『とある線上の世界大戦』   作:ホエール

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第2章『Old Testament.16.5 テトロトドキシンは生命を偽装する――Loss_of_reason_requires_no_sacrifice.』


第2章 3.

   3.

 第22学区は、エンターテイメントが盛んな場所だ。たった2キロ四方の空間の地下を現在進行形で開発中のその空間はもはや巨大なビルが埋まっているに等しい。

いや、ビルという単語は似つかわしくないかもしれない。星空をリアルタイムで人工的に再現し、ちょっとした自然公園からビル街まで存在するのだ。

理髪店のポールを思わせる構造で開発された地下空間は、だが、だからこそ水と空気の循環に一番大量の電力を消費している。

 

そう言う場所だから、第22学区には常にあちこちに人がいる。後方のアックアの来襲により、物理的にも或いは魔術的にも『人払い』されようと十分な退去時間が与えられなきゃ取り残されてしまう人間が出てくるのは仕方が無い事だ。

監視カメラの目をかいくぐり、大人のホテル扱いで利用されるレンタル倉庫の男女なんかはわかりやすく取り残されてしまったタイプだ。

レンタル倉庫なのに、布団が敷いてある小さな小部屋が並ぶと言うその空間に、震えながら携帯電話で助けを呼ぶ2人組。

 

皮肉な話だが、この2人の通報でやってきた『警備員(アンチスキル)』と『不良ども(スキルアウト)』がぶつかり、事態はさらなる大惨事となった。

けれども元凶の男女2人組はその事をしらず、未だに助けを待ち続けている。

 

「急ぎ救援を。手持ちの無人兵器を随時地下に投入。当然モードは『非殺傷(ノン・リーサル)』。それと『駆動鎧(パワードスーツ)』を用意しろ。

分隊の壊滅が確認されてから、すでに27分。無線通信も時折通じなくなる。本来はあり得ないことだが……そのあり得ないことが起きている。そもそもアンテナやセンサーが張り巡らされたハズの第22学区の地下空間が、無線の通じないよくある地下空間になる時点でおかしな話だ。そして我々が把握していない空間が多数確認された。……間違いなく『暗部』か何か、後ろ暗い事が関わっているぞ」

「映像出ます!」

警備員(アンチスキル)』第22学区地下1階の数少ない詰め所の一つが臨時の仮説本部となっていた。

その仮説本部内に設置された複数台の巨大モニターは現場の『警備員(アンチスキル)』ボディカメラや後方から操作するタイプの無人兵器からリアルタイムで送られてくる映像やその他各種データが表示されていた。

薄暗い。星空がリアルタイムで投影されているそう言う区画なのに、とても薄暗い。そして、静かだ。とても静かだ。異常なほどに静かだ。

映像越しなのに、すでに何かがおかしい。何故、こんなにも砂っぽいのだろう。砂埃が立っているのだろう。

何で、白い壁のハズなのに真っ黒なのだろう。

 

『見えてますか?』

「みえてる。万が一の時は無人兵器を盾にしろ」

「『状況不明(ねえ、ちょっと、何が起きているのかくらい)』『教授・要望(教えて欲しいんだけど)』」

変わった口調の少女。『警備員(アンチスキル)』の詰め所には、不良学生どもをとりあえず一時的に保護する部屋の一つや二つ儲けられている。

そこに入っている1人の少女。私服らしき青い服に白いケープ。ただしその背丈は明らかな小学生で、酒の匂いがする。身分証明書の類いも無く未成年飲酒として捕まった。頬の緑色の絆創膏が余計に子供感を出している。

 

「悪いが、君の相手をしている暇は無い。後で後送するからおとなしくしてくれ。……学生達が暴徒と化した。だが、妙な生化学兵器が使われた痕跡がある。暴徒化の原因はそれである可能性が高い。だから皆騒いでいる。これでOKか? だからおとなしくしてくれ」

「『了解・面倒(わかった~。めんどくさいね~)』」

酒臭い匂いがこっちにも漂ってきた。どれだけ飲んでいるのかと一瞬思うが、すぐさまモニターに集中する。

モニターの向こう側から見える第22学区のとある階層は、だが彼らの記憶の中の階層とは完全に違った。

 

『見ての通り、低酸素状態です。何かしらの化学物質も検知しています。低酸素ではありますが呼吸できないほどではありません。……高山病リスクが跳ね上がる程度ですね。化学物質が有害かどうかは不明です。……現在分析中らしいですが、その後の連絡は?』

「まだ無い。即効性は無い点だけは確認されているが極めて有害である前提で進めてくれ。無事な生存者らしき人影、或いはそういった奴が何かしら残しているメッセージの類いは見つかりそうか?」

『見当たらない。だが……これは……』

音響センサーが何かをとらえる。無人兵器に音源に急行させる。映像が乱れる。第22学区はそこら中にアンテナとセンサーを張り巡らせて、地下でありながら電波感度が最良にされているハズなのに。

モニターの向こう側にいる現場の『警備員(アンチスキル)』は酸素ボンベを背負ったガスマスクを付けていた。

そんな酸素ボンベの管が、一瞬、黒い何かによって、抜かれた。

 

「!? なんだ今の黒い影は!?」  『うわぁああああ! さ、酸素がぁあ!』

「おい、例の化学物質は即効性は無い! 声を上げるな! 息を止めて直せ! それより今の黒い影は何処にいった!?」

『なんだ、今の音は!? うめき声?』  『誰か、俺の酸素を直してくれぇええ!』

「おちつけ、おちつくんだ。くそっ、無人兵器に検索させろ、黒い影は何だ!? 小動物か何かか?」

無人兵器の一つのカメラが一つの動作を検知、すぐさまそれの映像が映される。

 

「なんだ? よく見えない。補正はどうなった。補正をし直せ。猿か何かか?」

(いや。まて……なんで地下空間に猿みたいな生き物が……)

『がぁぁあああああああ!』  『なんだ、どうした、急に!』

「何が起きた。くそったれ、なんでこれだけカメラやセンサーがあるのに、状況が把握出来ないんだ!」

そう指揮者が叫んだ次の瞬間、モニターにアップでガスマスクの外れた『警備員(アンチスキル)』が仲間に牙をむき出しにして襲いかかる瞬間が映った。

 

「ば、馬鹿な、即効性は確認されて……」

『討て撃て、打てぇええ!』  「制圧用のゴム弾だとしても今はまだ、射撃は許可していない! やめろやめろやめさせろ!!」

次にモニターに映るのは、銃撃の音に反応したのか、人影達だ。すなわち、暴徒の学生達。

どいつもこいつも口元を真っ赤に染め、肌が異様に白くなっている。

 

あとはもうどうしようも無かった。現地『警備員(アンチスキル)』は大混乱。無人兵器の『非殺傷モード』で放たれるゴム弾や電撃、催涙ガスなどを暴徒は

物ともせず、中にはライフルらしき何かを構えた暴徒によって破壊されていく。

壊れた無人兵器のカメラが転がり、1人の『警備員(アンチスキル)』が拳銃片手に地面を這うように移動する様子を映す。

転んで、そのまま立つどころでは無くなったそいつは拳銃の引き金を引いて必死に自衛しようとするが、暴徒の群れが遅いかかる。

ぐちゃ、ねちゃ、ぐちゅぐちゅと、奇妙な音が流れる。

まるでレアステーキ肉を口の中に入れいるときに顎に響く音だった。

見ている側が、次々と口を押さえる。ノドが痛い。酸っぱい何かが口の中いっぱいに広がっていく。

 

「な、なん……なんなん、だ」

現地に送り込んだ警備員達のバイタルサインのエラー音が鳴り響く。まるで死刑執行を告げるチャイムのように鳴り響くエラー音。

また、1人、また1人。バイタルサインを監視するモニターがかき鳴らすエラー音

悲鳴。銃声。謎のうめき声。

 

再び猿のような何かが一瞬映る。また、映る。また、映る。4度目は無人兵器にその腕を伸ばして攻撃に見えた。

 

再び暴徒の学生の姿が映る。目は虚ろで、肌は白い。手を伸ばしてぎこちない動きで牙をむき出しにしたその口を開いて無人兵器に襲いかかる。

まるで動く物は全部攻撃しているみたいに。

 

再び警備員の姿が映る。短機関銃の万が一に部隊に5つだけ用意された実弾入りマガジンを漁っている。オペレーターはやめろと叫ぶが返答は無い。

 

電話が鳴り響いたのはそう言う惨状でだ。

 

「いったい誰からだ!!」  「例の……救助を待っている男女です」

『――い、いつ……助けにくるんですか!? そ、外からガリガリって音がして、今はまだ見つかってないって言うか入ってこないけど、いつこの倉庫に入ってるかわからない!

た、助けてください! 電気も切れて暗い。寒い。埃っぽいし』

「いや、まて、君たちはまだ無事なのか!?」  『――倉庫の人は外の様子を見に行って……それから帰ってこない。爆発音も聞こえる。何かが暴れ回っている。助けて!』

「そこから、まだ出るな。この電話は……携帯電話かバッテリーを節約しなさい! 30分後にこちらからかけ直す。それまで隠れているんだ! 外には出て行くな!」

『――わかりました。お願いします。お願いします。どうして、どうして……こんなことに』

第22学区1階層の『警備員(アンチスキル)』詰め所の指揮者は決断した。

 

「次はもっと大勢で、ありったけの無人兵器も連れていくぞ。化学防護もまだ不十分だ。駆動鎧の手配はまだか!? 要救助者は何が何でも確保する! こんな地獄、もうまっぴらだ!」

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