちょっと閣下!」

 

 それでも、やはり一応は科学の粋を集めた乗り物ではある。"彼"はおもむろに椅子に座ると電源を入れる。

 

「ダメですって」

「なんのためにここまできたと思っている。兵器の本質は乗ってみないと理解できない。馬と同じだ」

 

 設計思想の根本は偉大なる共和国の民間航空機と同じらしく、最低限の操作で動くようになっているようだ。

 なるほど、これなら確かにろくに訓練を受けていない子供でも扱えるだろう。

 

「どれ」

 

 ちょい、とジョイスティックを傾ける。けたたましい作動音を立てながら脚が地面を蹴って機体が前に進む。それなりに広い格納庫をぐるりと一周。

 

「……これは酷いな」

 

 ちょっと回しただけで腰が壊れそうである。

 これなら馬に乗った方がよほどマシだ。

 

「一応、現場からの評判は悪くないんですけれどね」

 

 聞くところによると、高低差を利用した伏撃にもってこいなのだとか。

 確かに、ワイヤーアンカーで高所に素早く登ることが出来る対戦車砲と考えれば、それなりに使いどころはありそうではあった。

 

 …………ただ、その「悪くない」という評価は「梱包爆弾で突撃するよりは悪くない」という話である。

 

「なにかこう、もっと強くならないのか」

「ざっくりとした要望ですね……」

 

 困った顔をする主任。当然である。

 もっと強くと言われても、具体的に何を強化すればいいのか分からないのだから。

 

 そもそも、兵器とはただ強くすればいいものではない。超大口径の大砲を作ったところで動けなければ意味がないし、絶対に負けない機体も数がなければ戦線を構築できない。

 つまりは適材適所。必要な場所に必要なものを配備するのが必要なのであって、なんとなく強い機体など現場は求めていないのである。

 

「よし」

 

 となれば、やることはひとつであろう。

 

 

 

 


 

 

 

 

 "彼"とその愉快な仲間たち(シンパと護衛)は新品の〈ジャガーノート〉を受領すると工廠を出発。その後、数分も経たずに輸送車輌を手配したり要塞壁を視察したりしながら85区行政区の外、86区へと足を踏み入れた。

 それは"彼"にとっては年単位ぶりの戦場への帰還であり……そして。

 

 始めて目にすることになる共和国でない共和国(86区行政府領域)であった。

 

「わ~、兵隊さんだ~」

「カッコいい!」

 

 子供が手を振っている。もちろん有色人種(コロラータ)の子供である。

 彼らが手を振る〈ジャガーノート〉の隊列に搭載された中央処理装置(プロセッサー)は"彼"含め全員が白系種(アルバ)であるが、町――――偉大なる共和国は先進的であるので、ヒト型の豚を収容する地区は全て()()()されているのである――――を往く人々はそんなことには気付かない。

 

 当然だろう。なにせ〈ジャガーノート〉は無人機、ヒトが乗っていないのだから人種差別は起こり得ない。

 ……という冗談はさておき、ガシャガシャと動くアルミの棺桶と外部出力スピーカーからの声では人種の判別のしようがないのだ。

 

《想像よりも賑わっていますね》

 

 知覚同調(パラレイド)経由で副官の声が聞こえる。当然だろうと"彼"は言う。

 

「戦線の維持を全て押し付ける代わりに、壁外の利権を全てくれてやったんだ。それにここは迎撃砲のお膝元(86区で一番安全な場所)、栄えて当たり前だ」

 

 この点は、偉大なる共和国が真の民主主義国家であったことが幸いしたと言えるだろう。

 民衆は一度無関心を決め込んだら無関心のまま。国の上層部は有色人種(コロラータ)排除(ジェノサイド)の結果もたらされるものを知っているから知らないフリを決め込む。

 

 世の中には正義に目覚める者もいるだろうが……この場合に目覚めた正義は〈グラン・ミュール〉を去ることになるので壁内情勢に異常はナシ、というわけである。

 

 

 そうして非戦闘員の居住地区を抜ければ、そこは競合地区(コンテクスト・エリア)手前の前哨地となる。

 

「傾注ッ!」

 

 わらわらと出てきた共和国陸軍のようで共和国陸軍ではない兵士たち。"彼"は狭苦しい機体の中でため息をつく。

 いったいどうして、彼らは自律式無人機などに敬礼をしているのか……と。

 

《閣下、答礼なされてはいかがですか》

「機械が敬礼という崇高な行為を理解すると言うのかね?」

《このまま炎天下で敬礼していて(我慢大会をして)は、彼らも我々も熱中症になります》

 

 助け船を副官が出してくるので、"彼"はやむを得ず重機関銃のマウントされたアームを操作して上方に掲げた。攻撃する意図はない、との意味合いである。

 敬礼とは、武器を持たないことを証明するための行為である。そして非武装により、忠誠の確認を行う作業なのである。

 

 ヒト型の豚が銃を持たずに従属を示し、無人の機械が危害を与えないことで隷属の見返りとして庇護を約束する。

 ――――無人化された戦場においても、その血と鉄で紡がれた規律(きずな)は健在であった。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、状況は概ね把握した」

 

 そんな茶番を終えた後は、ここへきた目的である前線の視察を行う。そしてヒアリングした情報を整理し、まとめていく。

 

 結論から言えば、状況は急速に悪化していた。

 理由は単純。抱える戦線が長くなったことで、人的資源の消耗が激しくなっているのである。

 

「迎撃砲の使用を増やせませんか?」

「無理だ。既に砲身の消耗が生産数を越えている。ジャガーノートの配備が完了すれば多少は改善するだろうが……」

 

 そして足りないのは人的資源だけではない。

 

「砲身の増産に必要な資源が足りない以上、増産には限界がある」

 

 "原作"では散々な評価をされている〈グラン・ミュール〉であるが、その発想自体は悪いものではないと"彼"は考えていた。

 もちろん、均一な防衛線は敵方が兵力を集中することで突破されるのが世の常ではあるが、ケスタを用いた……つまり急峻な崖の高低差を用いた防御線はその不利を補うだけの利点があるのだ。

 ここに加えて〈グラン・ミュール〉の中央に機動兵力を置けば常に全方位に睨みを効かせることが出来るわけだから、例え敵が1ヶ所に戦力を集めたとしても、それを越える早さで応援を送ることが出来る。

 

 ……が、"原作"ではそうはならなかった。共和国は中央に配備する戦力はおろか、迎撃砲の稼働率すらも維持することが出来なかった。

 これは共和国の怠慢ではなく、おそらく共和国の限界。

 なにせ共和国は、人命を最も尊いものとして扱ったことで工業力を喪ってしまっていたから。

 

 そして共和国は、救うべき国民すら救うことが出来なくなった。

 それが有色人種(コロラータ)の排斥へと繋がっていく。

 

 

「……人民要塞線を喪っただけで、ここまで状況が悪化するとは」

 

 嘆くように溢す副官。

 分かりきっていたことだと"彼"は内心でひとりごちる。

 

 "原作"の描写としては、あくまで共和国は「悪役」であり、エイティシックスを使い潰し、絶滅させるために〈レギオン〉と戦わせていた……が、そもそも〈レギオン〉が期限つきで停止するからといってそれまでに有色人種(コロラータ)を絶滅させておこうという考え方自体に無理があるのだ。

 なにせ共和国軍が事実上存在しないことを考えれば、都合〈レギオン〉の稼働停止と同時にエイティシックスは全滅、もしくは他国との通信が回復する前に皆殺しに出来るレベルにまで減らしておく必要がある。そんな細やかな調整が、果たして出来るものだろうか?

 

 そして国軍が失業者対策として人材を集めていた点もそうだ。

 特別偵察任務などをわざわざ組んでまでエイティシックスを放逐していた以上、共和国はエイティシックスの反抗を恐れていたのだろう……本当に恐れているのなら、もっと真面目にやるべきだ。

 

 なにせエイティシックスたちの反乱を阻んでいたのは、時間さえかければ排除可能な地雷原や固定されていて標的になりやすい迎撃砲だけある。

 これで反乱が防げたと? 本当に?

 

 なら、有色人種(コロラータ)が反抗せずにあくまで〈レギオン〉に抗っていた理由はひとつであろう。

 

 

 理解していたのだ。

 間違いなく、確実に。

 

 共和国は滅びると、理解していたのだ。

 

 だから賭けるしかなかった。侵略が止まる可能性に。

 自分達が死んだ後に子供たち、弟や妹が駆り出されると分かっていても賭けるしかなかった。

 

 その分の悪い賭けをしていたという意味では、共和国政府も同じだ。

 全停止するなど、本当に信じていたのだろうか。

 諦めるための方便として、全停止するということにしておいたのではないだろうか。

 

 

 ……そうなれば、国軍が失業者対策の場所になるのも頷ける。

 国軍など、一番見たくない現実を見せつけられる場所になんて、誰もいたくはなかったのだろう。

 

 もしくは、一片でも高潔さを持ち合わせていた人間は皆――――目の前にいる彼らのように戦場に身を投げた後だったのか。

 

 

 

 

「だが、私は諦めないぞ」

 

 

 

 

 それは高潔さなどではなく。

 

 ――――たったひとつの「大切なモノ」を守ろうとする、"彼"の意思。

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