スーパー五色旗に超栄光あれ! 作:戦え民主主義
超聖女
民主主義で起こり得るもっともひどいこと――――、
未来について冷やかになり、
希望を見失ってしまうこと。
"原作"の描写における最大の疑問。
それは偉大なる共和国正規軍を僅か2ヶ月で打破した〈レギオン〉が、その後10年間に渡り共和国を事実上放置し続けたという事実である。
もちろん、この点に関しては"原作"においても説明がなされているのだが……それでも〈グラン・ミュール〉が建設されるまで持ちこたえたのだから共和国陸軍はやはり偉大だったのだろう――――
……などという
「〈レギオン〉の戦術判断能力について、貴官はどう考える?」
「失礼ですが、ご質問の意図を伺ってもよろしいでしょうか」
レギオン大戦が始まってからそれなりに。とはいえ"大攻勢"までは年単位の猶予があった頃。
ちょうど
…………1日に4桁の死傷者が出ることがまれでない戦争を「穏やか」と呼ぶのであれば、ではあるが。
「
"彼"の言葉に、いまいち要領を得ないと言った様子の陸軍将校。制帽には佐官であることを示す
「……穏やかなのが、問題と仰るのですか」
その言葉が目の前の男、栄えある共和国を守護する国軍の脊椎として機能するべき軍学校の出身者から出てくるのだからお笑いものである。
いや、そもそもこの妙に浮世離れした男がいなければ"原作"は始まらないわけだから、ある意味では約束された回答だったのかも知れないが……。
「では質問を変えよう。ミリーゼ陸軍大佐」
そう、これは"原作"への介入。
この日"彼"は初めて"原作"への介入を試みたのである。
"彼"はその理性的臆病さにより、このような直接的な介入を極度に忌避してきた。
しかし間接的な介入は既に山ほどしているわけであるし、そもそも"原作"通りの破滅を避けることが今の"彼"が為すべき第一目標なのだから、最初からもっと積極的に介入するべきであった。
とどのつまり、この介入行動は遅きに失していた訳であるし、これまでの介入しようがなかった事象――――つまり
その介入とは、目の前の共和国軍将校、ヴァーツラフ・ミリーゼ大佐の「特殊な偵察任務」を阻止すること。
偵察とはいうが、役目を失って半ば放置されている回転翼機を使用しての遊覧飛行である。しかもその偵察飛行に同伴する民間人が齢10の少女なのだからいたたまれない。
とはいえここで「なんで子供を戦場に連れ出すのだ」と言ってしまった日には「それを
"彼"は"原作"に比べれば86区を有効活用しているが、結局それは「有効活用」に過ぎない。
では、どうやってそんな主義者との
「現在〈レギオン〉の活動は低調だが、これが意味するところをなんと考える?」
「申し訳ありません、閣下。私は一介の将校であり、閣下のご慧眼に添える意見を申し上げる立場には」
「いや、構わん。
答えは簡単。レスバしないこと。
つまり"彼"が狙うのは時間稼ぎである。
普通に考えれば分かることではあるが、いくら戦場のなんたるかを理解していなくともミリーゼ大佐は大佐である。それも戦時昇進(も多少は含まれるかもだが)ではなく平時から職務を遂行したことでその地位にある佐官クラスの将校である。
つまり、彼は戦場の危険さを理解しているハズ。
……となれば、彼が戦場で掬われたのは己の慢心ではなく戦場の霧であるべきだろう。
「指揮官自らの将校偵察、大変結構! しかしその前に我々は『何を偵察するのか』をハッキリさせるべきだとは思わないかね?」
「閣下。
大佐の顔に焦りが滲む。それはそうだろう、ここでこんなどうしようもない問答に付き合わされている間にも、こっそりつれていく予定の愛娘が見つかってしまうかヒヤヒヤしているに違いない。
そしてもちろん"彼"の狙いはそこにある。
「閣下。報告いたします、東部戦区に旅団規模の〈レギオン〉が出現。目下、第268機械化騎兵連隊が――――」
「うむ。ご苦労」
副官の報告を半ば遮った"彼"は、憮然とした表情の陸軍大佐に向き直る。
「そういうことだ。君も自分の戦闘団に戻るといい」
ミリーゼ大佐による娘を連れての戦場旅行を阻止すること。
それはつまり――――"原作"におけるヒロイン(もしくはダブル主人公の片割れ)である"
「引き留めてしまって申し訳ないとは思っている。だが、こうも思ってはくれないか」
もしスケジュール通りに偵察飛行を行っていたら、どうなったのかと。
「…………」
なんとも。
なんとも面白味のない介入である。
それに加えて、偉大なる共和国を敗北へと突き落としかねない介入である。
なにせ"
とはいえ、それでも"彼"は介入を決めた。
なぜか?
「閣下」
「……裏はとれたか?」
「はい。閣下がここへ現れたと知るや否やです。欺瞞スケジュールを正規のそれにアップデートした瞬間ですから、間違いありません」
「そうか」
理由は単純。偉大なる共和国が最悪の国家であるからである。
反人権排斥主義者であるならば世界最高民族たる
「……軍の高級将校が、有能な敵だけで簡単に死ぬものか」
副官にも聞き取られぬよう呟いてから、"彼"はふと前世の有色人種国家で活躍した提督を思い出す。真珠湾攻撃を成功させた彼も、最後は前線の視察中に撃ち落とされた訳であるが……。
いや、まさかな。"彼"はその妄想を斬って棄てる。
あってはならないことだ。そんなことは。
そしてあったとして――――いまさら、どうしようも出来ないことだ。
◇
いきり立った子供の宥め役くらい出来ますとも。
そう自信満々に微笑んで見せた"彼"のパートナーの試みは大いに失敗したらしい。
「失礼しますッッッ!!!」
ガチャリと乱暴に開け放たれる扉。絨毯に突き立てられ、抉るような音を立てながら迫ってくる靴音。
クーデターでないだけマシなのだろうなと思いながら"彼"は執務机の椅子に深く腰掛ける。
「申し訳ない。家内がなにか粗相をしてしまったかな? ヴラディレーナ・ミリーゼ少佐」
それは
……いや、ヒトで
「奥方の歓待には感謝をしております、閣下。ですが今は、一刻も早くお時間を頂きたく」
想像よりも冷静な、それでいて断固とした姿勢を崩さない陸軍少佐の姿。
なるほどこれが〈鮮血の女王〉かと"彼"は舌を巻く。
「時間というと、目下進行中の〈レギオン〉による例外的な――――「『大攻勢』」
"彼"の言葉を制する女王。
「大攻勢。そう表現する他にない規模の侵攻かと」
「呼び名などどうでもいい。ゴジラと超巨大不明生物の違いくらいどうでもいい」
「超巨大……えっと、なんでしょうそれは」
あれ。確か"原作"でそれっぽい映画の存在が仄めかされてなかったっけか。"彼"は場を和ませるジョークが見事に滑ったのを自覚しつつ、ともかくと咳払い。
「こういった事態に対応するための作戦計画は既に実行されている。問題はない」
「では。なぜ『彼ら』の50区から先への立ち入りが許可されないのでしょうか」
「――――まあ、貴官の立場なら当然の疑問だろうな」
なにせ"原作"では"大攻勢"の瞬間に扉を開放して85区内の中枢までエイティシックスを引き入れた彼女である。
要塞壁内への撤退は許しつつも中枢への立ち入りを許可しない"彼"のやり方に不満を覚えるのは当然だろう。
「ミリーゼ少佐。単刀直入に聞く、貴官がここへ来たのはアリバイ作りか?」
「はい? なにを言って――――」
「つまりこうだ。
「違いますッ!」
そして目の前で焔が立ち上る。有色人種に特有の色つきの焔ではない。色のない炎、純白の正義を宿した怒りの焔である。
「私の主張は全てこちらにまとめてあります。ご覧ください」
そう言って手渡され……いや殆ど叩く勢いで書類を突きつけてくる女王。
「では失礼します。権力の椅子にしがみ付くのにお忙しい閣下と違い、小官は忙しいので!」
そうして嵐のように去って行く彼女。
残された"彼"は、その書類にざっと目を通す。
「うーん……想像より優秀だな、彼女」
これを数十年以上長く生きている――――前世も含めて良いなら更に長く生きているハズの――――"彼"に言わせてしまうのだから、
それこそ純血ゆえの異能と言われてしまえば
「……は、はは」
だとしたら。本当に聖女様の再来じゃないか。
そして、だからこそ"原作"の共和国は彼女に全てを託してしまったのだろう。
そして彼女にとって、"彼"は旧体制にしがみ付く白豚の一匹にしか見えないに違いない。
「とはいえ。子供が活躍する国家は不幸な国家だ」
だからこそ"彼"は偉大なる共和国を偉大なままに――――。
――――そして、大攻勢の開始から数十時間後。
日にちにすれば1週間も経たない頃。
〈レギオン〉の先鋒は最終防衛線である50区外縁へと到達。
そして
もちろん内容は事実の追認。
つまり共和国は偉大なる
この現実をもたらした「聖女」に、共和国はいかなる沙汰を下すのだろうか。