第2章『Old Testament.16.5 テトロトドキシンは生命を偽装する――Loss_of_reason_requires_no_sacrifice.』
2.
原作、とある魔術の禁書目録、旧約16巻。
それは、ローマ正教との戦いが本格化するなか、学園都市に襲来した後方のアックアと上条当麻の護衛であった天草式が学園都市の地下街で激突した話だ。
話の舞台となったのは第二二学区。2キロ四方の区画の地下空間は1階層10区間にもおよび、一つ一つが巨大な空間を形成している。
ガスマスクであった。ディスカウントストアで買うようなゴム手袋までしている謎の一団がいた。
後方のアックア。かの人物と戦ったのは何も天草式やイギリス清教の聖人だけでは無い。学園都市側も空調をいじって空気を抜いたり毒ガスを巻いたり無人兵器の大軍を送り込んだりして対応していた。ただ、二重聖人にして傭兵、神の右席、後方のアックアには通じなかったという訳だ。
ところで、後方のアックアが撃破した無人兵器達はその後どうなったのか。当然片付けなくてはいけないわけだ。
『――おい、こいつを見てみろ……』 『 あん? fiveover-mode……続きが読めねえな。こいつがどうした?』
現在は、後方のアックア撃破してまだ24時間がたっていない時間。地下空間が夜間モードになったまま。そこに集まるのは『
ガスマスクの『不良ども』の一団は撃破された無人兵器のパーツ類をはぎ取っていく。何かしらの『暗部』と繋がりのあるリーダー格が人を集めて小遣い稼ぎに乗り出したのだ。
『――っち、八学区の連中も来やがった。ここは俺等の縄張りだ。追い返せ』
スキルアウトにだって、色々な奴らがいて、色々な勢力がある。裏路地で駄弁るだけの奴らから、『暗部』と何かしら繋がりがある奴。
そして、本格的に武装し、ちょっとしたマフィアやギャングと呼べる規模に成長してしまった集団。色々だ。
『 気にしなくて良いと連中自身が言ってるぜ、あいつ等は別件だとよ』 『――なんだそれ。まぁ良い。こっちに来ないなら好きにさせろ』
ガスマスクのスキルアウトの集団は同じくスキルアウトの一団を一瞥して、再び無人兵器のパーツはぎ取り作業へと手を向ける。
無人兵器のパーツ漁りとか言う小遣い稼ぎに興味の無い『八学区連中』の1人はそんな彼らを一瞥して鼻で笑う。
『あいつら、まだ程度の低いやり方でしか稼げないのか』 『言うなよ。可哀想だろ』
彼らが狙うのは無人兵器のパーツなんかじゃ無い。
『エンタメが集まった地下空間って言ってもここは学園都市。研究室的な物の類いはそこら中にある。俺等の狙いはそこだ』
『ご依頼のあったブツを運べば5千万円だぜ、さっさと行こうぜ。技術データ的な物だって高値がつく』
『毒ガス様々だぜ。まだほんのわずかだが残留しているって言うしな。おかげで人がいない』
『おいおい、低酸素状態っての忘れてねえか? こうやって駄弁る間にも酸素を消費するんだぜ、少しは静かにしろよ』
一団が目指す場所は一見すると地下街に設置されたコンビニに見えた。コンビニと言っても大手コンビニチェーンが運営する無人コンビニだ。
店内に入っただけで様々な各種機械的システムが支払いまで全力サポート……と言えば聞こえは良いが、ようは特殊な自販機だらけの店だ。
そんな、コンビニにも見えない所にバックヤードの出入り口がある。バックヤードと言っても常時人がいるわけでは無い。折角の無人店舗だし。
ぞろぞろとバックヤードに押しかけ、そして、床を軽く叩く。反射音。
『見つけたぞ』
地下への入り口はそんな場所にあった。地下空間にさらに用意された秘密の地下空間は思いの外広く、そして、暗かった。
懐中電灯の明かりを頼りにガスマスクのスキルアウト達は動き出す。彼らがたどりついたのはいかにもな研究室。
ただし、バイオハザードマークがついたエアロック前にしつらえた研究室だ。
『ここか、例のブツがあるってのは』
無数の電子端末がそこら中に転がっており、モニターが何かのデータを表示しつつけている。
技術のあるアウトロー達は、一斉に部屋の捜索と端末の操作を始め、エアロックの電子錠を解錠し内部への侵入を試みる。
数分後にはエアロックが開かれ、その向こう側への侵入に成功し、そこで再び銀行の地下金庫みたいな分厚い扉に行く手を阻まれた。
『で、どうする?』 『ハッ、どうせクソみたいな暗号だろ。クラックでどうにか出来るし、出来ねえなら、爆破するだけだろ』
かくして金庫の扉は轟音と共に破壊され、彼らのお目当てがやっと姿を見せた。
それらは厳重に封印されていた立方体だった。120メートルくらいの立方体だった。
『生化学兵器……。こんな物を欲しがる奴らはいったいどういう連中やら』 『知るか。報酬の5千万円分だけ働いて後は忘れろ』
おそらくは特殊なガスボンベを事故などで破損しないように色々と加工した物なのだろう。結果として立方体の形状に至ったそれらの数は4ダースくらいある。
『全部運び出すのか?』
『前金で1千万円、2本以上持ち出せたら1千万、2ダース以上持ち出せたら5千万。全部出す必要はねえな。こんな危ねえ物、自力で捌きたくねえ』
かくして彼らは自分たちがこういう時用に持ってきた輸送用四脚ロボットを取り出す。学園都市の外でも実験的に先進国と称する国の軍隊が使っている奴だ。
ただし、学園都市のそれは当然の様に世代が違う。全自動的に針金状のパーツが複雑な楕円軌道を描きながら構造を変化させ、何時しか上半身と呼べる物が出来上がった。そしてその上半身は自分から立方体のボンベをつかんで乗せていく。ボンベがずれ落ちないように上半身は針金状のパーツの構造を変化させて安定させる。
『おっと、こいつを忘れていた』 『……その変なシールを必ずブツに貼り付けないといけないって……そのシール何かのタグか?』
『調べたけどそんなんじゃ無かった。マジでただのシールさ、100円ショップで売ってるような物と何も変わらねえ。おおかた識別用じゃねーか』
『……なんか、見たことあるんだよなぁ……この模様。……学校の授業だっけか?』
『おいおい、おまえ、今、真面目に登校中だったっけ?』 『ちげーよ。ただ、たぶんそういうときに見た覚えがあるんだよなあ』
かくして立方体ボンベを運び始めて、彼らは一つ大事な事を忘れていた。
ここは後方のアックアという敵と戦うために大量の無人兵器が投入された地下空間だ。……で、まだ生きている無人兵器から見たとき、地下で響く爆音は無視して放置して良い対象であるか。
『くそったれ!』
金庫の扉を爆破したのは失敗だったかもしれないと今更考えるスキルアウト。無人兵器は遠慮無くグレネードマシンガンの銃口を無人コンビニに。
商品だった物が辺り一面に散らばる状態の中、地下から出られない彼らは必死に拳銃で応戦するがそんなモノが役に立つはずも無く、状況は刻々と悪化していた。
『ADパルスライフルもってこい!』 『一つしかねえぞ!』
アンチ・ドローンパルスウェーブライフル。学園都市の無人兵器にも通用する電子兵装だ。レーザー光線を誘導路に指向性電磁パルスによるインパルスインパクトを
ぶつけて破壊する。ライフルという名称の通り、ライフルの様な姿をしており、引き金を引いて攻撃する。
ついでに特殊なニードルマガジンを装填すればプラズマ化した実弾をぶちかます実弾兵器にも成る。その代わり射程距離はライフルと呼ぶには短くなってしまうが。
『1機しかない今しか撃破するチャンスは無いぞ! 複数出てこられたらどうしようもない!』
走る。走って、胸が苦しくて、それでも走る。
酸素切れが近い警告が表示される。
『くそったれ!』
ADパルスライフルは確かに無人兵器を沈黙させた。けれども1機だけしか動いていないと言うご都合主義は無く、数分後には2機目、3機目が登場してきた。
その数分の猶予を生かし切る方法は一つだ。走る事。
四脚ロボット4機はそんな彼らの前を進むように走る。1機が6本の立方体ボンベを運びながらも軽快に動き回っている。
『おい、さっきの小遣い稼ぎの所にいくぞ! 連中になすりつけるんだ!』
そんな外道作戦はすぐさま実行に移され、
『――クソがぁぁあああ!』 『 このスタビライザーバラして売るだけで数十万だったんだぞ!! テメェらのせいで!』
『知るかよ! 戦え!』
仲良く、バカどもは拳銃や爆弾、投石で無人兵器を3機をなんとか押さえ込んでいた。と言ってもこんなの何時までも続かない。
時期に制圧されてしまうだろう。今はただ、こっちの反撃のデータを元に制圧する為の最適解を演算中とかそんな感じでしか無い。
(だが、今だ。俺たちはあのボンベさえ運び出せれば5千万円。こいつらになすりつけることが出来れば問題なく達成出来る!)
ADパルスライフルを最高出力に設定、ニードルマガジンを装填。夜空の星空を再現している天井に向けて射撃。
天井の星空を再現するシステムにエラーが発生。そのエラーの余波は瞬間的な大光量となって発揮される。
無人兵器には通用しないだろう。センサーはこの光量を遠慮無くカットするはずだ。とはいえ、さすがに急な状況変化に無人兵器のシステムは状況把握を優先する。
『逃げるぞ!』 『ひゅー! さすが、リーダー!』
光に昏倒してしまった小遣い稼ぎどもを無視して、こそこそを逃げ出すが、
―― そこの不審者ども、手を上げて出てこい。 ――
拡声器。『
『嘘だろッ!? おいっ!?』
そう叫びつつ、スキルアウトたちは銃撃する。とにかく急いでここを離脱しないといけないのだ。
だが、致命的な時間のロスであった。小遣い稼ぎどもも放置された無人兵器達も動き出すのに十分な時間。
かくして、現場は壮絶な銃撃戦となって……。
―――― 『
『――こちら、
「た、助けてくれっ!! 22学区だ! お願いだ、助けてくれっ!!」
『――どうされましたか? 落ち着いて状況を』
「こんなの夢だ。なんで俺がゾンビ映画の世界にいるんだよ! 銃弾を撃ち込んでも動いてやがる!! 正気じゃない!」
もはや、電話の相手は『
「どうなってやがる。いつからここはホラーゲームの世界になったんだ? ゾンビ映画の世界になったんだ? 人間が銃弾で倒れないで、理性も感じないうめき声を上げて襲いかかってくる。あいつ等は遠慮無く噛みつくんだ。かみ殺しにくるんだ。
それだけじゃ無い。よくわからない奇妙な化け物の姿も見える。幻聴だと思いたいけどうめき声が聞こえる。なんだよ、これ。篠山が化け物になった。ゾンビになった。口からよだれを垂れ流してさ、顔中返り血まみれなんだよ。なのにあいつ歯をむき出しに……」
「篠塚は指を食われた。今生きてるよな。あいつ。ゾンビになってないよな? ああ、くそっ、今なら本気で謝るよ先生。あんたの言うとおり真面目に勉強して、開発にも取り組んで、ちゃんとした生活して。だからさ、何でこんなんになったんだよ」
「笠原の奴は彼女が出来たってデレデレしてよ。今回の仕事で大もうけしたら、足洗うとか言い出して、こいつクソ迷惑な事を言い出してるなって思ってたんだ。けれど、ならよ、なおさらなんであいつゾンビの群れに立ち向かっていくんだよ。くそったれ、見捨てた俺たちは何なんだよ。人でなしかよ。
みんな逃げろなんて一人前に言い出してさ。死ぬんなら見えないとこで勝手に死ねや。彼女としっぽりやってから死ねよ。なんだよみんな逃げろって迷惑なんだよ。かっこつけて。やだ。あいつがゾンビになった姿なんて見たくない」
「死にたくない。死にたくない。俺はあんな風になりたくない。あれだけは嫌だ。あんなんになるくらいなら自分で頭をぶち抜いてやる。死にたくない。まだ死にたくねえよぉ……。何だよ、この音。幻聴か? くそったれ、まさかと思うが実はもう俺はアレになりかけてるとかないよな?」
銃声。
『――聞こえていますか!? 何があったんですか!?』
銃声。銃声。銃声。そして、沈黙。
――――『
「至急、至急応援要請、急いで増援と拘束具を大量に用意してくれ!」 『状況を知らせたし。拘束具? 何故だ?』
「竹中ァ! て、手がぁぁあああ!」 「あと、医薬品を大量に! 病院輸血の準備も! ああ、くそっ、何だよコレ。どうなってやがる」
『状況の詳細を報告しろ。一つ一つ確かな事を!』
「不良どもが22学区で抗争! あと、出所不明の無人兵器の大量配置と撃破跡を確認! 何があったかは知らないが、ここで戦いがあったんだろ!」
一瞬、言葉が詰まった。その
「まるで、砂漠だ。ここは砂漠のど真ん中だ」
「隊長ぉ! 増援はまだですか!? 拘束具が足りません!」 「暴徒化した学生達をダクトテープか何かでぐるぐる巻きにしろ! 足りない拘束具はそれで補え!」
『学生が暴徒化しているのですね。では、今すぐ催涙ガス弾を』 「22学区ではそんなモノ使えません! 今、一部区画階層では正体不明のガスが滞留している!」
『待ってください。何かしらのガスが滞留しているとは、学生達はそれを吸い込んでいると言う事では?』
「そうとしか考えられない! だから、拘束具を要求している! ああくそっ! ゴム弾の残量は? ゴム弾も要求します! とにかくたくさん!」
『学生達に射撃しているのですか!?』 「非殺傷兵器のゴム弾やテイザーです! でも抑えきれない!」
『今すぐ射撃をやめなさい。学生達への過剰な暴力は認められない』 「正当防衛だ! 後から映像でも証言でも何でも取ると良い!!」
「隊長! 取り残された生存者達と連絡が取れました。少なくともおかしな応答は見られませんがこうなる前から22学区に遊びにきて取り残されたと」
「確保次第手錠をはめろ! わずかでもガスを吸ってる可能性はある! 暴徒化する前なら手錠でなんとか出来る。病院につれてけ!」
『待ってください。今、問題行動のない学生に手錠をはめるという言葉が聞こえましたが』
「そんなに言うなら、あんたもここに来てみろ!!」
2時間後、